俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
アカデメイアから帰還して更に数日。リンドブルムを送り届けねばならない約束はありつつも、俺は学生なので学業を修める必要もあるのだが。
「入真よ。最近の、お主は働き過ぎだ。この後は妾と2人だけでゆるりとせんか」
先日の一件で、あまり活躍できなかったフラストレーションもあるのか、ラドンのスキンシップが今日は一段と激しかった。股間ではなく、太もも辺りに手を持ってくる辺りが何ともいやらしい。
「2人共」「授業中」
横にいるシンキとハクテイからジロリと睨まれた。そして、教壇にはヤウナー教授。
「まさか、最前席で見せつけるとは」
「宣戦布告って奴ね」
「敢えて、見せつけているんだろ」
「こっちも見なさいよ、見なさいよ」
俺達の戯れを見て、自粛していた生徒達が相棒といちゃつき始めた。
ヤウナー教授が俺の方をジト目で見ているが、どうしようもないんだから諦めて欲しい。彼女はフゥと溜息を吐いた。
「君達、程々にしておきたまえよ」
直ぐ板書に戻った。この対応には教室も騒めいた。彼らの懸念は分かる。
怒られる内が華だと。つまり、注意することも無くなるのは諦められた証拠なのだと。あるいは、もう一つの可能性がある。
「まさか、教授もカラバの毒牙に?」
「あり得るぜ。カンザキ教授も色々とあったって言っていた」
植物学の教授だからって余計な話の種は蒔かないで欲しい。一度、始まった陰口は尾ひれがついて滅茶苦茶広がっていた。
「加えて、学術都市への短期留学でおえらいさんと懇意になったとも聞いたし、新しいドラゴン娘まで連れて帰って来ていた」
「マジかよ。この間、ヘスペリデスを瓦礫に変えた所だろ?」
「今や、邪竜信者達が教祖以外に唯一恐れる相手らしいぞ……」
最近、アイツらが出ていないから忘れていたけれど、この世界は邪竜信者達の横暴によって苦しめられているんだった。
近隣で暴れたら、ドラゴンが来て排除されるだろうから、付近には出没しなくなったんだろうけれど……。
「どうやら、受講者達は私の講義よりもカラバ君に興味があるようだねぇ。ちょうど良い、こちらに来たまえ」
言われた通り、教壇に上がった。なにこれ、晒し者? 加えて、ヤウナー教授の距離が近い。ラドンとシンキ達の眉間に皺が寄った。
「何か質問は?」
「距離が近くないか?」
不機嫌さを隠そうともしないラドンからの質問だった。教室内から『おお』と感嘆とも期待とも言えない声が上がった。
「私が教壇に上げたんだからサポートするのは当然のことだろう。次」
「教授。授業は?」「早く進めて」
シンキとハクテイの意見は正に学徒の鑑ともいうべきであり、決して無碍にできる物ではない。さて、どの様に対応するか?
「私は教授だからね。形式ばった物より、君達の知的好奇心を満たす内容に切り替える方が大事だと思ってね。それに、カラバ君が誤解されたままでは、次回以降の講義にも影響が出そうだからね。他に質問がある人は?」
なるほど。教授は、俺への陰口を鎮めるために敢えてこんな方法を取ったんだな。きっと、皆も気圧されて口を閉ざすはずだ。
「本命は誰ですか!」
「ヤウナー教授と何があったんですか!?」
「実は邪竜信者のNo.2ってウワサも聞いたんだけど!」
「全然、ドラゴン娘にも同級生にも手を出さないのはどうしてですか!?」
「この学園に来たのはヴァルザイアに提供する為って!」
股間と同じ位に制動も緩々であるらしい。プライバシーなんて知ったこっちゃないと言わんばかりの質問だし、ネタがあまりにもゴシップ過ぎる。
「本命云々とか手を出すとか言っていないで学業に集中しろ。俺は邪竜信者でも何でもない」
「なんで、意図的にヤウナー教授の所は抜かしたんですか?」
しっかりと気付かれていた。何があったかは説明し辛いので、俺が頭を悩ませていると当の本人が先に口を開いた。
「何って、君達の風紀のだらしなさに理解を示せるようになることだが」
語弊があり過ぎる。生徒達からの好奇心の視線が一気に温かい物に変わった。『ようやく、お前も見つけたか』みたいな顔だ。
「教授、誤解を招く様な表現は良くないと思います」
「ほぅ、何が誤解なのか説明してくれないか?」
急に浮かれポンチになった教授に戸惑いを隠せない。どう返答した物かと考えていると、鐘が鳴った。助かった。
「おい、カラバ。説明してくれよ」
「気になるんですけど!!」
授業が終わったからといって、彼らの好奇心を満たせた訳じゃない。
多数の生徒に詰め寄られていたが、ヒョイとハクテイに拾い上げられ、俺達は教室を後にした。この辺鄙な事態から逃げ出せた。
――
「ヤウナー教授と何したの?」
