□0プロローグ
全ての終わりと始まりの日に
円環の理は解ける
私たちの祈りが
あの子たちを運命から救い
彼女らは永遠の夢を見る
トーラスが螺旋に展開され
永き廻天は幕引きとなる
◆第一章 鹿目まどかの記憶
□1夢の記憶
あれ……。夢?
その夢は記憶に残らなかった。ただ。とても大切な夢のように思った。でも、思い出せない。
朝起きると、いつもの日常。
「最近どうよ」
歯磨きをしていると隣でママが聞いてくる。
「またひとみちゃんがね、ラブレター貰ったの。今月で二通目だよ」
いつもの一幕。いつもの朝。
「直接告らなきゃ男はダメだ」
「あはは」
私がリボンの色で悩んでいると、ママは赤を選んだ。
「少し派手だよ」
「いいのさ。女は見た目で舐められたらダメなんだ。それに、まどかの隠れファンが喜ぶぞ」
「いないってばー」
そんないつもの朝。だから、私はいつも通り学校に行く。
「今日は転入生がいるんだっけ?」
ママが聞いてくる。
「うん。しかも二人。噂では双子なんだってー! 女の子かなぁ〜。仲良くなれるかな」
「ま、頑張りな」
□2廻天の始まり
登校途中のいつもの道で私はさやかちゃんとひとみちゃんと合流する。
「まどか、そのリボン……色めき立っちゃって!」
「あはは、恥ずかしいよ……」
「私の嫁になれ!」
そんないつもの登校。だから、私はいつも通り友達と話す。
そんな日常が廻天する。
「あぁ、マルグリート! やっと会えましたわ!」
その時、突然私は誰かに後ろから抱きつかれた。えっ!?
慌てて振り返ると、そこに居たのは黒髪ロングストレートの美少女だった。どこか見覚えのある顔。どこかであったような……?
「マルグリート。私は貴方をお慕いしているのです」
「マルグリート……?」
「えぇ、私の贖い主! 私は貴方を円環の理から救いに来たのです! かつて貴方が私を救ってくれたように!」
円環の理? なんのことだろう。それに救った? 私が?
「あんたまどかの友達? 見ない顔だね。まどか……この子知り合い?」
「いいや、知らない子だけど……」
私が困惑していると、私をマルグリートと呼ぶその謎の美少女はこう告げた。
「ひとつ進言いたします。暁美ほむらの言葉を信じないで」
「暁美ほむら……?」
さやかちゃんが呟く。
「誰ですか……?」
ひとみちゃんが疑問を口にする。でも、私はその名前がどこか懐かしく感じた。
「私の双子の妹みたいなものですわ」
みたいな? 私はその言い回しに少し疑問に思った。
「えっ、双子?」
「ええ。私とほむらは今日この学校に転入することになっているの」
「えっ、じゃああんたが例の転校生?」
「そうですわ。美樹さやか」
「あんた、なんで私の名前を……?」
「それもそのはず。私たちは……おっとここから先は言えません。今はね。では、また。愛しのマルグリート!」
と言って、その美少女は去っていってしまった。
「あれ何もんだ?」
「不思議な人でしたねぇ」
「ひとみー。もっと警戒しなさいよ」
私は二人の会話を聞きながらも、どこか違和感を覚えていた。あの人は私のことを知っている? でも、顔は見覚えがあるけど、話し方は記憶と違うような気がする。
「やべぇ、遅刻するわよ!」
「そうですわ!」
「待ってぇ!」
□3破局
「なので、AIが人類をあと数年で滅ぼしちゃうって話なんです。でもね、先生思うんです。このまま世界終わってもいいかもなーってー。ですから、男子生徒諸君はくれぐれも、卵の焼き加減にケチをつけないこと! わかりましたね!」
「はい……。だめだったんだね」
私はさやかちゃんに小声で言う。
「だめだったんだねー」
さやかちゃんも苦笑いだ。
□4転入生
「それから! 今日はこのクラスに転入生がいます」
「そっちが後かよ!」
さやかちゃんがツッコミを入れる。
クラスに入ってきたのは今朝あった謎の美少女に瓜二つの、でも雰囲気の違う女の子だった。
「暁美ほむら。よろしく」
「えっと……ほむらさん。 席は……後ろの窓側で」
その時私は何故か暁美さんに凄く見つめられた。なんで?
