半端者はシャーレの先生になる   作:アビス・アッカーマン

1 / 1

リゼロ見てたら書きたくなりました。

リゼロ要素がかなり強いです。

よろしくお願いします。


半端者はシャーレの先生になる

 

「はぇ〜、このシリーズもう終わっちまうのか。面白かったのにな〜。」

 

まぁ仕方無いか、とは思う。10年以上も、それも信じられないくらいのスパンで出版する作者が異常なだけで、普通はそれくらいの期間があれば完結になるだろう。

 

俺は手に持ったお目当てのラノベ最新刊をかごに入れ、レジに向かう。

 

彼は暁勇気。高校を卒業して社会人になろうとする男の名前。髪を整えていない黒の短髪に、機能性重視の服装、普通以上イケメン以下の顔は周りの人間に溶け込むくらい影が薄かった。

 

とあるキッカケで趣味が読書となり、特に好きなラノベ小説を読むために、俺は毎月近所の本屋へ足を運び、こうして気になった本があれば速攻でかごに入れていた。買った本は200冊を超え、もうそこからは数えようとは思わないくらい金をラノベ小説に落としてきた。

 

面白いものからつまらないものまで。沢山読んできた。

 

手に取った小説をチラ見して、色んな感情を心の中で吐露する。

 

特に面白い小説のシリーズが完結するのはここまで来たかという感慨深い感情と終わってほしくなかったという身勝手な感情が湧き上がる。

 

俺はハッピーエンドが好きだ。主人公が死に物狂いで悲しいヒロイン達を救い、最後は皆笑顔で、大団円でエンディングを迎える。そんなハッピーエンドが。

 

⋯⋯⋯まぁバッドエンドも嫌いじゃないが。

 

そんなくだらない事を思いながら、機械的に自動レジで電子カードを読み込ませ決済を終わらせる。マイバッグに本を詰め込み店を出る。

 

帰ったらすぐに読もう。

 

そう思いながら帰り道を歩こうとした。

 

 

 

なんてことの無い日常だった。起きて、食べて、家族に挨拶をして、本を読んで、風呂に入って、寝て、そしてまた起きる。

 

たとえ社会人になっても、そんな日を過ごせたのだろう。

 

だが、そんな未来は終わりを迎えた。

 

 

店を出た、その瞬間。

 

 

 

 

 

「先生!起きてください、先生!」

 

「は?」

 

一瞬景色は変わった。まるで自分が別の場所へ瞬間移動したかのように。

 

さっき目に映っていた景色は駐車場とその向こうの道路で自動車が行き交っていたのに。

 

それが全て無かった。何も無かった。今映っているのは、だだっ広い部屋特有の高い天井と俺の顔を覗くように見る眼鏡を掛けた超絶美女の姿だった。

 

「へ?」

 

気が動転する。意味が分からない。なんで?という疑問が頭を埋め尽くす。

 

というかこの視点まさか!?

 

「うわぁ!?」

 

突然変わった景色でしかも最初は立っていたのもあって後ろに転んだのかと思って手足をジタバタしてしまう、が。背中から来る衝撃も、宙を舞うような浮遊感も無かった。何故ならソファの上で寝そべっていたから。俺はただただみっともない姿を晒すだけだった。

 

「何しているんですか先生?」

 

グハァ!

 

バカを見る目で俺を見つめる女性の目線は俺の人生の中で一番の傷を負わせた。

 

いやしょうがねぇじゃん!だっていきなり景色が変わってたんだぞ!?それにさっきまで立ってたのに、まさかソファに寝そべっているなんて思わねぇじゃん!ていうかマジでここどこ!?

 

心の中で醜い言い訳を並べていると女性は見せつけるように深い溜め息を漏らして、空気を切り替えた。

 

「⋯⋯⋯⋯全く、この一大事に⋯⋯⋯⋯⋯まぁいいです。事態は一刻を争いますのでひとまず自己紹介を。」

 

理性的な美貌に白を基調とした制服、妄想の中でしか無いエルフ耳と眼鏡、そして天使のような輪っかが見事に調和して幻想的な印象を受ける少女が自己紹介をした。

 

「私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。⋯⋯⋯先生、ともかく移動しましょう。先程も言った通り事態は一刻を争うので。」

 

「その前に質問していい?」

 

「⋯⋯⋯チ。⋯⋯⋯はい何でしょうか?」

 

おい待て今舌打ちか?いやそんな事はどうでもいい!今はそれより⋯⋯⋯!

