TS少女は演じたい 作:息抜き
最後の問題の解き直しを終えて、シャーペンを置いた。
時計を見ると、十一時を少し過ぎていた。
今日はレッスンがなかったので、宿題だけでなく、テスト範囲の復習も進めていた。
途中でもう少しだけ、と手をつけたところが思ったより長かった。
ただ、今日やろうと決めていた分は終わった。明日の提出物も、もう鞄へ入れてある。
机の端に置いていたスマホを手に取ると、由佳からメッセージが届いていた。
『テスト終わったら映画行かない?』
『勉強の休憩に予告見てたら、見たいの三本になった』
送られてきたのは、三十分ほど前だった。
その下には映画の予告が一つと、続けてもう一つ。
三本目まで、ちゃんと送られていた。
『勉強は進んだ?』
返事をすると、すぐに既読がついた。
『映画に行きたい気持ちは高まった』
『勉強は?』
『今から戻るところです』
少し笑ってしまった。
たぶん、目の前で話していても同じような顔をしていたと思う。
『日が合えば行きたい。ただ土日は無理だよ』
『じゃあ放課後だね。明日相談しよ。真琴は勉強終わった?』
『今日の分は終わった』
『その報告、私が終わってから聞きたかった』
『余計なこと考えて私に愚痴送ったりしてるから……』
机に突っ伏す動物のスタンプが返ってきた。
『また明日。おやすみ』
『おやすみー』
スマホを置く。
予告は、明日見ることにした。
今開いたら、私まで休憩が長くなりそうだった。
問題集を閉じ、そのレッスン用のノートを取り出す。
神谷さんに教わって書き足したところを、上から読んでいった。
ゆっくり区切ればできた。
続けると、戻りを急ぐ。
「……ああ、ここで止めたんだっけ」
小さく呟くと、高瀬先生に声をかけてもらいながら動いた時のことが浮かんだ。
右へ移ったところで、一度止まる。
その先まで続けようとして、また急いでしまった。
注意されたことだけを読んでいた時より、ずっと思い出しやすい。
何が駄目だったかだけでなく、どこまではできたのかも分かるから、確かめるところを絞れそうだった。
……神谷さんに教わっておいてよかった。
自分だけだったら、同じ注意をまた書き足して、ノートを埋めていた気がする。
書く量は増えても、読むたびに同じところで困っていたかもしれない。
後から記憶だけでできたこととできてないことを整理すると、それ自体が間違ったりしそうだし。
書き足した二行をもう一度見てから、椅子を机へ寄せて立ち上がった。
寝る前だから音楽はかけない。
足を踏み鳴らしたり、大きく動いたりせずに、教わったところだけ確かめる。
足幅を小さくして、右へ。
そこで止まり、ゆっくり戻す。
肩まで一緒に傾きかけたので、息を吐いて力を抜いた。
もう一度やってみると、さっきより左足が軽くなった気がした。
……これで、乗れているんだろうか。
鏡の前で先生に見てもらった時の感じと、同じような、少し違うような。
もう一度やれば分かるかもしれないと思ったけれど、それはさっきも考えた。
「……これは、次に聞こう」
椅子へ戻って、ノートの余白に聞きたいことを箇条書きにして書く。
左足が軽くなる感じで合っている?
