TS少女は演じたい   作:息抜き

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57話

九月一日、火曜日。

 

弁当箱の蓋を開けたところで、向かいに座っていた由佳がスマホを持ち上げた。

 

「あ、出た」

 

「何が?」

 

「二周年の写真」

 

こちらへ向けられた画面に、六人が並んでいた。

白い背景の前で、二周年を祝うボードを囲んでいる。

一番端の夏希は、顔の横で大きく指を二本立てていた。

その隣の私も、同じように二本。

ただ、夏希ほど高くは上げていない。

 

「真琴、ちょっと遠慮してる?」

 

「何が?」

 

「ピースの位置」

 

「……これ、二周年の二のつもりだったんだけど」

 

「夏希ちゃんの方は、すごく二周年って感じ」

 

見比べると、確かに私の二だけ少し小さかった。

撮る時には、指の高さまで気にしていなかったと思う。

 

今日で、Lumière Paletteはデビュー二周年。

由佳が見せてくれた投稿には、これまで応援してくれた人へのお礼と、三年目もよろしくお願いしますという言葉と、今夜七時からの記念生放送について書いてあった。

 

写真は、先に撮っておいたものだった。

確認用に見せてもらった時にも、自分がいることは分かっていた。

でも、こうして公式の投稿として出てくると、また少し違って見える。

五人の二周年を祝う写真に、私も入っている。

撮った時は、まだ加入一か月の私が二周年のお祝いというのに気が引けたのをよく覚えている。

 

「真琴は、一か月?」

 

由佳が聞いた。

 

「うん。今日でちょうど」

 

「一か月で、結構いろんなことしてない?」

 

「……したと思う」

 

ライブに出て、レコーディングをして、取材を受けた。

ドラマの撮影にも行ったし、MVも撮った。

その間に練習があって、学校も始まった。

何から順番に思い出すか考えているうちに、由佳が画面を少し拡大した。

 

「この顔は……真琴、もしかして笑わされたりしてた?」

 

「どういうこと?」

 

「真琴の表情。明らかに緩んでるし、隣の夏希ちゃんに何か言われた?」

 

私は写真へ顔を近づけた。

カメラには向いているけれど、口元が少しだけ緩んでいる。

 

「撮る直前に、二周年だから両手でやったら四周年に見えたりしないかな、とか言われて」

 

「あー、言いそう」

 

「それに美月が、じゃあ六人でやったらあわせて何周年?って言い始めて、その途中で撮られた」

 

由佳が笑った。

小さな生徒指導室の中には、冷房の音がしていた。

昨日と同じように職員室で声をかけ、開けてもらった部屋だ。

向かいの椅子も、窓の薄いカーテンも変わっていない。

今日は、座ってすぐに弁当を開けられた。

 

「今日の配信、真琴も最初から出るんだよね」

 

「うん」

 

「緊張してる?」

 

「……結構」

 

「してるんだ」

 

頷いてから、卵焼きを一つ口へ入れた。

飲み込むまで、由佳は自分の弁当を食べていた。

 

「この前の動画とは違うし。間違えたところを、あとで切ってもらえないから」

 

「昨日のやつ、切ってほしいところあった?」

 

「今は、そういう話じゃなくて」

 

由佳の口元が上がった。

昨夜公開された三番勝負の動画は、私も完成した時に確認で見ている。

映画館で買うものを揃える問題で、一人だけパンフレットと書いていたところまで、しっかり使われていた。

 

「私は、パンフレットでもよかったと思うよ」

 

「その言い方、思ってないでしょ」

 

「買ってるの知ってるし。真琴らしいなって」

 

「……由佳も買うのに」

 

「私は、あの二人と合わせるならポップコーンって書く」

 

「見てる側ならなんとでも言えるんだよ」

 

由佳が笑いながら水筒を開ける。

 

「今日は何するの?」

 

「昔の映像を見たり、二周年の話をしたり。初めて出すものもあるって」

 

言ってから、そこで止めた。

由佳も、それ以上は聞かなかった。

 

「じゃあ、見てのお楽しみね」

 

「うん」

 

「七時までに、やること終わらせとこう」

 

「受験勉強?」

 

「そう。今日は先にやる」

 

「今日は?」

 

「いつもやってないみたいに言ってくれるじゃないですか真琴さん……」

 

「やってないとは思ってないけど、脱線はしてるよなと思って」

 

私が笑うと、由佳も肩を揺らした。

スマホの画面が暗くなった。

箸を持ち直し、残っていたご飯を食べる。

午後の授業が終わってから、事務所へ行く。

今日は、夜七時にはカメラの前にいることになる。

 

————

 

帰りのホームルームが終わると、鞄を机の横から持ち上げた。

教科書は、もう入れてある。

最後に配られたプリントをファイルへ挟み、机の中へ手を入れて確かめる。

何も残っていなかった。

 

「真琴、随分早いね」

 

由佳がまだ筆箱をしまっているところで、私は立ち上がっていた。

 

「準備もあるから。早めに行っておきたくて」

 