 

「ここってさぁ。」

 

「はい。」

 

「異世界ってやつ?」

 

「⋯⋯⋯はい?」

 

「だって君の頭の上に天使の輪っかみたいなやつあるし。⋯⋯⋯⋯⋯それに腰に銃があるし。」

 

この質問は大事だ。これによって俺が今後取る選択とか色々影響を受けるのは明白だ。

 

腰にぶら下げている銃が偽物だとは到底思えないくらいに圧があった。本物特有の重厚感もあるし。

 

もし銃がある理由が異世界だというのなら納得がいく。というか納得するしかない。だって日本では刃物持つだけでヤバい奴認定される国だし。

 

これまでの彼女との会話で出てきた『キヴォトス』や『学園都市』、『連邦生徒会』。そういうのは日本では一つも聞いたことがないし存在もしなかった。おそらくここはキヴォトスっていう世界なんだろう。で、そこで何かが起きて俺を先生として召喚。これから一緒に頑張って問題を解決する。妄想だらけだがこれがいっちゃん正しい気がする。焦っていたのも今も事件が起きていてそれの対処に精一杯だからだと思うし。

 

常に妄想の世界に入っている暁が、かつてないほどに頭を回転させる。

 

「リン、悪いがこれだけは答えてくれ。忙しいというのはお前の顔見れば分かる。だけど⋯⋯⋯⋯頼む。」

 

俺の我儘で時間を食わせるのは少し心が痛むがそれだけ大事だということ。

 

俺の必死のお願いにリンは眼鏡の奥で何を思っているのか分からない。けれど彼女は俺の質問に答えてくれた。

 

「⋯⋯⋯⋯そうですね。先生、貴方がこのキヴォトスからではなく外からやって来たというのなら。先生にとってこのキヴォトスは『異世界』と呼ばれるのに相応しいのかもしれませんね。」

 

リンは色々な言葉を考えた上で淡々と発言した。

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

「⋯⋯⋯⋯成る程ね。分かったわ。一応聞くけど元の⋯⋯⋯⋯あぁいやここからキヴォトス外へ行けれるの?」

 

「できなくは無いですがこのキヴォトスの状態ではまともに行けれないでしょう。」

 

ただただ事実を並べるリンを見て、勢いよく立ち上がり、俺は決意した。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯うし!分かった!先生やるわ!」

 

「え?」

 

神妙な顔からいきなり大声を出されて虚を突かれたようなリンは疑問を口にした。

 

「と、突然何を?」

 

「その疑問はご尤もだリン。俺はこの短すぎる時間の間に情報を詰め込みすぎて頭がおかしくなったのかもしれねぇ。」

 

うざったらしい元気な声がこの部屋に響き渡る。しかしその声に反してその目はどこまでも冷静だった。

 

何気ない日常からいきなり異世界へ飛ばされて、やれキヴォトスだのやれ先生だの。連れてこられた身からすればたまったもんじゃない。

 

けれど。

 

「思う所はもちろんある。こっちは事前に説明を受けていないからな。だがな。この状態に見て見ぬ振りをするなんて俺のプライドが許せねぇ。なぁリン。ここに呼び出されたのはこんな俺にしかできないことがあるからなんだろ?」

 

「え、えぇ。先生にしかできない大事な事。それは、そうですね。キヴォトスの命運をかけた大事な事、という事にしておきましょう。」

 

俺の疑問に答えるリンは戸惑いながらもやや曖昧だがお前にしか頼めないと言いたげな顔で言った。

 

「俺はなリン。目の前でとんでないことが起こっていてそれが自分にしか解決できないやつで、助けを求められているのにそれに目を背けて、何気ない元通りの日常に戻ろうとする。そんな『傲慢』な奴は俺が一番許せねぇんだ。」

 

