ミノフスキー粒子技術検証実験艦「ユーバリ」の記録 作:AIちゃんってすごい
第1章:企業の裏切りと「V作戦」の胎動
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宇宙世紀(Universal Century)0079年1月下旬。地球連邦政府の総本山である南米ジャブロー地下要塞の空気は、凍りつくような硝煙の香りと、隠しきれない敗北の恐怖に満ちていた。
人類史上最悪の惨劇となった開戦初週の「ブリティッシュ作戦(コロニー落とし)」に続き、1月15日に行われた「ルウム戦役」において、地球連邦軍が誇る無敵の主力艦隊は、ジオン公国軍という「持たざる者」たちの前に文字通り一瞬で瓦解した。
戦場全域に撒かれた未知の霧――「ミノフスキー粒子」の前に、連邦軍が数兆クレジットの予算を投じて配備した高性能電波レーダーはただの砂嵐を映すだけの箱と化し、追尾ミサイルは明後日の方向へと飛んでいった。
さらに、艦首の荷電粒子砲は粒子の抵抗に阻まれて豆鉄砲のように拡散し、視界を奪われた巨艦たちは、ジオンの「人型機動兵器(モビルスーツ)」の放つ対艦バズーカや灼熱の斧(ヒート・ホーク)の前に、なす術もなく撃沈されていったのである。
「……何が『近代化改修済み』だ。
何が『次世代の発電用技術』だ!
貴様らは我が軍を、我々の息子たちを、あのルウムの地獄へハリボテに乗せて送り出したのだぞ!!」
ジャブロー最高作戦会議室の重厚な防音扉を突き破らんばかりの怒号が響いた。
机を激しく叩きつけているのは、宇宙軍の編成を統括するゴップ将軍である。
彼の双眸は怒りで真っ赤に血走り、手元のデータパッドに表示された「ルウム戦役における損害報告」を怒りに震える手で握りつぶしていた。
その怒りの矛先を正面から受けていたのは、連邦最大の軍需複合企業「ハービック社」のウォルター・カーティス専務、そして「ホリフィールド社」のアーサー・ベネット最高技術責任者(CTO)をはじめとする、民間企業の幹部たちだった。
かつて地球の首都ラサの超高層ビルで高級葉巻を燻らせ、利権の甘い汁を吸っていた彼らの顔からは、完全に余裕が消え失せていた。
「そ、それは誤解です、将軍!」
ベネットCTOが、額から滝のように流れる汗を拭いながら弁明する。
「ジオンが公表したミノフスキー物理学に関しては、我が社の研究所でも追試を行っていましたが、あれほどの軍事利用、ましてやレーダーを完全に無効化するほどの広範囲散布など、理論上は……」
「白々しい嘘をつくな、資本主義の豚どもが!!」
ゴップ将軍の隣に立つ情報部大佐が、一枚の電子ディスクを机に叩きつけた。
そこに映し出されたのは、宇宙世紀0069年――今から10年も前に、ハービック社とホリフィールド社が極秘裏に交わしていた『ミノフスキー粒子に関する共同秘匿報告書』の暗号化データだった。
ルウムの戦場で中破しながらも生還した数少ないサラミス級ルサールのブラックボックスから、軍の情報部が力ずくで吸い上げ、復元した決定的な証拠(スモーキング・ガン)である。
「貴様らは10年前の時点で、この粒子が我が軍のレーダーとミサイル、そして荷電粒子砲を完全に無力化させる致命的な性質を掴んでいた!
だが、それを公表すれば、貴様らが抱える既存の電波誘導兵器の生産ラインが止まり、在庫がゴミになり、株価が暴落する。
だから、軍の上層部には『環境に優しい便利な次世代の発電技術』だと嘯き、中身が旧式炉のサラミスを『近代化改修予定』の書類一枚で誤魔化して納品し続けた! 違うか!?」
「……っ」
カーティス専務は声も出なかった。
彼らの利権と企業のプライドを守るための「隠蔽」が、巡り巡って連邦軍数個艦隊の全滅と、何万人もの熟練兵の命をジオンへ差し出す結果を招いたのだ。
これはもはや、単なる不正取引ではない。
国家に対する明確な「裏切り」であった。
「憲兵(MP)を入れろ」
ゴップ将軍が冷酷に言い放った。
「これより、ハービック、ホリフィールド、その他計画に関わったすべての軍需企業の全施設へ、軍法に基づく『強制査察』および『財産接収』を行う。
民間企業は二度と信用せん。我が軍の血を吸って肥え太った貴様らの利権など、すべて力ずくで剥ぎ取ってやる」
扉が勢いよく開き、自動小銃を構えた武装憲兵たちが雪崩れ込んできた。
カーティスやベネットは悲鳴を上げながら両腕を拘束され、会議室から引きずり出されていった。
2
同じ時刻、地球上の各都市、そして月軌道上の要塞ルナツーにある軍需企業の研究所や秘密ドックには、連邦軍の装甲車や突入艇が容赦なく突入していた。
「動くな!