「そっか。気をつけてね」

 

「ありがと。また明日」

 

教室の後ろへ向かうと、近くにいた女子が顔を上げた。

 

「今日、生配信だっけ?」

 

「うん」

 

「頑張ってね。見れたら見る」

 

「ありがとう」

 

廊下へ出かけたところで、今度は窓の方から声が来た。

 

「白瀬さん、今日の、見るから!」

 

西野くんだった。

彼が持っている鞄には、美月のキーホルダーが付いている。

今まであまり意識はしていなかったけど、それだけで彼がルミパレファンなのは分かった。

隣の岸本くんが、何か言いながらその肩を軽く叩いている。

 

「……うん。ありがとう。頑張る」

 

「頑張れー」

 

誰の声か確かめる前に、後ろで由佳も手を振った。

私も小さく振り返し、廊下へ出る。

時計を見れば、予定していた電車には十分間に合う時間だった。

それでも、足はいつもより速くなった。

遅れそうだからではない。

着いてから慌てることを、できるだけ減らしておきたかった。

 

————

 

FOLIOへ着いたのは、集合時間より二十分ほど早かった。

 

「おはようございます」

 

控室の入口で声をかけると、早川さんが手元の時計を見た。

 

「おはようございます。早かったですね」

 

「はい。授業が終わって、すぐ来たので」

 

「では、先に荷物を置いてください。支度までは、少し休んでいて大丈夫ですよ」

 

椅子へ座って、水を飲んだ。

鞄から今日の進行表を出す。

何度か読んだ紙だったけれど、もう一度最初から目を通した。

挨拶。二周年の振り返り。映像とトーク。コメント紹介。

後半には、囲み線のついた項目がある。

 

「あれ、真琴。もう来たんだ」

 

入口から、ひより先輩の声がした。

顔を上げると、自分の進行表を片手に立っていた。

 

「はい。直前で慌てたりしないように、急いできました」

 

「本番直前は慌ててなくても、移動はだいぶ慌ただしかったっぽいね」

 

先輩は笑いながら隣の椅子へ鞄を置き、水を取り出した。

私は紙を膝へ下ろす。

 

「——生配信って、話すことがなくなったりしないんですか」

 

「六人いるから、全員が同時になくなることは、あんまりないと思う」

 

「そうなんですか?」

 

「進行はいつも通り玲奈さんだから。止まっても、玲奈さんが次に進めてくれるし。真琴も、何か聞きたくなったらなんでも聞いたりすればいいよ」

 

「途中でも?」

 

「うん。誰かが話し終わったタイミングで」

 

言われてみれば、普段と同じだった。

それをカメラの前でやることが、まだ少し難しい。

 

「それって、同時に話し出しちゃったりしないんですか?」

 

「それはそれで面白くない?」

 

「……そういうものですか?」

 

「そういうものだよ。全員固まって喋れなくなったら空気凍るだろうけど、私たち、結構慣れてるからそうはならないし。その辺りは心配しなくていいよ」

 

「なるほど……」

 

そう納得していると、少しして美月と夏希が来て、控室の中が賑やかになった。

玲奈さんはスタッフの人と映像の区切りを確認し、澪先輩は渡された紙を一枚めくっている。

私は衣装へ着替え、髪とメイクを整えてもらった。

今日の服は、座って話すために用意されたものだった。

舞台の衣装ほど身体にぴったりしていなくて、袖口にも少し余裕がある。

それでも、制服から着替えると、いよいよという感じがしてくる。

 

配信をする部屋に入ると、いつもの収録より机の上の機材が多かった。

六人分の椅子の前には低いテーブルがあり、カメラのそばにモニターが二つ並んでいる。

片方には、まだ誰も座っていない椅子が映っていた。

もう片方には、短い文字がいくつか出ている。

 

「配信中、視聴者の方のコメントは、こちらに出します」

 

スタッフの人が説明してくれた。

 

「視聴者の画面に流れるものが、そのままここへ出るわけではありません。自動の確認と、担当者の確認を通したものをお見せします。少し遅れて届くので、話した直後の反応ではない点に注意してください」

 

私は、文字の並んだ画面を見た。

今出ているのは、表示の大きさを確かめるためのテストだった。

 

「コメントは、全部読もうとしなくても大丈夫です。気になるものがあれば拾ってください。進行の合図は、その横から出します」

 

「分かりました」

 

「話してる最中に、少し前の話に戻っても大丈夫だからね」

 

美月が自分の椅子へ座った。

 

「コメント見て、あ、それ答えたかった、ってなることもあるし」

 

私も隣へ座る。

反対側にはひより先輩が来た。

マイクを確かめ、六人で声を出す。

カメラへ向く場所と、映像を見る時の画面を教えてもらった。

全部を覚えようとすると、目を動かす先だけでいくつもある。

 

「真琴、まだ確認してるだけだから」

 

玲奈さんが笑った。

 

「そんなに緊張して正面を向いていなくても大丈夫よ」

 

「……はい」

 

