8000年と星の世紀   作:文才の無い本の虫

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リメイクとはリメイクである(狂い火)


褪せた男と迷子の姫

 

「・・・・」

 

地面に手を付き、体を持ち上げる様にゆっくりと起き上がる。

服に付いた砂を払い、首をぐるりと巡らせた。

塩の匂い、波打ちの音、さくさくと足元で砂が音を立てていた。

 

“おそらく姫”

“この先かわいい奴が有効だ”

“すごいなにかを目指せ”

“やはり水場か…”

“またここか…”

“かわいい奴、おぉかわいい奴”

“かわいい奴万歳!”

 

光る文字、誰かが残したメッセージが視界に映る。

それは幾許か瞬き、幻影と共に意味を紡ぐ。

だがしかし、それは難解である。

姫、かわいい奴、すごいなにか、水場、かわいい奴にかわいい奴・・・・どういう事だ。

その玉石混交の中に一際目立つものを見付けた。

 

“まっすぐ進め”

 

自身と同じ姿の幻影が前を指している。

これは自身が残したメッセージだろうか。

記憶に無い。

私は褪せ、様々なものを失くしてしまった。

それは記憶であり、道具であり、ルーンである。

そんな私に残ったものは“誰か”から遠い昔に譲り受けた霊馬とルーンを己が力とする術、そして幾つかの道具のみ。

武器も古びた短剣程度しか無いが・・・・まあ、進んでみるとしよう。

他にやること(目的)も、すべき事(使命)も無いのだから。

 

そうして波打ち際を進み続け、夜が何度か訪れた。

一度夜を迎えた後からは霊馬を喚び、彼(もしくは彼女)の背に跨って移動していた。

 

「・・・・夜か」

 

夜が訪れる度、私は霊馬と共に夜空を見上げた。

 

この装束の持ち主、ノクスの民、夜巫女は星の世紀を待っていたという。

私が彼女らの関係者だったのか、唯の物好きだったのかはとうに忘れた。

ただこの装束の由来を想起するのみ。

だが、身に付けていたということには何かしらの意味があった筈だ。

だから私は夜が訪れる度に夜空を、星を見上げている。

意味も無く、あやふやな感傷と共に。

 

―――そんなある日、私は“運命”と出会った。

 

「待って!」

 

声が聴こえた。

小さな声だった。

矮小な、と言い換えてもいいだろう。

常人の耳には届かない様なか細い声。

出どころは足元からだった。

 

「・・・・ナメクジか?」

「違うよ?!ウミウシ!!」

 

小さな白いもふもふしたナメクジ。

それ曰くウミウシというらしい生物。

 

“おそらく姫”

“かわいい奴”

 

付近に似たような内容のメッセージが複数存在していた。

この生物があのメッセージが指していたものだろう。

 

「ここどこ?貴方は誰?」

「知らない」

「へ?」

「私は誰だ?」

「嘘ぉ・・・・記憶喪失じゃん」

 

どうやらこの生物は知能が高いらしい。

この個体のみなのか、種族全体かは分からないが会話が成立するのは嬉しいものがある。

・・・・?

会話が成立することは嬉しいことなのだろうか。

 

「あー。あー。よし!こんにちは!私、かぐや!!お願い、私を連れてって!!」

「・・・・良い」

「良いの?!やったー!!足ゲットだ!!一時期はどうなるかと思ったけどこれで勝ぁつ!!」

「勝つ?」

 

そうして、私はウミウシ―――かぐやを肩に乗せ旅をすることになる。

 

かぐやとの日々は褪せていた私に彩りを与えてくれた。

 

「へぇー夜巫女って言うんだ」

「違う。この装束を身に着けている者の呼称だ」

「?じゃあ夜巫女じゃん」

「・・・・確かにそうだな?」

 

私の名前は暫定で夜巫女となった。

聞くところによるとかぐやは“ヤチヨ”なる人物を探しているそうだ。

 

「夜巫女は星が好きなの?」

「そうなのだろうか?」

「ずっと見てるじゃん」

「ああ」

「じゃあ好きなんじゃないの?」

「そういうものか」

 

好きなもの。

かぐやは“イロハ”が好きなのだと言う。

私にはよく分からないが、かぐやが言うには星―――正確には星空が私の好きなものに該当するのだそうだ。

 

「今思ったんだけど夜巫女って喋らなければ美人だよね。超ハスキーボイスだけど」

「そうか」

「ツクヨミでライバーやったら人気出そう」

「ライバーとは?」

「配信者のこと!」

「背信者?」

「違う!!」

 

かぐやとの旅は、退屈しなかった。

 

「夜巫女って歳取んないの?!不老じゃん!!うらやま・・・・ってかぐやもじゃん!!」

 

驚きの連続だった。

 

「こうね、未来ではツクヨミっていのがあってね・・・・」

「ツクヨミ・・・・戦技か?」

「違うよ?!」

 

発見の連続だった。

 

「おー!!北海道はでっかいどー!!」

「???」

「あ、でもまだ北海道って言わないんだっけ」

 

成長の連続だった。

 

「夜巫女って人間臭くなったよね」

「人間臭く?え、臭いか?石鹸は使ってるんだが」

「あー。人間臭いっていうのは感情豊かって意味ね」

「成程。それならかぐやの影響だな」

「へへ〜ん。売れっ子ですから!!」

 

出会いの連続だった。

 

「汝らは縁起良しとぞ」

「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば」

「会いたい者がいるのだろう?」

「辛くても笑うんだよ!」

「わたしには、ここなの」

 

そして、別れの連続でもあった。

 

「極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ」

 

人は死ぬ。

怪我で死ぬ。

病で死ぬ。

戦で死ぬ。

出血で死ぬ。

毒で死ぬ。

二万の夜を越せずに大半が死ぬ。

 

ああ、別れは辛いものだ。

別離は辛いものだ。

親しい者の死は辛いものだ。

 

「かぐや、目から水が出る。これは何だ?」

「夜巫女・・・・それはね。涙っていうんだよ」

 

・・・・あぁ、そうか。

 

これが心か。

これが涙か。

これが愛か。

 

私は―――俺は。

 

彼女を失いたくないのか。

 

あぁ。

あぁ。

これが恐怖か。

 

これは、劇薬だ。

 

「うわっどうしたの?」

「いや、なに・・・・君を抱き締めたいと、そう思ったんだ」

「・・・・そっか」

 

 

 




夜巫女:かつて王だった誰か。永い年月を経て、壊れかけの律は壊れてしまった様だ。
霊馬:かつて王だった誰かを乗せて狭間の地を駆け抜けた霊馬。名をトレントという。
かぐや:やがて“ヤチヨ”となる。永い年月を夜巫女と過ごした、かけがえの無い者。

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