俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
ある程度、実家が太ければドラゴン娘を使役するマスターになることはできる。だけど、社会的ステータスと素養はまた別の問題だ。
彼はマスターという枠で見れば、極普通の存在だった。依頼に成功することもあれば、失敗することもあった。
「(ドラクロもそう言うゲームだったよな)」
現実はゲームなんかよりずっと不親切だ。
事前に難易度の表示もしてくれないし、敵の編成ユニットなんかも分からない。何より、失敗した所でやり直しが利く。――全て現実には無い利点だ。
「ドラゴン娘を取られたマスターなんかお笑い草だ」
前世なら分からないが、この時代は何よりも面子を大事にする。マスターとあろう者がドラゴン娘を奪われたとなれば、周りからどんな目で見られるか。
「(だから、シンキの親父さんも失踪したということにしたんだろうな)」
「アンタらアイツの新しいマスターなんだろう? 面倒見てやってくれ。俺はもうマスターなんかじゃねぇ」
フラフラとした足取りで何処かに行こうとしたので、彼の両肩に手を置いて引き留めた。
「だったら、貴方にはマスターとして最後の仕事がある」
「あ?」
「新しいマスターが、リンドブルムにとって相応しい人間であるかを見定めることです。これは、その依頼料」
魔獣トーナメントで勝ち抜く度に得られた報酬を彼に渡した。ただ、彼は首を傾げていた。
「新しいマスターって、ドラゴン娘はドラゴン娘と契約できないだろ?」
「彼女は既に新しいマスター候補を見つけて来ています」
マジで何の考えも無く言ってしまった。……いざとなれば、俺の体に新しい契約印が入るだけだ。
「俺がこの依頼料を持って逃げるとかは考えねぇのか?」
「その場合、誰が来ても逃げ出した貴方よりは相応しいということになります」
少し挑発的な物言いになってしまったが、彼が来なかった場合はそう言うことだ。俺は席を立ち上がる。
「明日、双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)に来るのをお待ちしております」
とりあえず、魔獣トーナメントの方を棄権して来ないと。元・マスターに背を向けて、受付に行ったのだが。
――
「ふざけんな!! 観客の盛り上がりは最高潮なんだぞ!! 今更、棄権なんか認められるか!」
あっさり拒否された。なんでも、観客はスター選手であり善玉のプレスと傍若無人に魔獣を貪るドラゴンとの対比を見たいとのことらしい。
「ついでにソーセージの売り上げも爆上がりしているんだ! 俺の叔父の為にも棄権は許さねぇからな!!」
「本当の魔獣は欲望に囚われた人間だったってオチ?」
やはり、この街は野蛮人が多いらしい。プレスはどうしようもない変態のカス野郎ではあるが、かつては一緒に戦った奴が殺されるのを見るのは忍びない。
どうした物かと悩んでいると、正に件の男がラドン達と一緒にやって来た。リンドブルムを抱き寄せているのだが気になるが。
「おお、小僧。探したぞ」
「……なんか随分と仲良くなっているな」
「当然だろう。俺はコイツの新たなマスターになるのだからな!」
ついにドラゴン娘を寝取りやがった! と思ったけど、一周回って原作の設定だった。リンドブルムの方を見た。
「おい、お前……」
「あんな腑抜けた男の所にいてもコイツの為にはならん。ちょうど、俺もドラゴン娘が欲しかったのでな!」
申し訳なさの為か、リンドブルムは目を逸らしていた。何事かとラドンの方を見たが、彼女も淡々と答えるばかりだった。
「本人達が良いと言っているのだから、妾がどうするでもない。ただ、プレスという男が傑物なのは、お主も知っているだろう?」
それはそう。まさか、先程の話が直ぐに成立するとは思ってもいなかったが、二つ問題がある。
「プレス。お前、もしかして明日の双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)に参加するつもりは?」
「勿論、参加するとも。俺達のことを見下し、蔑んだ連中に一泡吹かせてやるのもまた面白い」
「じゃあ、二つ目。魔獣トーナメントの決勝戦の相手はウチのだけど……」
「運命というのは面白いよな!」
もはや、誰にも止められない。ちょうど、スタッフが俺達を見るなり駆け寄って来た。決勝戦が始まろうとしていた。……既にリンドブルムがプレス側に付いているのは、すごい違和感があった。
――
『ついに決勝戦だ! こんな魔獣トーナメントは初めてだ! あまりの変則ぶりになんと! アレクシオンの市長まで来てくれたぞ!!』
司会の隣には鉄仮面を被った背の高い人物が一人。市長なのに顔も晒さないとはどういうことか?
