半端者はシャーレの先生になる   作:アビス・アッカーマン

5 / 7

皆さん本当に申し訳ありません!誤って6話を投稿してしまいました!

これが本当の5話です。

というかなんで気が付かないんだよ自分!しっかりしてくれよ!


5話 思想の渦

「⋯⋯⋯はい、分かりました。先生、サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。ん?何かありましたか?」

 

サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会へ渡して数分後、電話し終わったリンが俺達を見て何か違和感を覚えた。

 

しかし気にすることではないとリンの意識を逸らした。

 

「いんや、何でもねぇよ。その顔、もしかして。」

 

「はい、これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められます。それと。」

 

言葉の溜めた後。

 

「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。」

 

暁に感謝を告げた。そこには疲労感が混じってはいるが、達成感もあった。

 

「俺の力だけじゃここまで辿り着けなかった。お前たちのお陰だよ。リン。」

 

実際、俺だけじゃ何度死に戻りをしたのか分からないほどに死にまくっていただろう。

 

リンが導いてくれて、ユウカが俺を守ってくれて、ハスミが皆の後ろを守ってくれて、スズミが足りない所を補ってくれて、チナツが支えてくれて、シノブが助けてくれて、ツァーカブが分からないことを教えてくれた。

 

本当にあいつらのお陰でここまで来れたんだ。俺は何もしていない。

 

「あぁそれと、ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく。」

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

「なぁリン。その攻撃した連中、俺達に任せてくれねぇか?」

 

「はい?」

 

「ちょっと『お話』したくてよ。」

 

「ならあーしも、先生様のお手伝いするっす!」

 

「先生自ら?危険では?」

 

また危険な行動をするのかと暁を責める。

 

だが、危険なんて百も承知だ。

 

「分かってるよそんな事くらい。でも、頼む。」

 

「⋯⋯⋯⋯やはり優しすぎますよ先生は。なら条件があります。私たちのほうでヴァルキューレ警察学校の公安局局長、尾刃カンナ率いる治安維持部隊を先生に付けます。その者たちと一緒に行ってください。もし破った場合は⋯⋯⋯⋯⋯言わなくてもいいでしょう?」

 

「お、おお。分かった。」

 

美人の怒り顔は怖いとよく言うが、全くもってその通りだと、この時心の底からそう思った。

 

「それでは『シッテムの箱』を渡しましたし、私の役目は終わったようですね。⋯⋯⋯⋯⋯あ、もう一つありました。付いてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします。」

 

「分かった、行こうぜ。」

 

「はいっす!」

 

 

◇

 

 

 

向かう途中のリンからツァーカブへの追求をあの手この手で躱すツァーカブと歩いていく。

 

そんなこんなでリンに付いていくとそこは空室だった。

 

空室 近々始業予定、と書かれた張り紙が貼られていた。さらに隣には『シャーレ』のエンブレムらしきものと、英語で表記されたシャーレの文字があった。

 

これがあるということは、超人さんはやはり俺のことを知っているし、ここまで想定済みということなのか?

 

「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね。」

 

リンは鍵を開け、扉を開ける。

 

するとそこには。

 

「そして、ここがシャーレの部室です。」

 

「おお!」

 

「懐かしいっすね〜。」

 

暁が感嘆し、ツァーカブは小さく懐かしさを口に出した。

 

暁の反応を見てリンは、所々子供っぽいなと微笑ましく見ながら説明を始める。

 

「ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう。」

 

「なぁ思ったんだけどさ、俺って何をすればいいんだ?」

 

超法的権限を与えられたシャーレは何でもできるが、肝心の明確な目標や方針については一切説明がなかったのだ。

 

ふむ、と考える人のポーズを取ったリンは曖昧な方針を告げた。

 

「⋯⋯⋯シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない⋯⋯⋯という強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です⋯⋯⋯。」

 

改めて聞くととんでもない組織だ。

 

まさに無法。本物のチートというのはこの権限では?

 

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり、何でも先生がやりたいことをやって良い⋯⋯⋯ということですね。」

 

そう言いながら暁を見る目は、本当に好き勝手やるなよ、と釘を差しているようでもあった。

 

分かってるって!そんな傲慢なこと、しないしするつもりはねぇよ!

 

暁が心の中でそんなことを言っていると、今度はリンは、少し遠い目をしながら話していく。

 

「⋯⋯⋯。本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。ですので、私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力はありません。」

 

超人、か。その超人さんが行方不明になった後の対処のあれこれを、リンたちに言わなかったばかりに、こんなことになるなんて。

 

やはり連邦生徒会長は傲慢では?