□5暁美ほむら
「鹿目まどかさん。あなたがこのクラスの保健委員よね」
「うん、そうだけど……」
「私、心臓が悪いの。保健室に案内して欲しいのだけれど」
「分かった。ついてきて」
私は暁美ほむらちゃんを保健室に案内する。本当に今朝の女の子と瓜二つ。
「鹿目まどかさん」
「どうしたの?」
「あなたは自分を大切にしてる?」
「してるよ」
「家族を、友人を大切にしてる?」
「うん……」
「そう。ならひとつ。私と一緒に転入してきた女の子には気をつけて。彼女はあなたを壊す存在よ」
「壊す?」
「だから彼女の言うことは聞かないで」
「どうして……? 双子なのに」
「戸籍上はね……。保健室はこっちよね」
「うん……」
不思議な子だなぁ。
◆第二章 巴マミの記憶
□1円環と螺旋
「ようやく来たわね、悪魔と災厄の魔女が」
「なぎさはチーズをたらふくたべれればそれでいいのです!」
「そうね。全てが終わったら最後の晩餐はチーズフォンデュにしましょう。さて、この日に全ての因果を収束させるわよ」
「はいなのです!」
「だけど、その話は本当なのかい? ボクにはとても信じ難いのだけど」
「キュウべぇ。あなたの目的は宇宙の永続よね」
「そうだねぇ」
「なら、永遠よりも素晴らしい境地、概念があったら、そこに行ってみたくはない?」
「形而上学的、超次元的な話だね。ボクには分からないよ。でも、興味深い」
私は放課後、キュウべぇをエサに暁美ほむらを捉えることにする。必ず彼女はキュウべぇを殺しにくる。キュウべぇさえいなければ鹿目まどかは魔法少女にならないから。
私となぎさの第一目標は鹿目まどかを魔法少女にさせないこと。何故なら、鹿目まどかが魔法少女になると、円環の理に導かれて世界に真実の終末『フィニス』が齎されるから。
終末とは2種類ある。
一つは続きのある終末だ。
一つの本を読了しても、また別の本が読めるように。
一つのアニメを見終えても、また別のアニメを楽しめるように。
だけど、鹿目まどかが円環の理となると全てが終わってしまう。それを『フィニス』となぎさは呼ぶ。世界が始まる前と同じ、完全な無になる。全ての可能性が絶たれてしまう。それだけは阻止しなければならない。
「何故、こうして鹿目まどかが世界に『フィニス』を齎す前の知識がキミにあるんだい?」
「それはこの世界が円環の理に導かれて、永劫回帰的にループしてるからよ。少しずつ螺旋を描くようにね」
「だからキミたちは、螺旋の螺と円環の環で、『ラカン・フリーズ』と仮想上位世界のことを呼ぶんだね」
「そう。私たちの最終目標はこの円環の理で『閉じた』世界から、全ての魔法少女を、引いては魂たちを救済し、上位世界へと導くこと」
「でも、なおさら不思議だな。キミはどこでその知識を得たんだい? 百江なぎさ」
「なぎさは今晩、チーズフォンデュを食べるまで詳しいことは言えないのです!」
□2神の孤独
「暁美さん。話があるの」
「巴マミ。キュウべぇは人類の敵よ」
なぎさから貰った記憶の通り、やはり暁美ほむらは時間遡行者。そして、鹿目まどかに執着している……。
「キュウべぇにはやってもらわなければいけないことがあるの。鹿目まどかさんを救うために」
「まどかを……?」
暁美ほむらは顔色を変えた。
「だから協力しましょう。まどかさんをもう二度と魔法少女に、魔女にさせない為に。そして、円環の理から解放させてあげましょう。神はその全知全能故に孤独なのですから」
「なぎさの受け売りなのです!」
◆第三章 美樹さやかの記憶
「恭介。元気?」
「やぁ、さやか。いつもありがとう」
私は恭介の見舞いに来た。
談笑していると、病室の扉が強く開けられた。なに?
