鍛冶師ラスティの裏仕事~誰にも触れない専用品を、俺だけが修理できる~   作:ハメ匿さん

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第02話:特異体質

「できる。だからこそ俺の手元にその話がやってきた。そういうことじゃないのかな? 」

 

 マルネラと名乗った司教にはっきりと伝える。

 

「そう、なのですね。このことは、ハンギス大司教と私と、後は引退した年老いた司教の三人しか知らないことです。むしろ、なぜ私にこの役が回ってきたのかがわからないぐらいですからね」

 

「まあ、ハンギス大司教は人を見る目は確かだ。口が堅いと思われているんだろうな」

 

「そういわれると悪い気はしませんね。内緒話や裏話も聞かせてもらえるようになる、ということでしょうし」

 

 マルネラ司教はテレテレと照れている。女司教や女司祭なら絵になるのだろうが、いい年こいたオッサンでは、あまり見ていてうれしいものではない。

 

「これはできれば今日中、遅くとも明日中には確認しておきたいんだが、メンテナンスには古代銀が必要になる。その費用は事前にそちらで持ってくれるってことでいいんだよな? さすがにこの鍛冶屋程度の財布では賄いきれる金額じゃないぞ」

 

 聖鎧は古代銀という、勇者が召喚されるはるか前に作られていた、銀のようで銀ではない特殊な金属を使用している。現代では古代銀の製法は失われており、流通している分で全ておしまいになってしまう希少資源でもある。

 

「そこは事前に伝えられています。必要な費用はこちらで賄うので、ツケてもらっても構わない、ということです」

 

「それは助かる。最近仕事がなくてな。昼間店番頼んでいた奴に仕事を紹介されるまではちょっとまずかったんだ」

 

 表向きはそういうことになっている。実際は、大聖堂だけにとどまらず、様々なルートから専用化された製品の修理や改造依頼を受けているため、それほど困窮していない。ポマスにもこの裏仕事の話は秘密にしているので、奴は俺が常に仕事と金に困っている、と思いがちなようだ。

 

「当日は私が立ち会うことになるとは思いますが、なにかそれまでに用意しておくものはありますか? 」

 

「ハンギス大司教がそのあたりは心得ているから、指示されたものを指示されたように用意してくれればそれでいい。基本的には俺が出向いて、こちらに運んでここで修理してすぐに返す、という形になるだろうからな」

 

 マルネラ司教は、なるほど、と小さく返すと、それ以上は追求してこなかった。

 

「実際の作業にはいる前に、どのくらいの手間がかかりそうか事前にチェックしたいので、明日の午前、早速寄らせてもらうことにしよう。午後に資材を揃えて……二日後以降かな。その予定で、そちらの都合がいい日で構わない。詳細は明日にでも決めようか」

 

「わかりました。戻ってそう伝えます。では、本日のところはこれで失礼します。また明日、よろしくお願いします」

 

 マルネラ司教はそういうと、店から出ていった。ふぅ……仕事は重なる時には重なるものだな。ポマスが仕事を持ってこなければ直接依頼を受け取る形で仕事の話が来ていただろうし、仕事が被る可能性も低かっただろう。

 

 どっちにしても暇はあるし、今なら仕事は受けられる。何より、大聖堂のご指名裏依頼だ。無下にはできないだろう。さて、裏仕事である専用装備品の即日修理、承った。後は手はずを整えて、しっかりやるだけか。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌日、早速大聖堂に向かい、マルネラ司教を訪ねる。ちょうど手が空いていたのか、手を空けておいてくれたのか、スムーズに面会が叶ったのでそのまま大聖堂の地下にある、宝物庫に足を踏み入れる。

 

 宝物庫の中には大聖堂や国教会の資産や信者からの喜捨、それからいくつかの財宝が残されていて、相変わらずの熱心な信者による活動の結果を目にすることができた。

 

 その中でひときわ目立つところに置かれているのが聖鎧ガイアス。200年前に勇者が身に着け、専用化の魔法が施され、その鎧はあらゆる魔の力を無効化し、そして鎧自身にも勇者であった者の力が受け継がれているとさえ言われている。

 

 未だに専用化魔術が切れることなく働き続けていて、触れたものにバチを与えるという、呪われているのかそれだけ清浄なのかが区別がつかないものとなっている。

 

