ミノフスキー粒子技術検証実験艦「ユーバリ」の記録 作:AIちゃんってすごい
第3章:ジオン包囲網と「歪なる光の翼」
1宇宙世紀0079年5月。
連邦軍の反撃計画「V作戦」の動く実験室であるユーバリは、過酷な環境テストの舞台を北米の乾燥地帯へと移していた。大気圏内での飛行テストは、常に砂塵との戦いだった。
艦底外付け式の「ミノフスキークラフト」が巻き上げる強烈な砂嵐は、ユーバリの繊細な電子回路を容赦なく蝕み、ただでさえバグだらけのシステムに追い打ちをかける。
「もう限界だ! 3番冷却パイプが砂詰まりを起こして、炉の温度がまた上昇している!」
側面の「MS用整備ベッド」では、防塵マスクをかぶったクリスチーナ・マッケンジー少尉が、ザニーの開いた胸部装甲に手を突っ込んで叫んでいた。
「ただでさえザニーの冷却システムはジオン製のポンコツなんです!
この砂漠でテストなんて無茶です、博士!」
「クリス君、手を休めるな!」
工作実験室の奥で、さらに目を血走らせたテム・レイ大尉が、3Dプリンターのコンソールを叩きながら怒鳴る。
「砂が詰まるなら、冷却ファンの形状をその場で刷り直せばいい!
ザニーを動かして、重力下での関節負荷データを早く取るんだ!」
しかし、そんな天才たちの泥臭い日常を、戦場の現実が切り裂いた。
「艦長! 警告音です! 完全に待ち伏せされました!」
ブリッジのオペレーターが悲鳴を上げた。
ユーバリの光学センサーが捉えたのは、周囲の渓谷や砂丘の影から続々と姿を現す、ジオン地上軍のモビルスーツ部隊だった。
「陸戦型ザク、およびグフ、計12機! さらに後方からダブデ級陸戦艇が2隻接近!
我々は……完全に包囲されています!」
ムバラク・スターン艦長の顔が険しくなる。
「チッ、テスト飛行のルートが漏れていたか!
51cm連装実弾砲、砲撃用意! メガ粒子榴弾を装填しろ!」
「だ、駄目です、艦長!」
クリスが内線回線に割り込んできた。
「さっきの砂詰まりのせいで、51cm砲の給弾ベルトがロックされています!
使える残弾はゼロです!」
「何だと!? 左右の試作メガ粒子砲(円盾砲)は使えるか!?」
「大気圏内でのミノフスキークラフトに電力を食われすぎて、ビームの出力は理論値の15%以下です!
ザクの装甲すら抜けません!」
絶体絶命だった。
51cm砲の牙を失い、ビームも撃てないツギハギの実験艦は、ジオンの地上大部隊の前に、ただの巨大な肉塊として晒されていた。
ダブデ級から放たれた大型実弾砲が、ユーバリの艦底を激しく叩き、ミノフスキークラフトのデバイスが火花を散らした。
船体が激しく傾く。
「ベッドのクランプが外れます!
ザニーが滑り落ちる!」
クリスが悲鳴を上げる。
「ここまでか……」
ムバラクが歯を食いしばった。
2「諦めるのは早いな、ムバラク艦長。
……クリス君、ユーバリの全エネルギー回路を書き換える」
明滅するブリッジのハッチを開けて飛び込んできたのは、テム・レイだった。
彼の眼鏡は割れ、顔は油で汚れていたが、その瞳には狂気とも言える「閃き」の光が宿っていた。
「回路の書き換えって、博士、何を考えているんでか!?」
クリスがスピーカー越しに叫ぶ。
「左右の円盾型・試作メガ粒子砲を、180度回転させて、真後ろに向けろ。
砲口の集束リングのロックを解除。
最低集束――いや、集束率ゼロ、全解放モードだ!」
「真後ろにビームを撃つんですか!?
敵は前方にいるんですよ!」
ムバラクが唖然とする。
「敵を撃つのではない! 推進するんだ!」
テム・レイは、メインコンソールへと飛びつき、驚くべき理論コードを艦内全域のシステムへ流し込んだ。
「大気圏内を浮くために、このフネの炉は限界まで高熱を発している。
ならば、その熱量とエネルギーのすべてを、指向性を持たせないまま、真後ろへ一気にブチまける!
