鍛冶師ラスティの裏仕事~誰にも触れない専用品を、俺だけが修理できる~   作:ハメ匿さん

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第11話:品評会

 どこかに分散してではなく、ひとしきりまとめて大量納品の依頼が入ることがある。たいていは、食事店を新しくオープンしたいので、同じ品質のものを複数本仕入れたいであったりとか、そういう要求であることが多い。

 

 俺も何度か対応をし、相応の匙やナイフ、フォークなんかを提供したこともある。できるだけ同じものを求めたいなら、鍛冶屋の鍛造品よりも鋳造をする工房で、同じ型を使用した鋳型を使うもののほうがいいとは思う。

 

 しかし、鍛冶師の装飾や装丁にこだわったカトラリーを求める、客単価の高い高級志向の店が、銀での製作依頼を出すことがある。

 

 銀の食器は美しい光沢を出す代わりに、手入れに非常に手間がかかる。そして、人の手で直接触れるだけでも黒ずむことがあり、昔から毒を入れられるような食事においては、食事に毒が混入されていないかを確かめるために毒検知器としても使われる。

 

 表面の色が一気に黒ずむから、食事にナイフを入れた瞬間に分かる、という話らしいが、実際に食事に毒を盛られたことも、その瞬間に立ち会ったこともないので割と眉唾ではある。しかし、俺にも銀の食器の作成依頼はきたことがある。

 

 一通りの品物を仕上げてから、最後に……と、目の前で毒を溶け込ませた水に適当な一本をくぐらせ、確実に黒くなることを判別されて、原料として渡された銀を横流ししていないかや、他の金属とすり替えていないかなどを確認された。

 

 正直あまり気分のいいものではなかったが、確かに必要と言えば必要な動作だったのだろう、と今では納得している。それだけ、感覚を機敏にしておかないと自分の足元が危ういのだろう。

 

 その点今の自治会長なんて、気楽なものだ。俺の代わりに自治会長がやりたいなら俺を暗殺してとっとと次の奉納の儀を行えばいい、と大衆酒場に出かけては冷えたエールをガンガンに飲んでいる。昼間から。

 

 正直羨ましいが、四年間のみそぎの時間が終わったらまた工房同士の激戦や仕事のやりくり、それから仕事の奪い合いや技術の競い合いに参加しなくてはいけないことを考えると、自治会長なんてやるもんじゃねえな、という気持ちでいっぱいだ。

 

 もっとも、現在の自治会長であるモドリ氏についてはその心配はないだろう。前自治会長みたいに、自治会長の職についているのをいいことに一部の工房を優遇して仕事を回していく、というようなことはない。

 

 その点、今のモドリ工房は上手にやっているらしく、自分の自治会長としての伝手は使わずに、一般の伝手を使って維持しているし、肝心要の自分の腕は使えないにしても、次の代の育成には成功しているらしい。

 

 モドリ工房はもしかすると、このハンブラの街で初めて、二代続けて自治会長の座に付くかもしれない。そんな噂すら立つようになっている。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 そんな中、事件は起きる。自治会長であるモドリが急死した。死因は窒息。どうやら、酒のつまみを食い過ぎて、寝たまま嘔吐してそれが詰まっての死亡だったらしく、朝起きてこない自治会職員が、冷たくなっているところを発見したらしい。

 

 すぐさま騎士団の調査が始まったが、そもそも恨みを持たれるような人柄でもなく、あえて挙げるなら、毎日冷えたエールを飲んでいてずるい、という程度のものでもあり、吐瀉物からも毒の成分は発見されなかったことから、事故として処理された。

 

 自治会長代行はそのまま自治会の職員が行うとして、この時期としては異例の会長選挙のための品評会が開かれることになった。

 

 毎度のことなら俺は関係ないからいつも通り……というところなのだが、今回は事情が少しばかり異なっている。ポマスから、参加要請が届いたのだった。

 

