鍛冶師ラスティの裏仕事~誰にも触れない専用品を、俺だけが修理できる~   作:ハメ匿さん

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第01話:大聖堂の時計の鐘

「ラスティ、仕事を持ってきたぞ。どうせ暇だろ、受けろよ。そろそろ生活費も心許なかろう」

 

 俺の鍛冶工房の入り口の扉を盛大に開きながら、友人であり亡き師匠の息子であるポマスが開口一番失礼な物言いで俺に仕事を持ってきた。

 

「確かに暇だが、受けるかどうかはまだ決めないぞ。仕事の内容によっては、って奴だ」

 

「金にはなるからしばらく困らないと思うが……鋼の剣を10本と手入れ用の砥石をそれぞれに、ということだ。砥石はともかくとして、お前の腕なら十分務まるとは思う

 

「10本か……期間は? 」

 

「40日という話だ。俺の計算だと、お前の腕なら10日ぐらい余裕があるはずだ。仕事を受けるまでの時間を省いても、今から取り掛かれば十分間に合うだろ? 早速手を動かせ。俺が2日ほど長引かせてから受諾するでも問題ないからな」

 

「鋼で10本……ってことは、騎士団の遠征が近々あるってことでいいのか? 」

 

「今回は専用化処理を施すという話ではないから、訓練遠征だろうな。そこまできわどい仕事にならないってことだろう」

 

「そうか……まあ、仕事は確かにちょうど空いてるし、受けるって伝えといてくれ。早速資材の都合に出かけてくる。材料がなければ、本数を減らすか、もしくは受けられないと思ってくれ。今は手元の材料がすっからかんなんだ」

 

「ああ、解った。お前が帰ってくるまで店番はしておいてやるから、ゆっくり確認してこい」

 

 最近仕事がなかったおかげで、炭も石炭も、鋼の材料である鉄も仕入れていない。元々、仕事が決まってから材料を用意するたちだからそこはまあいいんだ。ただ、市場や鉄の取り扱いをしている店に鋼の原料である銑鉄や石灰石が十分にあるかどうか確認しに行かないとな。

 

 ポマスにはひとまず受けると伝えたものの、材料不足で作れませんでした、ではわざわざ仕事を持ってきてくれたのに申し訳が立たないからな。

 

 師匠であるポマスの親父さんが死んで十年経つが、未だにポマスの世話になってないと仕事一つとってこれない俺にも問題はあるんだが、人付き合いがそれほど得意ではない以上、あいつの仕事の差配に助けられていることも事実。

 

 たぶん今回も、複数の工房に声をかけて、そのうちの割り当ての一部をこっちに持ってきた、というところだろう。

 

 そうすると、全体では100本ほど発注がかかったことになるのか。新人育成だな、今回は。

 

 新人に使い潰させる勢いで鋼の剣を使わせ、自分でのメンテナンスも教え込む、というところか。毎回鍛冶屋にメンテナンスを任せられる程予算はないし、戦地に駐留する時は自分の武器は自分で手入れできなきゃ一人前とはいえない、というところだろう。

 

 異世界の勇者がこの街に居た時に広めたとされている「こんびに」という概念によって、何件も専門店を回らなくても、仕事道具や材料、原料が一つの店でやり取りできるようになったらしい。

 

 ……というのがこの街の歴史にあるらしいが、それはともかく鉄は鉄屋、石灰石は石屋、砥石は研ぎ屋、とそれぞれ回ることなく、一つの建物や店でまとめて買い物ができるのが、この鍛冶の街ハンブラの特徴の一つだ。

 

 必要なだけの鉄や燃料、そして細か目の砥石と粗い砥石を10個ずつ、発注して配送をお願いすると、自分の店、「ラスティ・ネイル」に戻る。

 

「ぐー」

 

「おい、起きろ」

 

 ポマスが全力で爆睡していたので叩き起こす。店番を任せたのに寝ているとはいい度胸だ。

 

「いてぇな、せっかく一仕事終えて気持ち良く寝てたのに」

 

 ポマスが悪びれもせずに俺に文句を言う。早速寝こけているとは言い度胸をした店番だ。

 

「店番するから任せとけっつったのに、寝こけていたら意味ないだろ」

 

「客は一人来たんだ、それだけ大量にお客さんが来たら十分だろ」

 

