俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「俺の魔獣はクマ、ゾウ、オーロックスを混ぜた超巨大魔獣だ! テメェのバケモンにだって引けを取らねぇぜ!!」
ムシャムシャモソモソバクバク。さっきから、試合という名の捕食光景が続いている。観客達もトイレ休憩と言わんばかりに席を立ったり、物を買いに行ったりしている。興業的な価値が一つも見当たらない。
『そろそろ、超巨大魔獣君のお腹もいっぱいになったかな? 次に行こう!』
盛り上げることを放棄するのは司会としてどうかと思う。
……だが、無理もない。一方的に捕食されるなら、態々戦おうなんて考える奴はいないので、次から次へと棄権されている。
「妾が言うのもなんだが、選手としては最悪だな」
「試合は盛り上がってこそ、ってことっすね」
別にいいし。俺の目的は魔獣トーナメントじゃなくて、リンドブルムを送迎することだけだし。……それで、思い出したのだが。
「なぁ、リンドブルム。お前は、ちゃんと双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)の参加申請はしているよな?」
期限が近いからドラゴンで飛ばしてやって来たのだが、それで参加申請をしていなければ意味がない。
「え?」
「俺達はもう魔獣トーナメントに参加したら帰るつもりだけれど、お前はマスターと合流すんだよな?」
彼女からの話を聞いて、俺達はここまで来たのだが、肝心のマスターが居なければ来た意味がない。彼女の手を取って契約印を見た。……一応、近くにいるという反応はある。
「だ、大丈夫だよ。ホラ、契約印にだって反応あるだろ!?」
「なら、良いんだけど」
どうにも行き当たりばったりな感じがして不安だ。と、俺達がゴチャゴチャしている内に観客達が再び湧いて来た。理由は言わずもがなだ。
『さぁ、やってまいりました! この男の次なる相手は誰だ! 皆の眼に焼きつけろ! 奴の勇姿を! プレス選手だ!!』
もはやスター選手みたいな扱いを受けているが、何をどうすればあの変態が人気者になるのか、これが分からない。
輪を掛けて分からないのは、こんな危険人物の毒牙に掛かる可能性があるというのに、対戦相手は誰も棄権したりしない。
『対する相手は! 四足歩行の魔獣じゃないぞ! 二足の巨人! ビッグ・フットだぁあああ!!』
現れたのはゴリラよりもさらに大きな類人猿みたいな魔獣だった。配合次第じゃ、魔獣にもバリエーションが出るんだなぁ。
「プレスよ。お前の快進撃はここまでだ。俺のビッグ・フットは決してお前と戦う等と考えていない。コイツにとって全ての戦いは遊びだ」
「良いのか? 俺が相手なら、危険な火遊びになるぞ?」
こんな珍妙なファイトよりも本来の目的を優先するべきだと思ったし、ドラゴンはさっきのスペシャル定食で満足したのか欠伸をしていた。頃合いだ。
「ラドン。そろそろ、棄権しよう。リンドブルムのマスターを探さないと」
「え? もうちょっと見て行かんのか? ちょうど、今から最強の雄を決める戦いが始まろうとしているのだが」
……類人猿VS人間。前世で読んだことのある格闘漫画にも似たようなマッチングはあったが、やっぱりどうなるかは気になる。ヨシ。
「リンドブルム。観客席を回りながら、マスターを探そう」
「そ、そうっすね!」
彼女も試合が見たかったのだろうか? 俺達は観客席を回りながら、彼女の契約印を頼りに探していた。
戦いの方はというと、ビッグ・フットが雄たけびを上げて威嚇していた。だが、プレスが怯む要素を見せなかったことにイラついて、一気に距離を詰めて体当たりして来た。黒い砲弾という印象を受けた。
『うがぁあああああああ!』
「なんだと!?」
体当たりに備えて構えていたプレスの前でピタリと止まったかと思うと、彼を持ち上げて振り回して、地面に叩きつけ、壁に叩きつけていた。
さながら、子供が玩具を振り回すような無垢さと魔獣が持つ暴力が合わさり、世にも恐ろしい光景が繰り広げられていた。
「おお」
「おい、マスターをちゃんと探せ」
アレだけビビっていたリンドブルムも試合の方をチラチラと見ている。どうにも集中力がないというか、これを言ったらアレだが。
「(何というか、真面目に探す気があんまりなさそうなんだよな)」
この街に着くなり、俺達と別れて探しに行ったり、あるいは先導したりするべきなのだが、彼女はどうも受動的すぎる。
『プレス選手が人形の様に振り回されているぞ! このまま壊されてしまうのか!?』
ビッグ・フットはトドメと言わんばかりにプレスを持ち上げ、口を大きく開いた。凶悪な牙がずらりと並び、人間の頭など一噛みで砕いてしまうだろう。
「そうだ! 壊れるぞ!!」
プレスが吠えた。全身の筋肉が膨張し、服が破け、少年誌のお約束が通じないのでズボンも下着も破れた。……瞬間、何が起きるか一瞬で分かった。
マンティコアの時は槍と評したが、今回はさながら銃弾の様だった。ビッグ・フットの凶悪に生え揃った牙を貫き、頭蓋を砕き、反対側に風穴を空けていた。
「お前がな」
『決着ッッッッ!!』
観客達は相も変わらず残虐ファイトに熱狂し、ソーセージを頬張っていた。コイツらの倫理観どうなっているんだ。
「もっと、殴り合いとかそう言うのを期待していたんっすけどねぇ」
「気は済んだか?」
契約印の反応は強くなっているので、この近くにいる。リンドブルムが歩を進め、特に反応の強い場所で止まった。目の前にいる男性を見る。
「何がビッグ・フットだ、バカヤロー!! テメェに賭けた金返しやがれ!」