今まで読んできた小説でもそうだった。助けを求めている村人を見て見ぬ振りをする勇者。弱みに付け込んで騙し取ろうとする領主。疑わしいからと粛清し真実から目を背ける為政者達。

 

俺はそういう奴が嫌いなんだ。

 

『傲慢』な、人間が。

 

「決意は固まった。大雑把だが疑問は解消した。この世界で生きていく覚悟も決まった。だからリン。こっちも自己紹介をしようと思う。」

 

マシンガントークのようなこの決意表明はリンの心に届いたのか分からない。けれど、それでも構わない。

 

元の世界に帰れないのかもしれない?

 

認識に差がある?

 

最悪死ぬかもしれない?

 

「俺は暁ユウキ。お前の⋯⋯⋯いや。お前達の先生になった者だ。よろしくなリン。」

 

だから何だというのだ?起こってしまったのはどうしょうもない。過去を変えられないのと同じように、『過去』ばかり目を向けていたら『今』を生きることなんてできはしない。

 

もちろん悲しい気持ちもある。こんな俺を愛してくれた家族や仲の良い友達と会えないのは凄く、悲しいしツライ。

 

後悔もある。もう二度と新しい小説や楽しみにしていたシリーズの本を買えないのはショックだし、今後の人生で起きるだろう出来事に立ち会えないのも胸にくるものがある。

 

なにより怖い。もしリンが冗談でこっちに向けて銃を撃とうもんなら俺は死ぬだろう。

 

それでも、手を差し伸べる。

 

暁にあるその決意で固められた眼差しがリンを射抜いた。

 

リンは暁を起こす時から今に至るまでの一瞬だけ振り返る。

 

最初に見せたみっともない姿。

 

状況を飲み込めない顔を前面に出し、疑問で埋め尽くされた様子。

 

そして頭の回転が早く、決意を固めるほどに精神が強いその意志とその目。

 

「なるほど。あの人が指名するわけですね。」

 

「ん?なんか言った?」

 

「いえなんでもありません。こちらこそよろしくお願いします、暁先生」

 

差し伸べられた手を握り返す。

 

これから様々な困難を共に乗り越える為に。

 

その決意に感謝しながら。

 

「キヴォトスへようこそ、暁先生。」

 

 

 

 

 

「それでは暁先生。私に付いてきてください。」

 

「分かった。」

 

部屋を出ていくリンの後を追う。

 

後ろ姿を見て思うのは、「にしても髪が長いな」という純粋な感想だった。

 

美しい黒髪と青髪が表裏に分かれているという珍しすぎるその髪は地面に付くんじゃないかと心配になるくらいだ。日本ではそこまで髪を伸ばす女性はいないと思うし、もしこれがこの世界にとって『普通』の認識だというのなら、そういう文化や認識も含めて受け入れなければいけないだろう。

 

ちなみに買った本は置いていった。あとで読もっかな?

 

そんな事を考えつつリンはエレベーターへ乗り込み、それに続いて俺も乗る。

 

ウィイイイイイインと音を出しながらエレベーターが降下していく。

 

「改めて、キヴォトスへようこそ、暁先生。」

 

「おぉー!!」

 

それは絶景だった。

 

透き通るような青空に、数多くのビル群、真ん中にある美しい大きな川。そして何よりも天まで登る光の柱を中心とした超巨大な円環があった。

 

リンの時点で異世界感が満載だったけど⋯⋯⋯⋯!この景色は本当に!俺は、異世界に来たんだ!

 

わぁああ!とまるで子供のような笑みを浮かべながら景色に食い付く暁を見て、やれやれと肩を竦めつつキヴォトスについて解説していく。

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります。きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが⋯⋯。でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね。」

 

はへぇ〜。キヴォトスって想像以上にデカいところなんだな〜。にしてもその『連邦生徒会長』って人が俺をこの世界に呼び出したと思うんだけど⋯⋯⋯。

 

「なぁリン。その連邦生徒会長ってどこにいるの?話の流れ的にその人が俺を指名して呼び出したんだろ?なんで幹部のお前と一緒に姿見せないんだ?」

 

俺は決してリンは立場に相応しくない存在だとは思えなかった。例えほんの僅かな時間でもリンは優秀なんだろうなと思うくらいの貫禄があるのだ。でも常識的に考えて一番偉い人が指名して、勝手に呼び出したにも関わらず、部下に丸投げして、関わった自分は何もしない。まさかとは思うが連邦生徒会長はそんな傲慢な人間なんだろうか?

