半端者はシャーレの先生になる   作:アビス・アッカーマン

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容赦はしない。


2話 チート能力

 

「は?」

 

そこはまさに戦場だった。崩れかけているビル。道路にあちこちある小さくない穴。誰が使ったのか分からない弾倉の残骸。

 

平和な日本に生まれた暁ユウキにとってどこか現実とは思えない光景だった。

 

そして、目の前で美少女達がそれぞれの持つ銃器をぶっ放すその光景も。

 

「なんでよ⋯⋯⋯⋯!なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

心からの本音がこの戦場で漏れたが、その言葉をチナツは反論する。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから⋯⋯⋯。」

 

「それは聞いたけど⋯⋯⋯!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が⋯⋯⋯!」

 

そう言っているユウカは文句を言いながらも絶えず両手のサブマシンガンを撃ち続けていた。

 

その光景を暁はただ呆然と眺め、間抜けな声を漏らしていた。前線で戦う彼女達の姿、それに対して反撃するヘルメットを付けた敵。

 

視界に入ってくる情報は平和な日本に住んでいた暁にとって非現実的すぎるというのに、それが一切頭に入って来なかった。

 

だって、これは見覚えがあるなんて言葉じゃ足りないくらい、見覚えがあるのだから。

 

今、暁ユウキの頭の中を支配しているのは、先程体験した現実に対する困惑だった。

 

は?は?は?待て。待てって。え、今⋯⋯⋯⋯⋯⋯死んだ⋯⋯⋯⋯よな?

 

死んだ。その思考に至った暁は、その考えを拒絶するかのように、無意識に口元を抑えた。

 

なんでか知らない、け、ど。俺、生きてる⋯⋯⋯⋯ん、だよ、な?⋯⋯⋯⋯⋯あぁそうだよな。そりゃそうだ。俺が死んだ、なんてありえねぇ。だって今だって心臓の鼓動がうるさいし、この戦場の音も匂いも振動も色も。全部感じてる。

 

思考はあり得ないと否定し続け、自分が死んだ事実から目を逸らし続ける。

 

そうだよ、俺は死んでなんか無い!何かの間違いだ!きっと悪い夢でも見たんだろうな〜!うん!そうだ!そうに違いない!⋯⋯⋯でも、だとしたら、あれって夢にしては、リアルすぎるというか⋯⋯⋯⋯?

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

まぁいいか!ネガティブなんて吹き飛ばして、ポジティブな思考へ強引にでも戻そう!そうでもなきゃ俺が頭のおかしい奴になってしまうからな、はは!

 

心の中に残るモヤモヤに目を向けず、代わりに前に向けた。そこには敵を倒そうと頑張る皆がいた。

 

すると、敵から放たれた鉛玉がユウカに直撃し、それにユウカが苛立ちを隠すこと無く文句をぶつけた。

 

「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

 

⋯⋯⋯⋯ん?なんかセリフというか、なんというか⋯⋯⋯。この光景見たことあるな。

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません。」

 

そうそう、チナツが反論して。

 

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

 

ユウカがそれに切れて⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あれ?おんなじだ。

 

一応、念の為にユウカの元へ駆け寄り、怪我があるか確認する。

 

「え?先生?って!ここ最前線ですよ!危険です!」

 

「いや、銃弾食らっても平気って言われても、信じられないからさ。失礼してちょっと確認するぜ。」

 

「せ、先生ちょっと待って⋯⋯⋯!」

 

ユウカの反論も聞かず服越しに当たった箇所を確認する。

 

そこにはやはり暁の常識を覆すものだった。

 

欠損も無く、抉れることも無く。ましてや血が滲むことも無かった。

 

「⋯⋯⋯一緒だ。」

 

「ち、近い。だ、大丈夫ですよ先生!確かに痛いですけど大したことありません。あと、すみません。聞き取れなかったんですけど、何か言いましたか?」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯いんや、何も言ってないぜ。ユウカすまんが⋯⋯⋯。」

 

「気にしないでください!先生、先生は戦場に出ないでください!私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

やっぱり一緒だ。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です。」

 

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので⋯⋯⋯。私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」

 

気持ち悪いくらいに同じだ。

 

セリフだけじゃない。皆が取る行動も。起こった状況も。何もかも同じだ。

 

まるで『あの時』を彼女達はなぞるように。

 

そこで暁はある結論に辿り着く。

 

はっ!そうか!俺のチート能力は未来視だ!

