俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
襲い来る疑竜達を撃退しながら、ドラゴンのフライトは続く。やはりというべきか、コイツは戦闘という面においては他の追随を許さない位に強い。
倒した疑竜達はドラゴン娘に戻るので、逐次回収しながら進んでいるが、結構な大所帯になって来ていた。
「やっぱり、彼の戦う姿は美しいという外ない……!」
アレだけぞんざいに扱われて、一時期はヒステリーまで起こしていたのに、抱いた憧憬は中々に消せる物ではないらしい。横ではファヴがちょっと拗ねている。
「私だって、飛べさえすれば……」
「大丈夫、ファヴちゃんは可愛い」
「ファヴちゃんは強い、強い」
シンキに撫でられ、ハクテイからは頬ずりされていた。当の本人は嫌なのか、俺の方に寄って来たが、ラドンに妨害されていた。
「入真は妾のマスターじゃ。お主のマスターが浮気性なことを嘆くのだな」
「カラバさんが独占されている」
こんな異次元に迷い込んだというのに、随分と気の抜ける遣り取りである。いや、こんな状況だからこそ普通を忘れてはならないのかもしれない。
……本題も忘れないようにしよう。救出したドラゴン娘達からも話を聞いた。ここに至るまでの詳細は憶えていなかったそうだが。
「何かから逃げて来たのと、また、マスターに会いたいと思って」
彼女達の掌に浮かんでいる契約印は薄くなってはいたが、消えてはいなかった。ダハーカが施した処理が上手くいっていなかったのか、あるいは彼女が慈悲を掛けたのか……。
「(それでも、やったことは許されない)」
彼女は自分の目的の為に、マスターとドラゴン娘の関係を踏みにじった。……それがどれだけ尊い物かは、彼女が一番理解しているだろうに。
「ここから出られるの?」
「分からない。そもそも、俺達もどこに向かって進んでいるのか分かっていない」
ドラゴンに行き先は委ねている。どちらにせよ、この空間を自由に移動できるのはコイツだけだ。だが、進行に迷いはない。
「入真、行く先を任せて大丈夫なのか? これを機に自分の世界に帰ろうとしているだけでは無いのか?」
「その可能性は無くもないけれど、俺には指示の仕様が無い」
あくまで俺達は気まぐれで乗せて貰っているだけだ。
上も下も分からない空間、俺だけではなくシンキ達も救出されたドラゴン娘達も不安そうにしている。どこに辿り着くかも分からない。
周囲の風景も変わらない、と思っていたが、ポゥっと鮮やかな光景が映し出された。これに近い物を知っている。疑竜化したドラゴン娘に潜った時に見た物だ。
「あ! 見て!」「私の家だ!」
今、俺達が見ているのは彼女達の故郷の一端か。牧歌的で雄大と言えば、聞こえはいいが、あまり文明の雰囲気を感じさせない世界だ。
彼女達とよく似たドラゴン娘が魔獣を捕まえて捕食したり、香草らしき物を巻いて焼いたりもしているが、原始的という印象は拭えない。
「ママ……」「皆、どうしているかな」
異次元で垣間見える彼女達の故郷の光景が郷愁を煽っていた。
考えてみれば、彼女達は単身、全く勝手も分からない人間の世界に訪れているのだ。良いマスターや運命と巡り合えるかも分からないのだから、相当な覚悟が必要だったはずだ。
「皆は、帰りたいって思う?」
消え掛かっている契約を完全に破棄すれば、ひょっとして彼女達だけは戻れるかもしれない。ヘスペリデスで買われ、分かれ、どこにいるかも分からないマスターを探すよりかは、楽になれるかもしれないが。
「ううん」「私は絶対に家に帰るから!」
「そっか」
今更、聞くのも野暮だった。彼女達にとっての故郷は向こうにあるかもしれないが、心はコチラにある。絶対に、彼女達を帰してやらねば。
「カラバ!」
『グガァアアアアアアアアアアア!』
今まで、見て来た中でも大型の疑竜だった。コウモリの様な一対の翼と前足、胴体は蛇の様に長い。開いた大口から、閃光が走った。
ドラゴンすら飲み込みかねない一撃だ。そう思った時、俺の全身に紋様が浮かんでいた。声が響く。
『張れ』
「応よ!!」
身体の内側から灼ける様な痛みが走る。口の端から血が垂れるが、気にしていられない。ドラゴンを守る様に張り巡らせた防御壁が、雷撃に近しい一撃を跳ね飛ばした。
『消えろ』
返す一撃として、ドラゴンが火球ではなく炎の吐息(ブレス)を吐き出した。
こちらにまで熱波が伝わって来るほどの攻撃だったが、目の前の疑竜は体を焼かれながらも肉薄して来た。
『ッギャアア!!』
首筋を噛み千切ってやろうと大口を開いたが、このドラゴン号には大量の人員が乗っている。即ち。
「ファヴ!」
「はい!!」
俺の力に呼応しているのか、フェルドの紋様も全身に広がっている。
流石にドラゴンの上で疑竜化する訳にはいかなかったのか、ファヴの背中に竜鱗で作られた砲塔のような物が出現して、大量の毒液を発射していた。