顔を戻すと、夏希がこちらを見ていた。

 

「真琴、肩の力抜いて。私の誕生日配信も見てたでしょ?あれくらい気楽にやればいいんだよ」

 

「……あれくらいって、ペンギンを出したり、『皆さんご存知の桜庭夏希です!』って挨拶したり?」

 

「いや、そこまで真似しなくていいから!」

 

「……参考にしていいって言ったのに」

 

「そうじゃなくて!もっと普通に、楽しく話せばいいってこと!」

 

夏希が笑い、美月も隣で吹き出した。

 

「今みたいな感じでいいんだよ。ほら、普通に話せてるじゃん」

 

「……確かに」

 

言われて初めて、いつもの調子で夏希に返事をしていたことに気づいた。

私も少し笑う。

ようやく、肩の位置を少し下げられた。

 

————

 

軽く食事を済ませて、もう一度席へ戻る頃には、七時が近づいていた。

進行表はテーブルの端に置いた。

今夜流す昔の映像は、五人とスタッフの人たちが確認して、公開する部分を決めている。

私は区切りだけ聞いていて、中身の大半は初めて見ることになる。

後半に出す練習映像だけは、私も確認に加わっていた。

 

「あと一分です」

 

声を聞いて、背筋を伸ばした。

美月が袖口を直し、ひより先輩が水の蓋を閉める。

玲奈さんはカメラの向こうを見て、短く頷いた。

私も、膝の上で重ねていた手をほどいた。

ライブの時ほどではないけど、指先が、少し冷たかった。

カウントの声が小さくなり、最後は指だけになる。

赤いランプがついた。

 

「皆さん、こんばんは。ルミパレLIVE ROOM、今夜はデビュー二周年記念の特別配信です」

 

玲奈さんの声に続き、六人で挨拶をした。

自分の名前を言うところで、一度だけ息を吸い直す。

 

「白瀬真琴です。今日は、よろしくお願いします」

 

美月に続いて手を振ると、画面の中の私も手を振っていた。

こちらの姿はすぐに見えるのに、コメントの方には、まだ始まる前の言葉が出ている。

 

『待ってました』

 

『二周年おめでとう!』

 

『六人の記念写真めちゃくちゃよかった』

 

「今日、九月一日は、私たちLumière Paletteがデビューして、ちょうど二年になる日です。二年前の今日、私たちは五人で初めてステージに立ちました」

 

玲奈さんが、隣のメンバーたちへ目を向ける。

 

「それから二年。今年の八月には真琴が加わって、六人になりました。こうして新しいメンバーと一緒に二周年を迎えられることを、とても嬉しく思っています」

 

そこで、玲奈さんが私の方へ顔を向けた。

 

「そして、真琴にとっては今日が初めての生配信でもあるのよね」

 

「……はい」

 

「まずは、今の気持ちを聞いてみましょうか」

 

五人の顔がこちらへ向いた。

分かっていたはずなのに、少し膝へ力が入る。

 

「今、カメラと皆さんとコメント、どこをどのくらい見ればいいのか迷ってます。全部見ようとすると、全部中途半端になって……」

 

「分かる!私も最初、ずっとコメント追いかけてた」

 

美月が頷いた。

 

「美月は全部に反応しようとして、しっちゃかめっちゃかになってたよね」

 

ひより先輩が言う。

 

「だって、せっかく書いてくれたんだから、お礼も言いたいじゃないですか!」

 

「気持ちは分かるけれど、進行もしないといけないからね」

 

玲奈さんの返事に、夏希が笑った。

私もつられて笑う。

その頃になって、画面に『真琴ちゃんこんばんは』と出た。

 

「……こんばんは」

 

もう一度、カメラへ手を上げる。

 

「今、挨拶への返事が来ましたね」

 

「そう。ちょっと後から来るんだよね」

 

美月も画面を見ていた。

さっきの私の挨拶が、少し遅れて返ってきた。

教えてもらってはいたけれど、実際に見ると面白かった。

 

「さて、今日はデビューしてからの二年間だけでなく、その前の映像も用意していただいています」

 

玲奈さんが言うと、夏希が早くも笑った。

 

「これ、結構前まで戻るんだよね」

 

「まだグループの名前がなかった頃から振り返るらしいです」

 

ひより先輩が答える。

正面の画面が切り替わった。

 

『2023年9月』

 

白い文字のあとに、レッスン室が映った。

床のテープと、壁際の荷物。

今より少し幼いひより先輩が、一人で立っている。

音楽に合わせて動き始めたものの、途中で一度止まり、鏡を確認した。

もう一度最初から踊り、今度は最後まで動ききる。

 

「懐かしいなぁ」

 

隣でひより先輩が声を上げた。

 

「この頃は、まだよく間違えてたんだよね」

 

映像が止まる。

 

「……最初、ひより先輩一人だけだったんですか?」

 

「うん。このプロジェクトでは私が最初だったから。基礎レッスンはほかの新人の子とも受けてたけどね」

 