収束しないメガ粒子の『光圧』だけで、このフネごと前に押し出すんだ!」
「そんなの理論上だけで、一度もテストしていません!」
クリスが青ざめる。
「熱量の逆流(バックファイア)が起きたら、炉が暴走してユーバリは一瞬で消滅します!
ベッドのザニーごと塵になります!」
「やってみなければ分からん!
爆発して死ぬか、ザクになぶり殺されるか、好きな方を選べ!」
テム・レイは笑った。
それは、後世の技術者たちが数十年をかけて辿り着くことになる究極の推進機関――「ミノフスキー・ドライブ(光の翼)」の、あまりにも荒削りで、あまりにも危険な、歴史上最初のプロトタイプが発動する瞬間だった。
「もうどうにでもなれ!
クリス、整備ベッドから避難しろ!
全解放のトリガーを回すぞ!」
ムバラクの自暴自棄な叫びとともに、メインレバーが押し下げられた。
「メガ粒子砲、全解放(フルオープン)!!」
3ドゴォォォォォォンッ!!!
それは、従来のロケットエンジンの爆音とは明らかに異なる、空間そのものが引き裂かれるような、悍ましい「光の咆哮」だった。
ユーバリの両舷にある円盾型砲塔から、収束しない極大のメガ粒子の濁流が、巨大な「光の翼」となって真後ろへと噴出された。
その凄まじい光圧の反動が、228メートルの巨体を襲う。「な、なんだあの連邦のフネは……!? 背中から光の化け物のような翼が――」
包囲していたジオン軍のグフのパイロットが、通信回線に遺した言葉はそれが最後だった。
ズバァァァンッ!!爆発的な超加速。
大気圏内の航空力学を完全に超越した狂気の推力がユーバリを包んだ。
指向性のないメガ粒子の津波は、ユーバリの正面に展開していたジオンのザクやグフ、さらには巨大なダブデ級陸戦艇をも、その光の余波だけでドロドロに融解させながら、文字通り一瞬で抜き去った。
「ギャリリリリリッ!!」艦内全域から、フレームが限界を迎えた悲鳴が上がる。
3Dプリンターで作られた補強材が、次々とボルトごと吹き飛んでいく。
「加速度、計測不能!
15Gを突破!
船体が……船体が持ちません!」
クリスは強烈な重力(G)で通路の壁に叩きつけられ、指一本動かせないなか、必死で計器を睨みつけた。
視界がブラックアウトしかける。
整備ベッドのザニーも、凄まじいGでフレームを軋ませていた。
「あ、上がっていく……!? 博士、この進路は……!」
ムバラクが血を吐きそうになりながらメインスクリーンを見た。
猛烈な超加速に達したユーバリは、制御を失った弾丸のように、北米の砂漠から一気にもぎ取られ、青い空を突き抜けていた。
大気圏の摩擦熱が船体を赤く染めるが、そんなものを気にする余裕はどこにもない。
通常、戦艦が大気圏を離脱するには、巨大なブースターや、大気圏脱出用の専用カプセルが必要不可欠である。
しかし、ユーバリはツギハギの船体のまま、テム・レイの暴挙によって生み出された「光の翼」の力だけで、地球の重力を力ずくで振り切ったのだ。
「あ……空が、黒く……」
クリスが、息も絶え絶えに呟いた。
窓の外には、一瞬前までの砂漠の風景はなく、どこまでも深い、星々の輝く漆黒の宇宙が広がっていた。
大気圏カプセルもなしに、自力で大気圏を突破し、ルナツー宙域までカッ飛んでいってしまったのだ。
「ははは! 見ろ、クリス君! ムバラク艦長! 動いたぞ! ミノフスキー粒子の力は、重力をも置き去りにするんだ!」
強烈なGから解放され、無重力空間に浮かび上がったテム・レイが、割れた眼鏡を直しながら高笑いした。
その傍らで、クリスは緑色のエチケット袋を握りしめ、ムバラク艦長はコンソールに頭をぶつけたまま、白目を剥いて失神しかけていた。
そして艦側面の簡易ベッドでは、傷だらけのザニーが、まるで主たちとともに地獄の底から生還したかのように、宇宙の光を浴びて静かに佇んでいた。