ミノフスキー粒子技術検証実験艦「ユーバリ」の記録 作:AIちゃんってすごい
第2章:地球各地でのテストと「E-CAP」の発明
1宇宙世紀0079年3月。
南米ジャブローの広大な地下空洞にある「無人テストエリア」に、聞いたこともない不気味な咆哮が鳴り響いた。
重水素とヘリウム3を臨界点まで追い込み、軍の特権をもって強引に製造された「ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉」が、初めてその真の火を灯したのだ。
全長228.0メートル、全幅88.0メートル。
かつて細身でスマートだったサラミス級巡洋艦「ルサール」の面影は、そこにはなかった。
左右の艦橋を大胆に削り落とし、そこに埋め込まれたのは巨大な円盾状の格納式ビーム砲。
さらに艦尾には、のちのペガサス級に搭載される予定の熱核ジェット/ロケット両用大型スラスターが2基、まるで不格好な巨大な腫瘍のようにボルト留めされている。
その名は、ミノフスキー粒子技術検証実験艦「ユーバリ」。型式番号、SCV-69。
「炉の出力安定! ミノフスキークラフト、外付けデバイス起動! ユーバリ、上昇します!」
ブリッジのオペレーターの悲鳴に近い報告と同時に、ユーバリの巨体がジャブローの地下船渠を離れ、ゆっくりと浮上を開始した。
しかし、その瞬間、艦内には凄死(すさまじ)い金属疲労の悲鳴が響き渡った。
「ギギギギギギギギッ!」
という、フレームが引き裂かれるような悍ましい音が、隔壁を通じて乗組員たちの鼓膜を震わせる。
「おい、テム・レイ大尉! 船体が歪んでいるぞ! 計測値がレッドゾーンだ!」
艦長席でシートベルトを限界まで締め付けたムバラク・スターン中尉(現・大尉待遇)が、怒鳴り散らした。
まだ25歳の若き苦労人の顔は、恐怖と疲労で完全に引きつっている。
「気にするな、ムバラク艦長! 構造材の歪みなど誤差の範囲だ!」
ブリッジの片隅に設置された特設モニターの前で、テム・レイ大尉は血走った目を輝かせてキーボードを叩いていた。「サラミス級の細い骨組み(フレーム)に、大気圏内で巨艦を浮行させる『ミノフスキークラフト』の荷重負担が大きすぎるのは分かっていたことだ!
歪んだら歪んだ箇所を、艦内の3Dプリンターで補強すればいい!」
「正気か!? このフネは空中分解するぞ!」
ムバラクの悲鳴のような叫びを置き去りに、ユーバリはジャブローの天井ハッチを通り抜け、地球の大気圏内へと這い出していった。
地上に出たユーバリを待っていたのは、過酷な「現実」という名の絶望だった。
地球各地の危険宙域、砂漠、山岳地帯での環境テストが始まるとすぐに、接収した企業の仕様書(ペーパープラン)が、どれほど机上の空論であったかが証明されたのだ。
「前方にジオン軍の陸上戦艦を確認! 試作型メガ粒子砲、砲撃用意!」
ムバラクが命じたその瞬間、艦内の全照明が激しく明滅し、ブリッジのメインコンソールに「ERROR:LOW POWER」の文字が冷酷に点滅した。
「だ、駄目です! メガ粒子砲、チャージできません! 炉のエネルギーが足りない!」
「バカな! 新型炉の出力はこれまでのサラミスの数倍はあるはずだぞ!」
「理由なら分かっている!」
テム・レイが髪を掻き毟りながら、データを画面に叩きつけた。
「この地球の大気圏内という重力下では……ミノフスキークラフトを維持し、この200メートル超の巨体を浮かせ続けるだけで、新型炉の生み出す熱量のほぼ100%を占有されている!