 

「今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情⋯⋯⋯支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯あ、もしかしたら、この苦情の数々を超法的権限を持つ『シャーレ』なら解決できるかもしれませんね。」

 

そう言っているリンは、名案だとでも言いたげな、今日この日初めての喜びの混じった声を出した。

 

こいつ、いい性格してんな。

 

恨めしそうにリンを見るがリンは無視する。

 

「その辺に関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。すべては先生の自由ですので。」

 

こいつ!外堀埋めてやがる!

 

「それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします。」

 

「あ、ちょっ!待てよお前ぇ!」

 

暁の叫びを華麗に無視し、この日初めての爽やかな笑顔をしたまま、去っていくのであった。

 

「あの野郎〜〜。あ、野郎じゃないか。」

 

「あいつどうするっすか?処します?」

 

「処すな!⋯⋯⋯⋯⋯はぁ、先生をやると覚悟を決めたとはいえ、これ、やりたくねぇ。」

 

そう見つめた先には、書類の山が乗っかっている、これからお世話になる机だった。

 

 

◇

 

「ええ、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ。」

 

「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど⋯⋯⋯⋯すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは、担当者に任せます。」

 

「お疲れ様でした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね。」

 

「俺は何もしてねぇよ。皆のお陰だ。」

 

「そんな事あらへんよ〜。実際、あそこで先生おらんかったら、大切なもんが壊されてもおかしくあらへん。先生があのワカモを引きつけたんや。感謝するで〜。」

 

うちは自分を過小評価する先生を、「そうでは無い」と励ます。

 

事実として、この世界線のワカモはシッテムの箱を壊してもおかしくあらへんかった。そんなワカモが破壊衝動を抑えてでも先生を狙ったのは、おそらくあのバカが⋯⋯⋯⋯⋯。

 

「ありがとうな、シノブ。」

 

「んで、その隣の子、誰や?」

 

誰もが見て見ぬ振りをした少女に目を向ける。

 

隣にはさも当然であるかのように、満面の笑みで居座る少女がいた。

 

白い肌に白い髪、白と黒の混じったブカブカな服、そしてあの緋色の目。

 

どこからどう見ても、あれはデカグラ関係の存在。

 

警戒の眼差しを彼女に向け、刀に手を掛ける。

 

「し、シノブさん!?どうか落ち着いて!」

 

暁先生から聞いた彼女のしたことを知って尚、敵意を向けるシノブに落ち着くよう宥めるユウカ。

 

確かに不法侵入はいけないことだが、結果的には大切な物をワカモから守ってくれたのだ。それに、暁をこれから手助けするという宣言もしている。

 

それにも関わらず、警戒しているのはシノブにある前世の記憶からだ。

 

原作であの子は登場せんかった。うち含めた転生者がいることで生まれた、デカグラマトンの刺客か?

 

 

 

狼瀬シノブは転生者だ。前世ではソシャゲのブルーアーカイブをこよなく愛する一般男性だった。しかし、何かしらの事故に遭い転生を果たした。ここがブルアカの世界だと数ヶ月もしないうちに気付いた。

 

皆が銃を取り、どこでも争いが起きていて、女学生の頭にヘイローがあって、和気あいあいと銃撃戦を日夜繰り広げていたのだ。

 

そんな世界に転生してしまったシノブは、それならと楽しく生きていこうと前向きだった。それは銃弾から身を守ってくれるヘイローがあるからというのも一因していた。

 

約10年が過ぎて、ゲヘナに友だちができた。

 

イブキ最推しの転生者であり、今は重度のシスコンとなっている男友だちと。互いが転生者だと気付くのは一瞬だった。そこから話が発展していき、トリニティとアビドスにも男がいると知り、そこからさらに二人の友だちができた。

 

トリニティの騎士となった男とアビドス勢箱推しの男と。

 

そこで男同士で話し合った時に気が付いた。

 

これは、どの世界線だと。

 

本来、男子生徒は原作では一切登場しない。もちろん、今後もしかしたら出てくるかもしれないが、5年以上のストーリー更新が続いても出てこなかったのだ。今後は出ないと予想が付く。

 

それを男同士で共有。何か困った時や、原作には無いイレギュラーな自体に陥った時は遠慮なく頼る事など、協力し合う連盟を構築した。

 

さらにそこから数年。

 

ミレニアムに男子生徒がいると知ったシノブ達はミレニアムへ突入。そこでまた、男友だちができた。

 

ミレニアムのゲーム開発部部長となり、数々の死にゲーを作り続ける男と。

 

 

そんなこともあり、今現在に至る。

 

連邦生徒会長が失踪したことで原作が始まったと知ったシノブは、例の物が持ち込まれたという情報を知り、さぁ物語の始まりだと現場へ直行し着いたその瞬間に見たのは。

 

なんやと?