連邦軍である!
本施設内の全電子データ、試作重器、研究サンプルは、これより軍が接収する!」
ハービック社の最深部にある中央サーバー室では、軍のデータ収集班が特殊なプロテクト解除コードを打ち込み、企業が隠匿していた「ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉」の設計図、縮退したミノフスキー粒子を磁場で収束させて放つ新兵器「メガ粒子砲」の試作理論、そしてジオンの裏ルートから極秘に入手していた「人型機動兵器(モビルスーツ)」の駆動データ(AMBAC作動システムなど)を、根こそぎ力ずくで強奪(接収)していった。
それは、連邦軍という巨大な怪物が、民間企業という寄生虫を自らの体内から引きずり出し、その肉と知識をすべて自らの糧として喰らい尽くすような、凄惨な光景だった。
この強奪された膨大な「禁断のデータ」が集約された、ジャブロー地下の秘密研究室。
無数のホログラフィック・ディスプレイが青白く光る部屋の中心で、一人の男が、狂ったように画面をスクロールさせていた。
連邦軍技術士官、テム・レイ大尉である。
彼は度の強い眼鏡の奥にある目を真っ赤に血走らせ、企業の隠蔽していたミノフスキー新物理学のデータを、貪るように脳内に叩き込んでいた。
彼の周囲には、数日間一歩も部屋から出ていないことを物語るように、冷え切ったコーヒーのカップと、書き殴られた電子メモが散乱している。
「……信じられん。これほどの技術を、奴らは己の利権のために眠らせていたというのか」
テム・レイは、乾いた声で呟いた。
彼の細い指が、ジオン軍のザクの駆動データを画面に引き出す。
「ミノフスキー・イヨネスコ型炉の出力を応用すれば、戦艦の主砲をモビルスーツのサイズに縮小できる可能性がある。そして、このAMBAC(アンバック)による姿勢制御……。
これは兵器の概念そのもののパラダイムシフトだ。
地球の重力に縛られた官僚どもや、目先のクレジットに目が眩んだ資本家どもには、この美しさが理解できなかったらしい」
背後の自動扉が開き、ゴップ将軍が入ってきた。
「テム・レイ大尉。
民間から接収したデータの解析状況はどうか」
テムは振り返りもせず、画面を指差した。
「将軍、これらはすべて本物です。
ジオンがルウムで見せた悪魔のような強さの秘密が、この中にすべて詰まっている。
……いや、それ以上だ。
企業が隠していたデータの中には、ジオンすらまだ実用化していない『メガ粒子砲の小型化』のヒントがある」
ゴップ将軍は頷き、テムの肩に重々しく手を置いた。
「素晴らしい。大尉、本日をもって君を、これらすべての接収資料を解読し、我が軍独自の兵器として実用化する『軍直轄開発プロジェクト』の最高責任者に任命する。
民間は二度と挟まん。
予算も資材も、我が軍の特権をもって無限に提供する。
ジオンのモビルスーツを凌駕する、連邦の絶対的な兵器を造り上げろ」
「了解しました、閣下」
テム・レイの口元が、歪な歓喜で吊り上がった。
「プロジェクトの名は……『V作戦』。ジオンのザクどもを根絶やしにする、我々の勝利(Victory)の計画です」
科学者としての狂気と、だまされた軍部の凄まじい復讐心が結びついた瞬間だった。
このジャブローの地下深くで、のちに宇宙世紀の歴史を文字通り変えることになる「白い悪魔(ガンダム)」の胎動が、静かに、しかし確実に始まったのである。
3
宇宙世紀0079年2月。
「V作戦」の最高責任者となったテム・レイ大尉は、理論を頭の中でこねくり回すだけの段階を終え、実際の「実験台」を必要としていた。
どれほど優れた設計図があっても、実環境でのデータがなければ、それはかつてのハービック社のペーパープランと同じゴミになるからだ。
しかし、V作戦は軍の最重要機密であり、表立って最新のドックや資材を使用することはできない。