「そうだったんですね……五人で練習している頃の映像は見たことがありましたけど、もっと前のものは初めてです」

 

「この頃はまだ、何人になるのかも、グループの名前も決まってなかったからね」

 

私はもう一度画面を見た。

今では当たり前のように隣にいる四人も、この頃はまだ集まっていなかった。

 

「……そういえば、ひより先輩は、どうやってFOLIOに入ったんですか?」

 

「私?最初はオーディションを受けたんだよ」

 

「オーディションだったんですか?」

 

「うん。FOLIOが神奈川でやってた、新人を探すオーディション」

 

「ルミパレのメンバーを直接募集していたわけではなかったのよね」

 

玲奈さんが付け足した。

 

「そう。歌やダンスなんかも含めて、これから芸能活動をする新人を探すものだったんだよ」

 

「へえ……じゃあ、そこからグループの話に繋がったんですね」

 

「うん。でも、そもそも受けたのも友達に誘われたからなんだけどね」

 

「……え?」

 

思っていたのと違う答えだった。

 

「友達が、一人で受けるのは嫌だから一緒に受けてほしいって。それで、一回くらいならいいかなと思って」

 

「じゃあ、付き添いみたいな感じだったんですか?」

 

「気持ちとしてはね。でも、私もちゃんと応募して、審査は受けたよ」

 

「ひよりちゃんが友達に誘われて受けたって、私も最初はびっくりしたんだよね」

 

夏希が笑う。

 

「だって、一番最初からいたんでしょ?もっと、絶対受かりたいって感じだったのかと思うじゃん」

 

「……それは私もちょっと思いました」

 

ひより先輩が小さく笑った。

 

「そんなことなかったよ。友達は最初の審査で落ちちゃって、私だけ次に進むことになったし」

 

「そうだったんですか」

 

「私もやめようかと思ったけど、せっかく残ったんだから行ってきなよって言われて。それで、どこまでできるのか試してみようかなって」

 

「じゃあ、その時は、アイドルになりたいと思っていたわけでは……?」

 

「そこまでは考えてなかったかな。最終面接でも久世さんに聞かれたけど、分かりませんって答えたし」

 

「……分かりませんって、言ったんですか?」

 

「うん。本当に分からなかったから」

 

「ひよりちゃん、正直すぎない?」

 

夏希が笑う。

 

「だって、そうだったんだもん」

 

私も少し笑ってしまった。

 

「でも、レッスンを始めたら面白かったんだよね。最初はできなかったことも、練習すると少しずつできるようになるでしょ」

 

ひより先輩が画面を指した。

 

「さっきのも、一回止まったけど、次は最後までできてたし。ああいうのが嬉しくて、また頑張ろうって思うようになったのかな」

 

私は頷いた。

最初から大きな目標があったわけではなく、できることが増えていくのが楽しかったらしい。

 

「それに、ずっと一人だったわけじゃないからね」

 

ひより先輩が玲奈さんを見る。

 

「そうね。私が入ったのは、その次の月だったもの」

 

その頃、コメントにも反応が並び始めた。

 

『ひよりちゃん一人の時期あったんだ』

 

『友達が誘ってくれてよかった』

 

『最初アイドル志望じゃなかったの意外』

 

それを見て、ひより先輩が楽しそうに笑った。

 

「友達には、今でもその時の話をされるんだよね。……それで、少ししてから玲奈さんが来てくれて、練習も結構変わったよ」

 

「ええ。最初は二人で動きを合わせるだけでも大変だったわね」

 

ちょうど次の映像へ切り替わった。

 

『2023年10月』

 

レッスン室に、今度は二人が立っている。

玲奈さんがひより先輩へ床の位置を説明し、二人で動き始めたところで、最初の一歩がずれた。

 

「ああ、これね。私が先に出すぎたのよね」

 

玲奈さんが額に指を当てた。

 

「説明してたのは玲奈さんなのに」

 

ひより先輩が笑う。

 

「説明できるかと、身体がその通りに動くかは別だって、よく分かったわ」

 

「玲奈さんも、オーディションですか?」

 

「ええ。私はFOLIOの新人募集を見て、自分で応募したの」

 

「あ、新人募集だったんですね。私の友達も、そうやってFOLIOに応募したって言ってました」

 

彩花のことが頭に浮かんだ。

目指していた仕事は違うけど、同じようなところから始まっていたらしい。

 

「そうなのね。私は、学校で発表をしたり、行事の進行をしたりするのが好きだったから。そういうことを学校の外でも活かせるのか、試してみたかったの」

 

「司会のお仕事をしたかったんですか?」

 

「そこまで絞っていたわけではないわね。だから、グループの話をいただいた時は驚いたけれど、やってみたいとも思ったの」

 

「玲奈さんが来てから、二人で練習するのも楽しかったよね」

 

ひより先輩が言った。

 

「私も楽しかったわ。でも、最初はひよりについていくのに結構必死だったのよ」

 

「そうだった?」

 

「ひよりは先にレッスンを始めていたでしょう。私はほとんど初めてだったし」

 