つまり、大気圏内を飛んでいるユーバリは、エネルギーの全てを『浮くこと』だけに使い果たし、自慢のメガ粒子砲を撃つ電力が1クレジットも残らないんだ!」
それは、あまりにも致命的な欠陥だった。
飛べば撃てず、撃てば落ちる。
企業から力ずくで強奪した最先端の技術は、地球の重力という現実の前で、一瞬にして機能不全に陥ったのである。
2「ビームが撃てない戦艦など、ただの巨大な標的だ。
……いいだろう、だったらこれでも喰らえ!」
悔しさに歯噛みしたテム・レイとムバラクが、苦肉の策としてユーバリの艦首主砲基部に据え付けたのは、宇宙世紀の兵器史から逆行するかのような、時代錯誤な巨砲だった。「51cm連装実弾砲」
大気圏内での電力不足への対策として強引に搭載されたこの原始的な鉄の塊は、電力を一切消費せず、純粋な火薬の爆発力だけで巨大な質量弾を敵に叩きつける。
のちにペガサス級(ホワイトベース)に搭載される主砲の、これがその雛形であった。
大気圏内ではビームが撃てない。
その絶望的な現実のなか、ユーバリの艦内は、文字通り「動く町工場」と化していた。
かつての居住区やミサイル格納区画は完全に潰され、「艦内密閉型移動工作実験室」へと大改造されていた。
そこには軍が接収した最新の工作機械や、熱核反応炉の凄まじい余剰熱をダイレクトに引き込む試作溶鉱炉、および大型の金属3Dプリンターがギチギチに詰め込まれている。
さらに、本艦の歪さを象徴する区画がもう一つあった。
サラミス級の艦側面に本来並んでいるはずのミサイルポッド群。
開戦前の欺瞞と開戦直後の致命的な弾薬不足によって「完全に空っぽ」のデッドスペースと化していたその巨大なコンテナ区画を、テム・レイは内壁ごと強引に切り開き、「MS用簡易冷却・整備ベッド」へと大改造していた。
「おい、そこ! ガリガリ異音がしているぞ! 駆動シリンダーのクリアランスを修正しろ!」
工作エリアから油の匂いとともに怒鳴り声を上げていたのは、連邦軍極東支部からテム・レイ博士の熱烈な引き抜きによってユーバリへと配備された若い女性技術士官、クリスチーナ・マッケンジー少尉である。
まだ21歳の彼女は、本来なら新型兵器のデータ解析というエリートコースを歩むはずだったが、気づけばこの「動く町工場」で、毎日油と煤にまみれて溶接銃を握らされていた。
そして、その彼女が管理する狭苦しい艦側面の整備ベッドに、不格好な「鉄の巨人」がクランプで固定されていた。
ジオン軍のザクの鹵獲パーツと、連邦軍の戦闘航空機(セイバーフィッシュ)の電子機器を強引にパッチワークして造り上げられた、連邦軍初の試作モビルスーツ――「ザニー(RR-44)」である。
「クリス君、手を休めるな!」
テム・レイ大尉が、溶鉱炉の熱気で顔を赤くしながら怒鳴る。
「ザニーの駆動データこそが、我が『V作戦』の基盤となる!
砂が詰まるなら、ノズルの形状をその場で3Dプリンターで刷り直せばいい!
ほら、E-CAPのプロトタイプの電荷制御データもチェックするんだ!」
「博士、無茶を言わないでください!
私はテストパイロット候補として呼ばれたはずです!
なぜ溶鉱炉の熱量計算からザニーの関節軸のバリ取りまで、私が全部やらなきゃいけないんですか!」
クリスが文句を言いながらも、手際よくデータパッドを操作してバグを弾き出していく。
彼女の正確な実務能力がなければ、テムの狂気的な開発スピードにユーバリのハードウェアがついていけなかったのは確実だった。
「テム・レイ大尉! クリス少尉!」
ブリッジから通信回線を通じて、ムバラク艦長が叫んだ。「毎日毎日、金属3Dプリンターが振動するたびに船体の姿勢制御システムが狂うんだ!
艦内は常に鉄の焼ける匂いと火花で満ちているし、居住区まで熱気が漏れているぞ!