 

未来視。暁がこれまで読んできた異世界物に登場する力。読んで字のごとく、これから起こる未来を見ることができるというもの。作品によって強弱はあるものの、普通は未来なんて見れるわけがない。これをチートと言わずしてなんと言う。

 

そうと決まれば!

 

「みんな!俺が指揮を取る!俺の指示に従ってくれ!」

 

未来視だというのなら、話が早い!この後は⋯⋯⋯⋯!

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ⋯⋯⋯先生ですし⋯⋯⋯。」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

 

「先生が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします。」

 

返事はしなかったがスズミもまた、同意を示した。

 

やはり呆気なく俺の提案を呑んだ!

 

やっぱ『先生』ってスゲェんだな!

 

で、この後は確か⋯⋯⋯⋯。

 

 

その思いに応えるように。

 

視界の奥にあるビル群の、なんて変哲もない建物。そこでほんの一瞬、真紅に点滅した。

 

あ、そうだ。『赤』が迫って⋯⋯⋯⋯⋯。

 

余所見をするなと言いたげに『真紅』は暁の頭部目掛けて迫り、暁の頭は風船のように弾け飛ぶ⋯⋯⋯。

 

 

 

 

「あっぶ!!ねぇええ!!!」

 

ことは起きなかった。

 

暁はこの後起こる事態を思い出し、全力で顔を横に反らしたのだ。

 

ビュン!!!と左耳から伝わる『死』に心から震え上がり、よく避けた!!俺!!と己を自画自賛する暁。

 

しかし、無傷というではなかった。

 

「先生!大丈夫ですか!?」

 

最前線にいたユウカの心からの心配の声がこの戦場に響き、後衛のチナツが慌てつつも、素早く暁の体をチェックしていく。

 

「先生!遮蔽物に隠れてください!今すぐ!!」

 

スナイパーのハスミの助言に従い、チナツと共に大きな瓦礫へ身を隠す。

 

「先生、顔の傷の他にも痛い所はありますか⋯⋯⋯!もしあれば遠慮せずおっしゃってください!」

 

「大丈夫、大丈夫だ。こんな傷大したことねぇよ。」

 

左頬から伝わる血を手で拭う。

 

流石に避け切れなかったかと思うものの、頭が吹き飛ぶのと比べたら、屁でもない。

 

未来視で得た情報があって良かったと安堵の息を吐く。

 

「先生!お怪我はありませんか!」

 

サブマシンガンをリロードする際の隙を潰すためにユウカは、何故か電卓を取り出し、ポチポチと計算した後自身に電磁シールドを付与した。

 

そのシールドは敵の銃弾を弾き返し、ユウカに傷一つも付けない。鉄壁に等しいと感じるそのシールドに守られながらユウカは、リロードを完了しお返しとして豪快に連射した。

 

「なんだあれ?」

 

「電磁シールドです。ユウカの場合は電卓で計算することでシールドを自身に付与できます。他の方々も方法は様々ですが、ああいった事ができますよ。」

 

治療しているチナツの説明にツッコミどころが多すぎる。

 

なんで電卓なんだ?どうして電卓で計算するとシールド貼れるんだ?他の奴らもあんな行動するのか?というかそもそもなんでシールドを貼れるんだよ?

 

なんでぇ???

 

目の前の光景に唖然としてしまうが、そんな事している場合じゃないと気を引き締め、チナツからの治療に感謝しつつ瓦礫から頭を出そう

 

 

ドゴォォォォン!