疑問符をつけてから、ゆっくり止まるところまではできたことも添えた。
合っているか確かめてもらいたいのは、その時の感覚だ。
そう書いておけば、次に聞く時も困らないだろう。
問題集なら、後ろの解答を見れば済む。
なんなら、前世の経験も含めればどう自習したらいいかも大体分かる。
ただ、アイドルに必要なダンスや歌の練習は、正しい方法も、正しい感覚も、全然分からない。
自主練だけだとどうしても行き詰まってしまう。
ネットで調べても真偽は怪しいから、こういうのはまとめて先生に聞くべきだろう。
時計を見ると、針が半周分進んでいた。
軽い復習のつもりが、結構集中していたらしい。
レッスン日以外はちゃんと身体を休ませるようにというのは、早川さんに再三言われている。
今日はここまでにしてノートを鞄へしまい、机の明かりを消した。
————
次のレッスンに来ていたのは、小日向さんと美月さん、それから夏希さんの三人だった。
「今日は雨宮と神谷が来ないから、フォーメーションはやらない。基礎を長めに見る。白瀬も最後までここでやるぞ」
高瀬先生の言葉に頷く。
「はい。お願いします」
準備運動を済ませ、そのまま四人で鏡の前へ並んだ。
三人は腕や顔の向きまで揃え、私はまず足の動きを止めずに続ける。
同じ音を聞いていても、気をつけるところはそれぞれ違った。
何度か繰り返したあと、高瀬先生が音を止める。
「白瀬、今の最後はよかった。次は途中で身体が残らないようにしたいな」
「はい」
「桜庭、白瀬と一度ゆっくりやってみてくれ。小日向と橘は、さっきの腕の戻しを確認しよう」
「はーい!」
夏希さんが、すぐに私の隣へ来た。
「真琴、今のところだよね。右に行って、左を寄せるやつ!」
「はい。続けると、途中で分からなくなってしまって」
「じゃあ、見てて!」
返事をする間に、夏希さんの足が動いた。
「右にすっ!すとん!そしたら左がふわっと来るから、はい、反対!すっ、すとん!」
右へ、左へ。
夏希さんの身体が、軽く行き来する。
言っている音と動きは、何となく合っていた。
何となく、というのが問題だった。
なんなんだろうこの説明。
多分、本人なりにすごく説明してくれているのは分かる。
だけど、それと理解が出来るかは別だった。
「……すとん、ですか?」
「そう!ここで、すとん!で、残った方はふわっ!」
夏希さんがもう一度動く。
足が寄った頃には、もう次の方向へ進んでいた。
「あの、その、すとんっていうのは——」
「ここ!」
止まってくれたのは、一瞬だった。
「で、次!そこで待たないで、すっと行く!」
次へ行ってしまった。
私はまだ、すとんのところにいる。
「……下に、ですか?」
「下っていうか、こっち!右へ行くなら右!ほら、すとん!」
指さす手にも、動く足にも、迷いがなかった。
私の頭の中には、疑問符しかなかった。
少し離れたところで、美月さんが吹き出す。
「夏希、真琴ちゃんの質問、まだ一個目だよ」
「えっ?」
「『すとん』が分からないのに、その先まで行っちゃってる」
小日向さんもこちらを見ていた。
「しかも、説明するたびに動くの速くなってない?」
「あ、そう?じゃあ、ゆっくり!真琴、もう一回見て!」
立ち止まって考え込むのではなく、すぐ次の見本が始まる。
教えようとしてくれているのは、とてもよく分かった。
分かったのは、今のところそこまでだった。
「こう、右へすーっと行って……すとん!」
今度は、確かにゆっくりだった。
右へ移ったところで、ちゃんと止まってくれた。
私はその形を見ながら、同じように足を出してみる。
「そう!で、こっちが軽くなる!」
夏希さんが、残った左足を少し動かした。
それを見て、家で試した時のことを思い出す。
「あ……左足が、動かしやすくなる感じですか?」
「そうそう、それ!ふわってなるでしょ!」
「なるほど……」
一つ分かった気がする。
ただ、ふわっとするために、まずどうすとんとすればいいのかが残っていた。
というか、夏希さんの説明、抽象的すぎないか。
「夏希の説明、ほとんど音だったね」
美月さんが言った。
「でも分かるでしょ!美月なら!」
「いや分からないけど!?」
「うっそぉ!?」
「慣れても理解できない説明……」
「そんなことない!!……はず」
思わず口にしたことに夏希さんが大げさに反応すると、小日向さんが口元を押さえた。
「真琴、それ、慣れなくても大丈夫だから。細かく聞いていくか、ダンスの全体像を把握して、夏希の感覚をどこに当てはめるかを考える感じにして——」
「ひよりちゃんまで!」