「私も、誰かと動きを合わせるのは初めてだったから。さっきの映像も二人でずれてたしね」

 

「そうね。私が先に動いて、ひよりまでつられてしまって」

 

二人が笑う。

 

「でも、練習していくうちに少しずつ合わせられるようになって。グループで何かを作るのも面白そうだと思ったの」

 

画面の中では、二人が並んで水を飲んでいた。

今よりも、少し距離を空けて座っている。

 

「あ、この頃の玲奈さんって、すごく落ち着いてたよね」

 

「そう見えてた?私も結構緊張していたのよ」

 

「そうだったんだ」

 

「ひよりについていけるか心配だったから」

 

「……実は、私も緊張してた。初めて一緒に練習する人が来たから、ちゃんと話せるかなって」

 

「それなら、お互い様だったのね」

 

玲奈さんが笑う。

 

「今だったら、あんなに離れて座らないわね」

 

「うん。もうちょっと近いと思う」

 

私も画面を見ながら笑った。

二人の間にあった距離も、今とは少し違っていたらしい。

 

十一月の映像になると、澪先輩が加わった。

三人で立つ場面のあと、澪先輩が歌っている短い映像へ変わる。

今より少し細い声だったけれど、伸びていく音には聞き覚えがあった。

 

「この時、すごい人が来たって思った」

 

ひより先輩が言った。

 

「うん。歌っている間はね」

 

玲奈さんが続ける。

 

「そこだけ?」

 

澪先輩の言葉と一緒に、映像が切り替わった。

 

今度は三人で移動の練習をしている。

澪先輩だけが少し遅れ、ひより先輩の位置を見てから足を出した。

近づきすぎて、一歩戻る。

 

「……私も、これやりました」

 

「ひよりを見てたら、足が止まるやつ?」

 

「はい。場所を確かめてる間に遅れて」

 

「……あの時、歌より足のこと考えてた」

 

澪先輩が少し笑った。

 

「澪先輩は、どういうきっかけでFOLIOに入ったんですか?」

 

「私もオーディション。京都から、歌を中心に審査する新人募集を受けに来た」

 

「京都からだったんですね」

 

「うん。歌はずっと好きだったけど、仕事にできる力があるのか、一度見てもらいたくて」

 

「それで、ルミパレの話があったんですか?」

 

「そう。グループで歌うって聞いて、ほかの人と声を重ねるのも面白そうだなって思った」

 

澪先輩は少し笑った。

 

「でも、ダンスもやるんだ、とは思った」

 

「思っただけ?」

 

夏希が聞く。

 

「ちょっと困った」

 

「ちょっと……?」

 

澪先輩が画面の自分を見た。

 

「……映像だと、結構困ってる」

 

私も笑った。

画面の澪先輩は、何度も立ち位置を確かめながら動いていた。

 

「それでも、やってみたいって思ったんですか?」

 

「声を重ねた時に、一人とは違ったから。自分が歌ってないところも、誰かの声で曲が続いてるのが面白かった」

 

澪先輩は玲奈さんの方を見た。

 

「最初に三人で歌を合わせた時、玲奈が入るところで一回止まった」

 

「ああ、あったわね。澪の歌を聴いていたら、自分の番が来てしまって」

 

「私、何か間違えたのかと思った」

 

「あの時は聴く方に夢中になっちゃったのよね」

 

「でも、何回か合わせたら、ちゃんと声が重なって」

 

「ええ。あれは嬉しかったわ」

 

二人が笑い合う。

 

十二月になると、夏希が加わった。

 

「うわ、髪、短い」

 

夏希が自分の髪へ触れた。

 

「今も短いけど」

 

「確かに、今よりだいぶ短かったね」

 

美月が笑う。

画面の夏希は、お手本を見てすぐに同じように動き始めた。

腕を伸ばし、向きを変え、ぴたりと止まる。

 

「……すごい」

 

「これくらいは、ずっとやってたから。でも、三人と合わせると結構はみ出したんだよね」

 

次の映像では、四人が並んでいる。

夏希だけ腕の動きが大きく、戻る時もほかの三人より身体が遠くまで動いていた。

 

「一人なら気持ちいいんだけどね」

 

「隣にも人がいるから」

 

ひより先輩の返事に、夏希が頷く。

 

「そう。ひよりちゃんの場所を見て、私ここまでなんだって覚えたりしてた」

 

「夏希は、ダンスのオーディション?」

 

首を振られた。

 

「スクールの発表会を見に来てた人が、声かけてくれた。高瀬先生もいたんだって」

 

「発表会に?……つまりスカウト?」

 

「うん。スクールの先生から話が来て、親と一緒に説明を聞いたの。そのあと、ここで踊ったり、三人と練習したりして」

 

「歌もやるって聞いた時は?」

 

「練習すればいいのかなって」

 

迷いのない返事だった。

 

「本当に、最初からそう言ってた」

 

澪先輩が笑う。

 