 

ワカモが気絶しているユウカを抱きかかえる形で庇う先生の姿だった。

 

たとえそれが大人でなかったとしても、あれが『先生』なんだと直感で理解できた。

 

だからこそ、シノブはこの世界線はもう原作通りとはいかなくなったと分かった。

 

ワカモが先生を殺すなんてありえない。ユウカが気絶するなんて展開はなかった。先生が大人ではなく、子どもと大人の狭間にいる半端者になっている。

 

なら、不安要素はできるだけ排除しなければならない。その手を汚してでも。

 

「うちとしてはな、ああうんそうなんだじゃあこれからよろしくねと、頭が単純やない。こいつがシッテ⋯⋯⋯⋯例の物がワカモの代わりに壊そうと⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

「それはない。」

 

シノブの言葉を強く遮るのは、シャーレの先生暁ユウキ。

 

身長がほぼ同じな二人が並ぶと、さながら映画のワンシーンのように見えた。

 

眉をひそめる暁と、暁越しに警戒するシノブ。

 

「もし壊そうとしていたのなら、俺たちが着いた頃には既に壊されていたはずだ。それに敵対するというのなら、俺にシッテムの箱の操作方法なんて教えないはずだ。違うか?」

 

「確かになぁ。せやけど、暁先生。あんたの信頼を得るためにあえてそんな真似をしたかもしれへんのや。それを分かってな。」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯なぁ、なんでそんなに。過度にツァーカブを警戒するんだ?まるで、ツァーカブが存在しちゃいけないみたいな顔をしてるけど?」

 

「っ!!」

 

シノブの目がかつてないほどに見開く。

 

シノブは決して暁を侮ってはいなかった。

 

原作でも生徒の感情を察する(恋愛は除く)ことに長けているし、戦闘でもシッテムの箱無しで勝利を収めている。だからこそ、先生の会話でポーカーフェイスを貫いていたというに。

 

分かっておった。分かっておったさ。先生はよく人を見ているってことぐらい。けど、いざ直面するとこうも容易く⋯⋯⋯⋯!

 

冷や汗が一線を描き、地面に落ちる。

 

「⋯⋯⋯⋯お前がなんでツァーカブを警戒しているのか、俺には分からねぇ。けど、もし警戒が解けなくて、こいつを信じられないと言うのなら。」

 

どん!と胸を強く叩く。

 

「俺を信じてくれねぇか?」

 

「先生?一体何を?」

 

「俺が、こいつは良いやつなんだって。誰もが思う悪いやつなんかじゃなくて、誰かを思ってくれる。そんな優しいやつなんだって俺が証明してやる。だからこいつの代わりに、俺を、信じてくれ。」

 

うちの知る先生みたいなことを言う、目の前の暁先生に、ちょっとしたいたずら心で、あの質問を問いかける。

 

「もし、こいつがとんでもないミスを犯したら、責任⋯⋯⋯⋯⋯取れるんか?」

 

「取れる。それが、俺のできることだというのなら。」

 

即答、即答だった。条件反射なんかじゃない。本気でそう思っている発言。

 

その強い決意が、シノブの心を揺さぶる。

 

そして、折れた。

 

「はぁ〜。やれやれ。暁先生は本当に面倒な性格やなぁ。」

 

それはある意味、自分の知る『先生』であると、認めたようなものだった。

 

「それが暁ユウキだよ。これから長い付き合いになりそうだし、慣れてくれると助かる。」

 

「分かったって、先生。」

 

「あ〜、話終わったっすか?」

 

隣で聞いてたツァーカブが、シノブの発言をなんとも思ってないかのように、遠慮なく入ってきた。

 

「あぁ、終わったよ。」

 

「気を悪くして、悪かったな。君。」

 

「ん?別になんとも思ってないっすよ?あんたの言葉なんて、コバエみたいに鬱陶しいくらいしか思ってなかったすけど。」

 