「今年は参加工房数が少ない。時期が時期というのもあるが、品質のいい品物を仕上げるだけの鉄を入手できる工房が限られている」

 

「銑鉄が必要なら在庫から出すが? 会長選挙なのだから、条件を満たしている工房の数があるならそれでいいと思うんだが」

 

「その条件を満たせる工房が今回は少ないんだよ。冬支度用の炭を確保するために、徒弟の数を丁度絞っているんだ。いつもなら夏場に行うのが通例だが、今回はこの冬の始まりの最中だ。徒弟も何人か実家に帰って家業を手伝ったり、暇をもらっているものも多い。そのため、今回はいつもより条件を緩く設定することにした」

 

「それで、俺のところに剣を打ってほしいという話に繋がる理屈が解らんのだが」

 

「条件は、鍛冶職人歴10年以上、自分で工房を持っていること、この二つだけになった。いつもどおりなら、ここに徒弟の所属人数や生産規模が条件にはいるところだが、今回の臨時選挙に限り撤廃される」

 

 確かにその条件なら、俺は鍛冶職人歴は軽く10年は越えている。師匠であるパラケロスが死ぬ何年も前から丁稚として、弟子として、そして一人前になるまで育てられてきているからな。鍛冶職人歴25年と言われても辛うじて足がかかるほどにはなっている。

 

「ふむ……で、俺になにをしろと? 」

 

「ざっくり言えば賑やかしだ。臨時選挙でも条件が緩くなればこれだけの工房が参加したくなるほど、自治会長の座には価値がある、ということを示したいそうだ。もちろん、ラスティ以外にも何人か声はかけた。全員が、というわけではないが、普通に剣一本打つより割りのいい補助金が降りることになる。一口乗ってくれないか」

 

 なるほど、そう言うことか。なら、冷たいエールを飲むためには丁度いいごまかしの機会になるな。

 

 この手付金と補助金に、秘密の財布の中身をどがちゃがとして、誤魔化して最近いい仕事をした、という風にしてしまえばきっとなんとかなるだろう。

 

「よし、その話乗った。まかり間違っても、俺の作品は選出されずにあくまでサンプルの一本としか判別されない、それでいいんだな? 」

 

「ああ、それでいい。こちらとしては、例年通りかそれ以上の出品本数を確保できればそれでいいそうだ。だから、審査する側の人員にもあらかじめ言い含めてある。これらの中から一番鍛冶のうめえ奴を選んでくれ、という形になるはずだ」

 

 それなら、俺がうっかり自治会長になって、仕事ができない間に裏の仕事が出来なくなる、ということも防げそうだ。それなりに顧客を抱えてる身としては、下手な役職や丁稚奉公なんかをつけられると困るからな。

 

「そうと決まればさっそく打ち始めるか。忙しくなりそうだ」

 

「評価されないってのに珍しくやる気だな。何か心境の変化でもあるのか? ようやく弟子か、もしくは家庭を持つ気になったとか」

 

 ポマスが俺が真面目に仕事をしようとしている様子を見て不思議がる。

 

「最近は俺の腕を見込んで、最良のものを打ってくれ……という依頼が少ないからな。腕を鈍らせないためにも、ここはひとつ賑やかしでもいい物を作って、これだけの逸品がある中から選ばれたのだからさぞいい工房が選ばれたのだろう、と見せつけてやりたくもなってきた。というところか」

 

「そういうことなら、精々いい物を作ってくれ。そのほうが見るほうも楽しみが増えるだろうからな」

 

 品評会には毎回街の外からも、このハンブラの街の鍛冶師の腕の最上位を一目見ようとそれなりに多くの人が訪れる。その中で作品を展示できるだけでも名誉だというぐらいなのだから、たまには真面目にやって、その名誉にあずかっても罰は当たらないだろう。

 

 さあ、パラケロス秘伝の業、ここでとくとご覧に入れよう。ポマスも知らない俺だけが受け継ぐ元パラケロス工房の秘中の秘、それを久しぶりに使うことにするか。

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