 

「それは⋯⋯⋯⋯後でゆっくり説明します。」

 

意味深な事を言ったリンの顔は追い詰められた人の顔でもあり、責任に押し潰されそうな人の顔でもあった。

 

「?」

 

チン、と目的地に着いた音の余韻がこの静寂な空間を支配した。これにより会話の終わりを告げると同時に気持ちの切り替えのスイッチとなった。

 

何かあったのかな?

 

そんな疑問が顔に出ているのを見たのか、あるいはこの現状に思うことがあるのか。リンは目を背けながら扉が開いたエレベーターを降りていった。

 

そんな俺達を迎えたのは慌ただしく動いている見麗しい少女達、そして。

 

「ちょっと待て!代行!見つけた、待っていたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

 

見つけた!と喧嘩腰な目でこっちを見ながら詰め寄る美少女達だった。

 

「うん?隣にいる方は?」

 

最初に詰め寄ってきた太ももがデカすぎる美少女は最初興奮状態だったが次第に落ち着いてきたのか俺の方を向いて疑問を呈した。

 

が。

 

「首席行政官、お待ちしておりました。」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」

 

そんな疑問を無視して自分達の不満をリンへぶちまける腰から生える羽含めて色々とデカすぎる美女?美少女?と、赤タイツにめちゃデカ医療バッグ眼鏡美少女という属性詰め込みすぎな美少女が剣呑かつ丁寧な口調で詰め寄った。

 

そんな状況にリンは⋯⋯⋯⋯。

 

「あぁ⋯⋯⋯面倒な人たちに捕まってしまいましたね。」

 

明らかに面倒くさそうに嫌〜な声色で不満を漏らした。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ⋯⋯⋯大事な方々がここを訪ねてきた理由はよく分かっています。今、学園都市で起きている混乱の責任を問うために⋯⋯⋯でしょう?」

 

ここぞとばかりにリンはストレスを発散するかのように彼女達に嫌味をぶつけていく。

 

「そこまで分かっているならなんとか⋯⋯⋯⋯。」

 

しなさいよ!⋯⋯⋯とそう負けじと青髪の少女は苛立ったまま不満をぶつけようと⋯⋯⋯⋯した。 

 

「ちょっと待った!!」

 

「?どうかしましたか先生?」

 

突然どうしたと皆が怪訝な眼差しを向けるが俺は知ったことではない。俺は待ったを掛けさせてもらう!

 

「お、お前!リン!おまえさぁ、なんて事言うんだよ!お前ここの幹部なんだろ!?なんで暇そう、とか。面倒な、とか!そういう事言うんだよ!」

 

「え?」

 

鳩が豆を食ったかのような顔をするリンに構わず持論を問う。

 

深呼吸をして気持ちと選ぶ言葉を整える。

 

「あのな、リン。お前が例え疲労困憊でも、ストレスが溜まりまくっていても。それでここまで来た客人をそんな風に言って良い理由にはなり得ねぇだろうが。リン。お前は『連邦生徒会の幹部』、なんだろ?その制服には連邦生徒会の看板を背負っているに等しいし、幹部なら幹部らしくちゃんとした言葉遣いが大事だ。俺はお前の苦労を一ミリも知らねぇ。けどな⋯⋯⋯そんな状態の俺でも違うと、俺は思う。」

 

自分でも何様目線だと本気で思う。俺は先生になったばかりで社会のし文字も知らない半端者だ。でも俺はさっき『先生』をやると決めたんだ。なら例え自分が『傲慢』であったとしてもリンに言わなきゃいけない。

 

俺の言葉を受け止めたリンは自分の発言に思う所があったらしく、俺の説教を噛み砕いて自分に落とし込んだ。

 