「どこまで行ったの?」
「ああ! 逃れらない!」
いつもの様に隅っこスペースに退避して来たら真っ先に二人に詰められた。ラドンに助け舟を期待してみるが。
「どうも、お主は妾の扱いを軽んじている節がある。この際、立場をはっきりさせとかんとな」
「逃げられない!!」
まるで、ハーレム物みたいじゃないか。少し前までは、うんこがどうとかやっていた奴の光景とは思えない。
『ガァアアア!』
「お! なんだ! なんだ! 喧嘩か!!」
そして、お前らの雑事は知らんと言わんばかりにドラゴンが飯を要求して、バンバンと地面を叩き、連れ帰って来た『リンドブルム』が煽り立てていた。
なんだ、この地獄みたいな光景は? と思ったが、原因を思い返しても俺の顔しか思い浮かばない。どう返事するべきかと迷っていると、こんな所に足を運んで来る間の悪い人間が一人。
「おぉ~。カラバはいるか~?」
いやにテンションが高いカンザキ教授だった。アカデメイアでは憔悴し切っていたが、帰って来るやずっと上機嫌なので不気味だ。
「今、立て込んでいるんですけど!」
「大変だな~。まず、お前に手紙が届いている」
えらい量の手紙を渡された。一旦、シンキ達にステイを掛けられたのは良いことだが、何が来ているのか。まず、アカデメイアから来ている物を開けた。
『元気にしとるか? こっちは解放されたドラゴン娘達をほぼ全員送り届けることはできたわ。先日は色々と迷惑かけて、ごめんな。まだ、気持ちに整理は付いてないけど、落ち着いたら改めて色々と話したいわ。なんかあったらまた気軽に遊びに来てや。2代目マスターさん』
これでヴァルザイアが俺を動かす大義名分みたいな物は消えたか。ほぼ全員という言い方から、中には送り届けられなかった娘もいたのだろう。
シンキとハクテイの様に、ラドンが残した傷痕はきっと何処かで巡って来る。そんな予感を覚えたが、彼女が消えてしまわず戻って来て、心を落ち着けてやり直そうとしていることを知れたのは良かった。他の手紙を見る。
「(前は住民達の感謝の声もあったけど)」
最近は邪竜信者の出現も確認していないし、出たとしても他の学生が対処できる範囲なのだろう。……とすると、これは前みたいに邪竜信者達からのスパムメールかと思い、見た目の汚らしい手紙に一応目を通してみると。
『俺達を部下にしてくれ!!』
『共に無知な市民とマスター共に粛清を!!』
『ヴァルザイア様の懐刀! 我らに啓示を!』
悪口や殺害予告よりも質の悪い物だった。確かに、ヴァルザイアに良い様に利用はされていたが、されていたが。
「随分と人気になったな~」
「カンザキ教授はなんで、さっきからそんなにニコニコしているんですか?」
「聞いてくれよ。実は、アカデメイアから伝授して貰った技術のおかげで、果樹園芸だけでなく、農作物もバリバリに改良できて。今や、私は学会における権威なんだよな。お前と出会ってから、順風満喫だ」
アカデメイアに所属することはできなかったが、彼女もしっかりと持ち帰って来ていた物はあったらしい。彼女の与太話に付き合いつつ、最後の物は手紙ではなくスクロールだった。開けてみれば、依頼だった。
「久々だな……」
内容も至ってシンプルだ。どうにもこの付近に邪竜信者達が現れたようだが、大型の魔獣も引き連れた、妙に強力な連中であるらしい。
ただ、彼らは積極的な略奪や破壊を行わない奇妙な集団であり、更に奇妙な要求を突き付けて来たらしい。
「邪竜信者の幹部であった『プレス』と『ヒュプノー』を撃退した魔獣使いの男を呼んで来いということらしい」
「ハッハッハ。いつもみたいに足蹴にしてやれば良いじゃないか」
「もしも、要求が果たされない場合、近くの果樹園にある成果物を全員で貪り尽くす。ですって」
「殺せ」
急に真顔になったので、びっくりした。教授的にはやはり許せることではないらしい。依頼の内容からして絶対にロクでもない奴が来ているパターンだ。
「よっしゃ! オレも行くぜ!!」
リンドブルムもノリノリで拳を突き出している。一応、依頼だし困っている人達がいるのも事実だろうが、どうしても引っ掛かる。
「カラバを呼び出す為の罠?」「行かない方が良いんじゃ?」
「そんな気はするけれど……」
でも、行かないと何をしでかすか分からない。ちょうど、ドラゴンの腹も減っていることだし、久々に行くのは良いのだが。ラドンとシンキに肩を掴まれた。
「帰って来たら」「ちゃんと話を」
「聞くからな?」
「はい……」
世のハーレム主人公達がウジウジしていたり、どうして本命をさっさと選ばなかったんだという答えが、身に染みて分かっただけでも価値があったかもしれない。俺達はドラゴンの背中に乗って目的地へと向かった。