頼むから、俺のフネをこれ以上町工場にするな!」
「贅沢を言うな、艦長! 世紀の大発明というのは、常にこういう泥臭い現場から生まれるものだ!」
テム・レイは、明滅するラボの片隅で、プロッターの画面を睨みつけながら叫び返した。
彼の目は寝不足で血走り、異様な興奮に満ちていた。
テムの脳内では、大気圏内での「電力不足」という絶望を覆すための、ある恐るべき逆転の発想が形を結びつつあった。「……飛んでいる時にエネルギーが足りないのなら、なぜ足りないかを考えればいい。
単純な話だ。同時に使うから足りない。
ならば、戦闘が始まる前――例えば、ドックにいる時や、平穏に巡航している時の『電力が余っている時間』に、熱核反応炉のエネルギーを使って、ミノフスキー粒子を限界まで圧縮(縮退寸前)し、特殊な磁場を持つ『カプセル』の中に最初から閉じ込めて持ち歩けばいい。
使う時は、そのカプセルを銃や砲にカチリと装填し、一気に解放するだけでいいんだ……!」
テムは狂ったように設計図を書き換えていった。
エネルギーをその場で製造するのではなく、「事前に貯蔵されたエネルギーを消費する」という概念。
これこそが、のちにRX-78ガンダムが携帯し、戦艦並みの火力をモビルスーツのサイズに凝縮することになる歴史的大発明、「E-CAP(エネルギー・キャパシタ)」のプロトタイプが誕生した瞬間であった。
ユーバリが大気圏内で電力不足という泥水を飲んだからこそ、この苦肉の策から、宇宙世紀の戦争の形を根底から変える技術が産み落とされたのだ。
3「できたぞ、ムバラク艦長! E-CAPの理論を応用した、新しい玩具だ!」
宇宙世紀0079年4月。
ユーバリの工作実験室で、3Dプリンターが激しい駆動音を立てて、一発の巨大な砲弾を吐き出した。
外見は51cm実弾砲の砲弾そのものだが、その内部には、テム・レイが開発した試作型E-CAPがギチギチに凝縮され、限界まで縮退されたミノフスキー粒子が不気味なエネルギーの光を放って閉じ込められていた。
技術名、「E-CAP充填式メガ粒子榴弾」
通常の実弾砲から放たれ、着弾した瞬間に内部のE-CAPの磁場制御を逆に「強制解放(ショート)」させる。
すると、閉じ込められていた圧縮粒子が一瞬で正負のメガ粒子へと融合・変換され、周囲の空間を光の津波で飲み込むという、別アプローチからの超小型戦略兵器である。
「これを、ジャブローの地下にある無人テストエリア(岩盤演習場)で試射する」
ムバラクは固唾を呑んで、ユーバリの艦首51cm連装実弾砲の照準を、数キロ先にある巨大な地下岩盤へと合わせた。「51cm砲、メガ粒子榴弾、装填……てーっ!」
凄まじい質量反動がユーバリの船体を揺らし、砲弾が射出された。
数秒後。
着弾の瞬間、メインスクリーンは純白の、強烈な「光」によって完全に埋め尽くされた。
「……な、何だこれは!?」
オペレーターが悲鳴を上げ、目を覆った。
クリスもあまりの光量に息を呑む。
爆発の衝撃波ではない。
それは、ルウムの戦場でサラミスをドロドロに溶かした、あのジオンのメガ粒子ビームそのものの光だった。
光の津波が収まった後、モニターに映し出されたのは、数秒前までそこにあったはずの、厚さ数百メートルの強固な岩盤が、一瞬にしてドロドロのマグマ地獄へと融解し、巨大な赤黒いクレーターと化している絶望的な光景だった。
「直径数百メートルに及ぶ完全融解ゾーンを形成……。
直撃した物質は、分子レベルで熱分解されています……」
オペレーターの声が震える。51cm砲というアナログな兵器から放たれた一発の砲弾が、戦艦数隻を一瞬で消滅させるだけの、悪魔の火力を生み出したのだ。
その凄まじい威力を目の当たりにした瞬間、ブリッジに重苦しい沈黙が流れた。
誰もが息を呑む中、艦長席に座るムバラク・スターンの肩が、激しく震え始めた。
彼の目から、大粒の涙がボロボロと溢れ、煤まみれの頬を伝って流れ落ちていく。
「……艦長?」
クリスが怪訝そうに覗き込む。
「大尉……これが、これがあと半年、いや、あと3ヶ月早く完成していれば……っ!!」
ムバラクは声を詰まらせ、拳でコンソールを激しく叩きつけた。
彼の脳裏に、1月のあの忌まわしい記憶が蘇っていた。
ジオン軍がブリディッシュコロニーを地球へと叩き落とした、あのブリッシュ作戦の光景が。
「もし、この『メガ粒子榴弾』が1月の時点で実用化されていれば、我々はわざわざジオンのモビルスーツが待つ近接戦闘に飛び込む必要すらなかった!
遥か遠方の宇宙から、この51cm砲でコロニーの推進剤タンクやシールドを正確に撃ち抜き、安全に宇宙空間で粉砕できていたはずだ!
そうすれば……地球の数億の命も、ルウムで死んだロバートたちも、誰も死なさずに済んだんだ!!」
ムバラクは声を上げて号泣した。
技術の進化は、いつも流された血の量よりも一歩遅れてやってくる。
目の前にある圧倒的な破壊の光は、同時に、間に合わなかった過去の命の重さを突きつける、あまりにも残酷な「歴史の悲劇」そのものだった。
テム・レイは何も言わず、ただ静かに眼鏡の位置を直した。クリスもまた、ベッドに眠る不格好なザニーを見つめながら、これから自分たちが造り出そうとしている「兵器」の持つ恐ろしさに、静かに唇を噛みしめていた。(第2章・完)