 確かに、客が来て対応をしたなら仕事はしたことになるか。

 

「で、どんな客だった? 」

 

「大聖堂の使いだったよ。鐘が歪んできているから修理を頼む、ということらしいが……お前そんな伝手があったんだな」

 

 鐘が歪んできている、というのは俺への符丁だ。実際の仕事はもっと別のことをする。

 

「そうか、もうそんなにすり減ってしまったのか。もう一回来ると言っていたよな? 」

 

「ああ、夕方、日が落ちるころにもう一回訪ねてくる、と言っていた。詳細はその時に聞けばいいんじゃないかな」

 

「わかった、店番をやらせておいただけの価値はあったな。後、鋼の剣だが10本、確実に作れるだけの材料と燃料は都合がついたから、間違いなく引き受けると伝えておいてくれ」

 

 鋼の剣、実際は11本分だが、少し余分に仕入れてきた。まかり間違っても1本とちるような腕の衰えはしていないが、あくまで念のため、あともう一本作れないか、と言われたとき用の余分の1本を作成しておいて、要らなかったら店先に並べておくだけでも価値はあるだろう。

 

「じゃ、俺は帰るぞ。大聖堂の件、確かに伝えたからな」

 

「ああ、お前はいい店番だったよ、駄賃にいくらか包もうか? 」

 

「その分仕事で返してくれ、それが俺への信用になるからな」

 

 ポマスはそのまま帰っていった。しかし、大聖堂の鐘のメンテナンスか。もうそんな時期になったんだな。ポマスには付き合いの長さに割には教えてない仕事の一つであり、俺がこうして仕事で閑古鳥が鳴いていても、食っていけている理由の一つがこの「大聖堂の鐘」だ。

 

 今日は配達を頼んだ原料や材料を受け取り、数や重さを確認して受け取りを書いている間に日暮れになる。

 

 完全に日が落ちる前、そろそろ店を閉めようという時間帯に、大聖堂の使いの者がやってきた。修道服に身を包んだ若い司祭だった。

 

「ラスティ様ですか。私、最近司教になったマルネラと申します。この言葉を伝えれば、全てが通じる……ということで特使の形でこちらに参った次第です」

 

「店主のラスティだ。大聖堂の鐘のメンテナンス、確かに請け負う。そうハンギス大司教様に伝えてほしい。具体的な日付を指定してくれればその日に仕上げる……ということになるが、どうするね? 」

 

 マルネラさんにそう伝えると、彼は怪訝な顔をしつつ、俺に向かって質問をする。

 

「しかし……本当にできるのですか、大聖堂の鐘……いえ、本人の目の前だからお聞きしますが、勇者しか身につけるどころか触れさえもできない、聖鎧のメンテナンスなんて」

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 専用化魔法、という魔法が登場しておよそ200年。あらゆる物品に対して専用化、という魔法処理を行うことで、武器防具、魔法の装備品やマジックバッグなどにおいて、本来のポテンシャルを越えた性能を引き出すことができるようになった。

 

 代表的なものにおいては勇者の専用品である聖剣アドバイト、聖鎧ガイアスが挙げられる。これは、勇者でないとそもそも手にすること自体が難しく、勇者本人でない限りは触れようとしても弾かれるほどの専用化処理が施されているとされている。

 

 今も、王城の財宝倉庫の真ん中に、異世界から召喚された勇者が200前に魔王退治に使用した聖剣アドバイトが、次代の勇者が現れた時のために託すという名目上、そのまま台座に突き刺して自分の世界に戻った経緯がある。

 

 また、この鍛冶街であるハンブラの大聖堂にも、聖鎧ガイアスが残されていて、新しく勇者が再び纏った時に、この地ですぐにメンテナンスが開始できるように、という意味も含めて聖鎧をご神体のように祀っている。

 

 これらは勇者の資格なき者には触れることさえかなわず、盗み出そうとした盗賊が毎回神の怒りに触れたという名目でバチが当たっているんだ、という説法のつかみネタとして、こちらも代々受け継がれているのである。

 

 全ては再び魔王が復活しこの世界を闇に覆わんとしているとき、再び異世界から勇者が現れし時、これらを使って我らを守ろうとするための準備であると言える。

 

 できれば、二度と魔王も勇者も現れないことを祈るばかりである。

 

 ~ハンブラ出版、ハンブラ観光ガイドより抜粋~

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