俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
「今から、私達が向かう場所は件の肥料を売り込んだ村だね」
ファヴニールに荷車を引かせて移動する道中に教授から話を聞いた。件の肥料とはもちろんドラゴンの糞である。
「じゃあ、俺達は追加の肥料を卸しに行くんですか?」
「それもあるけれど、一番の目的は経過観察だ。例の肥料が作物の生育や土地にどんな影響を与えるかというのが見たい」
道理だ。それに、俺としてもドラゴンが周囲に与える影響の大きさと言うのも気になる。アイツが持つ力の大きさは排泄物にまで及ぶのだから。
なんてことを考えつつ、ファヴニールの方を見る。完全に話題に置いて行かれているにも関わらず、彼女は文句の一つも言わないで荷車を引いている。
「ファヴニール。大丈夫か?」
「……え? あ、大丈夫です」
反応の遅さからして、あまり労いとかはされていないんだろうな。
だからと言って、必要以上に心配するつもりもない。それは彼女の能力を軽んじることに繋がるからだ。
「着いたよ」
入り口には多数の村人。皆が一様に笑顔を浮かべており、肌の張り艶もとても良い。彼女を見るや恰幅の良い男性が迎え入れてくれた。
「おお! 来てくれましたか! 教授殿!」
「ウム。村長君。案内を頼むよ」
村長に案内されて村を見て回る。俺の中にあるファンタジー村のイメージは長閑ではあるが、裕福と言う程でもないという物だが。
「すごい……」
ファヴニールが零す程の物だった。麦畑は金色の絨毯を思わせるほどに実っていたし、合間にある畑には肥大化したキャベツやカブなんかも並んでいる。
「巨大なだけではありません。あっという間に成長してしまうんです」
「ちなみに食堂で使われている野菜等は、ここから買い付けている物も多いよ」
まさにWIN-WINと言う訳か。畑では無く、家の傍に作られている小さな畑には薬草なども植えられており、村の発展具合が分かる。
案内されている間も教授は土を確認したり、作物の生育具合を書き留めていたりと。実に教授らしいことをしていた。
「教授。例の肥料の影響は?」
「この村の土壌をこの上なく肥沃にしてくれたがね。やり過ぎてしまった」
どういうことだろうか? 村を案内された後は、外れの方へと向かっていく。道中に畑なども無く、雑草が好き放題に伸びている。
「着きました」
村長に案内された先にはポツンと一つの畑、周りには不自然な位に草が生えていない。これ自体は珍しい物ではないが、問題は生育している物についてだ。
「いやいやいやいや」
まるで岩石。そう形容したくなる位に巨大なキャベツが実っていた。こういう時に言ってみたくなるセリフが出てしまった。
「お好み焼き何人前位あるんだ?」
「オコノミヤキ?」
「あ、気にしないで下さい」
ヤウナー教授が不思議そうな顔をしていた。これを採取して帰るんだろうかと思った矢先のことである。キャベツ玉がガタガタと揺れ出した。
「村長君。戻りたまえ、ここから先の対応は我々でやる」
「ご無事で」
村長が踵を返しているが、俺とファヴニールには何が起きようとしているんだろうか? という疑問を他所に事態は進む。
巨大キャベツは畑から飛び出し、根っこを束ねて固めて四肢を形成して着陸した。まるでドレスの様に外葉を拡げた。世にも珍しいキャベツ型魔獣である。
「カラバ君。対応を頼む。オコノミヤキとやらにしてしまってくれ。今回において、ファヴ君は適任なハズだ」
「やるぞ!!」「はい!!」
来るまでの時と違い、彼女の返事も行動も早かった。
ファヴニールは全身で地面を掴むようにして四つん這いになり、キャベツ型魔獣に突っ込んで行った。ハクテイの戦い方とはまるで違う。
驚くべきは、その膂力。体格で勝る相手に一歩も引かない所か、正面からぶつかってひっくり返していた。そのまま巨体に飛び乗るが。
「危ない!」
「!!」
キャベツ型魔獣の外葉は、まるで1枚1枚が意思を持っているかのようにファヴニールを挟み込んで圧殺しようとしていた。
俺が張る防御壁程度では紙ほどの役にも立たないだろう。ならば、使うべき呪文は1つ。守るより攻めろ。
「ファヴ!! ぶち抜いてやれ!!」
「ウォオオオオオオ!!」
アタックのバフを掛けた咆哮はすさまじく、圧殺しようとしていた外葉の一部を消し飛ばしていた。そのまま胴体を爪撃で引き裂いた後、彼女の口から紫色の煙が溢れ出していた。何が起きるかは直ぐに予想できた。
「オヴェエエエエエエ!!」
吐いている訳ではない。口から射出するという機構上、どうしてもこのような叫びになってしまうのだ。紫色の液体がキャベツ型魔獣の傷口から注がれた。
変化は直ぐに現れた。キャベツ型魔獣の体はボトボトと溶け落ちて行く。激痛が走っている為か暴れようとしていたが、ファヴニールが抑え込んでいた。
「暴れないで下さいね。暴れないで下さいね」
プレスと言い、この世界では制圧対象に懇願する風習でもあるのだろうか?
