俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
かくして、俺達は『双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)』の前座とも言える魔獣トーナメントに出場することになった。参加者の控室に通されたのだが、いずれも邪竜信者みたいなチンピラばっかりだった。
「今年はお前の所の魔獣はどうだァ? 去年は糞になっちまったからな!」
「そうやって油断してろ。今年は、お前の魔獣が糞になる番だ!」
「いやー、雑魚共に限って喚くのは人間も魔獣も変わりねェなぁ」
品行方正とは無縁な空気だ。洋画みたいな遣り取りが行われている中、奴が入って来るや空気が一変した。
「おお。どいつもこいつも見たことがある奴らばかりだ」
「ぷ、プレス様!?」
やはりというべきか、参加者の中には邪竜信者もいたらしく、動揺が広がっていたが、その内の1人が前に出た。
「テメェが幹部だったのも過去の話だ。今や、俺は魔獣トレーナとして一財産を築いている。この界隈でデケェ顔するんじゃねぇぞ」
「面白いな。ドラゴン娘とヤると喚いていた奴が、今は獣が趣味か」
痛快な皮肉の様に聞こえるが、素で話しているだけだと思う。当然の如く、相手は激昂した。
「前から、お前は気に入らなかったんだ。テメェの魔獣は俺の糞にしてやる」
「やってみろ」
この威容からして、やはりコイツは幹部だったと認識せざるを得なかった。彼の啖呵に焚きつけられたのか、周りの参加者達も好戦的になっていた。
「おい、コイツを騎士団に突き出しちまえば、たんまり報酬が出るんじゃ?」
「いいや。それよりも、ここで格付けをハッキリさせちまえば、俺の名も上がるってモンだ」
皆がプレスのことを考えていた。この調子で、アイツが注目を集めてくれたら、俺達に注意が向かないのだが……と思っていると、参加者の一人がプレスに訪ねて来た。
「だが、なんでアンタ程の男が捕まって?」
「それはだな。ここにいる『カラバ・イルマイト』という男に敗れたからだ」
「名指しは止めろ」
はい、平穏終了。全員の視線が俺に集まった。ドラゴン娘を二人も侍らせているんだから、場違い感もあって怪訝な目を向けられた。
「コイツが噂の? ガキじゃねぇか!」
「マスター様が、こんな所に何の用だ?」
詰められているが、低姿勢になる必要もない。こういった所での態度は、彼らのネットワークを介して拡がってしまう。
「この街に用事があったからな。参加はついでだ」
「余計な気は起こすでないぞ」
ラドンが牽制してくれたおかげもあって、参加者達から何かされるということは無かったが、悪態は山ほど吐かれた。
「いい気になってんじゃねぇぞ、坊ちゃんが」
「魔獣の扱いに関しては、俺達の方が上なんだからな」
「道楽で踏み込んで来てんじゃねぇぞ!」
どうして、チンピラ達からは本当に聞いたことがある様なセリフしか出て来ないんだろうか? プレスの方を見れば、腕を組んで見守っているだけだった。アイツは師匠か何かのつもりか?
「参加者の皆さま。試合開始の時間が近付いて来ました。準備の方をお願いします。第1試合はプレス様と……」
控室でバタバタしている間に諸々が進んでいたらしい。早速、プレスが立ち上がった。もう1人の参加者もスタッフに案内されて会場へと向かって行く。
それに伴って、一部の参加者達も試合観戦の為に彼らに付いて行く。俺達も倣って、付いて行くことにした。
――
『おぉーっと! プレス選手! なんと、前回準優勝者の魔獣を相手に一方的な戦いだ!!』
「暴れんなよ。暴れんなよ」
暴れていた牛型の魔獣は、プレスに押さえつけられ可愛がられていた。まるで、恋人を愛撫する様に優しく接している様を見て、観客達は『おお』と一様に関心の声を上げていた。
最初は怒りと殺意に満ちた鳴き声を上げていたのに、気のせいでなければ甘えるような鳴き声に変わっている気がする。
「ヴォ~……」
「今のお前は殺戮の魔獣ではない。ただの雌だ」
『我々は一体なにを見せられているのか! ここは魔獣トーナメントだぞ! 双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)の会場はあちらです!』
司会のトークも相まって、観客達は大いに受けていた。一方、参加者である魔獣遣い達はドン引きしていた。
「プレスの野郎はイカれた」
「ドラゴン娘に相手にされなかったから、魔獣に走ったんだ」
「あの野郎~~! 俺の魔獣の交配相手を!!」
こんな場においても、寝取り役の使命を果たし続けるアイツは何なんだ。リンドブルムは絶句し、ラドンは悪態を吐いていた。
「あのハゲが人間の形をしていることがおかしい」
「そんな、存在自体が人間の尊厳にかかわる奴みたいな」
闘技場の方ではすっかり戦意を失くして、プレスのことをベロベロと嘗めている牛型の魔獣がいた。勝敗は決した。
『決着! 我々は勝者であるプレス氏の門出を見送りましょう!』
「おい! ふざけんな! 俺の魔獣返せ!!」
観客達もスタンディングオベーションで見送り、寝取られた相手側の飼い主が喚いていた。俺達は一体、何を見せられていたんだろうか?