年恰好は俺より少し上か。着ている衣服は小汚く、見た目に相応しいヤジを飛ばしている。……パートナーである彼女の前では言い辛いが、彼に抱いた印象を率直に言うなら。
「(ダメ人間……)」
リンドブルムも我が目を疑っている。声を掛けるのを躊躇っている。……仕方ない。俺が彼の肩を叩いた。
「なんだテメェ!? 殺すぞ!!」
「すいません、貴方はこのドラゴン娘を知っていますか?」
リンドブルムを紹介した。暫く、目をパチパチさせて、自らの掌を見た。チラッと見た限りでは、彼女の物と同じだ。
「あ、おめぇ。生きていたのか!」
「ます、ター?」
感動の再会とは程遠い。それもそのはずだ。彼女にとってマスターがどんな人間であったかは分からないが、今の彼は昼間から賭け事に興じるダメ人間にしか見えない。
「ヘヘッ。ちょうど良い、双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)が開催されるから警備の依頼が来てんだ。受けに行くぞ」
「あの、オレ達で参加したりとかは」
「何言ってんだ? 俺もおめぇも弱ェんだから、参加しても恥晒すだけだ!」
やっぱり、マスターも弱いって分かっていたのか。リンドブルムの表情が固まった。
「え? だって、オレ達は強いって……」
「本当に強かったら、こんな目に遭ってねぇ! だけど、ツキが回って来たぜ。お兄さんありがとうよ。ついでに恵んで貰えると助かるんだけど」
今、俺は思考停止している。マスターが全員善人だとは思わない。
フェルドみたいに傲慢な奴もいるだろうし、ラドンを見捨てたマスターの様に弱い人間もいるだろう。だけど、シンプルにクズが現れるとは思っていなかった。
「(とは言うが)」
もしかしたら、彼が相棒を売り飛ばされたりしなければ、ダメ人間から少しずつ更生されて、真っ当なマスターになっていた未来もあったかもしれない。その機会を奪ったのは、間違いなく俺達だ。
だけど、どうすればいい? このまま、リンドブルムが彼と再会を果たした所で良い方向に向かうとは思い難い。でも、止める権利はない。横目で彼女を見るが、同じ様に俺の方を見ていた。こう訴えている様だった。
『どうしたらいい?』
分からない。というのが正直な所だ。ここで正義感に駆られて、今のお前に彼女は渡せないとでも言うべきか? 何の権利があって? と、逡巡していると俺達の脇を抜けて前に出る者が一人。
「悪いが、お主には渡せんよ」
「なんだ、お前!?」
ラドンだ。彼女はリンドブルムを抱き寄せると、言い放った。
「このドラゴン娘を買い上げた者だ。この娘に相応しいマスターであるならば、無条件で解放するつもりだったが、止めだ。貴様如きに勿体ない」
バンと床に麻袋を投げつけていた。地面にたたきつけられた拍子に口が緩み、中に入っていた金貨が見えた。一目散に飛びついていた。
「リンド。行くぞ」
「あ、はい!」
彼女は去っていくラドンに付いて行った。俺も同じ様に去ろうと思ったが……その前に、金貨を拾っている彼と目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。
「アンタもマスターなんだろう? あの娘が、どんな思いでここにやって来たのか、考えたことは無かったのか?」
「……俺みたいなダメな奴よりあの綺麗なドラゴン娘の姉ちゃんに飼われている方が良いに決まってらぁ。兄ちゃん、アイツに伝えといてくれ。愛想が尽きたら、契約を破棄してくれってよ」
虐待とも違う感じだな。諦めてはいるが、彼女への情が残っていない訳でもない。……仕方ない。俺は彼の隣に腰を下ろした。
「何があったか、聞かせて貰っても良いですか?」
――
選手たちの控室にて、ラドンはリンドブルムを落ち着かせようとしていた。
「マスター、オレのこと弱いって……」
「気にするな。お主が強いのは妾達がすでに見ている」
ラドンが言ったことは嘘ではない。アカデメイアの異次元空間における疑竜化した彼女は間違いなく強敵だったし、そもそも彼女は大柄で身体的にも恵まれている。これで弱いというなら、精神面に問題があるのかもしれない。
「でも、なんか。頭の中、真っ白になって」
「……重症だな」
ラドンの中にも罪悪感はあった。二人が成長する機会を奪ったのは自分だという自覚位はある。そんな奴に彼女を励ます資格はあるのか。
答えの出ない問答に詰まっていると、やってくる者が一人。股間の物をブラブラさせながらやって来る姿にプライバシーはおろか公序良俗の考えすら持ってなさそうだった。
「おお、貴様ら。控室で何をやっているんだ?」
「無礼者! なんという格好をしておる!!」
怒りのあまり、ラドンがノータイムでプレスの尻を蹴飛ばしていた。だが、面の皮だけでなく尻の川まで厚いのか、ダメージは無さそうだった。
「今から、着替える所だから出て行って欲しいが、どうにもそう言う空気ではなさそうだな」
この男、アホでデリカシーも無いが、意外と気遣いはできなくもない。
ラドンもちょうど良いと思ったのだろう。自分では解決できる問題ではなかったので、彼にも事情を説明した。すると、彼は深く頷いて言った。
「なるほどな。そのマスターに彼女の大切さを思い出させてやる方法がある」
「本当っすか!? それは一体?」
リンドブルムの瞳に光が灯る。こんな状況でどんな秘策があるのか? ラドンも期待していると、プレスはゆっくりと口を開いた。
「お前、俺に寝取られろ」
……暫く、沈黙が走った後。ラドンが彼の尻にタイキックを決めていた。