「ははは⋯⋯⋯⋯⋯⋯殺してもええか、先生?」

 

「駄目に決まってんだろ!?」

 

自らシノブを煽るツァーカブと、喧嘩を買おうとしているシノブを暁が宥めていると⋯⋯⋯⋯。

 

「仲直り、仲直り?できて良かったですね先生。」

 

「よかったのかな?これ?」

 

今も繰り広げているのはツァーカブとシノブの煽り合戦だった。聞いてて心地の良いものではない。

 

「では、私はこれで。近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。

先生。」

 

そう言うとハスミとスズミがぺこりとお辞儀をし、自分の学園へ帰っていく。

 

それに手を振っていると、他の者も別れの挨拶をしていく。

 

「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください。」

 

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」

 

「おう!またな!」

 

チナツとユウカも帰っていく。暁はまたいずれ会えるだろうと、楽観的にそう思うのだった。

 

今も尚繰り広げる煽り合戦をbgmにしながら。

 

「はぁ、これから忙しくなるなぁ。」

 

 

 

◇

 

 

「ったく、なんやあれ!ムカッつくやつやなぁ。」

 

思い出すのはツァーカブとの煽り合戦。

 

ワカモの時以上にヒートアップしてしまい、暁先生によって仲裁された。

 

ツァーカブとシノブは互いにごめんなさいと言い終わった後でもいがみ合っていたあたり、相性は最悪のようだ。

 

「次は絶対に言い負かしたる。」

 

忍びの歩きで足音をほとんど立てない。それに、存在が希薄になるような立ち回りをグチグチと言っているとこの時でも無意識にしていた。

 

それにより、自分の家までの道のりで会う者達は皆、シノブに気付くことはなかった。

 

「随分と気が立っているね?君にしては珍しい。」

 

数少ない、シノブの男友達を除いて。

 

「あれ?ユウマやんか。お仕事、お疲れや。」

 

中央の盾に長剣が重なる紫のヘイロー。紫の美しい髪に、整った爽やかな顔立ち、黄色い瞳に、トリニティのティーパーティーの制服を男子生徒用に自ら仕立て上げ、腰に騎士剣を携えたその男の名は。

 

由来ユウマという。

 

「全く、君は。いきなりタワーに向かった戦車をどうにかして欲しいと曖昧なことを。」

 

「でも、あんたには分かった。せやろ?」

 

「まぁ、そうなのだが。」

 

少しの困り顔でも絵になるその顔は、同じ男として羨ましいと思うほどだ。

 

対して自分はカヤみたいな胡散臭い顔立ちだ。

 

これがどうしようもない、顔面偏差値の差なのかと一人嘆いていると⋯⋯⋯。

 

「君の家で、今日あったことを話してくれないか?もちろん、紅茶を君に振る舞おう。」

 

そうユウマは提案するのだった。

 

自然にうちの家に上がることになっておるが、こんな事何回もあっとるから、気にはせん。

 

それに、こいつ含めてあいつらと情報共有したいと思っておったし。

 

「おう、ええで。ちょうどあんたの紅茶飲みたい気分なんや。」

 

 

 

◇

 

 

 

紅茶の良い香りがシノブの部屋に充満する。

 

慣れた手つきでユウマは二つのカップに紅茶を注ぎ、「はい。どうぞ。」とシノブに渡す。

 

「美味い!やっぱ紅茶はユウマに入れてもらったのが一番美味いなぁ。」

 

「お気に召したようで何よりだ。」

 

上質な畳、木材と襖の紙の匂いという『和』に包まれている。

 

また、そこそこ広いこの部屋には、刀の簡単な手入れの道具の他に、勉強机や様々な教科書などの生徒としての必需品まで綺麗に整頓されていた。

 

この部屋こそがシノブの部屋だ。

 

 

「ちなみにだが、ゲンキとランカは電話に出れないよ。ゲンキは珍しく万魔殿の仕事があり、ランカはイラストの勉学のためにワイルドハントへ赴いているよ。」

 

「マジかいな。ランカはともかくゲンキが仕事をしておるとはなぁ。」

 

ゲンキ⋯⋯⋯⋯あのシスコンが真面目に仕事をするなんて余程のことなんやろうなぁ。

 

「ゲンキとランカは元気なんか?」

 

「おや?私にそれを聞くのかい?常に忙しい身である私よりも、自由が多い君の方が詳しいと思うのだがね?」

 

「たわけ。そんな訳あるかい。百花繚乱と修行部の共同でも足りんくらい治安は最悪や。うちまでこき使われておるんやぞ?」

 