『皆さま。本日はこの場にお越しいただきありがとうございます。今年の魔獣トーナメントは類を見ない盛り上がり方をしたと言うので、私も足を運んでみましたが、素晴らしい! 他を寄せ付けない圧倒的な魔獣! そして、魔獣に引けを取らない魔獣の様な人間! 一体、どんな試合を見せてくれるのでしょうか! 私も興奮して来ました!!』
市長の興奮に釣られるようにして市民達も歓声を上げた。この街で暴動が起きたら、きっと跡形も残らないんだろうなと思った。
そして、彼らの盛り上がりに反して非常に都合の悪いことが起ころうとしていた。ドラゴンの方を見る。
「グァ……」
極上のご馳走を大量に食ったので、眠たそうにしていた。俺達だって焼肉をたらふく食った後は眠くなる。ドラゴンだって同じだった。
『この試合はどうなってしまうのか!? 暴力か! 性欲か! 生物の本能を極限まで高めた戦いが今、幕を開ける!!』
いざ、試合開始となるかと思われたが、ドラゴンは翼を大きく広げると、会場に豪風を巻き起こして飛び去って行った。飽きた。と言わんばかりだった。
幸い、手加減でもしていたのか。観客が吹っ飛ぶという程の物では無かったが、リングにはプレスが一人ポツンと取り残されていた。
『ま、まさかの試合放棄か!?』
観客から一斉にブーイングが飛ぶ。そもそもの話、ドラゴンが今までお行儀よく試合に付き合っていたのが変な話だったのだから仕方がない。
最高潮の盛り上がりがこんな形で閉じられたら暴動に繋がりかねないので、被害に巻き込まれない内にコッソリ出て行こうとした所で、市長の喝が響いた。
『狼狽えない! 決勝戦はまだ終わっていません! 何故なら!!』
市長が助走を付けて、司会席からジャンプしてリングへと降りた。プレスと向かい合っている。
『私が決勝戦の相手になるからだ!』
「良いだろう! 俺を楽しませて見せろ!!」
不測の事態に備える市長の鑑と言いたいが、超展開すぎる。観客達の関心は一斉に二人の魔獣めいた存在へと向けられた。
「ラドン。逃げるぞ」
「承知した」
リンドブルムを置いていく形になるのは、少しだけ気が引けたが、今の彼女のマスターはプレスだ。試合自体は気になるが、もしも観客達が頭を冷やしたら、何をされるか分からない。市長に感謝しつつ、俺達は魔獣トーナメントを抜け出した。
――
「はい。双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)の参加受付完了です」
会場を抜け出して、そのまま双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)の受付を済ませた。その後、ドラゴンの行方を捜していると街の郊外で昼寝しているのを見つけた。ちょうど隣には宿泊施設があったので、そこに泊まることにした。
「なんと、そのようなことが」
その際、俺はリンドブルムのマスターに話したことをラドンにも話した。期せずして、俺達の考えは一つの案にまとまっていた。
「まさか、こんなことになるとは思わなかったが」
「構わん。……あの二人を引き裂いたのは、妾だからな」
事実だ。責任がないとは言わない。だけど、彼女のマスターとして言わねばならないことはある。
「はいはい、一人で抱え込まない。俺もいるんだからさ」
ラドンが隣に腰掛けて来た。と、同時に押し倒された。何事か。
「最近のお主は、どうにも狙われているという自覚が足りない様だからな。ちょうど良い機会だ」
「待った、待った。そう言うのはちゃんと雰囲気が」
原作的に言えば正に『シーン』ともなる流れなのだが、幾らなんでも突発的すぎる。いや、俺が置かれていた状況がおかしかっただけかもしれないが。
「双竜の円舞(ドラゴン・ワルツ)に出るというのに、未だにそう言った話も無いと言うのは通じぬだろう。諦めろ!」
かくして、壮絶な攻防が夜通し行われることになった。外にいるドラゴンは俺達の気も知らず、スヤスヤと寝ていた。
――
「なんか嫌な予感がするねぇ!!」