【アルバイト募集:郷土資料・民間伝承に関する現地調査補助】 作:内山田
「二階堂だ。二階堂司。よろしくな、新人」
次の日、初バイトのため事務所に行った僕を待っていたのは、そんな言葉だった。
背が高い男性だった。細身の体は筋肉質とまではいかないが、それでも運動神経の良さそうな外見をしている。鋭い目つきで、いかにも厳しい先輩といった印象を受ける。
「髙森肇です。よろしくお願いします」
できるだけ良い印象を持ってもらおうと笑顔を作って手を差し出したが、二階堂さんはその手を見ることなく、机の上の書類を鞄に詰めながら、時間が惜しいとばかりに話し始めた。
「お前は今日から俺と組んで行動してもらう」
「わかりました。よろしくお願いします」
差し出した手をこっそり下ろしながら、僕は返事をする。
「よろしくはいい。現場で勝手なことをしないでくれりゃそれでいい」
「わかりました」
「準備はできているか? じゃあ十分後に下に来い」
そう言うと二階堂さんは書類とカバンをひっつかみ、それ以上何も言うことなく、さっさと部屋から出て行ってしまった。
準備とは、なんの準備だろうか。
昨日の面接では、特に持ち物について何も言われていない。まさか、いきなり山登りでもさせられるわけではないだろう。
いや、そもそも今日は何をするのかすら、僕はまだよく聞いていない。
怒らせたら怖そうだし、あまり待たせない方が良さそうだけど……。
どうすればよいのかわからず、きょろきょろしていると、奥の方で山吹さんが手を挙げているのが見えた。
「髙森さん、おはようございます」
僕が近づくと、山吹さんは真面目な口調で言った。昨日と変わらず、きっちりとしたスーツ姿である。
「おはようございます」
昨日、面接をしてくれた人の顔を見ると、少しだけほっとした。
「あの、それよりも……」
「先ほどの方についてでしょうか」
僕が問いかけると、山吹さんは最後まで聞き終えることなく答えた。
「先ほどの方は二階堂さんという名前です。早速ですが、本日からあの人と一緒に仕事をしていただきます。まずは彼から仕事のやり方を教わってください。口調は乱暴ですが、面倒見はいい人です」
「それはありがたいですね」
本当に面倒見がいいのかは、今のところよく分からない。
ただ、山吹さんがそう言うのなら、そうなのだろう。
「それと、髙森さんはこちらのデスクを使ってください」
「僕、アルバイトですけど。机、用意していただけるんですか」
「もちろんです。うちは人数が多いわけではありませんし、机は余っていますので。すみません、誰も使っていなかったスペースですので、このように書類が侵食してしまっていますが」
「いえ、大丈夫です。荷物が多いわけではないので」
デスクの上に積み上がった書類の山をどかし、机の表面を発掘しながら僕は答えた。
紙の束を一つ持ち上げるたびに、その下からまた別の書類が現れる。どうやらこの机が最後に使われたのは、かなり前のことらしい。
「本日は現地調査の業務になります。詳しい話は、現場に向かう間に二階堂さんから聞いていただければと思います」
「現地調査……」
昨日から何度も聞いている言葉だ。
それでも、具体的に何をするのかは、やはりよく分からない。
「では、よろしくお願いします」
そう言うと山吹さんは椅子に座り、書類の山に向き直ってしまった。
僕に割り当てられた机の右斜め後ろ、割合僕とすぐ近くが彼女のポジションらしい。
二階堂さんほどではないにしても、山吹さんもずいぶん仕事が速い。さっきまでこちらを見て話していたはずなのに、もう何事もなかったかのように書類へ目を落としている。
壁にかけられた時計を見てみると、二階堂さんが出て行ってから、もう五分ほどが経過している。
十分ぎりぎりまで待たせるのも気まずい。僕は鞄を自分のデスクの上に置き、取りあえず部屋を出て向かうことにした。