夏希さんが振り向く。
私も、つい笑ってしまった。
高瀬先生が近づいてきたのは、その時だった。
「桜庭、右に乗ったところでもう一度止まれ」
「——はい!」
夏希さんが、今度は言われたところでぴたりと止まる。
「白瀬は、足の形だけじゃなくて、身体がどこまで移っているかを見てみよう」
そう言われて見直すと、さっきまで追っていた足元より、少し上へ目が向いた。
私がやる時は、足を置いてから、遅れて身体を運んでいる。
夏希さんは、そこが離れていない。
「同じ幅まで行こうとしなくていい。自分の幅で、右へ乗ってみてくれ」
「はい」
ゆっくり動く。
上半身だけを倒さないようにして、右へ。
「そこで、左足を少し動かしてみよう」
力を入れて持ち上げなくても、左足が動いた。
「あ、これです。家で少し確かめた時も、こっちが軽くなった気がして」
「それは、重さが右へ移った目安になる。今の位置を覚えておこう」
「はい」
「それ!それがすとん!」
隣から、夏希さんの声が飛んできた。
ようやく、言葉と動きがつながった。
下へ落ちることではなかったらしい。
「……これだったんですね」
「そう!で、そこから左が——」
「ふわっと」
「そう!!」
夏希さんの顔が、ぱっと明るくなった。
「ほら、分かった!」
「高瀬先生の説明が入ったけどね」
小日向さんが付け足す。
「見本は最初からよかったよ」
美月さんの言葉に、夏希さんは一度頷いた。
それから、少し遅れてそちらを見る。
「……見本は?」
美月さんは笑っていた。
私も笑いそうになって、慌てて正面へ向き直った。
「いつものことだが、桜庭は説明が抽象的過ぎるんだよ。もう少し、どう身体を動かすかを考えて説明した方がいい。出来る自分の感覚前提だと、どうしても説明を理解しづらくなるからな。今後をどうするつもりかは知らないが、人に教える側もやってみたいなら、今のうちに言葉にする練習はしといた方がいい」
「……はーい」
高瀬先生の言葉に、夏希さんはちょっと拗ねたような顔でそう呟いた。
そこから先は、高瀬先生のカウントに合わせて繰り返した。
止まって確かめた時の感覚を、動いている途中でも探してみる。
できたり、できなかったり。
ただ、戻る足を急いで動かすばかりではなくなった。
最後のカウントまで止まらずにいけた時、鏡の中で夏希さんがこちらを見た。
声は出さずに、ぐっと親指を立ててくれる。
私も少し笑って、それから次のカウントを聞いた。
————
「よし、三十分休憩。水分はしっかり取れよ。この後もダンスレッスンだから、自主練せずにしっかり休むように」
高瀬先生の声で、壁際へ戻った。
飲み物を口にしてから座ると、夏希さんも隣へ腰を下ろす。
「真琴、さっきの最後、よかったね!」
「ありがとうございます。まだ、毎回はできないんですけど」
「でも、あの感じ!あれを覚えとくといいよ。……そうだ!」
何か練習の続きを言われるのかと思った。
けれど、夏希さんが鞄から取り出したのは、小さなお菓子の袋だった。
「これ、買ってきたんだ。真琴も食べよ!」
袋の口が、こちらへ向く。
中には、黄色っぽいグミが入っていた。
「ありがとうございます。……何味ですか?」
聞くと、夏希さんは袋を少し自分の方へ引いた。
表を見ようとした私と目が合って、にっと笑う。
「食べて当ててみて!」
「……何か、隠してませんか?」
「味!」
「それは分かりますけど」
夏希さんが笑った。
隣に座って、もう自分の分を一つつまんでいる。
私が膝の上のタオルを寄せると、空いたところに袋が差し出された。
……この人も、距離が近い。
美月さんみたいに、顔を覗き込まれてどきっとするのとは少し違った。
気がつくと隣にいて、同じものを前に置いている。
……なんというか、雑に同級生として扱ってくれている感じの近さ、と言えばいいだろうか。
一つ取ると、夏希さんが満足そうに頷く。
「よし。せーので食べよう!」
「夏希さんはもう食べたんですか?」
「ううん、初めて!」
「美味しいかどうかも分からないんですね」
「だから一緒に確かめるんじゃん!」
清々しい程の笑顔で堂々と言われてしまった。
手元のグミを見る。
見た目は、普通だった。
レモンとか、パイナップルとか。そういう味に見える。
そういう系の匂いはしないけど。
夏希さんは、自分の分を口元へ持っていったまま待っていた。
「いくよ?」
「……はい」
「せーの!」
二人で口へ入れる。
最初は、甘かった。
少しミルクっぽいような気もする。
それから噛んでいるうちに、別の味がしてきた。
……とうもろこし?