『がああああああああぁ!!』
疑竜の下顎を作っていた竜鱗が溶け落ち、すかさずドラゴンが首筋に食らい付き、噛み砕いた。疑竜化が解かれ、中からは大柄なドラゴン娘が現れたが。
「ダカーハじゃない」
「入真、気を付けよ。奴の目、戦うことを諦めていない」
彼女はドラゴンの上に着地すると、俺達の方目掛けて走って来た。俺が、指示を出すよりも先にラドンが動いていた。
「戦う相手を見誤るな、バカ者が!」
彼女の周囲に出現した魔力(マナ)による分身体と彼女自身の攻撃により、瞬く間に叩きのめされていた。いったい、彼女は何者なのか。
「この娘。『リンドブルム』ちゃんじゃない?」
「知り合い?」
「うん。なんか、いっつも武勇伝語っている娘だった」
元気なドラゴン娘だったらしい。目を覚ました時に暴れられても困るので、ラドンが自分の髪で作った拘束具で彼女を縛った。
『近いぞ』
全身の紋様は消えず、依然としてドラゴンの声が聞こえる。この先にダカーハとヤウナー教授がいるのか。
「(教授は異次元で何をしようとしているのだろうか?)」
彼女は人間でもドラゴン娘でもない。彼女の正体は俺も分からない。でも、彼女がどんな人かは俺だけじゃなくて、シンキもフェルドも知っている。
『やっぱり、来たんだね』
1日も経っていないハズなのに、ひどく懐かしい気がした。進行方向の先に彼女がいる。
「教授! 今、どこにいるんですか!?」
『直ぐ近くにいるよ。君達にダカーハの邪魔をさせない為にもね』
俺達の頭上に黒色の羽毛が舞い落ちた。こんな所に鳥がいる訳がない。頭上を見れば、大翼を拡げた疑竜がいる。……いや、違う。
「教授か!!」
鴉の様な黒翼とかぎ爪。胴体部分は竜鱗で覆われているが、顔面部分の上半分はラクダの様に愛らしいフワフワとした物なのに、下顎部分はキチンと疑竜然とした物を持っていると、二頭分の要素が混じっていた。
『どうやら、私の親はこういう所を行き来する奴だったらしいよ。アマルかアマロだったっけかな? どっちでもいいや。相棒君の背中に乗せている彼女らを連れて、帰りたまえ。今の私なら、君達を元の世界に戻せる』
シリアスな会話なのに顔面部分がラクダみたいで可愛いのが気になるが、一旦置いとくとして、彼女の提案には乗れない。
「そしたら、教授は何処かに行っちゃうでしょう?」
『まぁね、本来の私の住処は異次元(ここ)なんだ。ドラマギ学園にいた方がおかしかったんだよ。それに、この先にいるのは怪物だ。君達じゃ勝てない』
なるほど、ここで足止めをするのは彼女なりの優しさであるらしい。シンキとフェルドの方を見たが、首を横に振っていた。
「教授、さっきから帰れだの、本来の私の住処はここだの、君達じゃ勝てないだの。面白くない否定ばっかりしましてからに」
「私達が知っている教授はそんな詰まんないこと言わない」
「そんな真面目ぶっていないで。カンザキ教授からも連れて帰って来るように言われているんですよ!」
ヤウナー教授がアマルって奴の子供で異次元に住まう存在って言うのが本来の姿だとしても、俺達にとっての彼女はドラマギ学園の『環境・異種生態学』を専攻している教授なのだ。
『……君達のそういうデリカシーの無い所が嫌いだ。見ろ! 私が普通の人間やドラゴン娘に見えるか!?』
「可愛らしいじゃないですか。それに、普通じゃないのは俺もだって! 教授も言ってくれたでしょうが!!」
アカデメイアに来て、前世のことを思い出してしまって覚束なくなった時、教授にぞんざいに扱われて辛かったけど、その後に励ましてくれたことも憶えている。
『……君には支えてくれる仲間がいる』
「教授にとって俺達は仲間じゃないんですか! 散々人をパシらせておいて、今更、仲間じゃないが通じると思わないで下さいよ!!」
今に至るまでの日々が逆再生していくと、最初がどこになるかと言われたら。
『おお! みたまえ! 排泄物だ! この魔獣の消化力! 体内の物質! 栄養が良い状態で残っていれば、魔道具の触媒として! あるいは農民共に堆肥として売り出せばいいか!』
コイツの排泄物の前でバカみたいにはしゃいでいる教授の姿だった。教授がどう思っても、俺にとって彼女は最初の人だ。
『……いいだろう。そんなに帰る気が無いなら、最後の授業をしてあげようか!』
大きく翼を拡げた疑竜やドラゴン娘とも全く違う威嚇だが、外も内も灼ける様に熱い。負けられない。彼女を絶対に連れ戻す。
「講義開始ってね! 『環境・異種生態学』研究生として! 教授に単位の要求をしまぁす!!」
「……締まらない」「こんな物じゃないかな」
バカみたいな掛け声だと思うけれど、俺にとっての教授は、そういうふざけ合ったりしている日常の中の一部なのだから。ドラゴンに目配せをすると、彼は頷いてくれた。