抑え込まれている間にも毒が周り、キャベツ型魔獣の全身がドロドロに溶けて行き、液状となった部分をファヴニールがすすり上げて行く。その顔は恍惚に染まっていた。
「(なるほどな……)」
フェルドが冷たい理由の一端を見た気がする。彼女の戦い方はあまりに悍ましい。キャベツ型魔獣が液体となって消滅した跡には拳大程の種が転がっていた。
「討伐完了だね。二人共お疲れ様」
「俺は殆ど何もしていなかったけれどな」
ファヴニールを見れば、彼女は液体となった魔獣の後始末をしていた。フェルドと一緒にいる時には見せることの無い、恍惚とした表情を浮かべていた。
――
その後、教授は件の畑を調査、サンプリングと種の回収、最後に薬剤の散布。そして、村長達を集めて何かしらの説明をしていた。その間、俺達はと言うと。
「ほら、コレ持って行ってくんな! 普段の礼だ!」
「ウチからも!」
ファヴニールが引いている荷車に次々と作物が乗せられていく。巨大キャベツ、大きいカブ、サッカーボール位の玉ねぎ……それと拳みたいな豆。
普段、ドラゴンの残飯を貰っている食堂に持って行けば喜ばれることは間違いなしだ。ギチギチに乗せた所で休憩を入れることにした。
「今日は散々な見学になったな」
学園内を見て回るだけのつもりだったが、まさかこんなことに駆り出されるとは思ってもいなかった。
「でも、悪い物だとは思っていないです。あの魔獣美味しかったですし」
「お好み焼きじゃなくて、もんじゃ焼き派か」
アレ、美味しいけれど腹が膨れないんだよな。……あまり用いられたくない比喩で使われる方の『もんじゃ焼き』であるが。当然ながら、この世界にはない料理なのでファヴニールは首を傾げていた。
「それって、どんな食べ物なんですか?」
改めて言われると、どんな食い物かは解説しにくい。
比較的食感が似ているポタージュの様な物で、キャベツや揚げた小麦粉、タコ……は分からないか。肉が浮かんでいる料理だと。説明した。
「私もぜひ食べてみたいですね」
ズズズと口の端から涎を垂らしている。……卑屈で大人しい子だと思っていたが、本来の性格は奔放で子供っぽいのかもしれない。というか。
「食べるのが好きなんだな。何か食って帰るか?」
「え、いや。そんな。お手数をお掛けする訳には」
「良いんだよ。俺達は功労者だからな。……それに、俺。ファヴニールと一緒に飯食ってみたかったんだよ」
ドラゴンと一緒に食事をするのは不可能だからな。わざとらしく大声で言ったので、マダム達がこぞって出て来た。
「聞いたよ! この村一番の料理上手とはアタシのことだ!」
「冗談を言うんじゃないよ! お宅のスープにはハナクソが浮かんでいるって、アンタの旦那が言っていたのを聞いたよ!」
「悪口しか言えない連中と違って、ウチのは美味いよ! なんたって隠し味が違うんだ!!」
ヤウナー教授が蒔いた恩恵か、皆が諸手を挙げてくれている。この厚意に預からぬ理由が無い。
「あの、カラバさん」
「まだ食えるなら、付き合ってくれると嬉しいな」
「は、はい!」
と。軽い気持ちで言ったのだが、この準備を見て村長や村の男達もノリノリになって宴会へと移行するハメになるのだが、一番の功労者であるファヴニールは皆に可愛がられていた。
出される料理を美味そうに平らげるドラゴン娘となれば、人気を集めるのも当然のことで。俺は少し離れた所から眺めていた。
「いや、こんな催しになるとはね」
「教授はこうなることを予想して?」
「幾らかはね。異常繁殖していたらファヴニール君に枯らして貰うつもりだったが、まさかあんな魔獣になるとは思わなかった」
ヤウナー教授でも、今回の事態は想定を超えていたということか。
それを解決してみせたファヴニールは間違いなく強力なドラゴン娘であり、彼女を従えるフェルドもまた優秀なのだろう。
「(彼女はフェルドのことを似ていると言っていたが)」
何となく重なる所はある気がする。ドラゴンと戯れているアイツと、村人達に囲まれて料理を頬張っている彼女が浮かべている笑顔はよく似ていた。
宴もたけなわ。暗くなる前に学園へと戻る帰り道、よほど機嫌が良かったのだろうか。ファヴニールが言った。
「ヤウナー教授、カラバさん。今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「そうかい。それは良かった。カラバ君はどうだい?」
「俺も楽しかったよ。少しだけファヴニールのことも知れてよかったよ」
「……あの、さっきみたいに『ファヴ』って呼んで貰っても良いですか?」
そう言えば、キャベツと戦っていた時にそんな風に呼んだ気がする。一気に距離を詰め過ぎる気がするが、シンキを見習うとしよう。
「ファヴ。これで良いのか?」
「フフッ」
微笑むという感じではなく、ニヤニヤしている。満足して貰えたら何よりだと思う反面、同時に思うこともあった。
寝取り役ポジのパートナーを連れ回し、愛称で呼ぶ。もしかして、人のドラゴン娘を寝取ろうとしているのは、俺の方じゃないのだろうか? あまり考えない様にして、学園を目指した。
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