【アルバイト募集:郷土資料・民間伝承に関する現地調査補助】   作:内山田

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第1話 アルバイト

 

 

 

 

 

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【アルバイト募集】

 

・郷土資料・民間伝承に関する現地調査補助

・未経験歓迎

・学生歓迎

・夜間勤務あり

・日給18,000円

 

興味のある方は0xx-xxx-xxxxまで

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怪しげなバイト募集のチラシが、電柱に貼り付けられていた。

 

気が付いたのは全くの偶然だった。

いつもの道。僕の家から大学へ向かう、ありふれた通学路である。

毎日のように通っている道なのに、こんなチラシが貼ってあったことには、今まで気が付かなかった。

 

果たして、前からこんなものはあっただろうか。

 

紙の端は少しめくれ、ところどころ色も褪せている。貼られてからそれなりに時間が経っているらしい。それくらい自然にそこにあるものだから、これまでは視界に入っていても気に留めなかったのかもしれない。

あるいは、ちょうどアルバイトを探していたから、今日は目に入っただけなのだろう。

 

大学に入学して、はや二か月。

大学生活というものにも少しずつ慣れてきて、同時に、世の大学生というものは意外と日々の出費が多いらしい、ということも身をもって知り始めていた。

しかし、僕の家は息子に毎月それなりの仕送りができるほど裕福ではない。

そこで僕も、周囲の学生たちと同じように、そろそろアルバイトを始めようと思っていたところだった。

 

ところが、そんな僕のアルバイト探しは意外なほど苦戦していた。

自分に向いていそうな仕事が、なかなか見つからないのである。

学科にいる数少ない友人の一人からは、一緒にスーパーでのバイトをやらないかと誘われたこともあった。しかし、傍から見ても人付き合いがうまいとは言えない僕に、接客業が務まるとはどうしても思えず、断ってしまっていた。

そんなわけで、僕みたいな人間でもできる仕事はないものかと頭を悩ませていたところに、ちょうどこのチラシが目に入ったのである。

 

もう一度そのチラシを眺める。

 

「郷土資料・民間伝承に関する現地調査補助」とな……。

 

この説明からは、具体的にどんな仕事をするのかさっぱり分からない。

ただ、「未経験歓迎」「学生歓迎」であるにもかかわらず、日給は一万八千円とある。これはかなり魅力的な条件だった。

現在の僕は学生の身分で、これまでアルバイトをした経験は全くない。それで日給一万八千円なら、破格と言っていいだろう。

 

まだ入学して日は浅いが、僕も一応は歴史分野を専攻している学生である。多少くらいは、学んでいる内容に関係のある仕事なのかもしれない。

……まあ、歴史を専攻しているからといって、民間伝承に詳しいわけではないのだけれど。

 

それでも、日給一万八千円か。

 

この仕事内容でそこまで危険があるようにも思えないし、話くらい聞いてみてもいいかもしれない。

 

僕はポケットからスマートフォンを取り出し、チラシの一番下に書いてある電話番号を入力した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

採用面接の日付はすんなり決まった。

 

「我々はいつでも構いませんので、お時間のある時でどうぞ」

 

電話越しの女性は、真面目な声でそう言った。

 

「こちらも、いつでも構いません」

 

「そうですか。それでは、明後日はいかがですか」

 

「……ちょっと待ってください」

 

僕は一度スマートフォンを耳から離し、手帳のカレンダーを確認した。

明後日は講義が夕方まで入っているが、他に特に予定はない。まあ、もともと予定が多い方ではないけれど。

 

「明後日は16時以降であれば大丈夫です」

 

「では16時にしましょう。履歴書だけお持ちいただければ大丈夫です。服装も、普段通りで問題ありません」

 

「わかりました。それでは、16時に」

 

そんなやりとりをしたのが二日前。

 

そして今日が、その面接の日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面接に向かうため家を出ると、このところ少しずつ上がりはじめた気温と、じっとりとした湿度が肌にまとわりついてきた。