「だって、踊れるならやってみたかったし。歌ができないからやめます、だと、やる前に終わっちゃうじゃん。歌は全然だったよ。先生とか澪ちゃんに何回も聞いたし」

 

「でも、分からないってすぐ言ってくれたから、教えやすかった」

 

「分からないままやったら、もっと分からなくなるからね」

 

少し得意そうな夏希に、玲奈さんが笑った。

私は、普段の練習で夏希から何度も言われる言葉を思い出した。

もう一回やってみよう。

次ならできる。

あの調子は、最初からあまり変わっていなかったらしい。

 

そして、画面の日付が二〇二四年二月になった。

四人が立っていた場所に、美月がいる。

笑って頭を下げ、顔を上げてからもう一度下げた。

 

「二回、挨拶してる」

 

私が言うと、美月が口元を押さえた。

 

「緊張してたんだよ」

 

「そうなの?」

 

「するよ!四人がもう一緒にいるところに入るんだから!真琴なら私の気持ち分かるでしょ!?」

 

「私は五人の人気もあるところに来たから、もっと緊張してた気はするけど……まあ、分かる」

 

映像の美月が、ひより先輩の隣へ立った。

音楽が始まると、最初の足を逆に出してしまい、そのあとの腕の動きも遅れた。

 

「ああ、そこから全部遅くなるやつ」

 

美月が懐かしそうに言った。

 

「最初、本当に覚えられなかったんだよね」

 

「美月は、読モやってたんだっけ?」

 

「うん。中学の時に少し。写真を撮ってもらうのは好きだったけど、それ以外のこともやってみたくて、FOLIOの新人募集を受けたんだ」

 

「歌やダンスも?」

 

「ううん、ほとんど初めて。だから、最初は全然ついていけなくて」

 

「美月、よくひよりちゃんと居残りしてたもんね」

 

夏希が笑った。

 

「そう!ひより先輩には、本当にいっぱい付き合ってもらいました」

 

美月が、隣の私を越えてひより先輩を見る。

 

「……美月がひより先輩にいつもくっついてるのって、その頃から?」

 

「そう!最初は練習を見てもらってたんだけど、一緒にいるのが楽しくなっちゃって」

 

「美月、今でもひよりちゃんにべったりだもんね」

 

「だって、ひより先輩、滅茶苦茶頼りになるんですもん!私の心が折れそうになった時に声をかけてくれて、一緒に遅い時間まで残ってくれて!……練習は優しくなかったですけど」

 

「そこを優しくしたら意味ないしね」

 

ひより先輩が笑った。

 

「……なるほど」

 

私も笑いながら、画面へ目を戻した。

 

三月の短い映像で、五人が並んで、決まったばかりのグループ名を言う。

最初の声が少しばらばらで、言い終えたあと、全員が笑った。

そこで映像がいったん終わり、正面の画面に今の六人が戻ってきた。

私は隣の美月を見て、それから、反対側の四人を見た。

 

「……あの」

 

「うん?」

 

ひより先輩がこちらを向く。

 

「皆、最初からアイドルになろうと思って、FOLIOに来たわけじゃなかったんですね」

 

五人が顔を見合わせた。

 

「今の話だと、そうなるね」

 

澪先輩が答えた。

 

「誰も?」

 

「真琴、そんなにびっくりする?」

 

美月が笑う。

 

「……する。五人ともそうだとは思ってなかった」

 

「でも、真琴もそうじゃん」

 

夏希に言われ、私は少し考えた。

 

「……確かに、そうなんだけど」

 

私だって、最初からアイドルになろうと思ってFOLIOに来たわけではない。

それなのに、五人については、ずっとアイドルを目指してきた人たちなのだと何となく思っていた。

 

「皆は、私が知った時にはもうアイドルとして活動していたから。最初からそれを目指していたんだと思ってました」

 

「なるほどね」

 

玲奈さんが頷いた。

 

「でも、デビューする頃には、この五人でライブがしたいって思ってたよ」

 

夏希が言った。

 

「そこまでに、ずっと一緒に練習してたし」

 

「そうね。最初に応募した時とは、やりたいことも少しずつ変わっていったわね」

 

玲奈さんが続ける。

最初のきっかけは、それぞれ違う。

でも、五人は一緒に練習を重ね、このグループでデビューすることを選んだ。

私も、六人でステージに立ちたいと思って、加入を決めた。

 

「それにしても、今日初めて知りました。皆さんがどうやって集まったのか」

 

「こうして加入の経緯を話すこと自体、初めてだしね」

 

ひより先輩が答えた。

 

「そうだったんですか?」

 

「うん。今までは話してなかったし、今回の加入前の映像も初公開だから」

 

「じゃあ、ファンの方たちも、今日初めて知ったんですね」

 

「そういうこと!」

 

美月が笑うと同時に、映像が切り替わった。

 

 

 