 

 

とした。

 

「え?」

 

それは、何が起きたのか分からない事に対する疑問。

 

何故自分の体は地面に横に倒れているのかに対する疑問。

 

「あ、れ?」

 

そして、何故『真紅』は瓦礫を貫通し、暁の左腕を吹き飛ばし、胴体に大きな穴を空け、右腕を千切れかけの状態になったのかに対する疑問。

 

その全てが詰まった単語は暁の口から出た。

 

そして瞬時に染まる痛みと熱さ。

 

「うが、あ、ぁぁっ!うぐっ!ェ゙、ゴボッゴボッ!」

 

痛い!痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!あああああああぁあ!!!熱いぃ!熱い!なんだコレ!!なんなんだよ!!!

 

苦しい、痛い、熱い。

 

思考は纏まらない。視界は濃い赤に染まり、今も尚穿たれた胴体からは血が溢れ出ていた。

 

どうやら肺をやられたらしく、それによりまともに声が出せず、この想像を絶する痛みを吐き出す事ができなかった。

 

それでも体は勝手に全身を巡る気持ち悪い感情を吐き出そうと必死に声を出そうとするも、ゴボッゴボッ!と吐血しながら呻くような、溺れているような声しか出せなかった。

 

「せん⋯⋯⋯⋯!しっかり⋯⋯⋯⋯!!」

 

「は⋯⋯⋯⋯⋯りょうを!!」

 

周りからチナツとハスミと思われる声がするが、今も走り続けている激痛に意識を割かれ、よく声が聞こえなかった。

 

死にたくない。死にたくないよぉ。

 

他の人が聞けばあまりにも情けない、誰の耳にも届く事が無い声。

 

死にたくない。それは誰もが持つ感情で、死ぬ時に特に溢れ出す。

 

嫌だ!死にたくない!まだ俺は!!ここに来たばかりで⋯⋯⋯!!

 

そんな思いも虚しくさっきまで感じていた激しい炎のような熱は今、雪が降る冬のような寒さと、意識が強制的に『目覚めることのない眠り』へと引きずり込まれていく感覚が襲う。

 

暁ユウキはもうすぐ死ぬのだ。

 

嫌だ⋯⋯⋯⋯⋯助け⋯⋯⋯⋯て⋯⋯⋯!

 

視界は暗転していく。

 

思考は深海に沈むが如く。

 

体は何も感じない。

 

そのまま、暁ユウキは。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぁ。」

 

大量出血により、死亡した。

 

 

 

 

 

 

戦場だった。崩れかけているビル。道路にあちこちある小さくない穴。誰が使ったのか分からない弾倉の残骸。

 

そんな世紀末のような場所。平和な日本に生まれた暁ユウキにとってどこか現実とは思えない光景。

 

その景色を認識した瞬間暁は叫んだ。

 

「うぐぅあ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙あぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!ふっふぐっ!!あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁ!!!」

 

叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。

 

込み上げる感情のままに、ひたすら叫び続ける。

 

「え!?先生!どうしたんですか!?」

 

生徒たちが急変した暁を心配して声をかけるが、そんな声は今の暁には全く届かなかった。

 

今暁の中にあるのは、経験した激痛と熱さ、寒さと恐怖、そして死。

 

体を蹲りながら涙を流し、叫び続ける。

 

なんで?なんでなんでなんでなんでなんでぇっ!?!?

