俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「我が校から『アカデメイア』への招待生が出たことは大変喜ばしく……」
ドラマギ学園にも益の少ない会議というのはある。ただ、全教授を集めて連絡をしたりする為にも必要な場でもあるので無くすことはできない。
ただ、一人。この会議で不気味な笑みを浮かべる教授がいた。ヤウナーだ。他の教授達も口々に噂した。
「まさか、アカデメイアから引き抜きが?」
「いや、もしや例の生徒が召喚したという魔獣に関係する……」
「アイツはまた面倒ごとを」
あまりカラバと交流の無い教授からすれば、彼は得体のしれない男子生徒に過ぎない。だから、彼を囲い込んでいるヤウナーもまた不気味に映った。
「(いや)」
だが、数少ない彼女と交流のあるカンザキ教授には分かっていた。ヤウナーがずっとニヤけているのは、何かを手に入れたりした訳ではないと。
「(会ったら、なんて言おうかな、授業中の答えを聞こうかな)」
「(まるで、恋する乙女みたいな……キツ)」
あまり仲が良くないカンザキ教授にも、遅れてやって来た思春期を楽しむ同僚への慈悲は存在していたのか、指摘はしなかった。会議は不穏だった。
――
カラバが慌ててドラゴンと共に『アレクシオン』に向かって飛び出した後のことである。いつもの様に隅っこスペースに来たシンキ達はポッカリと空いたスペースをキョロキョロと見回していた。
「誰もいない」「書置きは無いかな」
自分達にも告げないで何処かに行くなんて火急の用でもあったのかと、伝言でも残していないかと、カラバの居住スペースであるテントの中に入った。
簡素な机とノートに筆記用具、藁の上にシーツと枕を乗せただけの粗末な寝床。パートナーの世話の為に仕方がないとはいえ、環境は劣悪だった。
「シンキ。この布団、痛い」
「ゴワゴワ」
試しに寝床と思しき場所に横になってみたが、これで心身を休めるのは無理がある。他にも物色してみたが、授業内容がまとめられたノートや彼宛の手紙位しか無かった。その手紙も幾らか分類されている。
「雑にまとめられているのと」
「キレイにまとめられているの」
麻袋の中に乱雑に突っ込まれている物と小箱の中にキチンと収められている物。……プライバシーという概念が薄い世界においても、人の事情を勝手に見るべきではないということはシンキ達にも分かっていた。……が。
「汚い方なら……」
「1枚だけ」
好奇心に負けた。乱雑に突っ込まれた方の手紙を見れば『テメー、ぶっ殺してやる』など、知性の欠片も感じられない文章が書かれていた。
「酷い」「他のも似たような物かも」
以前、チラッと邪竜信者からの誹謗中傷が云々言っていたし、その関係だろう。態々手紙にして送って来る律義さはもっと別のことに使えば良いのに。
「綺麗な方は?」「駄目」
ハクテイが手を伸ばそうとしていたので、シンキが止めた。彼女達もこちらの方が気になるが、だからこそ勝手に見るべきでないと思った。
結局、書置きなども見つからなかったので、立ち去ろうとした彼女の前に数人の女子生徒とドラゴン娘が立ちはだかった。代表と思しき女子が前へ出た。
「シンキさん、ハクテイさん。ごきげんよう」
「……誰?」「知らない」
「知らないのも無理はありませんわ。遅ればせながら、私の名前は『アンシー』と申します。以前から、貴女のことは気になっておりました」
シンキ達の背中に悪寒が走った。ジメッとしながらもどこか熱を孕んだ視線。健全とは言い難い物だ。
「そ、そう」「な、何か?」
「昔の貴女達は孤高で美しい存在だったというのに、最近は繁殖しか興味がない雌猿共の様な表情をしましてからに……!」
大分ヤバい奴に絡まれたと気付いた時には、側近達に耳打ちをされた。
「頼む。逃げないでくれ。話だけ聞いてくれ」
「私達を助けると思って……」
彼女も悪人ではないので、そんな風に懇願されたら逃げるに逃げられない。仕方ないので、このヤバい女に付き合わされるハメになった。
「さぁ、シンキさん、ハクテイさん。今日は、あの男もいませんし、私達とお茶会をしませんか? 冷たくて、喉越しも良いアイスティーも用意していましてよ」