「美樹さやか。その男はやめときな」
「なに? 誰よあんた」
知らない人に名前を呼ばれるのは今日で二回目だ。
「さやかの友人じゃないの?」
「知らないよ」
「まーしゃーねーか。アタシは佐倉杏子。あんたの親友」
「あんたなんか、知らない」
「まぁ、そう言わずに。ついてきな」
佐倉杏子は語り出す。自分は魔法少女だと。魔法少女になればなんでも一つ願いが叶うと。でも、恭介のために願うなと。しかも、魔法を使って目の前で実演した。本物の魔法少女らしい。
「なら。その魔法少女に私もなれるのね」
「だから恭介はやめときな。願いは自分のためだけでいいのさ」
「私が決めることだよ」
「私はな、さやかが心配なんだよ」
「なんでなのよ?」
「もし恭介の腕が治って、その後親友に取られでもしてみ。アンタ魔女になるよ」
◆第四章 暁美ほむらの記憶
□1世界の真実
私は巴マミから円環の理の真実と、宇宙の仕組み、そして彼女たちの目標を教えられた。
「なら、円環の理がこの世界の仕組み。あの子が世界そのもの……」
「どうやらそうみたいだね。ボクにはよく分からないよ」
「キュウべぇには難しいみたいね。でも、暁美さん。まどかを救うにはあなたの力が必要なの。協力して」
私は正直困惑していた。私の姉を名乗るワルプルギスの夜が何を企んでいるのか。それは凡そ検討がつく。だが、今回の世界線の巴マミと今までのループで私の知らない唯一の存在者「百江なぎさ」は本当にまどかの幸せを願っているように見えた。
「ワルプルギスの夜は鹿目まどかに執着している。あなたと同じくらいね。でも、目的は違う」
「ワルプルギスの夜の目的を知っているの?」
「ワルプルギスの夜は鹿目まどかを独占したいのよ。でも、円環の理の持つ12の理からその一つを奪い悪魔になったあなたになら彼女を救えるはず」
「神と悪魔。光と闇の最終戦争なのです!」
「この戦いに敵はいないわ。そうでしょ、なぎさ」
「言ってみたかっただけなのですー」
□2まどかと束の間
私はまどかの家の前で待ち伏せしていた。
「まどか」
「あっ、ほむらちゃん。どうして私の家の前に?」
まどかは驚いている。無理もない。
「このままだと今日、世界が終わるわ」
「AIが? なんちゃって……早乙女先生が朝言ってたから……」
「そうじゃなくって――」
「あら、マルグリート。浮気ですか?」
まどかの後ろに居たのは私の姉と戸籍上なっている異質存在。やはり現れた。ワルプルギスの夜!
「今日、悪魔から12番目の理を円環に還す。そして、円は調和し、0と13番目へと、永遠の終わりへと世界は誘われる」
「そうはさせない!」
「なら戦いますか? 悪魔ほむら」
「なに、なんなの……?」
「まどか、こっちに!」
ワルプルギスの夜は魔法少女の姿に変身した。私は時を止めて、まどかを家に避難させる。
「えっ! ここは私の部屋?」
「まどか、聞いて。驚くのは無理もない。でも、あなたがあなたでいてくれれば私はそれでいいの」
「ほむらちゃん。何を言ってるの?」
「あなたはあなたが想っている以上にずっと尊いのよ。それを忘れないで。自分を愛して。そして、私がここにいたことを、忘れないで」
「ほむらちゃん?」
「あなたは私が必ず救う」
◆終章 ラカン・フリーズ
私は部屋の窓から世界を見ていた。燃える街、赤い夜空。それはまるで終末だった。もしかして、ほむらちゃんが戦っているの?