*
「おう、来たか。さっさと乗れ」
僕が急いでビルを出ると、二階堂さんは建物の前に停めた軽自動車に寄りかかって待っていた。
「お待たせしてすみません。これからどこへ行くんですか?」
「あ? 山梨だよ」
「山梨!?」
思わず声が大きくなる。
なんだそれは。聞いていないぞ。
「おう」
二階堂さんは、それがどうしたと言わんばかりの顔をして運転席のドアを開ける。
「……」
いろいろ説明してほしいところだが、聞こうとするより先に乗り込んでしまった。仕方がないので、僕も助手席のドアを開ける。
「出すぞ」
二階堂さんはシートベルトを締めると、エンジンをかけた。
軽自動車特有の少し甲高いエンジン音が響き、車がゆっくりと動き出す。
「あの、山吹さんからは現地調査だとしか聞いていないんですが……」
「そうか」
「何を調査するんですか?」
「山梨のとある屋敷だ」
「屋敷?」
「ああ。そこに住んでるばあさんから依頼が来てる。家の裏に小さな祠があるんだが、古くなっていて何を祀っているのか分からなくなってるらしい」
二階堂さんは前を見たまま続ける。
「ただ、昔からその家では大事にされてきたらしくてな。何を祀っていたものなのか、由来を調べてくれって話だ」
「なるほど」
昨日、山吹さんから聞いた話とだいたい同じだ。
「そういう依頼って、結構あるんですか?」
「まあな。神社や祠に限らず、古い祭りとか、由来の分からない風習とか。あとは昔話だな」
「昨日、山吹さんからも同じようなことを聞きました」
「そうか」
それなら、本当に民俗調査の会社なのだろう。
少なくとも、昨日まで僕が想像していた仕事よりは、ずっと分かりやすい。
「それで、調べるっていうのは具体的にはどうするんですか?」
「さあな。まずは現場を見てみないことには何とも言えん」
「それもそうですね」
少しの沈黙があった。
車はいつの間にか大通りに出ていた。窓の外を見れば、見慣れた街並みが後ろへ流れていく。
しばらくして、高速道路へ入る。
「お前、歴史学科の学生なんだってな」
「はい」
「社長が喜んでたぞ。『優秀な若い子が来てくれた』とか言ってた」
「そんなに期待されても困るんですけどね。まだ大学に入ったばかりですよ」
「そうか?」
「まだ二か月です」
「二か月あれば十分だろ」
「そんなものですかね」
「俺はそういう資料とか文字をコツコツ読むのが苦手なんだよ」
二階堂さんはそう言って小さく笑った。
「現地に行くのは嫌いじゃないんだがな」
どうやら、思っていたほど話しにくい人ではないのかもしれない。
ただ、さっきの勢いを見る限り、せっかちな人なのは間違いなさそうだ。
車内の空気が少しだけ和らいだところで、二階堂さんが口を開いた。
「そういや、お前、昨日何にも説明されてないだろ」
「ええ、まあ……」
「じゃあ一つだけ覚えとけ」
声の調子が少し変わった。
「現場に着いたら、俺から離れるな。まずは俺の指示に従え。勝手なことをするんじゃないぞ」
「わかりました」
「あと、見たものに対して勝手な解釈をするな」
「解釈?」
「そうだ」
二階堂さんは少し考えるように間を置いてから言った。
「まずは、目に入るものをそのまま見ろってことだ」
「ええと……できるだけ先入観を持つな、みたいな意味ですか?」
「まあ、今はそう思っておけばいい」
不思議な言い方ではある。
けれど、調査なのだから、先入観を持たないことは確かに大切なのだろう。
僕はそう納得して、窓の外へ目を向けた。
いつの間にか、街の景色はだいぶ減っていた。
建物の間から、ときどき山の稜線が見える。
「……結構遠いんですね」
「そうでもない。まだ山梨に入ってないぞ」
「そうですか」
僕は少しだけため息をついた。
今日の帰りは遅くなりそうだな。
そんなことを考えながら、流れていく景色をぼんやり眺めていた。