まだ六月だというのに、昼間の日差しには夏らしい強さがある。

 

平日の夕方。傾き始めた日差しが建物の窓を照らし、通りにはこれから帰宅する人たちの姿が増え始めている。車道を走る車の音や、道の向こうから聞こえてくる話し声が重なって、街全体がどことなくせわしない。

 

僕はそんな人の流れに紛れながら、電話で聞いた住所を頼りに歩いていた。

 

確か、このあたりのはずだったけれど……。

 

おとといの電話で伝えられた住所のメモを何度か見返しながら進んでいくと、やがて両隣の建物の間に押し込められるようにして、小さな建物が見えてきた。

 

三階建ての、ずいぶん古いビルである。

コンクリートの壁面はかなり黒ずんでいて、周囲に並ぶ明るい色の建物の中では、そこだけ長いこと日陰に置かれていたように見えた。

打ちっぱなしのコンクリートにはところどころ細いひびが走り、その間には、曇って白くなったガラス窓がはまっている。

 

ここなのか……。

 

言われなければ、廃墟と間違えてもおかしくない。

こんなところに入居している会社なんて、それだけで少し怪しい気がする。

建物を間違えていることを祈りながら、もう一度メモに目を落とす。

 

住所は合っている。

どうやら目的地はここで間違いないらしい。

 

連絡する会社、間違えたかもしれないな……。

 

そんな考えが頭をよぎった。

だが、来てしまったものは仕方がない。適当に話を聞いて、さっさと帰ってくればいいだろう。

 

そう思ってビルに近づくと、左側の建物との間に、人一人が通れるほどの狭い通路があるのを見つけた。

そういえば、電話の女性は「エレベーターがあるので、それを使って二階へ上がってきてください」と言っていたように思う。

となれば、この通路の奥にエレベーターがあるのだろう。

 

回れ右して帰りたくなる気持ちを抑えて、僕はその通路へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずいぶん暗い。

 

それが最初の感想だった。

 

コンクリートの壁に挟まれた通路は、人一人分ほどの幅しかない。薄暗い奥へ向かって、まっすぐ伸びている。

天井には蛍光灯が取り付けられているものの、長いこと交換されていないのか、弱々しく点滅している。足元を照らすには十分だが、なんとも頼りない明るさだった。

壁も床も天井もコンクリートそのままで、ドアがあるわけでもない。掲示板もなければ、チラシの一枚さえ貼られていない。

何のための通路なのかもよく分からない。ただ、建物の隙間を人が通れるようにしただけ、といった感じだった。

 

さっきまでの暑さが嘘のように、空気がひんやりしている。

表通りにいたときにはあれほど近くに聞こえていた車の音も、ここまで来ると、まるではるか遠くを走っているように小さく聞こえていた。

 

ほんの数メートル、中へ入っただけなのに。

まるで、そこだけ世界から切り離されたようだった。

 

本当にこんなところに会社なんてあるのだろうか。

やっぱりただの廃墟なんじゃないだろうか。

 

ますます帰りたくなっている自分に気づきながら、それでも僕は奥へ進んだ。

 

距離にすれば、せいぜい十メートルほどだろう。

それなのに、ずいぶん長い距離を歩いたように感じた。

 

やがて、通路の一番奥にエレベーターが見えてきた。

扉の上には小さな明かりがついている。どうやら、まだ使われているらしい。少しだけほっとする。

扉の横にある操作盤は塗装が剥がれ、ところどころ錆びている。階数を示す数字もかすれていて、どれがどの階のボタンなのか、一目では分からない。

 

電話の女性に言われたのは二階だった。

 

たぶんこれだろう、と二番目のボタンを押す。

 

しばらくして、エレベーターの奥から低いモーター音が響いた。

がたん、と一度揺れて、古びた扉がゆっくりと左右に開く。

 