「確かに、その通りですね。⋯⋯⋯⋯すみません、皆さん方。失礼な発言をしてしまいました。訂正します。」

 

意外にもリンは即座に謝罪した。言われたことを受け止め、理解する。そういう真面目さが、彼女を幹部へと至らせたのだろう。

 

「え?あ、えぇ。こっちこそ悪かったわ。キツイこと言って。」

 

まさかすぐに謝罪するとは思わなかったのか戸惑いながらも自分の非を認めた。

 

「えっと、すみません。こちらの方は?」

 

今まで黙っていた頭に羽が生えているという珍しすぎる特徴を持つ白髪赤目の美少女がお前は何者だと問うてきた。

 

そうだな。このままじゃ訳の分からない奴認定だ。

 

「そういえば名乗って無いよな。俺の名前は暁ユウキ。さっきお前達の先生になった者だ。よろしくな皆!」

 

元気な声がこの騒がしい部屋に広がり目の前の青髪の美少女は反射で答えた。

 

「わ、私はミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカっていいます!ってそんな事はどうでも良くて!」

 

「キヴォトスではないところから来た方のようでしたが⋯⋯⋯先生だったのですね。」

 

口には出していないが残りの二人も驚きの表情を浮かべていた。

 

「リン、こいつらは連邦生徒会長に会いに来たらしい。その連邦生徒会長が来るまでお前が相手してやってくれないか?戦力にならないかもだが俺もこいつらの話を聞くからさ。」

 

「⋯⋯⋯⋯先生、ご助力ありがとうございます。」

 

そこからは四者それぞれの学園での問題を言い出した。

 

曰く、数千もの学園自治区が混乱に陥っており、ユウカの学園の風力発電所がシャットダウンしたとのこと。

 

曰く、連邦矯正局で停学中の生徒たちの一部が脱走したとのこと。

 

曰く、スケバンのような不良たちが登校中の生徒たちを襲う頻度が急激に高くなり、治安の維持が難しいとのこと。

 

曰く、戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流出も2000%以上増加した、とのこと。

 

そんな問題の数々を聞いた俺はこう思った。

 

「世紀末じゃん。」

 

なんだよ不法流出が2000%ってふざけてんのか?何がどうなったらそんなバカみたいな数字になるんだ?ていうか戦車やヘリコプターって!このキヴォトスって戦争でも起きてんの?ここって学園都市じゃないの!?学園って生徒たちが勉学に励んで、部活で切磋琢磨して、友情を育んで、青春を送って!そういうのが学園って場所じゃないの???ここは!戦争都市かよ!!

 

そんな異世界カルチャーショックを受けて絶句している俺を置いて彼女達はリンを通して連邦生徒会長に、そして連邦生徒会へ文句を言いまくる。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

連邦生徒会はおそらくこのキヴォトス全体を担う機関なんだろう。そりゃ責任ある者達が各地での問題に手を付けず自分達は見て見ぬ振りをするような態度を取ったらそうなる。

 

ある程度正しい推測をした暁は次のリンの発言に度肝を抜かれる。

 

「⋯⋯⋯⋯。連邦生徒会長は今、席におりません。正確には行方不明になりました。」

 

「は?」

 

「⋯⋯⋯えぇ!?」

 

「⋯⋯⋯っ!!」

 

「やはりあの噂は⋯⋯⋯。」

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。」

 

理解できない。いや理解したくない。

 

責任ある者が突然行方不明になって?そいつは後釜を用意するという事もせず?挙句の果てには他人を誘拐じみた行為を平気でして一切説明無し?

 

なんじゃそりゃ。

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが⋯⋯⋯⋯⋯先程までそのような方法は見つかっていませんでした。」

 

呆然とする俺を置いて話は進んでいく。

 

「それでは、今はその方法があるということですか、首席行政官。」

 

「はい、この先生こそが、フィクサーとなってくれるはずです。」

 

「⋯⋯⋯⋯成る程な、そこで俺か。」

 

多分、だけど。もしかしてその連邦生徒会長は自分が行方不明になることを分かっていた上で俺を選んだ?