そこでテムが目をつけたのは、ジャブローの地下奥深く、忘れ去られた第17未完成ドックに極秘搬入された、一隻の「死に損ない」だった。
サラミス級巡洋艦「ルサール」。
ルウム戦役でザクの猛攻を浴び、船体の4割を損壊しながらも、奇跡的にルナツーへと逃げ帰ってきた大破艦である。
破損状況から当時の状況を調べるためジャブローに運び込まれていた。
装甲は焼け焦げて剥がれ、内部の配線は内臓のように飛び出していた。
誰もがスクラップにするしかないと諦めていたその廃船こそが、テム・レイにとっては最高のおもちゃ(実験台)だった。
「これより、本艦の大改装を開始する」
テム・レイは、ジャブローの現場に集められた整備兵たちに容赦ない命令を下した。
サラミス級の本来の特徴は、そのスリムでスマートな船体にある。しかし、テムが命じた改造は、その美しさを徹底的に破壊するものだった。
企業の研究所から強奪してきた、本来ならサラミスの規格には到底収まらない巨大な「ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉」を、船体の中心部に無理やり押し込む。
当然、既存のフレームでは幅が足りないため、船体の側面を強引に押し広げ、冷却パイプをのたうち回る蛇のように配置した。
さらに、艦尾には、のちのペガサス級強襲揚揚陸艦に搭載される予定の、超巨大な試作熱核スラスターが、まるで腫瘍のようにアンバランスにツギハギされた。
「こんなフネ、ドックから出た瞬間に自重で真っ二つに折れますよ!」
整備兵たちが悲鳴を上げる中、そのドックのタラップを、一本の電子データパッドを抱えて歩いてくる若き士官がいた。
ムバラク・スターン中尉。
まだ25歳の、実直だけが取り柄の叩き上げの軍人である。
彼はルウム戦役でルサールの副長として地獄を見て、奇跡的に生き残った。しかし、生存者が少なすぎたがゆえに、彼は「最もこの艦の特性を知る者」として、この実験艦の艦長に任命されてしまったのだ。
「君がムバラク艦長か」
テム・レイが、油まみれの軍服のまま、血走った目でムバラクを見下ろした。
「は、本日付けで着任いたしました、ムバラク・スターン中尉です。……大尉、これは一体どういうことですか?」
ムバラクは、かつて自分が乗っていた美しいサラミスが、まるでフランケンシュタインの怪物のように醜く改造されている光景を見て、絶句した。
船体のあちこちには、ジャブローの兵器廠からかき集められた工作用溶鉱炉や、最新型の金属3Dプリンターがこれでもかと増設され、24時間体制で不気味な重低音を響かせて火花を散らしている。
「フネの形などどうでもいい、艦長。この艦の名は『ユーバリ』。登録番号SCV-69だ。我々が接収したデータの『バグ出し』を行うための、動く実験室だ」
「実験室だと……?」
ムバラクは周囲を見渡した。
艦内には、テム・レイが連れてきた目を血走らせた研究員たちが文字通り群がり、深夜も休まずに3Dプリンターで試作パーツを出力しては、ユーバリの船体に直接ボルトで打ち付けている。
「おい! そこ、回路の接触不良(バグ)だ! 火を噴く前にプリンターで新しい基盤を刷れ!」
「炉の出力が安定しない! 冷却液の圧力を仕様書の3倍に上げろ!」
狂気とも言える熱量の中で、ムバラクは頭を抱え、ジャブローの地下ドックに響き渡る声で叫んだ。
「ふざけるな! 俺のフネをどうするつもりだーーーっ!!」
しかし、その悲鳴などお構いなしに、テム・レイの狂気的な実験の日々は幕を開けた。
中身は超最新鋭の熱核反応炉、外見はツギハギだらけのボロ隠し。連邦軍の怒りと科学者の執念が産み落とした、世界で最も歪な実験艦「ユーバリ」が、いま、歴史の闇の中で産声をあげたのである。
(第1章・完。第2章へ続く)