 ハンマー片手に気軽に宝物庫に向かい、その中の鎧を確かめる、というのもなかなかできる話ではないし、マルネラ司教もそれほど宝物庫に気軽にアクセスする権限は持ってないのだろう。

 

 彼自身も物珍しさを隠しきれないまま、宝物庫の中を巡る。俺としては何度目かの宝物庫なので、物珍しさはない。さすがに初回は色々と驚かされたが、何が増えた、何が減った、あたりの見当がつくぐらいだ。

 

 聖鎧ガイアスの前に立ち、どれどれ……とあちこちを確かめる。錆びつきが少し発生している以外は特に壊れている、と認められるようなものはないな。

 

「なるほどな……これならほとんど手を加えなくても、今回は何とかなるな。鎧の肩の部分一枚交換するだけで済む。全部交換する時期にはまだまだ遠いが、これで……よし、見積もりができた。後はハンギス大司教宛てに見積書を送って、古代銀の在庫を調べて、それが完了すれば終わりっと」

 

 紙にさらさらと、予想される古代銀の使用量とその見積金額を書いて、マルネラ司教に渡す。

 

 本来は一カ月ほどかけて専用化の魔法を解除した後、修理をして再び専用化の魔法をかけなおすのだが、専用化の魔法をかけなおすには、代償としてその本人の承認が必要となる。

 

 そのため、現在勇者が存在しないこの聖鎧ガイアスは専用化の魔法を解除することで、誰でも使える装備品となってしまい、窃盗の恐れがぐんと跳ね上がる。そうさせないための俺のこの特異体質なのだ。

 

「これを大司教に。今回の修理で予定される金額です。もちろん、俺への技術料も込みですが」

 

「……承りまし……た……思ったより安いですね。もっと高くなるものかと思っていましたが」

 

「必要分しか請求しないのも俺の性分でして。おかげでいろいろと付き合いがあって数で儲けさせてもらっています」

 

「そうですか。見積もりのほうは確実にお渡ししておきます。古代銀の仕入れ先は決まっていますか? それならば先触れを出しておくことも可能ですが」

 

 マルネラ司教は気が早いが、その分先回りして仕事ができる人物ではあるようだ。

 

「今回は物がそれほど多くないから、そのぐらいの金額で十分だろう。古代銀も最近は値上がりが続いている。市場在庫に限らず、存在量そのものが減っているのも間違いないからな。新しく製造できないのが難点なんだろうな」

 

「古代銀……製造できるようになればそれだけで莫大な金額が懐に転がり込む技術であることは間違いないですね」

 

「そうだな。でもまあ、そんな博打に力を入れるぐらいならコツコツと仕事を積み上げていくのが俺たち鍛冶屋だからな。そういうのはどこかの研究者が製法を解き明かしてくれるまで待つしかないさ」

 

 古代銀の製法については、国をあげての課題として製造方法の模索が行われていて、解決法を見つけたら、領地付きで爵位がもらえる、というぐらいの懸賞問題になっている。

 

 俺としては古代銀の相場が下がってくれることは、専用化処理をされた武具の修理にも品質や材料の余裕ができるということになるので、願ったり叶ったりなんだが。

 

 しかし、一部の鍛冶屋の中では、口伝の秘中の作として伝えられているのではないか、という噂もある。確かに、その噂は一部では真実ではある。

 

 口伝の製法として、古代銀の製作方法をそれぞれ伝えているのは真実ではある。そして、俺はそれを知っている。しかし、作れることについては死んだ師匠からきつく口止めされている。

 

 ただし、その古代銀の純度がどのぐらいのものであるか……というものはまだ比べたこともないし、混ざりものを作り出して市場の在庫や品質を混乱させないために、市場から古代銀が枯渇したときの対策としての口伝の技術だ。

 

 これを使って一儲けするであるとか、そういうためのものではないと、しっかりと師匠であるパラケロスからは叩き込まれている。だから、この技術は使わないのが一番大事なのだ。

 

「ま、そんなわけで、俺は早速古代銀の取り扱いをしている店に発注をかけてくるから、その見積、よろしく頼みますわ」

 

「わかりました。間違いなくすぐにでもハンギス大司教に報告しておきます」

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