鍛冶師ラスティの裏仕事~誰にも触れない専用品を、俺だけが修理できる~   作:ハメ匿さん

7 / 9
第07話:任意取り調べ

 結局、バグナートのことは気づかれずにポマスは帰っていった。さて、どうするかな……ここはハンギス大司教に、死亡する前にザンザがこちらに修理に来ていたことを打ち明けて、ここにそのバグナートがあります、とお出しするか。

 

 その上で専用化解除をしてもらう……いや、果たしてザンザがそれを望んで俺にバグナートを託したのか。ザンザの遺志はどういう物であったのか。ろうそく一本だけを頼みにした明かりの中で、バグナートを眺め、そして、バグナートの能力である、自在に手元に戻ってくる力を試すため、壁に向かって投げつける。

 

 そして、意識的に戻ってこい、とイメージすると、バグナートは俺の手元へと、投げたのを逆再生するかように戻ってきた。バグナートは、今は俺が主人だと思っているのだろう。

 

 俺の能力である、専用品の接触可能というスキル……技能……能力……何て言えばいいんだろうな。

 

 とにかくこの力は、自分が知っている限りにおいては、武器や防具の特殊な能力までも扱うことが出来る。

 

 ザンザのバグナートについても、以前直したときにザンザが自慢気に披露してくれたため、こうして扱うことができた……ということになる。

 

 俺から率先して能力について知ることはできない。あくまでも、知っている分だけ、ということになる。

 

 だから、勇者伝説なんて物が残っていて、事細かにその専用品の特殊能力について広く知れ渡っていれば、俺も扱うことが出来るということだ。この間の聖鎧ガイアスだって、本当に知られている能力通りの性能を有しているならば、俺はその能力を使えることになる。

 

 なので、ザンザにこれが専用品で能力はこう、と教えてもらえなかったら、普通に鋳溶かして古代銀の在庫として完全に能力を失わせていたことになる。

 

 しかし、ザンザが俺に託す形でバグナートを残したのは、意味があると考えるべきだろう。その意味とは何か。この答えが見つかるまでは、このバグナートもそのまま保管させてもらうことにするか。

 

 どうせ盗まれる心配はないのだし、これがバグナートそのものだと知ることができるのは、ザンザ本人か殺された人だから俺がわざわざ「これがバグナートだよ」と教えなければ知られないだろう。

 

 その場合、何で持ってるんだという面倒くさい話になるので、誰の手にも届かないところ……そうだな、鍛冶場にある火の神を祀ってある祭壇にでも隠しておくか。呼べば来るし、どこにあるかは問題じゃないだろう。

 

 呼べば来る、と言ってもバグナートを呼ぶようなケースはよほど自分の命が晒されている時ぐらいしかないんだが、そうならないことを祈っておくか。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 ザンザの事件が一通り話が落ち着き、そういう暗殺者が居た、で話が通り過ぎるだろうと思った頃、騎士団の一人が俺の工房を訪ねてきた。

 

「ルーマスという。ザンザが死んだ事件については知っているか? 」

 

 少々高圧的だが、まあ官憲としても働く彼らには威厳も必要だろう。そう言うことにして通しておく。

 

「ああ、詳しくは知らないが、死んだことだけは知っている。俺のところに何か聞き込みか? 」

 

「聞き込みというか……ザンザが死ぬ数日前、ここに来るのを見た、という話を聞いている。来たのなら、何をしに来たのか教えてほしい」

 

 素直に、怪我してたので治療用品を貸してやったことと、棒手裏剣を一本都合してやったことを打ち明ける。

 

「その棒手裏剣というのは、バグナートのことか? 」

 

「バグナートはザンザの専用品だろう? 一介の鍛冶屋でしかない俺がそもそも持てるはずもない。預かろうと思ったところで、手に持っただけで弾かれてしまう。そのぐらいのことは騎士団団員でもよくわかってると思うが」

 

 ルーマスは片眉を上げた後、バグナートの件についてはどう考えているのか、という風に話を持っていきたいらしく、俺に質問を重ねてくる。

 