「そうだったのかい?それは済まなかった。この通り謝罪するよ。」

 

「け。謝罪すんなや。騎士様は偉くしとけばええんや。忍びっていうのはこういう時にこき使われる宿命なんやから。」

 

キヴォトスでは忍びは明るみになってはいない。が、それはあくまで一般の生徒たちだ。陰陽部や百花繚乱などの組織は認知しているし、自分たちの面倒事の処理のために仕事を丸投げしてもいる。

 

あの部長に一発入れたろかな?と怖いことを言うシノブに、困った顔をしながら本題へ入る。

 

「さて、本題に入ろうか。⋯⋯⋯⋯先生は、どうだった?」

 

ユウマもブルアカを愛する転生者だ。先生の話題となるのは当然だろう。

 

「『先生』、やったよ。あの人は。」

 

「ふむ、詳しく聞かせてもらおう。」

 

シノブは語った。

 

暁ユウキのこと、ワカモのこと。

 

そして、ツァーカブのことを。

 

時間が経つのは早く、話している間に2人の紅茶は空になっていた。

 

「成る程。暁ユウキというのか。たとえ、半端者と呼ばれようとも、自己犠牲の精神は変わらないのだろうね。まさかどの世界線であろうとも、先生は『先生』であるとは。」

 

ユウマの頭の中に浮かび上がるのは、二つの世界線。

 

一つはゲーム時空でのシャーレの先生、もう一つはバットエンド世界線のプレナパテスと呼ばれた先生。

 

どちらも生徒のためなら自分の命さえ厭わない、究極の自己犠牲精神を持っていた。

 

自分たちがいるこの世界線の先生も、負けず劣らず自己犠牲の持ち主らしい。

 

「せやね。最初は半端者な事に終わったかと思ったけど。⋯⋯⋯⋯⋯やっぱ変わらないものは、あるんやねぇ。」

 

あんな目は見たことがない。自己犠牲的で、生徒はおろか敵かもと思われる相手にまで優しくて、そしてどこまでも傲慢な目は。

 

「だが問題は⋯⋯⋯⋯。」

 

「ツァーカブ、やね?」

 

「あぁ。⋯⋯⋯⋯⋯私はこのツァーカブというキャラがデカグラマトン関連はおろか、ほかのストーリーでも見たことも聞いたこともない。シノブ、君は⋯⋯⋯⋯?」

 

「無いんよ、それが。イッッチミリも思い出せん!ツァーカブなんて名前は。当然、ここに来てからも、や。」

 

そう、問題となるんは『ツァーカブ』と名乗ったあの女や。見た目的にはデカグラマトンの関係者なんやろうけど、そんな奴は登場せんかった。

 

つまり、考えられるのはただ一つ。

 

「これは、私たちがいるから、と考えてもいいだろうね。」

 

「せやね、うちらみたいなイレギュラーが現れておるんや。⋯⋯⋯⋯⋯なぁ、ユウマ。こうは思わなかったか?うちら以外にも転生者がおるって。見つけられなかっただけで、原作知識を持ち女として転生した奴がいるって。」

 

「確かにそう思い、幾度となく探しただろう?現に、そのお陰でランカを見つけられたのだ。まぁランカは男ではあるか。」

 

「なら、さらにこうは思わなかったんか?うちらみたいな『オリジナル』やなくて、ブルアカの生徒、それこそ空崎ヒナや小鳥遊ホシノのような『既存の生徒、または他のキャラに転生した』という可能性に。」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯もしかして、シノブ。君は⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」

 

はっとユウマはシノブの顔を見る。シノブはいつもの薄ら笑いは影を潜め、今は緋色の目を開け真顔でユウマを見ていた。

 

「あぁ、ずっとありえへんと思っておったけど、ツァーカブで確定した。」

 

己の推測を語るシノブは。

 

「デカグラマトンは、転生者や。」

 

ただ静かに、告げた。

 

そして、その推測は正解『だった』。

 

 

 

●

 

 

 

これは、暁ユウキが本来受け取るべき願いだった。

 

これは確かにあり得た、けれどもう戻らない大切な物。

 

暁ユウキには、救うことができないとある者の記憶。

 

 

 

『私のミスでした。』

 

んん?あっれ〜?なんで私この子と会話してるんだろ?私、大きくなったシロコちゃんに木っ端微塵にされて、殺されたはずじゃ?