『では、次の試合――』
その後も、1回戦は順調に行われていたが……あまり言うべきではないだろうが、魔獣同士の試合に技とか駆け引きは少なく、力同士でぶつかる戦いもまぁまぁ見ごたえはある物の。
「(ドラゴンと比べたらしょぼいな)」
誰も彼も常識的なサイズで普通の遣り取りをしているので、どうにも刺激が足りない。何なら、観客達もあまり盛り上がっていない。
「皆して、プレスの試合が忘れられんようだな」
「そんなこと言っているのか?」
「『早く、魔獣寝取り劇を見せてくれ』だの『ハゲの調教劇』を見たいだの。元より、魔獣の殺し合いなんて野蛮な物を見たがる連中だからな」
思った以上に、この街は治安が悪いらしい。そして、ようやく俺の番になりドラゴンの颯爽たる戦いが始まるかと思いきや。
『おーっと! 超巨大魔獣による捕食だ! ……え? これで終わり?』
多少の品種改良や凶暴化があっても所詮は魔獣。疑竜だの邪竜だのと戦って来たドラゴンにとってはただの餌でしかないので、盛り上がりもクソも無い。いや、だからこそ期待されている面もあった。
「『コイツとプレスがあたったらどうなるんだ?』という期待が寄せられているが」
「何がアレクシオンだ。この街の名前はエレクチオンに改名しろ」
観客達の期待に応える様にして、次の試合が始まった。プレスが入場するや、司会の熱も入った。
『この大会きってのダークホース! いや、種馬!! 彼にとっては凶暴な魔獣も雌でしかない! この男を崩せるのか! 対戦相手は!?』
「ヘヘッ。本人が出ているなら、八つ裂きにもできるってモンだ!」
次の対戦相手である魔獣の飼い主は、控室でプレスに絡んでいた男だった。肝心の魔獣はと言えば、ライオン型の魔獣なのだが、尻尾の部分がサソリの尾の様になっている。
「マンティコアか」
「ほぅ、よく知っておるな。魔獣の中でも生産難易度の高い物だが」
今まで見て来た魔獣達は、俺の知っている動物に多少のデザインの変化と凶暴性が加わった物に過ぎなかったが。
「ぶち殺してやれ!」
『ゴォオオオ!』「ぬぅ!」
両者が組み合って、力比べに移行した。だが、マンティコアの尾がうねり、プレスを突き刺した。針先から毒液が注入され、観客達からも悲鳴が上がった。俺も驚いたが。
「効かんわ!」
奴は血流の流れでもコントロールしたのか、毒液を輩出していた。そのまま、マンティコアをひっくり返し、地面へと叩きつけると覆い被さった。
「俺もお前を突き刺してやろう!」
毒針に刺された意趣返しと言わんばかりに、持ち前の槍でマンティコアを貫いていた。マンティコアのマンティコアが大変なことになっている。
あまりに猟奇的な光景に悲鳴、歓声、怒号が飛び交い、出場していた魔獣の飼い主達は棄権の意思を見せ、リンドブルムは恐怖のあまり震えていた。
「カラバ。決勝戦で奴を亡き者にするのはどうだろうか?」
「ちょっと考えている」
ここで奴をコロコロした方が後顧の憂いを絶てるのではないかと思ったが、やはりヘスペリデスの恩義が引っ掛かって、中々に決意できない。
無慈悲なことに魔獣トーナメントは歴代でも初めて見る程の盛り上がりと共に進んでいた。