「では、普通の棒手裏剣を都合した……ということで合ってるか? 」

 

「ああ。噂で聞こえてきた話だと、バグナートは行方不明らしいな。ザンザがどこに隠したか落としたかまでは知らないし、興味もない。ただ、俺の武器を一つ買っていってくれて、ついでに治療させた恩で、少し高めの金を置いていってくれた、ぐらいしか俺から教えられるものはないぞ」

 

「そうか……だとすると、ここにもないということになるな。ザンザはバグナートを持ち歩いてなかったまま仕事に出たことになるな。実はバグナートにはある程度の追尾機能があって、一定範囲以内なら思念を伝えることで自分の手元に戻ってくる機能があるらしい」

 

 ルーマスは俺にそれを伝えてどうするつもりなんだろう。ザンザから俺に専用品を受け継がせるなら、教会や神聖呪文の関係者に伝手でもないと権限の委譲が行われるはずがないし、それには長い時間が必要だ、ということはわかっているはずだ。

 

「試しに……いや、一般人を疑うのはお門違いだな。ところで、ザンザとは付き合いは長かったのか? 」

 

「それなりに上客だったよ。そう言う意味では残念だが、暗殺者が一人減ったのは社会にとって平和なのか、それとも暗殺でもしないと社会の邪魔になった奴を消せなくなって、不満がたまるようになるのかまでは俺の知るところではないな」

 

「そうか。時間を取らせてすまなかった。ザンザはここに寄って治療をして、武器を買って帰った。それで合ってるな」

 

「ああ、ただ、その武器がどうなったかも含めて、俺の知りえる範囲じゃない」

 

「ご協力に感謝する。それでは失礼する」

 

 ルーマスは去っていった。足取り調査はちゃんとやってるらしいが、ザンザの言い分を思い出す。騎士団員とその婚約予定だった女性を暗殺しようとして、女性のほうをしくじった、だったか。

 

 だとすると、女性のほうが口封じのためにザンザを返り討ちにしたのか、それとも騎士団が復讐したのか。それとも、事態はもっとややこしい物だったのかもしれない。

 

 ……これは、一介の鍛冶屋が首を突っ込む話じゃないな。俺としては、客が減った、実入りが減った。その分冷たいエールを飲む機会が一つ減った。これぐらいで終わらせておくべき話だろう。

 

 しかし、この一件は意外と長く響くかもしれないな。ザンザに依頼をしていた客としては大事な手ごまが一つ減ったことになるし、バグナートは行方知れず。そして、ザンザにそもそもの問題の開始点である騎士団員を殺させた女性。

 

 ミステリーの紙芝居を見ている気持ちにされるな。果たして犯人は誰なのか、そして何のために……新しい婚約者を見繕うため、と言っていたな。

 

 ということは、騎士団員よりも身分の高いものか、それともよほどの優男が犯人とも言えるのではないか。

 

 そうなると、騎士団員の中身も一枚岩ではないような気がしてきた。さっきのルーマスという男も騎士団員ではあるが、ザンザを殺させた女性側の勢力の一員で、ザンザが余計なことをしゃべっていないか確かめて、聞かされていたら口封じに回っているのかもしれない。

 

 ……いやいや、発想が飛躍しすぎてるな。そもそも、俺が武器を売ったのが原因で誰かが傷ついたりするのなら、鍛冶屋は全員根切りにされているはずだ。

 

 そう言う意味ではザンザに武器を売っただけでしょっぴけるのだから、そこは問題ではないんだろう。

 

 彼らに必要なのはザンザの足取りと、ザンザが仕事内容を漏らしていないかどうか。そこに焦点を当てているはずだ。もしかしたらザンザも、依頼を受けた時点ではめられた、と思っていたのかもしれない。

 

 そこを何とか解決するために俺に傷を直すついでの雑談として話をしたのなら……金貨で余分に払った以上の厄介事を押し付けられたことになるな。ザンザめ、余計なことを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。