*
二時間ほど走ると、車は高速道路を降り、山あいの道路を走っていった。
助手席の窓から見える景色には田んぼが広がっていて、その向こうには高い山々が見える。
先ほどまで僕らがいた都会とは、ずいぶん景色が違っていた。道路沿いには瓦屋根の日本家屋がぽつぽつと並び、時折、小さな畑や用水路が目に入る。
いかにも昔ながらの農村、といった風景だった。
「腹減ったな。蕎麦でも食うか」
運転する二階堂さんが、前を見たまま言った。
確かに、小腹が空いてくる頃合いである。
「いいですね」
しばらく走ったところで、「二八蕎麦」と大きく書かれた看板が見えた。
木造の建物の脇では水車がゆっくりと回っている。いかにも観光客向け、といった感じではあるものの、建物そのものはなかなか趣があった。
まだ昼時には少し早いこともあってか、駐車場には一台の車も停まっていない。
二階堂さんはそのまま敷地に入り、店の前に車を停めた。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、気さくな印象の女将さんが僕らを出迎えてくれた。
客は他に誰もいない。
僕らは女将さんに案内され、店の隅にあるテーブル席についた。
注文を済ませると、それほど待つこともなく蕎麦が運ばれてきた。
「いただきます」
一口食べる。蕎麦の香りがふわりと口の中に広がった。
東京で普段食べているものとは、やはり少し違う。大した距離を移動したわけでもないのに、こうして土地のものを口にすると、ずいぶん遠くまで来たような気がした。
二階堂さんはというと、さっきまでの無愛想な顔が嘘のように、黙々と蕎麦をすすっている。
「どちらからですか?」
客が他にいないので手持ち無沙汰だったのだろう。女将さんが僕らに尋ねてきた。
二階堂さんは蕎麦に夢中になっているようなので、僕が答える。
「東京からです」
「あらあ、わざわざこんなところまで。何か観光するところがあるわけでもないでしょうに」
女将さんはそう言って笑った。
「仕事なんです。ちょっと調べものがあって」
「へえ、お仕事」
それ以上は聞かないところを見ると、どうやらこの辺りでは、よそから来た人間に根掘り葉掘り聞くような習慣はないらしい。
女将さんは少し考えてから、窓の外を指差した。
「まあ、せっかく来たんだから、ゆっくりしていってくださいな。この辺は何にもないけど、景色だけはいいからねえ」
「そうですね。さっき車から見ていても、ずいぶんきれいだなと思いました」
できるだけ好印象を持ってもらえたらいいと思い、僕は笑顔で答えた。
「昔からずっとこんな感じよ。ここは農業くらいしかなかったからねえ」
女将さんは懐かしそうに外を見る。
「今でこそ車があるからいいけど、昔は大変だったのよ。ほら、街からも遠いでしょう? 昔なんか、ここから出るにも山を越えなきゃならなくて」
「そうなんですか」
「ええ。今だって外に出る道は一本だけだしね」
そう言って、女将さんは笑った。
「だから昔は、村の中だけで何でも済ませてたの。米も野菜も作ったし、祭りも村の中でやってたしね」
その一本とは、先ほど僕らが走ってきた道だろう。
確かに、あれしか外の町につながる道がないとすれば、かなり閉ざされた土地だったのだろう。
「へえ……」
僕はなんとなく、窓の外に広がる田んぼを眺めた。
こうして実際に来てみると、東京からそれほど離れているわけでもないのに、ずいぶん違う場所に来たような気がする。
「まあ、今はだいぶ寂しくなっちゃったけどねえ」
女将さんがぽつりと言った。
「若い人はみんな出てっちゃったから」
「そうなんですか」
「うん。昔はもっと家があったのよ」
女将さんはそう言って、それ以上は何も言わず、厨房の方へ戻っていった。
「結構、昔からある村なんですね」
蕎麦をつゆに浸しながら、僕が言った。