甘いとうもろこし、というだけではない。
知っている味だった。
独特な香料の感じもする。
ただ、それがこの弾力で口に残っていることが、何かおかしい。
眉間に力が入った。
隣を見る。
夏希さんも、同じような顔をしていた。
さっきまであんなに楽しそうだった口元が、何とも言えない形になっている。
私を見てから、手元の袋を見る。
もう一度、私を見る。
二人とも、すぐには何も言わなかった。
どうにか飲み込んでから、私が先に口を開く。
「……これ、何ですか?」
「……ちょっと待って。私も思ってた味と違った」
その返事で、我慢できなくなった。
「自分で買ったんですよね?」
「買ったよ!でも、こんな感じだとは思わなかった!」
夏希さんも笑い始める。
笑っているのに、まだ少し眉が寄っていた。
たぶん、私もそうだった。
「何味なんですか?」
「これ」
今度は、袋の表を見せてくれる。
コーンポタージュ味。
その下に、グミと書いてあった。
とうもろこしと、湯気の立つスープの絵まである。
「……コンポタって……なんで、グミに……というか、こんな怪しいの買ったんですね」
「だって、コーンポタージュ美味しいじゃん!」
「温かくて、飲める方は……」
「私も今そっちがいい!」
二人でまた笑った。
夏希さんの肩が、笑う拍子にこつんと私へ当たる。
私は口元を押さえたまま、袋の絵をもう一度見た。
絵だけは確かに美味しそうだった。
そこは認めてもいい。
「二人で何食べてるの?」
美月さんの声に顔を上げる。
少し離れたところにいた二人が、こちらを見ていた。
夏希さんが袋を持ち上げて開いた口の部分だけ二人に向けた。
「二人も食べる?」
「んー……笑顔が怪しい……」
「私は貰う!ひより先輩も!」
「えー……まぁ食べるか……」
一つずつ受け取った。
美月さんの表情から笑顔が消えていき、小日向さんの眉間に皺が寄っていく。
しばらく黙々と咀嚼していた小日向さんが飲み込むと、すぐに口を開いた。
「これなに」
「コーンポタージュ味のグミ!」
美月さんが、何とも言えない顔になった。
小日向さんはさらに苦々しそうな顔をして小さく呟く。
「また変なの買ってきたんだ」
「あ、これが……」
思わず声が出た。
初めて一緒に休憩した時、雨宮さんが言っていた。
変なお菓子を持ってくるのは、大体この二人だと。
夏希さんは、美味しそうと思って買ったら外れるだけだと説明していた。
なるほど。
実物が来ると、よく分かる。
「真琴、何を納得したの?」
夏希さんに見られて、私は笑いながら首を振った。
「前に、お菓子の話をしていた時の、雨宮さんの言葉を思い出して……」
「あぁ……でもこれで分かったでしょ?」
「……っ、でもこれ、本当に美味しそうだと思ったんだって!」
「それも聞きました」
小日向さんが吹き出した。
美月さんも、タオルで口元を隠している。
「真琴ちゃん的には、美味しかった?」
答えようとして、少し迷った。
食べられないわけではない。
すごく嫌な味だったかと言われると、そこまででもない。
ただ、もう一つ取りたいかと聞かれたら、手は止まる。
「……もう一個は、少し考えます」
「分かる!」
夏希さんが、勢いよく頷いた。
「そうなんだよね!まずいって言い切るほどじゃないんだけど、もう一個いくかっていうと……」