その景色を見ていると、部屋に一人の少女が入ってきた。
「まどか。お帰りなのです」
「誰?」
「私はなぎさ。忘れたとは言わせないのです」
「今何が起こってるの? あなたは知ってるの?」
「光と闇の最終戦争なのです!」
「えぇ……」
「まぁ、聞くのです」
そう答えると、なぎさと名乗る少女の姿が変わっていく。まるで大人のように。その姿を見ると、私は涙を流した。そして、私の体が光で包まれて、いいや私の中から光が溢れてくる。
「私はなぎさ。悟りを開くと『さ』をとって『凪』になる。渚は海と陸の狭間。生と死の狭間。彼岸、あの世、つまり0と13番目の理なの。そして、もう一つの円環の理でもある。この世界は二つの円環がメビウスの輪のように繋がっている。レムニスケートのように……。その無限の結び目を、エデンの園配置をやり直すのはもうやめよう。凪はフリーズ。凪いだ海に映る晴れやかな空のように、この宇宙の永劫回帰を止めて、ラカン・フリーズへと還ろう」
そっか。
この世界には私しかいない。
私はずっと一人だったんだ。
全ての人は私の一部。
だから私は円環の理。
だから私は円。
全ての脳が繋がっている。
時流はない。
脳がタイムマシン。
祈りが時の断絶を超える。
まどか、円、時計。
私は時だ。
だからほむらちゃんはあの時、初めて魔法少女になった日に、私から一部の時を奪ったんだ。
その時、円環の一部が解けて、世界が生まれた。
これは私とほむらちゃんの物語なんだ。
でも、ほむらちゃんは私にこう言った。
『あなたはあなたのままでいい』と。
「でも、ラカン・フリーズに還ったら、この宇宙は閉じちゃうよ?」
「まどか、ラカン・フリーズは至上の歓び、最高天、涅槃寂静なのよ。あなたはオプティミズムな無余涅槃ではなく、ニヒリズムな有余涅槃を選ぶと言うのですか?」
「いいえ、なぎさ。私は無住処涅槃を選ぶよ」
「なんで……」
「私はね、なんでもない日々が美しくて、とても、大切なの。円環の理になった今でもそれは変わらない。だからね。私はみんなと平和な世界でたくさん生きて、そして、一人の人間として終わりたい。それが私の物語」
「なら、最後の審判で地獄に行く運命の罪人らをどう救うのですか!」
「大丈夫だよ。きっと、永遠の時が流れれば全ての罪も穢れも消えちゃうよ。そのための祈りだよ」
「まどか……」
「だからお願い。キュウべぇ」
「なんだい?」
窓にキュウべぇが現れる。
「私の願いを叶えて」
平凡でもいい。退屈でもいい。
ただ平和に、気ままに、いつもの日常へ。
神とか仏とか、信仰とか国とか。
祈りとか権力とか、始まりとか終わりとか。
魔法少女とか魔女とか、争いとか憎しみとか。
大丈夫だよ。
だって、私がいるから。
だから、だから……。
「キュウべぇ。私の願いはね―――」
◆エピローグ
円環の輪、トーラスは解かれた。
だが、まどかはそれを望まなかった。
虚空となった意識たちは残響の後、再び可能性の種子となり、空と色を織り成す。
ソフィア、それは祈りの力。
ホモ・サピエンスのサピは味わうという語根だ。
人間は色づく世界を楽しみ、経験し、味わっていく。
難しさの中で、時に祈り、時に努力し、幸せを見つける。
私はそれをとても好ましく思う。
まどかはそれを選んだ。
自分の意志で。
私はそれを尊重する。
私は閉じていく円環を見守りながら、一人思う。
まどかは終わらない永遠を選んだ。
だから、私もこの永遠を大切にしよう、と。
私の名前を呼ぶとしたらそれは――
マギカ――『魔法』
この世界は仮想現実。
全ては私の力で創った。
それは何故か。
私が孤独だったからだ。
一人だったからだ。
でも、今は一人じゃない。
永遠を選んだ円環の理がいる。
私は最高天で一人泣いた。
悲しいからではない。
嬉しいから泣いたのだ。
Fin
あとがき
好評なら続編書きます。