 

前に経験した激痛は今の暁には一切無かった。体は五体満足だし、怪我なんて当然ない。

 

しかし、心に刻まれた強烈な『死』は、一切消えなかった。

 

そして。

 

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪⋯⋯⋯⋯うっ!ウゴぇぇぇぇ!!」

 

吐いた。

 

先程まで感じていた感覚は、何事もなかったかのように、何も感じなかったから。

 

そのあまりのギャップに気持ち悪さを感じた。死の恐怖と体に感じる正常な反応による違和感から胃の中にある物を吐き続け、吐き終わっても尚拒絶反応で疼いた。

 

死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ。

 

死んだんだ、俺は。

 

俺に与えられたチート能力は『未来視』なんかじゃない。

 

『死に戻り』だ。

 

死に戻り、という能力がある。それは死ぬ事で時間を逆行し、死ぬ前まで経験した情報を用いて状況を打開させる事ができる能力。それが死に戻り。未来視と大きく違うのはやはり『死』であろう。死ぬ事で発動し、未来視とは比べ物にならないくらいの情報を得ることができる。

 

『見る』のと『経験した』のとでは大きく違うのだ。

 

それが死に戻り。それが暁ユウキに与えられたチート能力。

 

望んで無い。望んで無い望んで無い望んで無い望んで無い望んで無い!!望んでなんか無い!!!こんな!!こんな地獄を押し付けられるなんて!!

 

あぁチートだ。確かにチートだ。でもこれは!!こんなのは!!呪いじゃねぇか!?!?

 

なんでだと呪詛を吐く。どうして俺なんだと与えられた力の責任から逃れようとする。今も感じる幻痛に苦しみながら。

 

「なんでだよ。」

 

声は小さく、けれど暁をなんとかしようとする生徒たちの手を止める程の力強い言葉だった。

 

「え?」

 

誰か疑問を口にするも。

 

「なんでだよ!?」

 

それを遮るように強い口調で世界を呪う。

 

「なんで!?どうして!?どうして俺はこんな目に!?⋯⋯⋯⋯なんでだよぉ。」

 

怒りは疑問へ。

 

「なんで俺なんだよぉ。出来損ないの俺にどうしろって言うんだよぉ。」

 

弱々しく世界へ疑問を口にする。

 

答えるはずもない世界に向けて。

 

「なんで俺は死に戻りを⋯⋯⋯⋯!」

 

 

 

グチャ

 

 

 

「ぁ?」

 

まるで呪いが発動したかのように。これ以上は言ってはならないと、世界が強制的に止めるように。

 

「ごほっ。なん⋯⋯⋯⋯⋯⋯で⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」

 

口からとめどなく血を吐く。

 

聞こえない心臓の鼓動。

 

止まってしまった血液の送る為の大切な臓器は。

 

「ぁ。」

 

死んだ。

 

そう認識した瞬間、暁の瞳は濁り、意識は深淵へ落ちていく。

 

暁ユウキは心臓を潰され、死亡した。

 

 

 

 

 

 

まただ。またここに戻ってきた。

 

崩れかけているビルだったり、道路にあちこちある小さくない穴であったり、誰が使ったのか分からない弾倉のその残骸であったり。

 

そんな、平和な日本に生まれた暁ユウキにとってどこか現実とは思えない光景に。

 

また、この時間に戻って来たのだ。

 

「うぐっ!!」

 

過呼吸の状態で胸を抑え蹲る。右手を心臓がある場所に置き、ちゃんと心臓があるのか確かめるために。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ある。」

 

ドクンッドクンッと確かに、心臓の鼓動を感じ取る。今の暁の心境を表しているように、心臓は早いリズムで活動していた。

 

「え!?先生!どうしたんですか!?」

 

前線にいたユウカからの心配の声を聞いた。

 

あの時はさっぱり分からなかったが、成る程ユウカだったのか。だからなんだ今はそんな事はどうでもいいいやどうでもよくないがあぁもう思考が纏まらねぇ!

