俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
この世界の何処とも知れない場所。暗闇が支配する一角に、血の様に真っ赤な瞳が浮かび上がる。
「プレスがやられたか。やはり、あの男か?」
「はい。学園側も取り立てて騒ぎにはしていないようですが」
ボゥと浮かび上がった大鏡には『ドラゴ・マギア学園』の様子が映し出されていた。学園の端っこにある庭にはテントで過ごす学生が、この世の物とは思えない程に強大な魔獣に給餌していた。
「『ヴァルザイア』様。如何致しましょうか?」
暗闇の中に翠色の瞳が浮かび上がり、瞳孔が引き絞られる。戦意を沸かせようとした従者であったが、眼前には凶器と呼んでも差支えの無い真紅の爪先。
「ことを急くな。あの存在が脅威であることは人間側であっても同じ。ならば、見定める必要がある。我らの手足になる存在は幾らでもいる」
スゥと立ち上がった。大鏡に映し出されていた映像が消えると同時に、先程までいた存在も消え去り、辺りは静寂に包まれた。
――
「誰がプレスをやったんだろうな?」
「噂によれば上級生か教授が討って出たらしいぜ」
学生達の間では、例の件が話題になっていた。
本当は俺達が頑張ったからと言いたいが、その場合は酸鼻極まる光景について説明しなければならないので、翻って名誉棄損になりかねないのでこれが学園側としても落としどころだったのかもしれない。
「(それで。序章が終わった後に何が起きるかだけど)」
ゲームのストーリー通りに行くなら。プレスを撃破したことが邪竜『ヴァルザイア』にも知れ渡り、彼女の刺客として転入生が現れるという物だが。
「皆さん。静粛に。今日は編入して来た生徒の紹介をします」
学生達の注目は教授の隣にいる男子生徒に集まった。ブロンドヘアーがよく似合う、絶世の美男子。隣には紫色の竜鱗を纏うドラゴン娘。注目されることは慣れていると言わんばかりに流麗に自己紹介を始めた。
「僕の名はジーク・フェルド。ドラゴン娘と人間が共に生きていくことについて、最も研究が進んでいる、この学園で学びたいと思いやって来ました。コレからよろしくお願いします。そして、彼女はファヴニール。僕の相棒です」
「よ、よろしくお願いします」
少し控え目に頭を下げた。彼らは拍手と共に、新たな学友として迎え入れられたが、隣の席に座っていたシンキとハクテイは目を光らせていた。
「あの娘。マスターを怖がっている」
「マスター。仲よく見せようとしているけれど、全然気遣いも優しさも無い」
「(するどいな)」
この二人は既にフェルドがドラゴン娘を大切にしていないというを瞬時に見抜いている。彼は2章目における重要人物で寝取り役のカマセ役だ。
プレスの様なネタの人気も無く、相方のドラゴン娘『ファヴニール』ちゃんへのDVもあってユーザーからは嫌われている。だからこそ、彼をぶちのめせる展開は好評だったわけだが。
「カラバ。アイツこっち見ている」
「ファブちゃんもこっち見ている」
早速、接触しに来るつもりか。だが、残念なことに彼の企みは成功しない。
作中では主人公の相棒であるドラゴン娘に猛アプローチを掛け、寝取ろうとして来るのだが、俺には通用しない。
「(プレスには驚かされたが、アイツみたいな化け物はそんなにいないだろう。……多分)」
これで実は『僕の性的嗜好はドラゴン馬車ックスなんだ』とか言われたら、絶望するしかないのだが。2人が向かって来た。
「やぁ、少し良いかな?」
「どうかしたのか?」
「君と話がしたい」
断ってもいいが。周囲の学生達が興味深そうに見ているし、女子生徒も何かを期待している。ここで無碍に断れば、悪評が立ちかねない。が。
「なんで俺なんかと?」
「謙遜しないでくれ。先日、邪竜信者の大物『プレス』を捕まえたのは君だと聞いた。僕の学友となる人間がどんな相手であるかを知りたいんだ」
『アイツがプレスを?』
『でも、アイツのドラゴン娘見たこと無いし』