「いらない」「いかない」
こんな見え透いた罠に引っ掛かる奴はいない。だが、これで引き下がる程度の相手なら、態々やって来たりもしない。
「やっぱり、男ですか? 男ですか!? なんで、誰にも靡かなかった貴女が、あんな冴えない男に!」
「アンシー様、落ち着いて下さいまし!」
酷く興奮状態にあるらしく、見かねた彼女のドラゴン娘に制止されていた。あまりのヤバさにシンキ達も逃走の準備を始めた所で、ノコノコとやって来る間の悪い浮かれポンチが一人。
「おんやぁ? シンキ君。こんなに友達を引き連れてどうしたんだい? カラバ君はどこに?」
「教授」「今は、取り込み中で……」
一般通過教授はまるで事態を分かっていないのだが、勝手に着火しているイカれ女の火に油を注ぐには十分すぎたらしい。
「はぁああああ!? シンキさん達だけじゃなくて、教授まで毒牙に!?」
「毒牙なんて、そんな私はまだ……」
「まだ!?!?!?」
もはや何を言っても全身起爆装置と化した女には刺激にしかならない。
あまりに喧しいので、ハクテイが武力行使で黙らせる為に彼女を絞め落そうと巻き付いた時のことである。
「ンーフフフ」
頬ずりしながら舌を這わせて来た。あまりの嫌悪感に我慢できず、アンシーの顔面に平手打ちをしていた。あまりのキチゲっぷりにヤウナーも戦慄していた。
「ウチの学園の生徒にこんなヤバい奴がいたのか……」
「大丈夫」「きもい……」
あまりの醜態ぶりに、彼女のドラゴン娘や側近達が平謝りしながら彼女を連行して行ってくれた。かくして、嵐のような人間は過ぎて行ったのだが。
「所で、カラバ君は何処だい? 相棒君は?」
「知らない」「いない」
彼のテント内を調べても書置きも伝言も無かったことを伝えると、ヤウナー教授もまた捜索に乗り出した。無いつってんだろ。
「この手紙は?」
「勝手に読んじゃダメ」「多分、大事な物」
シンキ達も読みたいとは思ったが、良心の呵責によって押し留めた物である。だが、ヤウナーは教授であり、好奇心を原動力としていた。
「さっき、ヤバい子が暴れていたからなぁ。その拍子に幾らか中身がぶちまけられてしまったかもしれないし、盗まれていたかもしれない。確認せねば」
「こっちもダメだった」「まともなの私達だけ」
「じゃあ、君達は帰りたまえ」
シッシと追い払う真似をしてみせた。そもそも、ヤウナー教授はカラバに来た手紙を把握している訳もないのだから詭弁というしかないのだが、シンキ達も同席せざるを得なかった。何故なら。
「教授が盗み取ったりしない様に」「見張る為」
「そうかい。それなら、仕方ないねぇ」
小箱に入っていた手紙の一つを開く。使われている紙や文字からして、差出人が高貴な身分の者であることは直ぐに分かった。
「『送られて来る手紙から、貴方の日々が充実している様子が伝わって来て嬉しいです。昔から、遠慮がちだった貴方が愉快な学友に囲まれているという話を聞くと、我がことの様に嬉しく思います。ですが、決して無理はなさらない様に。私達の方は元気にしています。この間は、アカデメイアから『マッサージチェア』なる物が届きました。どういう原理で動いているかはまるで分りませんが、とても快適です。今度も、何があったか便りを下さい――セフィラ・イルマイト』」
暫く、沈黙が支配していた。自分達のことも話題になっていたのだろうと思うと少し嬉しい反面、これを覗き見した罪悪感で悶え苦しんでいた。
「ど、どうして私は、こんなことを……」
「あ、続きがまだ」「ある」
下の方に急いで書き加えたような短い一文があった。確認してみた所、3人は更に目を剥くことになった。
「『近い内に、そちらへ向かいます。お友達のことを紹介してください』」
「教授」「後は任せて」
二人して親指を立てていた。これからは私達の時間だと言わんばかりの宣言だったが、ここで諦める様なら浮かれポンチになんかなっていない。
「当然、研究室の生徒として面談するけど?」
「でも、教授のこと書かれていない」「多分だけど」
「私には見えているんだよ!」
たとえ、この学園に規格外の存在とマスターが居なくても話題に事欠かない。ここは『ドラゴ・マギア学園』。数多くのマスターとドラゴン娘が在籍している学園である。