俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
『滅せよ』
疑竜化したダハーカの手には竜鱗で作り上げられた弓が握られていた。同じく、竜鱗で作られた矢を番え、連射して来た。
まるで、生物の様に複雑な軌道を描きながら飛来する全てを避けることはできず、ドラゴンの翼が射抜かれていた。瞬間、俺の肩にも激痛が走った。
「ぎっ……」
「ハクテイ!!」「やってみる!」
見れば、シンキの全身にも紋様が浮かんでいた。
ハクテイの輪郭が崩れ、救助した彼女達ごとドラゴンの表皮を覆い、穿たれた翼膜を補修していた。
「疑竜化だけじゃなくて、こんな応用もできるのか……」
「シンキ! ハクテイ! フェルド! ファヴ! お前達の力も貸してくれ!」
「勿論だとも!」「分かりました!」
ファヴも同じ様に全身に竜鱗を纏ったかと思えば、ドラゴンと一体化する様に展開して、先程の戦いでお披露目した砲塔を作り上げていた。
それだけではなく、弱点となり得る頭部や腹の部分に追加装甲の様に紫色の竜鱗の層を作っていた。違法建築だ。
「なら私達も!」「うん」
ハクテイもまた竜鱗を展開して、補修した翼付近にブレードを生やし、前足にもブレードを出現させていた。発想が自由過ぎる!
「よし、ならば妾も」
「君まで疑竜化したら、カラバ君が干上がって死ぬからやめようね」
ラドンとヤウナーもハクテイが急造してくれた追加装甲の下に避難した。ダハーカの攻撃は止む気配はない。
『ヴァルザイアが一目置くだけにある!』
引き続き矢が放たれるが、ファヴ製の大砲によって撃ち落されていた。あまりにぶっ飛んだ規模の戦いに笑いが出そうになる。
「(もはや、ハンティングゲーですらないな)」
『これならどうだ!』
今度は弓ではなく、俺しか知らない様な現代兵器の形を取っていた。種類に詳しくは無いが、ああいった造詣をした物を『マシンガン』と呼ぶはずだ。
弾丸代りに大量の竜鱗が放たれた。大砲の発射感覚では迎撃が間に合わない。グラリと姿勢が揺れた。相手の頭上を取る様に高度を上げている。
『落ちろ!!』
三つ首の頭部から禍々しい黒色の吐息(ブレス)を吐き出していたが、対空砲火にやられるかと思ったが、不意に高度が落ちた。
急激な上昇からヒラリと落ちる様は、宙に樽(バレル)を描く様な軌道だった。急降下の際、翼から生えたブレードを用いてダハーカの三つ首の一つと右腕を切り飛ばしていた。
「(ブレードなんて使うのは初めてのはずなのに)」
シンキ達が追加で搭載させた武器をこうも容易く使ってみせるとは、やはりドラゴンは相当高度な知能を持っているのだろう。
『まだだ!』
残された腕で大剣を振るい、ドラゴンの尻尾を跳ね飛ばそうとしたが、背中に生えた砲塔が回転して、彼女に狙いを定めていた。
『いっけぇえ!』
至近距離での斬撃に加えて、砲撃も食らい、残った二つ首の内の一つが溶けた。ダカーハの気勢は削がれない。
『嘗めるなぁ!』
手にしていた大剣を右肩に突き刺すと、竜燐が形を変えて腕へと変化した。以前の様に武器が使えないとなると、残るは肉弾戦となる。
「おいおい、マジかよ!」
今まで、ドラゴンや疑竜、あるいは疑竜同士の戦いは見て来たが、近接で勝負を決めるというのは見たことが無い。互いが肉薄し、大スケールの殴り合いが始まった。
『沈め!!』
ダハーカがドラゴンの顔面を殴る。ファヴの追加装甲は砕かれたが、当の本人は持ちこたえていた。
返す一撃は、噛みついて固定した後、両腕から生えたブレードで滅多切りにするという殺意の漲る攻撃だった。ダハーカの腹部が切り刻まれるが、彼女も負けじと反撃して来た。
『糞が!!』
ドラゴンの腹部に向けて膝蹴りを放っていた。ファヴの追加装甲はやはり容易く砕かれ、打ち上げられた。俺達も舌を噛みそうになった。
『ガァアアア!』
だが、直ぐに空中で半回転して加速を乗せた尻尾でダハーカを打ち据えていた。ファヴ戦の時にも見せたテールハンマーだ。
あまりの一撃に、竜鱗で作られた頭部が胴体に埋まっていたが、ダハーカの闘志は萎えることは無かった。
『ハハハハハ! やるな! ここまで、私を追い込んだのはお前が初めてだ!』
一旦、距離を取ったかと思えば、彼女は自ら胸部の竜鱗を剥いでいた。中からは砲口らしき物が出て来た。
『消し飛べ』