 

「先生、どうかされましたか?」

 

「やはりいきなりの戦場は⋯⋯⋯⋯。」

 

「大丈夫だハスミ、チナツ。問題ねぇよ。」

 

近くにいたハスミとチナツが声をかけてくれた事に対して片手でジェスチャーを取り、平気だと伝える。

 

それに怪訝な顔をする二人だったが、今は目の前のことに集中だと手に持っていた銃を握り直し、再び戦場へ駆け出した。

 

それを見送った暁は、地面を睨みつけるように目線を固定しながら、思考を加速していく。

 

俺は死んだ。3回死んだ。

 

死んだという事実に再び吐き気を催すが、それを必死に止めながらそれでもと思考していく。

 

1回目は頭を吹き飛ばされて死亡。最初は分かんなかったけど、今なら分かる。誰かの狙撃だ。現に2回目も頭を狙って来ていた。この2回目は確実に俺を殺そうとしていた。瓦礫に隠れた俺を狙うほどに。⋯⋯⋯⋯なんで瓦礫を貫通できたのか知らねぇが。そこは異世界だからと納得するしかねぇな。

 

前を見る。目の前にいるチナツやハスミ、最前線にいるユウカとスズミ。

 

このメンバーで足手まといな俺を狙ってくるって事は、俺のことを知っているってことだ。

 

今、暁はユウカ、ハスミ、チナツ、スズミと戦えるメンバーを選ばず、真っ先に狙ってきた事に対して疑問を持っていた。だっておかしいだろう?戦術的に見れば、ユウカまたはハスミを狙えば戦況は変わり、優勢になるはずだ。暁がたとえ優秀な指揮官であったとしても、今この時は『暁ユウキは今日この日キヴォトスの外からやって来た人』でしかない。このキヴォトスへやって来た人がどんな人で、どんな能力を持っていて、どれだけの存在なのかなんて最初に出会ったリンですら分からないのだ。

 

真っ先に暁ユウキを狙うなんて、偶然とは言い切れない。

 

確実に誰かしらの意図がある。

 

暁ユウキを、殺そうとする、その者の意図が。

 

眉間に皺を寄せ、見つめる。前線を、目の前にいる敵を、殺そうとする誰かがいるビル群を。

 

今逃げても無駄だろうな。相手は俺を殺そうとしている。後ろから撃たれて終わりだろうな。

 

なら、

 

「前へ進むしかねぇな。」

 

それしか無い。それしか道なんて存在しない。

 

その道が地獄への片道切符だったとしても。

 

「そうと決まれば!」

 

声に出して自身に活を入れ、前へ駆け出す。

 

「みんな!指揮を行う!従ってくれるか!?」

 

声が戦場に響く事をお構い無しに大声を出す。

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ⋯⋯⋯先生ですし⋯⋯⋯。」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

 

「先生が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします。」

 

返事はしなかったがスズミもまた、同意を示した。

 

「あぁこちらこそよろしく!」

 

そう言って駆け付けたのは。

 

「よろしくお願いしま⋯⋯⋯⋯って!なんで私のところに!?危険ですよ!?」

 

ユウカのいる最前線である。

 

「確かにな。でもユウカの隣が一番安心するんだ。」

 

何故ユウカの隣なのか?それには理由がある。

 

「え?そう、なんですか?」

 

「あぁ、お前シールド貼れるだろ?それで俺を守ってくれないか?男としては情けないが、(タンクのお前が)近くにいると安心するんだ。」

 

「は、はわわわわっ。」

 

?なんでユウカは赤面してんのか分からねぇが、これでヨシ!

 

全然良しでは無いが、暁的にはヨシである。ユウカが入れば持ち前のシールドで暁の盾となり暁を守ってくれるだろう。銃弾の雨に耐えれるところは確認済み。あの『真紅』まで受け切れるか分からないが、確実に砕かれる瓦礫なんかよりは遥かにマシである。

 

茹でダコ状態のユウカを放っておいて前を見る。

 

厳密にはあのビル群を。

 

すると。

 

来た!