 

わけわかんねぇ。だが、こいつらが必要なのは現状を打破できる俺だ。なら、やる事は変わんねぇ。

 

「この方が?」

 

「はい、こちらの暁先生が、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。⋯⋯⋯先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、とある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」

 

「その部活の名は?」

 

俺の問いにリンは重々しく告げる。

 

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で制約無しに戦闘活動を行うことが可能です。」

 

「成る程な、とりあえずその部活を作った連邦生徒会長はトンデモねぇ奴という事が分かったよ。」

 

最初学園とか部活とかでイマイチピンと来なかったが、これを国とか民衆とかに変えるとこの『シャーレ』のヤバさが分かる。

 

要は国々の組織とか立ち位置とかそんなの一切関係無く、その国の軍事力をこっちの都合で使って戦闘ができて、それを必要な書類や許可が必要無くて、常に許可が了承されている状態で好き勝手できる。さらにヤバいのはこれはやり用によっては一般人ですら戦闘に参加させることができる。

 

こんな『僕が考えた最強の組織』みたいなやつよく作れたな。

 

そんだけその連邦生徒会長は凄いということなのだろうか?

 

「分かります。私もなぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのか分かりませんが⋯⋯⋯。」

 

俺の意見に同意したリンは理解できないものを見たかのような顔をしながら話を進めた。

 

「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もないですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。ですので、先生をそこにお連れしなければなりません。」

 

30km!?遠ぉ⋯⋯⋯!

 

「流石に徒歩⋯⋯⋯⋯なわけないよな?」

 

そう言われたリンは心外だなと顔に出した。

 

「そんな訳ないでしょう。徒歩で移動するとなるとそれなりの時間を浪費します。ですのでここはヘリを使いましょう。」

 

俺、冗談で言ったんだけど⋯⋯⋯。こういうのを真に受ける感じ、リンってめちゃくちゃ真面目だな。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど⋯⋯⋯。」

 

そうリンは虚空に向けて声をかけた。

 

ん?リン?そこには何も⋯⋯⋯。

 

そう思ってリンを訝しんでいると、突如として⋯⋯⋯⋯。

 

「シャーレの部室?⋯⋯⋯⋯⋯ああ、外郭地区の?今大騒ぎだけど?」

 

近未来のようなホログラムが姿を現した。

 

「なんじゃそれー!?」

 

この光景は流石の俺でも大声を上げながら驚いた。

 

「何驚いているんですか先生?」

 

そう言いながらユウカはあの時のリンと同じバカを見る目で俺を見てきた。

 

「うぐっ!いやだって突然近未来の技術が出てきたんだもん!そりゃ驚くよ!」

 

お前らにとっては当たり前の光景でも、俺にとっては新鮮であり未知の技術なんだ。男としてこんな光景を目の当たりにして興奮しない男なんていない!

 

「いいか?男っていうのはな。こういう近未来チックなものに感動する生き物なんだよ。ロボットもそうだし宇宙戦艦とかもそう!」

 

「そう言えば、ランカ先輩もそんな事言っていたような⋯⋯⋯。」

 

「そのランカっていう人、分かってんじゃねぇか!」

 

「ユウマさんもそういうのが好きなのでしょうか?」

 

「まぁ男全員がそう、って言えないのも事実だけどな。えっと⋯⋯⋯。」

 

「トリニティ総合学園、正義実現委員会の羽川ハスミです。よろしくお願いします先生。」

 

「では私も名乗りましょう。私はゲヘナ風紀委員会所属の火宮チナツといいます。」

 

「私はトリニティで自警団をやっている守月スズミです。これからよろしくお願いします暁先生。」

 

「ハスミにチナツにスズミだな。よろしく!⋯⋯⋯にしてもスズミ。自警団やっているのか。スゲーな。俺はこういう状況じゃなきゃ自分から人助けなんてできないから本当に尊敬する。⋯⋯⋯えっと、すまん。お前に対して頑張れるの偉いなって軽い言葉しか言えない。すまん。」

 

途中でスズミを褒めようとするが何をどう褒めれば良いのか全く分からず、最終的には情けない言葉しか吐けなかった。

 

そんな自分に嫌気が差すが。

 