ダカーハの両腕と翼を形作っていた竜鱗が消えていくと同時に砲口に力が集中していく。恐らく、ドラゴンが火球を吐くより向こうが撃つのが早い。
周囲全てがスローモーションに見える。シンキとフェルドも打つ手がないと諦めかけた時、ハクテイが作った追加装甲の下から這い出て来ていたヤウナー教授が俺に飛びついて来た。口には生暖かい感覚。
「次はもっとロマンチックな物にするから」
瞬時に疑竜化……と言えるのだろうか? 目の前には、ドラゴンの体から生えたラクダの頭部という間抜けな物が出現していた。天に向かって内臓らしき物を吐き出すと同時に、まるで消火器を噴射するが如く大量の泡を吐き出した。
『千魔咆哮(アジ・ダハーカ)』
空間を埋め尽くすほどの光の奔流が放たれた。
教授が発生させてくれた泡の生産が途切れることの無い様に防御壁を何度も張り替えながら、この暴力が通り過ぎるのを待っていた。やがて。
『終わりだ』
力を使い果たしたダカーハに向かって突進し、彼女を吹っ飛ばしていた。
ちょうど、大量のエネルギーが放たれた余波で後ろの空間が緩んだのか、彼女は次元の狭間に吸い込まれて消えて行った。
「……追うぞ」
もしも、向こう側の世界で彼女が疑竜化状態で暴れでもしたら、どんな影響が出るか。ドラゴンが向かうのは良くないにしても。
「いや、消える寸前に彼女の疑竜化が解かれているのは見えたよ。後は、私達だけで追いかけよう」
間抜けなラクダヘッドから、通常の疑竜状態に移行した彼女の背中に乗った。この先がどこに続いているのか。
「待て。妾も行く」
「じゃあ、乗って。直ぐに戻って来るから、他の皆はドラゴンに待機していて」
隣にラドンも乗って来た。全身の疲労感を預ける様にして、彼女に凭れながら、俺達はダハーカの後を追った。
――
次元の先は病室の一角だった。個人部屋なのか、他には誰もいない。
窓からの光景を見るに、俺が居た現代に近い世界なのかもしれない。彼女はベッドに寄りかかっている。
「マスター。ウチや、覚えとるか?」
生命維持装置に繋がれている老人は喋ることもままならない状態だった。誰の目にも分かる。老衰だ。
「なんで、おらんようになったかは聞かん。でも、ウチのこと覚えとるよな?」
彼の症状が分からない以上、何とも言えない。
もしも、認知症などを患っていた場合は、彼女が誰かも分からないまま。二度と再会できずに終わると言った結末もありうるだろう。
「……また、会えるよな?」
輪廻転生の奇跡を知ってしまった以上、縋らずにはいられない。
老人は動かすのも辛いであろう中、右手を掲げた。マスターの印である契約印をダハーカに見せた後、静かに尻に手を伸ばしていた。雰囲気ぶち壊しだ。
「もう、最後までスケベなんやから……」
だけど、彼女的には良かったらしい。スゥっと彼の手に浮かんでいた契約印が消えた。同時に、ダハーカに刻まれていた契約印も消えようとしていた。
「満足したか?」
「あぁ。ウチの契約は終わりや、迷惑掛けたな。それじゃあな」
彼女を結び付けていたマスターが死去したのだから、彼女も元の世界に戻るのも道理だろう。……彼女の腕を掴んだ。
「逃げるな。お前も罪を償え」
マスターと最期の別離をして、自分も元の世界に戻る。……なんて、そのままスタッフロールが流れそうな終わり方は許さない。彼女は何も始末を付けていない。
「……は?」
「それじゃあな、じゃないんだよ。お前が買い上げたドラゴン娘達の詳細は買い上げた、お前らしか知らないんだよ。彼女達を元の所に帰すまでがお前のやるべきことだろ」
「アホか! もう、消える所やねんぞ!」
「ここに仮のマスターがいるだろ」
ラドンがすごい顔をして俺を睨んでいた。でも、ダハーカを繫ぎ止める方法はこれしかない。
「言っておくが、ケジメを付けさせる為であって、パートナーとしての契約じゃないからな。妾こそが唯一のパートナーであるぞ」
「断る権利は無いぞ。俺達が居なかったら、ここまで来られなかったからな」
「……自分、ずるいやろ」
俺の両手が埋まっていたので、彼女は俺の背中に手を置いた。
すると、彼女の掌に新しく契約印が浮き出ていた。……直ぐに、俺も背中に違和感を覚えた。ヤウナー教授を見る。
「背中に浮かんでいるよ。かなり大きい契約印が」
「分かった。それじゃあ」