 

既定路線のように、視界の奥にあるビル群の内の建物。そこでほんの一瞬、真紅に点滅した。

 

ビュン!と音速を超える正確無比な射撃。真紅に染まる凶弾は。

 

「オラァッ!!」

 

暁が全力でしゃがみ込み、傷を付けることもなく後ろの瓦礫にぶつかり爆発した。

 

「せ、先生平気で⋯⋯⋯。」

 

「ユウカ!シールド!」

 

「!あっはい!!」

 

物言わせぬ暁の言葉で即座に自身にシールドを展開する。

 

「怒りも悲しみも、全て因数分解してやるわ!」

 

「お前何言ってんの!?」

 

思わずツッコミを入れてしまう暁。

 

ユウカがワケワカメな発言に??を浮かべつつも、ユウカがシールドを貼ったことに安堵する。

 

ヨシ!後は!

 

「ユウカ!頼む!」

 

「はい、先生!私の後ろにいてくださいね!」

 

「あぁ、すまねぇが頼りにしてるぜ、ユウカ!なぁハスミ!今の狙撃で居場所分かったか!?」

 

「すみません先生。取り逃しました。」

 

「気にするな!見つけたら、すぐ⋯⋯⋯⋯!」

 

どうやらこの世界はセリフを最後まで言わせないらしい。

 

視界端で赤色に点滅し、なんだと目の前を向いた瞬間。

 

「危ない!!」

 

ユウカが暁の前へ飛び出し、両手を広げ、全力で『盾』として暁を守る。

 

そのかいもあって4発連続で迫った真紅の凶弾はユウカのシールドによって暁には一切命中せず、どこかへ弾かれた。

 

しかし。

 

ドォーン!!と重厚な銃撃音が鳴り響くと同時にユウカに先程とは比べ物にならない程の威力の真紅の凶弾が直撃した。それによってシールドは割られ、勢いはそのままにユウカの眉間に当たり、衝撃で後ろにいた暁も一緒に後方へ転がった。

 

「きゃっ!」

 

「くぅっ!」

 

ユウカと暁はもつれ合い一緒にゴロゴロと転がってしまう。

 

マジかよ。ユウカのシールドが⋯⋯⋯⋯!ってマズっ!?

 

はっ!と顔を上げ、前線を見れば銃を後ろへ担ぎ、とことこと散歩でもするかのように歩く、和服を着た狐の仮面を被った少女?がいた。

 

狐のケモミミに、狐の仮面や狐の尻尾と狐要素がこれでもかと詰め込まれた女の姿。

 

その人物を見た瞬間、暁は悟った。こいつが俺を殺そうとしたのだと。

 

距離は約10m。銃は見たところスナイパーライフル。本来なら狙撃手はこんな最前線へ来ないはずなのだが、何故?

 

そんな疑問を持ったこともあって会話をしようと声を出した。必死に恐怖を押し殺しながら。

 

「お前なのか。俺を殺そうとしたのは。」

 

あの狙撃によって気絶してしまったユウカを抱きかかえながら怖ずった声で問う。

 

しかし。

 

問われた本人は。

 

「何故です?」

 

「は?」

 

「何故あの狙撃を回避できたのです?あれは普通であれば避けられない筈でしたのに。一体どうやって知ったのです?」

 

返ってきたのは質問だった。普段なら質問を質問で返すなと言いたいが、今盾であるユウカは気絶している。それに仮面の少女がこの近くにいることで他の敵の攻撃が止んだ。つまり、この目の前にいる少女は敵の大将。その者を撃とうとすれば、確実に戦闘は再び開始される。

 

それにこの位置は敵との距離もあって暁を間接的な人質として機能する位置でもあった。

 

故にスズミとチナツはおろか、ハスミすら撃てない。

 

状況は最悪であった。

 

「答えれる、訳ねぇだろ。」

 

言ったら俺は心臓を潰されてお終いだ。

 

今の暁にできるのは精一杯虚勢を張ることだけだった。

 

「そうですか。⋯⋯⋯あの方が言っていた『先生』。どういう存在なのか少しは興味を持っておりましたが。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

ちらっと暁を見る。その仮面の奥にある目はどんな目をしているのか分からない。

 