「⋯⋯⋯いえ、大丈夫です。褒めてくださってありがとうございます。」

 

そんな事を気にしてない風に逆に俺を気遣ってくれた。

 

彼女にこんな事を言わせた自分にますます嫌気を差していると。

 

「あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!」

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

ふとリンの方を見てみるとデリバリーが来たからというあまりにも巫山戯た理由で切られたリンがプルプルと震えていた。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です。⋯⋯⋯少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」

 

声をかけたもののあまり大丈夫そうではない。

 

そんなリンはじーーとユウカ達を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。

 

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

 

見られた者達は突然の沈黙に動揺しているが、暁はリンの考えが読めてしまった。

 

「お前まさか⋯⋯⋯!」

 

「皆さん、今から行く場所はキヴォトスの命運をかけた大事な物があります。そんな一大事の時に皆さんが来てくれるなんて⋯⋯⋯⋯まさに運命と言わざるを得ないでしょう。」

 

「えっ?」

 

「キヴォトスの正常化のため、すみませんが力を貸して頂きたいのです。もちろん、拒否権はありません。」

 

「嘘でしょー!!」

 

わざわざこっちまで来てくれたお客様を戦場へ連行するという案に戦慄した暁は、ユウカの叫び声がどこか遠く聞こえるのだった。

 

 

 

 

 

 

そこはまさに戦場だった。崩れかけているビル。道路にあちこちある小さくない穴。誰が使ったのか分からない弾倉のその残骸。

 

平和な日本に生まれた暁ユウキにとってどこか現実とは思えない光景だった。

 

そして、目の前で美少女達がそれぞれの持つ銃器をぶっ放すその光景も。

 

「なんでよ⋯⋯⋯⋯!なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

心からの本音がこの戦場で漏れたが、その言葉をチナツは反論する。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから⋯⋯⋯。」

 

「それは聞いたけど⋯⋯⋯!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が⋯⋯⋯!」

 

そう言っているユウカは文句を言いながらも絶えず両手のサブマシンガンを撃ち続けていた。

 

「なんだここ?地獄?ドン引きなんだけど⋯⋯⋯。」

 

俺は心の底から引いた。これまでの人生でもドン引きすることがあったが、これ以上のドン引きなどしたことがなかった。

 

それほどまでにこの光景は地獄絵図だった。

 

そう言えばここへ来る途中、リンやハスミは言っていた。このキヴォトスでは絶えず銃撃戦が起きているのだと。

 

理由は様々で問題を起こした不良生徒とそれを取り締まる風紀委員会によるものであったり、些細な口論の末によるものだったり。時にはプリンに何を入れるかという実に下らない理由もあったりと。この世界の住人は引き金が軽いらしい。

 

知りたくなかった。

 

「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

 

戦場でぼっと突っ立っている暁を置いて前線ではユウカが鉛玉を食らったようだ。

 

その時の痛みによる悲鳴で暁は、はっと意識を前へ向け、衝動のままに前へ走り出した。

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません。」

 

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

 

「お、おいユウカ大丈夫か!?」

 

幸いすぐ近くだったからか、大きな瓦礫に伏せていたユウカの元へ行き、目線を合わせた。

 

「へ?先生?っここ最前線ですよ!危険でs。」

 

「ユウカ怪我は!?もろに受けてたけど本当に大丈夫なのか!?」

 

当たったと思われる箇所を慌てて確認する。

 

そして信じられないことに目立った傷はなかった。

 

普通は銃弾を食らった時、当たった箇所に穴が空いていたり、肉が抉れていたり。当たりどころによっては欠損するというのに。

 

目に映るのは、そんな暁の常識を覆す姿、服とともに吹き飛んでいるわけでもなく、穴が空いたことによる流血もなく、ましてや血が滲んでいるわけでもなかった。

 

五体満足。多分だが服の下にはアザがあるかもだが、暁からすれば無傷に等しかった。

 

そんな状態のユウカに戦場を見たときと同じ気持ちを抱いた。

 

暁は言葉を失った。

 

「ち、近い。だ、大丈夫ですよ先生!確かに痛いですけど大したことありません。」

 