俺は名も知らないマスターに黙祷をささげた。周囲にある新聞やテレビに思うことはあったけど、見ないことにした。俺はもう『入真』ではないのだから。
窓から、病院の外に出て、疑竜化したヤウナー教授の背中に乗って再び異次元に戻った。潜る際、ダハーカが一度だけ振り返った。
「じゃあな。おやすみ」
命は巡る。きっと、彼女がまた何処かで彼の生まれ変わりと再び出会えるような、あるいは整理を付けて前を進んでいけることを願いながら、俺も皆がいる場所へと戻って行った。
――
異次元に戻ったら、ドラゴンも皆もいなかったということは無く、またドラゴンの気分に任せてフライトをしていたのだが、空気は最悪だった。
まず、ダハーカを連れて帰って来たので、当然の如く、ドラゴン娘達は警戒しているし、ラドンも滅茶苦茶機嫌が悪いし、ヤウナー教授が俺の右側に座ったら、シンキが左側を取り、背後にはハクテイ。
「カラバ君。僕が言うのもなんだけど、少しは節操を持ったらどうだい?」
「……はい」
まさか、寝取り役から諭される日が来るとは思わなかった。
よくあるハーレム系の主人公ルートに突っ込んでいるが、俺は別に彼女達をトロフィーの様に飾り立てたいとかそういう気持ちは無くて、とか言い訳をすればするほどクズ野郎になって行く気がする。
「(というか)」
戦闘中は興奮していて忘れていたけれど、気が抜けたらクラクラして来た。血も吐いた手前、無事な訳が無い。
意識が飛びかける瞬間、異次元の隙間から新たに見えた光景があった。ドラゴン娘達からも『知らない』と言われ、誰の認識もない世界。
そこには……ドラゴンと同じ様な竜が飛び交い、争う光景が映し出されていた。珍しく、ドラゴンも少しだけ関心を向けたがすぐに注意が逸れた。それを見届けた後、俺は気絶した。
――
数日後。俺達はドラマギ学園に戻って来た。アカデメイアの研究者達はダハーカが戻って来たことを大いに喜び、色々と便宜を図ってくれたらしい。
何をしてくれたかはサッパリ分からないが、カンザキ教授のテンションが底抜けに上がっていたので、学園にとって嬉しいことをしてくれたのだろう。
「カラバくぅん。ダハーカから手紙が届いているよ」
ヤウナー教授から受け取った手紙には、買い付けたドラゴン娘達を順次マスターの元へと送り届けているという進捗が乗っていた。
流石と言うべきか、現代的なテクノロジーも手伝って恐ろしく順調に進んでおり、併せてヘスペリデスの件も手配してくれているらしい。
「あやつめ。少しは役に立つではないか」
「これで問題はなんとか解消されそうだな……」
実際は十全という訳にはいかないだろうが、それでも多くの人に償うことはできたはずだ。俺達が引き受けねばならない部分もあるだろうが。
「だぁああああからぁあああああ! オレのマスターは! 絶対に『アレクシオン』にいるんだよ! なんせ、最強のマスターを目指しているんだからな!」
あの異次元で遭遇した『リンドブルム』と呼ばれる青髪のドラゴン娘が、頑なにアカデメイアの支援を受けず、俺達に付いて来てしまったのだ。
口約束した手前、彼女だけを放り出す訳にはいかない。つまり、俺の次の行き先は決まってしまった訳だが。
「まぁ、良いんじゃないかな。今回のアカデメイアの短期留学で有用性が示されたからね。学園も承認してくれると思うよ」
学生なのに学園にいないとはこれ如何に? でも、ヴァルザイアから追加で依頼を渡されるよりかは自主的に何処かに行く方が良いかもしれない。
随分と大所帯になった隅っこスペースのメンバーのことを考えていると、ヤウナー教授に肩を叩かれた。
「カラバ君。先日、言ったことを覚えているかい?」
「……まだ、待って欲しいです」
俺も変わって行っているとは思うけれど、まだ踏み込んだ関係になる勇気はない。情けない話ではあるが。
「そっか。でも、私はあきらめないよ。こんな風に変えられたんだから、私も君のことを変えてみせるよ」
「気長にお待ちしています」
ある一組のマスターとドラゴン娘の別離を見た。
いつ、会えなくなるかも分からないか急ぎ過ぎるということは無いかもしれないが、もう少しだけこのままの関係でいられることを祈りつつ、ラドンに膝を蹴られていた。……最近は俺も随分とドラクロの世界に染まって来た物だ。
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