そこから先は、五人で歩いてきた時間だった。

二〇二四年九月一日のデビュー公演。

今より近くに客席が見えるステージで、五人が『はじまりのパレット』を歌っていた。

続いて、初めてのワンマン。

翌年の春のライブ。

一周年を迎えたステージ。

画面の中で衣装が変わり、客席の奥行きが変わっていく。

曲の合間に話す五人の顔からも、少しずつ力が抜けていた。

今年の春のツアーでは、会場ごとの挨拶が短く繋がれた。

夏希が、舞台袖から出る直前に大きく手を振っている。

その次の場面では、澪先輩がステージの中央で歌っていた。

 

六月の『PALETTE OF LIGHT』になると、私は思わず顔を近づけた。

あの幕の横に、初日は私もいた。

翌日は客席に座って、借りたペンライトを握っていた。

画面を見ていると、音だけではない、あの日の広さまで少し戻ってくる。

 

そして、八月八日。

映像の中に、私がいた。

六人で並び、客席へ向かって頭を下げている。

背中を起こすところで、自分の呼吸まで思い出した。

さっきまで、初めて見る昔の映像ばかりだったのに、この場面の前後は知っている。

袖へ戻ってから水を飲んだことも、五人に声をかけられたことも。

そこで映像は終わった。

 

「二年分、こうして見ると、いろいろやってるね」

 

夏希が言った。

 

その時、コメントの画面に新しい言葉が流れてきた。

 

『デビュー公演、現地にいたよ。懐かしい!』

 

「あ、デビュー公演に来てくださった方がいる!」

 

美月がコメントの画面を指した。

 

「ありがとうございます!あの公演、300席しかなかったのに!」

 

「その頃から応援していただけているなんて、本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 

玲奈さんが頷いた。

 

「今もこうして見てくださっている方がいるのね」

 

私は、さっきのデビュー公演の映像を思い返した。

ステージからすぐ近くに見えていた客席。

あの中に、今もこの配信を見ている人がいたらしい。

五人の二年間には、こうして一緒に時間を過ごしてきたファンの人たちもいるのだと思った。

 

「どの公演も、いろんな思い出がある」

 

澪先輩が頷いた。

 

「私、あの頃の話ならまだまだできるよ!」

 

美月が言うと、夏希も頷く。

 

「今日出なかった映像もあるしね」

 

「そう!あの時のリハーサルとか、舞台裏の映像もいっぱいあるんですよ!」

 

「でも、全部話していたら、今夜中には終わらないわね」

 

玲奈さんが時計を見る。

 

「続きは、また別の機会にしましょうか」

 

「あー、そっか。まだこのあともあるもんね」

 

美月が進行表へ目を落とした。

 

「そういうこと。皆さん、また機会があれば、昔の映像も一緒に見ましょうね」

 

玲奈さんがカメラへ向かって言うと、コメントにも楽しみにしているという言葉が並び始めた。

 

そのあとは、スタッフが選んだ質問をいくつか拾った。

昔の衣装の話や、ツアーで印象に残っていること。

一人が答えると、別の人が思い出したことを付け足す。

私も、聞いているうちに自然と笑っていた。

 

『真琴ちゃん、初めての生配信どうですか?』

 

そのコメントを見つけ、カメラへ顔を上げる。

 

「ええと……始まる前は、ずっと緊張してるんじゃないかと思ってたんですけど」

 

隣の二人を見る。

 

「今は、皆の昔の話を聞くのが楽しいです」

 

「最初の方、すごい姿勢よかったもんね」

 

美月が背筋を伸ばしてみせた。

 

「……初めての生放送は、流石に緊張するよ」

 

「今はちゃんと力が抜けたし、いい感じだね」

 

ひより先輩に言われ、コメントの画面を見てから、カメラへ顔を戻した。

さっきまで迷っていた目の動きを、今はほとんど意識していなかった。

 

「……そうみたいです」

 

また笑いが起こった。

 

進行を知らせるボードが上がった。

玲奈さんが頷き、カメラへ向き直る。

 

「さて。今日は二周年なので、最後に、皆さんへ初めてお見せするものがあります」

 

美月が両手を膝の上で揃えた。

夏希も、少し楽しそうな顔になる。

 

「九月二十一日の公演に向けて、今、六人で準備している新曲。その練習風景を、少しだけご覧いただきます」

 

「ただし、今日は歌なし!ダンスの一部分だけだからね!」

 

夏希が付け足す。

スタッフから合図が出て、正面の画面が暗くなった。

 

『Afterglow Note』

 

黒い背景に曲名が浮かぶ。

次に映ったのは、いつものレッスン室だった。

練習着の六人が、床の印に合わせて立っている。

柔らかいギターの音に、ピアノが重なった。

澪先輩が顔を上げる。

それに合わせて玲奈さんが身体の向きを変え、ひより先輩が一歩、場所を移した。

私も次の動きへ向けて重心を動かす。

大きく跳んだり、速く回ったりする振付ではない。

腕を伸ばす速さや、次の人へ顔を向けるタイミング。

小さな動きを六人で揃えていく。

画面の中の私は、少しだけ肩が上がっていた。

このあと、高瀬先生に直してもらったところだ。

隣の美月は、私が顔を上げるのを待ってから、次の方向へ視線を移している。

六人の身体の向きがゆっくり揃い、音が続きかけたところで映像が切れた。

四十秒程度だった。

最後に公演の日付が表示され、画面が今の私たちへ戻る。

 