「⋯⋯⋯⋯異世界ヤベー。」

 

気付けばユウカと暁の顔が鼻が付くんじゃないかというくらいに近かったが、今の暁にはそんなドラマチックな事に盛り上がる余裕なんて存在しなかった。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です。」

 

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので⋯⋯⋯。私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」

 

ユウカから目をそらし、横を見てみると銃を撃ちながら敵の数を減らして前線を押し上げようとする皆の姿があった。

 

ハスミは正確な狙撃で頭を出した敵にヘッドショットを食らわせ、スズミは腰にある閃光弾を投げる瞬間を見極めつつ敵に威圧射撃を行い、チナツはその援護を。ユウカは頭にあった煩悩を振り払い前線へ駆け出した。

 

俺だけだった。俺だけが何もしていなかった。銃があればと思いがよぎるが、俺が今銃を持っていた所でどうにもならないだろう。これまでの人生で銃を握ったことも無い俺がちゃんと敵に当てれるのか分からない。それに、そもそも人に撃てるかすら怪しい。

 

この場において誰よりも役立たずは俺だった。

 

「すまねぇみんな。俺が足を引っ張っちまって。」

 

瓦礫に身を隠し、惨めに下を向く俺。

 

戦場ならチート能力みたいなのが覚醒するかもと一縷の希望を持っていたが、戦闘が開始されて約20分。未だにそんな気配は微塵もなかった。俺にはチート能力なんて無いらしい。

 

結局、異世界に行っても、俺はどうしようもない、ダメな人間なんだ。

 

そう、心の中で自分を卑下する暁に、ユウカは暁の方を見ずに、心配の声をかけた。

 

「気にしないでください!先生、先生は戦場に出ないでください!私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

なんてことのない普通のセリフ。ただの気遣いで言った言葉。

 

それが、暁ユウキの心に火を付けた。

 

この異世界に来て、先生になるって決意して、ここで暮らす覚悟をしておいて。やる事は女の子達の後ろに隠れて守ってもらう?

 

そんな惨めな姿、見せられっか!

 

前を向く。地面から戦場へと視線を移す。

 

その顔には、情けない顔では無かった。

 

「みんな!俺が敵の位置とか、隙とか見つける!だから!俺の指揮に従ってくれ!」

 

皆に届けと声を張り上げ立ち上がる。

 

幸い俺は他の人より目がいいし、他人を観察しているのに長けてる。ハスミは狙撃のために視野を狭くせざるを得ないから、そこをカバーする!

 

だが俺は素人。戦場に立ったのは今が初めて。彼女たちのほうが強さも経験も、何もかも何倍も上。俺の提案に乗ってくれるのだろうか?

 

そう不安に思っていたが⋯⋯⋯。

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ⋯⋯⋯先生ですし⋯⋯⋯。」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

 

「先生が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします。」

 

返事はしなかったがスズミもまた、同意を示した。

 

意外にも彼女達は、俺の提案に呆気なく呑んだ。

 

このキヴォトスって所は『先生』はそれほどの存在なのか?いや!今はそんな事どうでもいい!

 

まだ怖がっている心に活を入れて、声を上げる。

 

「よし!俺も頑張るから皆も⋯⋯⋯!」

 

頑張ってくれ!そう言おうとした。

 

その次の瞬間。

 

「なんd。」

 

視界の奥にあるビル群の、なんて変哲もない建物。そこでほんの一瞬、真紅に点滅した。

 

それになんだ、と疑問を口にして皆に共有しようとしたが、できなかった。

 

ぱん!

 

暁の視界は真紅に染まったかと思えば、次の瞬間。頭が弾け飛んだ感覚を一瞬だけ感じ取り、意識は深淵へと落ちたから。

 

その『真紅』は暁の眉間を一寸も違わずに直撃させた。その時の衝撃で暁の頭はまるで風船のように弾け飛び、脳の一部や頭蓋骨の欠片がアスファルトに撒き散らす。

 

残された暁の胴体は大事な頭部を失ったことで重心を取ることを忘れ、地面へ倒れ伏した。

 

 

 

暁ユウキ。彼は頭部を失い、死亡した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。