俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「人類とドラゴン娘の関係は最初から良好だった訳ではなく、反目し争い合うこともあったが、互いに歩み寄る努力を続けた結果、今日に至り……」
歴史の講義。この学園に通う生徒ならば誰でも答えられる内容であるが、フェルドもまた言い淀むことなく回答していた。
「嘘付き」「ウソツキ」
隣ではシンキとハクテイが文句を垂れている。彼は確かに優秀だった。
筆記と実技の両方で優秀な成績を収め、学友達との交流も決しておろそかにせず、正に学徒の鑑ともいうべき立ち振る舞いだった。
「(それだけならまだいい)」
彼の優秀さに惹かれて、自分とパートナーの関係が危うくなる。という、既視感を覚えずにはいられない展開が用意されていたとしても、俺には関係のない話だ。何故なら、俺の相棒はドラゴン娘ではないのだから。
「やあ! 麗しの友よ! 今日も君は勇壮だ!」
学園の端っこ。こんな辺鄙な所にフェルドは足繁く通っていた。
彼の傍らに立つ、ファヴニールに引かせた荷車には大量の肉や作物。残飯と比べるべくもない。
ドラゴンも、連日運ばれて来る馳走に味を占めたのか。2人の姿を見るだけで、バンバンと地面を叩くようになった。
「ハハッ! 待ちきれないかい? だが、遠慮することなく召し上がって欲しい。おい、ファヴニール。彼の前に持っていけ」
「は、はい……」
惨い。むごすぎる。浮気相手に妻を奉仕させるという図ができ上がっている。
当然だが、ドラゴンがそんな不貞を咎めることもなく、差し出されたご馳走を貪るばかりである。この駄竜が。
「カラバ。あいつ殴ろう」
「カラバ。あいつ〇そう」
「犯罪行為はNG」
シンキとハクテイを抑えるのが、俺の役目になって来ている気がする。
大量の供物を召し上がった後は、褒美と言わんばかりにドラゴンは地面に頭を置き、フェルドが近寄る……だけではなく。なんと、触ることすら許していた。
「ああ! 友よ! 君の体を通して力強さが伝わって来る! 君に会えただけでも、この学園に来た価値があった!」
キザで嫌味ったらしい感じも無く。まるで少年の様に無邪気に喜ぶんだから、腹を立てられないことに腹が立つ。
フェルドが全力で戯れている傍ら、用事を終えて、放置されたファヴニールがこっちに近付いて来た。すぐにシンキとハクテイが駆け寄る。
「酷いことされたね。アレは放っておこう」
「あんなの放っておいて、私達と遊ぼう」
ドラゴン娘のことを第一にしているのは分かるが、ちょっとデリカシーが足りないのではないかと思っていると、ファヴニールが顔を上げた。
「私のマスターの悪口。言わないでもらえますか?」
金色の瞳孔が引き絞られた。ドラゴン娘達の大凡に共通する感情表現の一種で、ありていに言えば怒っている状態だ。
困惑する2人の脇を通り抜けて、学生寮に戻ろうとした彼女を引き留めた。どんよりと濁った瞳が向けられる。
「勝手に学生寮に戻った方がマスターの顔に泥を塗ることにならないか?」
「……そうですね」
引き留めやがって。と言わんばかりに、隣に腰を下ろした。陰気なオーラが漂って来て、俺まで暗くなりそうだ。
でも、この娘と何を話そうか? 一旦、フェルドとファヴニール。2人の原作の流れを思い出してみよう。
『いつまでもお傍に……』
結末だけ言えば、最終的に2人は死ぬ。
主人公とドラゴン娘の確たる絆を見せつけられ、狂ったフェルドは『ヴァルザイア』から授かった力に呑まれ、失意の中で死にゆく。
そんな彼と命運を共にしたファヴニールは『ヤンデレ』だとか『健気』という属性だけで語られがちだが、真意は分からないままだった。
「2人はどうやって出会ったんだ?」
「……契約の儀で呼ばれた」
劇中でも彼女は虐げられているパートナーと言うアイコン的な側面が強く、どんな娘かもよく分からなかったが。
「契約を断ることもできたはずだけど。切ろうと思ったことは?」
「ありません」
「どうして?」
「……フェルド様は、私とよく似ていたから」