開いた袋を覗き、しばらく黙る。
その真剣な顔がおかしくて、また笑ってしまった。
「まだ結構ありますね」
「あるんだよね」
「買ったんだもんね」
小日向さんが言った。
夏希さんは顔を上げ、美月さんへ袋を向ける。
「美月ももう一個どう?」
「いやぁ……私はもういいかなぁ」
「何個か食べれば意外と好きになるかもしれないじゃん!」
「既に好きじゃないかなと思ったからこういう反応なんだけど」
美月さんは笑いながら、袋をそっと夏希さんの方へ押し戻した。
「私も今はいいや」
「そっかー」
夏希さんはあっさり引っ込め、もう一度袋の表を見る。
私も隣から見た。
期間限定、と書いてあった。
確かに、いつでもある味ではなさそうだ。
「普通の味と、これとで迷ったんだよね」
「そこでこっちを選んだんですか」
「今しかないって思って!」
「それは……見事に期間限定商法に乗せられてますね」
言ったあとで、少し言いすぎたかと思った。
けれど、夏希さんは声を上げて笑った。
「それ、買う前の私にも言って!」
小日向さんも、美月さんも笑っていた。
私もつられて笑う。
お菓子を一粒食べただけなのに、ずいぶん話すことがあった。
夏希さんは袋の口を閉じ、飲み物を取った。
私も自分のボトルを持ち上げる。
「……次は、先に何味か教えてくださいね」
「えー、当てるのも面白くない?」
「こういうのだと、当たってもちょっと困ります」
「でも、コーンなのは分かった?」
「それは、分かりましたけど」
「じゃあ、半分正解!」
何に正解したんだろう。
そう思いながら隣を見ると、夏希さんがまだ楽しそうに笑っていたので、私もまた笑ってしまった。
————
休憩のあとは、足の動きに腕を少し足して練習した。
考えるものが増えた分、また遅れるところもあった。
そのたびに高瀬先生に止めてもらい、必要なところだけ戻して確かめる。
ただ、右へ移る時に何を確かめるのかは、休憩の前よりはっきりしていた。
夏希さんも、隣で見本を見せる時は少しゆっくり動いてくれるようになった。
少しだけ。
途中から速くなって、高瀬先生に声をかけられることはあった。
レッスンが終わってから、ノートを開いた。
家でつけた疑問符の下に、今日確かめたことを書き足す。
片方へ乗った時、反対の足が軽くなる。
ゆっくりなら、続けても確かめられた。
腕をつけると、まだ足が遅れる。
その横へ、小さく書く。
すとん。
「それも書いたんだ!」
顔を上げると、鞄を持った夏希さんが隣にいた。
「はい。あくまで感覚の参考にですけど。少しなら理解できたので」
「でしょ!」
嬉しそうに言ってから、私の書いたところをもう一度見る。
「……説明、結構長いね」
「すとんだけだと、後で困りそうなので」
「そこまで一緒に覚えとけばいいじゃん!」
「それができたら苦労しないんです」
少し間があって、夏希さんが笑った。
「そっか!じゃあ、分かんなくなったらまた聞いて!」
「はい。今度は最初からゆっくりお願いしたいです」
「善処する!」
「善処……期待薄なのでは……?」
「そんなことないけど!?」
返事の勢いは、最初と同じだった。
ノートを閉じる。
今日教わったことは、また家で読み返して整理しよう。