中は意外にも明るかった。

僕は乗り込み、「2」と書かれたボタンを押した。

開いた時と同じように、ゆっくり扉が閉まった。

 

エレベーターが動き出すと、足元から細かな振動が伝わってきた。

ひどくゆっくりとした動きだった。

たった一階上がるだけなのに、ずいぶん長い時間がかかるように感じる。

途中で、かすかに車輪が擦れるような音がした。

 

大丈夫かな、これ。

 

そんなことを考えているうちに、やがて小さな振動とともにエレベーターが止まった。

 

ドアが開く。

そこは、狭い踊り場だった。

左手に扉が一つある。

その横には、このビルに入居しているらしい企業の名前が、いくつか並んでいた。

 

どれも文字がかすれていて、読み取りにくい。

その中でも一つだけ、妙に目につくものがあった。

 

 

 

 

 

【有限会社 語部事務所】

 

 

 

 

 

その文字を、僕はしばらく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気は進まなかったが、覚悟を決めて扉を開くと、中には案外明るい空間が広がっていた。

それほど広くない部屋の中に机が数列並べられており、見渡す限りの机という机の上に、大量の書類が積まれている。そうした紙の山に埋もれるようにして、社員と思われる人たちが席に座り、何やら作業をしていた。

 

どう見ても何の変哲もない、ありふれたオフィスという感じである。

ここまで通ってきた、いかにも廃墟じみたビルの雰囲気と比べると、拍子抜けするほど普通だった。

目の前の光景を見て、知らず知らず入っていた肩の力が抜けていく。

 

さて、僕はここに採用面接を受けに来たのである。

 

とはいえ、どうやって声をかけたらいいものか。

 

視界に入る人間は二、三人ほどいるものの、みな忙しそうに書類の山と格闘しており、こちらに気がついた様子もない。

 

なんとも声をかけづらい。

 

「ああ、いらっしゃいましたか。時間通りですね」

 

まごまごしていると、声をかけられた。

 

声のした方向を見ると、奥の方からスーツ姿の女性が歩いてくる。

無地のスーツをきっちりと着こなした、いかにも真面目そうな女性だった。髪もきれいにまとめられていて、いかにも仕事のできそうな雰囲気がある。

 

たぶん、電話で話した女性だろう。

 

きっちりしたスーツ姿もそうだが、何よりあの電話口と変わらない真面目な声ですぐにそう思った。

 

「アルバイトの面接でいらした髙森さん、でよろしいですか?」

 

「はい」

 

「どうぞ。社長がお待ちです」

 

「社長さんが面接されるんですか?」

 

「ええ。うちは小さな会社ですので」

 

そう言うと女性は、「こちらへどうぞ」と言って部屋の奥へ向かう。

僕も遅れないように、慌てて後を追いかけた。油断していると、机の上の書類に体が引っかかって崩してしまいそうだ。

 

「すみません、狭いオフィスで」

 

女性が言う。

 

「いえいえ、皆さん忙しそうですね」

 

「人数が少ないので、片付けまで手が回っていないのです」

 

そういう会話を交わしながら、部屋の一番奥までたどり着く。

 

そこには木製のドアがあった。

 

女性がほっそりした手首を曲げ、ドアをきっちり三回ノックする。

 

「社長、本日面接予定の学生さんをお連れしました」

 

それほど時間を空けずに、ドアの向こうから返事があった。

 

「ああ、来たか。どうぞ」

 

女性は「失礼します」と言ってドアを開け、中に入る。

僕も彼女に続いて部屋へ入った。

 

その部屋は、社長室というにはだいぶ狭い部屋だった。

部屋の真ん中には背の低いテーブルがあり、その両側に二人掛けのソファが置かれている。その向こう、部屋に入って正面の一番目につくところにはデスクがあり、そこに男性が座っていた。

 