どこが? と言いたいが、当事者同士のみで分かることもあるのだろう。とは言え、彼女を放置してドラゴンと戯れているアイツが彼女のことを気に掛けているとも思えないが。
「どんな所が似ていると思ったんだ?」
「寂しそうな所」
それっぽい所は見えない。意外と一人になったら泣いたりしているんだろうか? そう言う単純な話でもないか。
と、俺と彼女がポツポツ話しているのを見て、依然としてドラゴンと戯れているフェルドが手を振りながら言った。
「おーい! カラバ殿! もしも、君が良かったらだけれど、ファヴニールに学園の案内をして貰えないだろうか!」
「は?」「……え?」
急に何を言い出すんだと思ったが、もしかして俺とドラゴンを引き離す為の工作だろうか? そんなことは無いよな? お前も俺と離れたくないよな? と、視線を投げて見た所。
「ピスー」
間抜けな鼻息で応答された。まるで『今、お前はお呼びではない』とでも言われている様だった。
「あの。フェルド様、私」
「お前も私に付きっ切りでは見聞が広がるまい。私だけではなく、お前もまた学ぶべき身なのだ。カラバ殿! どうだろうか!」
原作でもこんなに強引なイベントは用意されていなかった。主人公のドラゴン娘が彼に気を許していなかったこともあるだろうが、フェルドがここまで執心することも無かったからだ。
ここ数日、ぞんざいに扱われても揺らぐことの無かった彼女が動揺している。俺はシンキに耳打ちをした。
「フェルドが怪しい動きをしたら直ぐに言ってくれ」
「分かった。コレを持って行って」
小さなアミュレットを渡された。これでフェルドがファヴニールに何かを命じていた場合でもすぐに異変を察知できる。
「(ただ、それ以上に)」
緊張で動けなくなっているファヴニールのことが気になった。今、ここで彼女に何もさせない方が不味いと感じた。
「ほら、付いて来てくれ。案内するよ。2人の役に立ってくれると嬉しい」
「……はい」
そこまで言って、ようやく彼女は動き出した。
こうして、俺達は互いのパートナーを互いに預けるという奇妙なシチュエーションを繰り広げることになった。……まさか、寝取りじゃなくてスワッピングだとは。
――
「(案内するとは言ったけど)」
既にフェルドと一緒に回っている手前、俺が改めて案内する場所なんて思い浮かばない。なので。
「ヤウナー教授。他に面白い所ってありますかね?」
「他にって何だい? 私の神聖な研究室が面白いって言うのかい??」
「誉め言葉ですよ」
嘘は言っていない。いつも意外に思うのだが、彼女はこんなやる気が無さそうであらゆる物事に無頓着そうに見えて、部屋は滅茶苦茶綺麗だ。
「そりゃそうだろう。研究用の素材は厳重に管理すべきだし、論文やレポートがすぐに見られる所に置いていなければ、不便じゃないか」
実際、研究用の素材やら何やらは相性次第では有害物質が発生したり、爆発したりなんてこともあるから扱いに慎重になるのは当然だが。
「イメージに合わないですね」
「もしや教授は才能があれば好き勝手にできると思っている? そんな嘗めた口を利く学生には、私の苦労を知って貰う責任がある。出掛けるぞ」
何やら道具一式を持って、出掛ける気満々であるらしい。フェルドからは学園内の案内を頼まれたのだが。と説明すると。
「何を言っているんだい。フィールドワークも立派な学業だし、即ち学園内での活動と言えると思うけどね」
「なんて屁理屈なんだ。ファヴニールはそれで良いのか?」
「私は別に……」
典型的な大人しい子仕草だ。だが、教授からの頼みを無碍にはできない。
「今日中に帰れますか?」
「問題ない。近くの村に出向くだけだからね。それと、ファヴニール君がいるのはちょうど良い。彼女の力も借りたいと思っていたんだ」
「私もですか?」
「ああ! 例の相棒君では火力が高すぎるからね。それじゃあ、私達が蒔いた物を狩り取りに行こうじゃないか!」
ガラーッと勢いよく研究室を飛び出して行ったので、俺達も慌てて付いて行くことにした。
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