「まあな。こういう山の中の集落ってのは、どこも似たようなもんだ」
山菜の天ぷらをかじりながら、二階堂さんが答える。
「昔は道が今よりずっと不便だったからな。村の中だけで何でも完結してた。だから、その土地独自の風習とか、変な決まり事とかも残りやすい」
「なるほど」
「今回の祠も、そういうのの一つかもしれんな」
「……こういう仕事、やっぱり昔からあるものなんですか?」
「ま、調べてみりゃ分かるだろ」
二階堂さんは蕎麦を食べ終えると、箸を置いた。
「行くぞ。ばあさん待たせてる」
*
それから少しばかり車を走らせ、僕らは目的地へと到着した。
到着した屋敷は、ずいぶんと広かった。
土壁で囲まれた敷地の中に広い庭があり、その中心に一階建ての大きな母屋が建っている。瓦葺きの屋根はかなり急な角度で傾斜していて、ここら一帯が雪の多い地域なのだろうことがなんとなく分かった。
広い庭には池があり、白と赤の錦鯉が水面をゆったりと泳いでいる。庭木もきれいに整えられていて、雑草の一本も見当たらない。
門の前に立っているだけでも、なんとなく気後れしてしまうような家だった。
屋根を見上げる。
――切妻造。
どこかで見たような言葉が頭に浮かんだ。
大学の授業で聞いたことがあるような、ないような。たぶん建築様式についての言葉だったと思う。
「おい、何やってんだ」
何となく門の前で所在なさげに立ち止まっていると、車を停めた二階堂さんに後ろから声をかけられた。
「すみません。何となく入りにくくて」
「何言ってんだ。この仕事やってたら、こんな家しょっちゅうだぞ。慣れろ」
そう言うと、二階堂さんはためらう様子もなく門をくぐっていく。
僕も慌てて後を追った。
*
「わざわざこのようなところまで、ご苦労様です。遠かったでしょう」
玄関で僕らを迎えてくれたのは、おそらく七十か八十代ほどと思われる女性だった。
「忍野です」
そう名乗った彼女は、年齢の割に背筋がしっかりと伸びていた。
白髪をきれいにまとめ、落ち着いた色のカーディガンを羽織っている。その立ち姿には品があり、どこかの旧家の女主人と言われても不思議ではない。
「数年前に主人が亡くなってしまって、今はこの家に一人で住んでいるんです」
僕らを案内しながら、忍野さんが話してくれた。
「この広いお屋敷にお一人ですか? 何かと大変でしょう」
二階堂さんが尋ねる。
「いえ、数週間に一度、孫が様子を見に来てくれますから。孫は普段、近くの街に住んでおりますので」
忍野さんはそう言って、穏やかに笑った。
僕らを案内してくれた先は、広い畳敷きの部屋だった。
「今、お茶をお持ちしますわ。どうぞおかけになって」
そう言い残して、忍野さんは隣の部屋へ消えていった。
二階堂さんは慣れた様子で座布団に腰を下ろしたが、こういった家に来たことのない僕は、つい部屋の中を見回してしまう。
広い畳の部屋だった。
ふすまには、松の木の下で羽を広げる鶴が描かれている。正面には床の間があり、そこには古びた掛け軸が掛けられていた。
その下には花瓶が一つ置かれていて、鮮やかな黄菖蒲が生けられている。まだ花がきれいに咲いているところを見ると、こまめに手入れをしているのだろう。
部屋の隅には年季の入った桐箪笥があり、その上には鷹の剥製が置かれていた。ガラスのような透明な目が、こちらをじっと見ている。
少し落ち着かない気分になって、僕は目を逸らした。
ふと障子の向こうを見ると、庭の木々の間に、石でできた何かがちらりと見えた。
鳥居だろうか。ただ、それ以上はよく見えない。
「あれ?」
思わず呟く。
「どうした」
二階堂さんが顔を上げた。
「いえ……庭の向こうに、鳥居みたいなものが見えたので」
「ああ」
二階堂さんは特に驚いた様子もなく答えた。
「今日見るのは、あれだ」
「祠ですか?」
「そうだ」