グレーのジャケットを着た、いかにも普通の男性である。

それほど年を取っているわけではない。社長というよりは、部長や課長といった方がしっくりくるような外見だった。

 

「どうぞ、入って入って」

 

男性は僕らを見ると、人好きのする笑みを浮かべてこちらへ手招きをする。

 

「今、お茶をお持ちします」

 

そう言うと女性は、入ってきたドアから出ていった。

 

部屋には社長と僕だけが残される。

 

「まあ、座ってよ」

 

社長はそう言うと、テーブルを挟んで向かい合わせになっているソファの一方を手で指し示した。

僕が腰を下ろすと、社長も向かいに座った。

 

「よく来てくれたね。髙森君、でいいのかな」

 

「髙森肇です。アルバイト募集のチラシを見つけて応募させていただきました」

 

「社長の藤宮です。いやあ、まさかあのチラシを見つけてもらえるなんてねえ。ずいぶん前に作ったものではあるんだけど、何しろ誰も応募してくれなくてね」

 

……ますます心配になってきた。

 

そんな僕の内心はつゆ知らず、社長はニコニコしながら続ける。

 

「髙森君は大学生だよね?」

 

「はい。今年の四月に入学しました」

 

「こんなに若い子が来てくれるとは思わなかったなあ。助かるよ。何せほら、うちは結構体力仕事のところもあるからさ」

 

断っておくが、僕は決して体力に自信があるわけではない。

 

「えっと、ポスターには現地調査補助と書いてありましたけど、どういった感じのことをするのでしょうか」

 

「ああえっと、それはね……資料を調べたり、人から話を聞いたり、実際に現地へ行ったりする仕事だよ。まあ、難しいことじゃない。彼女が戻ってきたら詳しく説明してもらうから」

 

話していると、

 

「お茶をお持ちしました」

 

先程の女性が、お盆に湯呑を三つ乗せて戻ってきた。

僕と社長の前に一つずつ置き、それから自分の湯呑を持って社長の隣に座る。

 

少し緊張していたのを誤魔化そうと、お茶を飲もうとした。

しかし、驚くほど熱く、とても飲めたものではなかった。

 

「業務内容についてですが」

 

女性が真面目な口調で話し出す。

 

「我々はある地域の歴史や、その土地に伝わる民間伝承を対象に調査をしています。基本的には依頼を受けてその場所へ出かけていき、現地調査をしたり、その地域に関する古い資料を読んだりといったことが多いです」

 

「……はあ」

 

聞いても、やはりよく分からない。

 

「その依頼というのは、どういったものが多いんですか?」

 

「依頼者によって多種多様なのですが、例えば『裏山にある古い神社が何を祀っているものなのか調べてほしい』だとか、『昔からこの地域に伝わっている不思議な言い伝えについて、何か由来があるのか調べてほしい』などです。少し変わったところですと、『代々伝わる日本刀がどこで作られたものなのか調査してほしい』などといったものもありましたね」

 

「なるほど。要するに、歴史や民俗についての調査をする会社、ということですか?」

 

「まあ、そのようなものです」

 

それなら僕でも務まるかもしれない。

少なくとも、接客業などよりは自分に向いていそうだった。

 

今度は女性がこちらに質問をしてくる。

 

「大学では歴史を?」

 

「はい」

 

「古文書とか読めます?」

 

「えっと、少しだけ。一応、授業で読むこともありますから」

 

「現地でお年寄りから昔の話を聞くこともありますが」

 

「多分、大丈夫だと思います」

 

「夜間の仕事もあります」

 

「夜間って、何時くらいまでですか?」

 

「朝までのこともあります」

 

「……まあ、バイトですから」

 

朝まで夜通しかかる調査って何だろうか。

 

少し不思議だったが、別に夜更かしが特段苦手というわけではないので、僕は答えた。

 

「まあまあ、その辺は若いし、大丈夫だよね」

 

社長が割り込んでくる。

 