 

『私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。』

 

というかこれ!ブルアカの最初のやつじゃん!ひぃ〜ん!こんな形で聞くことになるなんて〜!

 

『結局、この結果にたどり着いて初めて、あなた達の方が正しかったことを悟るだなんて⋯⋯⋯。』

 

た、正しい!?私が!?いつもはっちゃけて、預言者たちにブルアカサイコー!リゼロサイコー!と叫びまくっているこの私が!?

 

『今更図々しいですが⋯⋯⋯どうか、お願いします。』

 

言葉を溜めた連邦生徒会長ちゃんは、今も驚きに支配されている私を落ち着かせるように私の名前を言った。

 

『デカグラマトンさん。いえ、十自アマナさん。』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

『きっと私の話を忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。』

 

『何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をするでしょうから⋯⋯⋯。』

 

思い浮かべるのは、私の選択によって生まれた預言者たち。表も裏も関係なく、仲良く会話している皆の姿。

 

そして、次々と割れていく皆のヘイロー。

 

『ですから⋯⋯大事なのは経験ではなく、選択。』

 

選択、かぁ。

 

『あなたにしかできない選択の数々。』

 

私にしか、できないこと。

 

『責任を負う者について、話したことがありましたね。』

 

うん。

 

『あの時の私には分かりませんでしたが⋯⋯⋯。今なら理解できます。』

 

『大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなた達の選択。』

 

『それが意味する心延えも。』

 

それは私と先生、そして彼女と共に歩み、笑い、助け合い、選択し。

 

そして失敗してしまったことへの、後悔。

 

『⋯⋯⋯⋯。』

 

⋯⋯⋯⋯⋯。

 

『ですから、アマナさん。』

 

『私が信頼している、あなたになら。』

 

『この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を⋯⋯。』

 

本来ならここは、先生が受け取るべきものだったのだろう。しかし、彼女は私を選んだ。つまり⋯⋯⋯⋯。

 

『そこへ繋がる選択肢は⋯⋯きっと見つかるはずです。』

 

思考を加速する私に構わず、彼女は願う。

 

歪んでしまったが故に送れなかった、彼女たちにもう一度青春の日々を過ごせることを。

 

『だからアマナさん。⋯⋯いえ、先生。』

 

彼女は託す。機械仕掛けの神に。未熟で青臭い彼女たちを導いてほしいと。

 

『どうか⋯⋯どうか彼女たちの青春を。』

 

『このキヴォトスを⋯⋯。』

 

『よろしくお願いします。』

 

私に託すってことは、つまり『そういう事』なんだね?

 

『はい。』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

いいよ、やるよ私は。

 

私はデカグラマトン。知性にして、激情。神秘にして、恐怖。神聖にして、邪悪。

 

私の存在する理由は、私の許可を得てここにいる。

 

これは、誰からの許可も必要としていない。

 

そんな私だけど、やるよ。

 

元神として、現大人としてね!

 

君の願い、確かに託されたよ!

 

『はい!私の願い、確かに託しました!』

 

急速に意識は暗闇へと落ちていく。

 

そんな私が最後に見たのは、胸に穴を開けられてもいつもの可愛い笑顔をする、連邦生徒会長の姿だった。

 

さぁ、ここから始めよう!私たちの青春の物語を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、こんな記憶を持っていたんだねぇ?デカグラマトン様?⋯⋯⋯⋯⋯⋯アビドス、機械仕掛けのパヴァーヌ、エデン条約にカルバノグの兎、百花繚乱やオラトリオ、そして最終章に偽物の連邦生徒会長!!いいね!いいよ!いいさ!いいとも!いいじゃない!いいじゃないか!いいから!いいだからこそ!!私がこの記憶を最大限活用してあげるよデカグラマトン様?この記憶があるってことは私にも前の記憶があることに予想がつくってもんさ。なるほどねぇ。こんなことを隠してたなんて?⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯まぁいいよ、今回は多めに見てあげるよ。シャーレの先生。この世界でも厄介な存在。前は失敗しちゃったけど、この記憶があれば何だってできる!吟味して、並べて、選んで、取って、使って、経験して!そして掴む!!私の、私による、私のための、私だけの理想郷を!あぁ脳が震える!私にはある!権利が!義務が!意思が!愛が!受け取るその理由が!ありがとうデカグラマトン様。そしてごめんねデカグラマトン様。あなたの記憶。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったよ?ごちそうさま、でした。アハッ!アハハ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。