ちょうどそのとき、障子が開いた。
「お待たせしました」
忍野さんがお盆に湯呑と菓子を載せて戻ってきた。
「どうぞ。近所の方からいただいたものなんです」
置かれた菓子を見ると、干し柿だった。六月に干し柿というのは、少し意外な気がする。
そんな僕の視線に気づいたのか、忍野さんが笑う。
「こちらでは、昔から身近なお菓子なんですよ」
「そうなんですか?」
尋ねながら一つ手に取る。
表面には白い粉が薄く浮いている。口に入れると、水分が抜けたぶん甘みが凝縮されていて、驚くほど甘かった。濃いお茶によく合う。
「ええ。この辺りは冬になると雪がたくさん積もりますから」
忍野さんは向かいに座り、湯呑を手に取った。
「雪が積もると、村の外へ出るのも難しくなりますでしょう。ですから秋になると、どのお家でもこういうものを作って、冬に備えるんです」
「なるほど」
さっき蕎麦屋でも、この辺りは昔から外との行き来が少なかったという話を聞いたばかりだった。
こうして聞いてみると、昔のこの土地がどのような場所だったのか、少しだけ想像できる。
窓の向こうには、先ほど見えた鳥居のようなものがまだ少しだけ覗いていた。
忍野さんもそちらへ目を向ける。
「……あれのことで、今日はお願いしているんです」
そう言って、忍野さんは静かに湯呑を置いた。
「あれは、私がこの家に嫁いできたときには、もうありました。その頃には主人も、何を祀ったものなのかは知らなかったそうです」
「ご主人もですか?」
「ええ。ただ、『あれは壊してはいけないものだ』と、父親から聞かされていたそうで」
忍野さんは少し考えるように間を置いた。
「義父も、たぶん同じだったのでしょうね。何なのかは分からない。でも、昔から大切にされてきたものだから、粗末にしてはいけない。そういうことだけは、代々伝わっていたんだと思います」
「今も、何かお供えをしたりするんですか?」
僕が尋ねると、忍野さんは頷いた。
「時々ですね。誰がしているのかは分からないんですけれど、干し柿やお菓子が置かれていることがあります。うちの前の道は、この辺の人もよく通りますから」
「誰が置いていくのかは、分からないんですか?」
「ええ。昔からそういうものですから、誰かがわざわざ話題にすることもなくて」
忍野さんはそう言って、少しだけ笑った。
「私が気がついたときには、そのままにしておくわけにもいきませんでしょう」
「なるほど」
二階堂さんが尋ねる。
「それで、わざわざ調査を?」
「ええ」
忍野さんは湯呑を両手で包むように持った。
「主人が亡くなってから、私もこの家のことを考える時間が増えましてね」
視線が、再び庭の方へ向く。
「私ももう若くありませんし、この先ずっとこの家に住み続けられるかは分かりません。孫の代になれば、この家もどうなるか分かりませんし」
少し寂しそうな声だった。
「そうなったときに、あれまで忘れられてしまうのは、何となく嫌なんです」
僕は黙って忍野さんの話を聞いていた。
「せめて、何を祀っているものなのかくらいは分かっていた方がいいでしょう。もし何かきちんとした由来があるのなら、できることなら、それに合わせて整えてあげたいと思うんです」
「そうですね」
二階堂さんが真剣な顔で言った。
「こういうものは、何が祀られてるのか分からないままにしておくより、由来を知っておいた方がいいでしょう」
「でしょう? お願いできるかしら」
忍野さんは少し申し訳なさそうに笑った。
「もちろん、何も分からなかったら、それでも構いません。ただ、分からないまま忘れてしまうのは、少し寂しいものですから」
「いろいろ調べてみます」
二階堂さんが立ち上がった。
「何はともあれ、まずは実際に見てみましょう」
「ええ。こちらです」
忍野さんも立ち上がり、障子を開けた。
・二階堂司:31歳 好きな食べ物 中トロのにぎり