「なんたって若者は元気だからね。僕もね、若い時は徹夜の二日や三日、ずいぶんとしたものさ」

 

「……はあ」

 

「特に僕らの仲間内では麻雀が流行っててね。酒を飲みながら朝まで麻雀して、そのまま寝ないで酔っ払ったまま大学へ行って講義を受ける、なんてこともよくあったよ」

 

社長は懐かしそうにうんうんとうなずく。

 

「そうですね」

 

どう返事をしたらいいのか分からず、僕は曖昧にうなずいた。

 

「社長、学生さんに妙なことを教えないでください」

 

女性があきれたように言った。

 

「そうは言ってもね、やっぱり若いうちは遊ばないと。せっかくエネルギーいっぱいなんだからさ」

 

「気持ちはわからなくもないですが、大学生活を始めたばかりの若者に言う言葉ではないでしょう」

 

「山吹君だって、徹夜の一つや二つ、楽勝だろう?」

 

社長は隣の女性に向けて笑顔で問いかける。

 

「私は髙森さんほど若くはありませんが」

 

女性――山吹さんといったか――は、相変わらず真面目な口調で答える。

 

「僕みたいなジジイからしたら、まだ全然若いさ」

 

「社長もそこまでの歳ではないでしょう」

 

「いやいや、僕だってもうすぐ五十だよ。君たちからしたら十分おじさんだよ」

 

「少なくとも、学生に張り合って徹夜自慢をするほどではないと思いますが」

 

山吹さんはそう言って小さくため息をついた。

 

「まあまあ」

 

藤宮社長は楽しそうに笑う。

 

「もちろん、深夜まで業務が延長することになった場合は、その分の給料を割り増しします。頻度も学業を優先していただき、無理のない範囲でやっていただけたらと思います」

 

山吹さんがこちらに向かって続ける。

 

「いえ、元々忙しい人間ではないですが……」

 

「こちらとしては、ぜひ髙森さんに来ていただけたらと考えております。いかがでしょうか」

 

「えっと……」

 

僕は湯呑に手を添えた。

先ほどよりは少し温度が下がっていて、今度はなんとか一口飲むことができた。

 

結局、仕事の内容は最後までよく分からない。

でも、少なくとも聞いた限りでは、危険な仕事というわけではなさそうだった。古い資料を調べたり、地元の人から話を聞いたりするくらいなら、僕にもできるだろう。

何より、日給一万八千円という条件は魅力的だった。これなら、しばらくは仕送りを気にしながら生活しなくても済む。

コンビニや飲食店のような接客業でもない。人と話すこと自体はあるらしいが、決まった場所で大勢の客を相手にするわけではないようだ。

 

それなら、僕でもやっていけるかもしれない。

 

「髙森君は歴史学科だよね? それなら即戦力間違いなしだなあ」

 

社長がニコニコしながら言った。

 

即戦力と言われても、妙な気分になる。

大学に入ってまだ二か月の身分である。歴史を専攻しているとはいっても、何か特別な知識があるわけでもない。

 

それでも。

 

この人たちは、少なくとも今のところ、変な人たちには見えなかった。

会社の場所と仕事の内容は少し変わっているが、こうして話してみれば普通の大人たちだ。

なら、やってみてもいいのではないだろうか。

 

それに、ここまで来たのだから、今さら断って帰るのももったいない。

 

「……では、お願いします」

 

迷いながらも、僕はそう答えた。

 

「ありがとう。それじゃあ、よろしくね。頼りにしてるよ」

 

社長は立ち上がり、僕に右手を差し出してくる。

 

「……こちらこそ」

 

僕も立って、その手を握り返した。

こちらの手を包み込むような、ひどく温かい手だった。

 

 

 




・髙森肇:18歳 好きな食べ物 きつねうどん

・山吹瑞歩:27歳 好きな食べ物 おはぎ

・藤宮浩市:45歳 好きな食べ物 もつ煮
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