谷口の地獄の特訓のおかげで墨谷二中は徐々に徐々にであるが力をつけてきた
三、四回戦を突破したころには3分の1の距離ならみんな捕れるようになった
そこで谷口は距離を更に短く。通常の半分でノックとフリーバッティングをさせた
半分ではみんなまだまだ捕れないが確実に成長してきている
その中でも隆志が一番の成長株である
センター浅間のケガがまだ完全に治っていないこともあるが
二番センターで定着しつつある
下の方だった打率もいまや三番目に高い
一番は谷口の5割5分
二番は五十嵐の4割7分2厘
隆志は3割5分である
そして、隆志は昨日の試合ではサヨナラタイムリーツーベースでベスト16位入りを決めた
今日の試合で勝てばベスト8入りである
相手は中堅校白神中である
特に目立った選手はいないがミスの少ないチームである
一回の裏
墨谷の新一番に起用された島田がセンター前ヒットで出塁した
二番の隆志が右打席に入る
「(よし。大きいのを打って島田さんを返すぞ)」
ピッチャーが投げる
「(もらった)」
ギンッ
打球はショートへの併殺打
そして三回裏
隆志の二打席目
ワンアウトで三塁に遠藤、一塁に島田
「(よし。チャンスだ)」
隆志は右打席に入る
ピッチャーが投げる
「(よし)」
ギンッ
今度はピッチャーへの併殺打
五回裏三打席目 ノーアウトランナーなし
今度は左打席に入る
「(左なら)」
ピッチャーが投げる
「(よし。ジャストミート)」
カキーン
快音だがただのショートライナー
「ドンマイ」
「誰だって調子がでないときだってあるさ」
「はい。すみません」
みんながフォローを入れるが反応がイマイチ
そして7回ツーアウト、二塁ランナー島田
隆志はふるえていた。
隆志は前の世界での高校のクラスマッチの三年間のソフトボール大会を思い出していたのだ
三年間自分だけがヒットを打てなかった
バットを握ったことのない初心者でさえ打てたのに
経験者がいなかったため、隆志と友人が仕切っていた
試合が終わるたびに隆志の前では言わないが
「アイツが仕切って一番練習してるのに全然だめじゃん」
聞いてしまった時にはショックを受けた
「お前全然だめじゃん」
終いには直接言われてしまった
隆志にとって最も最悪な思い出がフラッシュバックしてきているのだ
「ストライク。バッターアウト」
結果は三球三振三スイングして三空振りだった
「ちくしょー」
隆志が思いっきりバットを叩きつける
そして、地面を三回蹴った
「隆志!!いい加減にしろ」
バキッ
谷口が隆志を殴った
「なんだその態度は!!バットはそんなことをするためにあるんじゃない。お前はベンチに下がれ浅間、交代だ」
結局終わってみれば6対0で墨谷二中の圧勝だった
松下の力投と墨谷ナインの気迫のこもった守備の前ではもはや中堅校では相手にならなかった
「全員。今日は解散。ミーティングはなしだ隆志はちょっと残れ」
「はい」
「お疲れ様でした」
全員が帰ったのを見計らって谷口が話出す
「隆志、殴って悪かったな。大丈夫か?」
「いえ。僕の方こそ取り乱してすみませんでした。」
「大丈夫。隆志なら素直に反省するって分ってるから。でもオレはキャプテンとしてみんなに厳しくなければならない。だから、すまないとは思ったけど手を出した」
「気にしてません。むしろ殴られて当然ですよ」
「なぁ隆志、オレはお前や五十嵐には感謝しているんだ。お前たち一年が積極的に練習に参加てしてくれてるおかげで二、三年も負けるかってついてきてくれるし、練習の質が上がってる。オレは将来お前たち二人が墨谷二中を背負って立つ人間だと思ってるんだ。だから、今、失敗したっていいんだ。それが将来
につながるんだから。何度だって失敗していい。何度でも挑戦しろ。迷った時や困った時、つらい時はいつでもオレに相談して来い」
「キャプテン。ありがとうございます。」
隆志は泣いていた
「ああ。また明日な」
「隆志」
「五十嵐、帰ってなかったの?」
「ああ。お前が何であんなに取り乱したかは分らないけど、あんまりため込むなよ。辛いときはオレには話せよな。いつでも聞くから。じゃあな」
隆志は素晴らしいメンバーに巡り合えたことに心から感謝した
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次の練習日
「おお。バットにボール、グラウンドがきれいに整理されている」
気がつくと隆志がいた。どうやら、一人でやったみたいだ
「皆さんおはようございます。昨日はすみませんでした」
「いいって」
「きにするなよ」
「そうだぜ」
誰も隆志を責めるやつはいなかった
「よし。練習を始めるぞ」
半分の位置からのノックで今日もみんなぼろぼろのケガだらけだった
「よし。今日の練習はここまで。みんな捕れるようになるまで続けような。また、明日」
谷口が帰っていった
「ああ。いいよな。キャプテンは」
「そうだな。ただノックだけしてればいいんだからさ」
「オレなんて五本とも突き指だぜ」
「オレも」
「オレは三本」
「みんな、キャプテンに抗議しようぜ」
「ああ」
「賛成」
「好きだね抗議が」
五十嵐が嫌味を言う
「なんだと」
西田がキレる
「ほっとけ、行くぞ」
松下が西田を止める
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谷口の家の前につく
「「こんばんは」」
谷口の母がでてきた
「こんばんは。野球部の者なんですがキャプテンはいますか?」
小山が代表で尋ねる
「タカオならそこの神社にいるよ」
「ありがとうございます」
「何で神社何だろう?」
「青葉に勝てますようになんて願をかけに行ったんじゃないか」
みんなで神社に行ってみる
何やら音が聞こえる
谷口が練習していたのだ
「いくぞ、タカ」
「こい父ちゃん」
谷口父がマシンのスイッチを押す
キンッ
ドカッ
谷口が倒れる
「見ろよあれ。オレたちの距離よりももっと近いぞ」
「大丈夫か?タカ」
「大丈夫だ父ちゃん。オレみたいに才能も何もないやつはこうするしかないんだ。それにキャプテンとしてみんなだけ辛い思いをさせるわけにはいかないんだ。さあこい父ちゃん」
「分かった」
キンッ
ドカッ
キンッ
ドカッ
キンッ
ドカッ
キンッ
ドカッ
「キャプテンはオレたちの練習におわれてこんなところで一人で練習してたのか」
「オレ、家までランニングして帰るよ」
「オレも」
「オレも」
みんな次々にランニングして帰った
「ちくしょう。こんなもん」
丸井が持っていた退部届けを破り捨て走り去って行った
「これなんだなぁ。キャプテンがみんなを引っ張っていく力は」
「(キャプテン。オレだって才能も何にもないのに。少しヒットが打てたからって調子に乗ってた。何自分を勘違いしてたんだ。忘れちゃだめだったんだ『初心の気持ちを』)五十嵐オレを殴ってくれ」
「どうやら、フッ切れたみたいだな。いくぜ」
バキッ
「今度はオレを殴れ」
「分かった」
バキッ
「今から一緒に練習しないか?」
「いいね隆志。そうこなくちゃ」
そして墨谷二中は勢いに乗り準々決勝を勝ち準決勝まで駒を進めたのだった