だが、絶対に良いものでは無いと何故か確信できた。

 

「とんだ期待外れですね。あの方が期待するほどの魅力は感じません。ならば⋯⋯⋯⋯⋯⋯ここで排除しましょう。」

 

「は?」

 

「確かに狙撃を見抜いたことに関しては褒めましょう。で、す、が。その態度に、口調、仕草。あの方が仰っていた存在とは大きくかけ離れています。そんなあの方の期待にそぐわない存在なんて、破壊するべきです。」

 

「何を、言って⋯⋯⋯⋯。」

 

理解できない。意味が分からない。どうしてそうなる?

 

「あぁ、見ていて下さい!あなた様!このワカモ、あなた様の腕としてこの出来損ないを殺して!あなた様の望む目標の礎になりましょう!」

 

分からない!分からない分からない分からない!!何言ってんだよお前!その『あの方』の望む先生じゃないから殺すのか!?ふざっけんなよ!そんな理由で殺されるなんてゴメンだ!

 

そう言いたかった。

 

そう叫びたかった。

 

殺される理由を否定したかった。

 

けれど。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ。」

 

言えなかった。

 

『出来損ない』という事実を見抜かれて。

 

暁ユウキじゃなくて『本物の先生』であれば、こうはならなかったのかもしれない。

 

出来損ないじゃなければ、ワカモに気に入られ、戦闘は丸く収まったのかもしれない。

 

俺じゃなければ、このワカモは。

 

人を殺した罪を背負わなくて良かったのかもしれない。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

歯を食いしばる。目を強く瞑る。今も気絶しているユウカを守るため抱きしめる。

 

涙が目元に溜まっていく。

 

その涙がユウカに垂れる前に。

 

「さようなら。」

 

ワカモが銃を向け、引き金に指を掛ける。

 

ハスミが狙いを定めようとする。間に合わない。

 

チナツが銃を向け撃とうとする。間に合わない。

 

スズミが閃光弾を投げようとする。間に合わない。

 

詰み、チェックメイト、ゲームセット。

 

これで終わり。

 

また死ぬ。また死に戻る。

 

あぁ次こそは。俺は、ユウカ、ワカモ。

 

お前らを。

 

ワカモが引き金を引いた。

 

パァンと発砲音と共に撃ち出された弾丸が、ふと目を開けてしまった暁にはスローモーションのように、瞳に映り込んだ。

 

その弾丸は寸分狂いなく暁の眉間を。

 

 

 

 

 

キン!

 

 

 

 

 

「いんやぁ危ない危ない。ギリギリセーフやね〜。」

 

「え?」

 

瞬間移動のように現れた、その『男』は。

 

軽薄な口調のまま、銃弾を弾いたであろう日本刀を肩に担ぎながらワカモへ目線を向ける。

 

口では笑っているのに、僅かに見える目は一切笑っていなかった。

 

「大丈夫ぅ?先生ぇ?」

 

目線を固定したまま、暁に声を掛ける。

 

その男はワカモと似ている部分が多い男だ。

 

灰色の風車のヘイローと同じ色の灰色の髪を後ろに束ね、緋色の瞳がワカモを射抜いていた。ワカモと同じ和服に、見事な業物の日本刀を携えたその男は。

 

糸目の奥に隠れた瞳に怒りを宿していた。

 

ワカモは予想外の人物が来たことによる驚きで、仮面越しでも驚きが伝わってくる。

 

離れているハスミやチナツ、スズミは驚愕の声を思わず出した。

 

周りの敵はあのワカモの銃弾を弾いたことによる驚きが波となって戦場全体へ広がった。

 

みながみな。驚愕していた。

 

そして、助けられた暁は。

 

「ありがとうなんだけど⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっと〜。すまん。⋯⋯⋯⋯お前誰?」

 

助けられた驚きよりも、目の前の人物に対する疑問で頭が一杯になるのだった。

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