「……ここで終わりです」

 

玲奈さんが言うと、夏希が笑った。

 

「自分たちは続き知ってるのに、途中で終わると気になるね」

 

「ね!」

 

コメントには、まだ少し前の話題への反応が並んでいた。

映像を見た人たちの言葉が届くまでは、もう少しかかる。

 

「『Afterglow Note』という曲です」

 

澪先輩がカメラへ向かって話し始めた。

 

「今日は歌が入っていませんが、本番では、六人の声が繋がっていくところも聞いてもらいたいです」

 

「ゆっくりした振付だからって、簡単なわけじゃないんだよね」

 

夏希が言った。

 

「待つところで待ちすぎても違うし」

 

「動かない時の表情も、難しいです」

 

私が付け足すと、ひより先輩が頷いた。

 

「そこも、今合わせてるところだね」

 

「はい」

 

曲を最後まで通せるようになってからも、直すところは残っている。

それでも、六人で練習してきた曲が初めて外へ出た。

そう思っていると、美月が画面を指した。

 

「あ、来た!」

 

『新曲!?』

 

『歌なしでここで切るのずるい!』

 

『思ってたよりゆったりした曲だった』

 

『早く歌も聴きたい!』

 

「歌なしでここで切るのずるい、だって!」

 

美月が笑いながら読み上げた。

 

「今日はここまでです」

 

ひより先輩が楽しそうに返す。

 

「続きは二十一日のお楽しみだね!」

 

夏希が言うと、私も頷いた。

 

「是非、二十一日のライブでご覧ください。当日来てくださる方も、配信で視聴してくださる方も、楽しみにしていてください」

 

九月二十一日の二周年記念公演、『Same Sky, New Palette』。

会場と公演の案内が表示され、玲奈さんが改めて紹介した。

続いて、『六つの光』のMVが九日に公開されることも伝える。

最後に、一人ずつ挨拶をした。

五人は、二年間のことをそれぞれの言葉で話した。

私は画面に並ぶお祝いのコメントを見ながら、自分の番を待つ。

最後が、私の番だった。

 

「私は、ルミパレに入って、今日で一か月になります」

 

カメラを見る。

最初ほど、赤いランプは気にならなくなっていた。

 

「今日は、五人がどうやってルミパレに集まったのか、私も初めて知りました。皆さんと一緒に昔の映像を見て、お話を聞けて嬉しかったです」

 

隣のひより先輩が、こちらを見ている。

 

「これから、私も六人でいろんな時間を積み重ねていきたいと思っています。まずは二十一日のライブ、よろしくお願いします」

 

頭を下げる。

玲奈さんが最後の言葉を繋いでくれた。

 

「三年目のLumière Paletteも、よろしくお願いします。今日は、ありがとうございました」

 

六人で手を振った。

 

終了用の画面に切り替わってから、スタッフの声がする。

 

「配信、終了しました。お疲れさまでした」

 

腕を下ろすと、大きく息が出た。

 

「……終わった」

 

美月がこちらを向く。

 

「どうだった?」

 

「……始まる前の方が、長かった気がする」

 

「分かる!」

 

美月が笑った。

時計を見ると、一時間以上が過ぎていた。

ひより先輩は水を飲み、夏希はスタッフの人へ昔の映像をまた見られるか尋ねている。

澪先輩と玲奈さんは、最初に二人で練習した頃のことをまだ話していた。

 

————

 

帰りの電車で、空いている席に座った。

家へ帰る時間を母に送り、それから由佳のメッセージを開く。

 

『見たよ。お疲れ!』

 

続けて、もう一つ。

 

『真琴、いい聞き役だったね』

 

『ありがとう。そうだった?』

 

『ひよりちゃんの映像から、どうやってFOLIOに入ったのか聞いてたでしょ。あれで他の皆の話にも自然に繋がったし』

 

言われて、一人で練習していたひより先輩の姿を思い出す。

 

『本当に気になったんだよね』

 

『うん、伝わった』

 

すぐに次の返事が来た。

 

『あと「誰も?」って時の顔、すごかった』

 

『そこも見てたの』

 

『生配信だからね』

 

『……そうだった』

 

『今日いちばん目が丸かったと思う』

 

『五人ともそうだとは思わなかったから』

 

『面白かったからよし。配信の方のコメントも真琴と同じような感想多かったし』

 

『絶対面白がってるでしょ』

 

『ちょっとだけね』

 

私は画面を見ながら笑った。

 

『ところで、昨日言ってた映画、最後まで見てほしいんだけど』

 

『急に戻ったね』

 

『感想話すの我慢してたから』

 

『電車で暇だから、由佳のお話に付き合ってあげましょう』

 

『上から来るねぇ。嬉しいけど』

 

窓の外を見る。

降りる駅は、まだだいぶ先だった。

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