『誰?』
『食堂のゴミ出しバイトしている苦学生って聞いたけれど』
『ヤウナー教授の暇つぶし相手だってのは知っているけれど』
『アイツ、臭いんだよな。臭い気がする』
目立とうとはしなかったし、訂正しなかった俺も悪いのだろう。誹謗中傷は含んでないのだが、好意的でもないという微妙なラインが一番傷つく。
それはそれとして。どうせ、ここで接触しなくても何らかの形では関わるだろうから、今の内に知り合っておいても良いだろう。
「構わない。何が聞きたい?」
「場所を変えよう。できたら、人がいない所が良い」
適当なスペースに移動しても良いが、コイツが原作通りのムーヴをして来るなら出鼻を挫いてやるのも良いだろう。
「分かった。じゃあ、俺の部屋……みたいな所はどうだ?」
「おお。会ったばかりの僕を招いてくれるなんて。君は懐が深いんだね」
もしかしたら、いきなりグイグイ行き過ぎて怪しまれるかと思ったが、そんなことは無さそうだった。シンキが耳打ちをして来た。
「分かっている。ドラゴン娘の偉大さを思い知らせる。私も付いて行く」
「隙を見て。ファブちゃん助ける」
「え? なんで?」
2人だけで話す流れなのに、どうして当然の様に付いて来るつもりなんだろう? 当然の様に付いて来る気のシンキ達を見て、フェルドが苦笑いを浮かべながら言った。
「学友が増えるのは良いことだからね。ハハハ」
残念ながら、今。お前が接しようとしている3人はフレネミーですらないエネミーだ。学生達の関心を集めたまま、俺達はホームスペースへと向かった。
――
「なんで、君はゴミを運んでいるんだい?」
「俺の相棒の為だよ」
折角、食堂に寄ったのでいつもの様に残飯を運搬しながら戻っている訳だが、彼の相棒であるファブニールが、運んでいる残飯を興味深そうに見ていた。
「もしかして、毒性のある食べ物が好き。なんですか?」
「誰が喋って良いと言った?」
すかさず、フェルドの牽制が入った。彼女が身を縮こませたのを見て、シンキが彼の腕を掴んでいた。
「貴方に彼女の口を閉ざす権利はない」
既にハクテイも臨戦態勢に移っている。だが、フェルドは焦ることも無く表情を崩した。
「……これは失礼した。どう見てもゴミを運んでいるのに、それを食べる物だと思っての発言を咎めたつもりでした。不快にさせてしまったら、謝罪します。ほら、ファブニールも」
「す、すいません……」
こう言われたら、シンキもこれ以上突っ掛かることができない。この最悪な空気を変えるために、俺から話題を切り出すことにした。
「にしても。何処から、俺達がプレスを捕まえたなんて情報が?」
「有名だよ。逃走した邪竜信者、山賊、盗賊が噂にしているし。君の似顔絵も出ているよ。ホラ」
渡された紙に描かれていた似顔絵は、確かに俺の特徴を捉えていた。大抵の奴は我先にと逃げ出していたハズだが。
「私達が対峙した奴ら」
ほんの僅かな時間だが、俺達だけで対処せざるを得なかった奴らがいた。アイツらに顔を覚えられていたとしたら、なるほど。やられた訳だ。
「誰もが口を揃えて化け物だって言うんだ。いったい、君の相棒はどんな奴なんだい?」
そして、隙あらば自分の物にしようと言う算段か。だが、俺の相棒は簡単に誰かに靡いたりしない。お前の甘いマスクも言葉も何も通用しないのだ。
「着いたぞ」
キィっと止まった。2人は絶句していた。
どの魔獣とも合致しない強大な威容。俺達にとっては見慣れた物でも、篭絡させるつもりで来ていたフェルドがどんな反応をするつもりだろうか。
『なんだ、この化け物は!?』
『こんなの聞いてないぞ!?』
『どうすればいいんだ!?』
とか、そう言うセリフを吐くのだろうか。自分でもかなり性格悪い考え方しているなと思っていると、彼はポツリと呟いた。
「美しい」
「……え?」
それは、この場にいた誰もが想像できない言葉だった。
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