ネーミングセンスは皆無です。感想とかあったら嬉しいです。
というかアビドス編遅すぎぃ。
連邦捜査部シャーレに暁ユウキが就任してから翌日、嫌々ながら書類を片付け終わった暁はシャーレの部室にある隣の部屋で寝ていた。
時刻 6:30
昇ったばかりの太陽から送られる暖かい日差しが、寝ていた暁の顔を照らす。その日差しにより、暁は目覚めようとしていた。
「う、んん〜。」
暁は起きるのは早い部類だ。普段なら即座に動き、元気よく朝の支度をしていただろう。
しかし、立て続けに起きた人生の『初めて』が暁を思った以上に追い詰め、暁にしては珍しい光景を作り出した。
その光景は、一瞬にして終わる。
「先生様〜!おはようっす〜!!!」
煩すぎる挨拶をかますツァーカブによって。
そこから続くやかましい言葉の嵐。「いい天気っすね〜。」や「今日から張り切ろう⋯⋯⋯⋯⋯っす!」など。起きたばかりの暁にとっては耳が痛くなる言葉ばかりだ。
今も続く元気っ子に半目で見つつも、うるせぇとぼやくのだった。
こうしてシャーレとして働く日が始まった。
◇
時刻 7:00
レンチンしたばかりの昨日の残りである唐揚げを食べながら、昨日までの疑問を解消するべく、ツァーカブにいろいろ質問していく。
はずだった。
「うめぇ!うめっすよ、これ!?この唐揚げ!残り物でもここまでうまいなんて!生きてよかったっす!」
「お前⋯⋯⋯⋯食べ方汚え!フォーク使えって言ったろ!」
「なんでっすか!?フォーク使うより手を使ったほうが速いっすよ!?」
ツァーカブは品性もカケラも無かった。
箸は使わず、フォークすら使わず。まさかの手による鷲掴みだった。
昨日は唐揚げを手づかみで食べようとしたため、暁が注意しフォークを使わせたというのに、だ。
「速さじゃねぇ!品性を大切にしろって言ってんだよ!?人として恥ずかしいぞ!?」
正直言って見てられなかった。この先外での食事をする度に、これを見せつけなければならないのか?
冗談じゃない。それは恥辱以外の何物でもない。
我慢ならず、俺の品性の大切さについて語ろうとした瞬間。
「え?あーし、人間じゃないっすよ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
カラカラっと軽い音が響く。
まさかの衝撃発言に思わず固まってしまう。
机に落としてしまった箸と唐揚げを慌てて皿に戻す。そんな俺に構わず重い発言をしたツァーカブは、無くなった唐揚げに満足しつつ油で汚れた手をペロペロと舐めていた。
その下品な行動に一瞬だけ眉をひそめるが、時々見える舌が人間の赤色の舌ではなく、人工的な色を持つ灰色が暁の気持ちを強制的に切り替えた。
昨日はまだ半信半疑だった。だってこんなにもにこやかで、俺の言葉で大泣きして、人懐っこく接してくれたツァーカブが。
本当に人間では無いのだと、そうは思わなかった。
⋯⋯⋯⋯⋯いや違うか。思わなかったんじゃない。『目を背けていただけだ。』
「⋯⋯⋯なぁツァーカブ。いろいろと聞きたいことがある。話してくれるか?」
意を決して、ツァーカブの奥にある秘密に触れる。
人によっては煙たがれる発言。だがツァーカブにとっては、大好きな先生からのお願いに興奮し二つ返事で承認した。
「いいっすよ!なんでも!聞いてくださいっす!」
数回深呼吸をする。これから質問することは、こいつの、ひいてはこの世界に関しての真実を聞くことになるから。
どんな言葉も、受け止めてみせる!
まずは俺にとって大事なことから!
「ツァーカブ、お前が人間じゃないって言ったよな?つまり、お前は⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯美少女アンドロイドってことか?」
人生でもなかなか無いほどに(死ぬときは除く)、バクバクする鼓動を抑えて、勇気を込めた言葉。
それをツァーカブは。
「???分かりきったこと、なんで聞くんすか?」
呆気なく答えた。何言ってんだこいつ?という目をしながら。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯うおおおぉぉぉぉぉスゲェぇぇぇぇ!!!初めて見たぜ美少女アンドロイド!お前に会えただけで、人生の夢が一つ叶ったぜ!!!」
「は?どういうことっすか?」
静から歓喜へ。思わずガッツポーズを取り、溢れてやまないこの激情のまま、叫びまくる。
先程と変わらない冷めた目線を送るツァーカブに俺は興奮したまま熱弁する。
「いいか!?男っていうのはな!メカメカしい巨大ロボットだったり!空飛ぶ宇宙船艦だったり!中身が人間じゃない美少女アンドロイドだったり!そういうのが大好きなんだよ!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯そういうものっすか?」
「そういうもんだよ!」
一部偏見が混じってはいるが大抵の男子はそうだと熱く語る。それに既視感を感じたのか、一瞬の沈黙の後に「あぁ、そうすっか。」と素っ気なく返された。
その顔は心底どうでもよく、くだらなくて、何の興味を持たない者の顔だった。
それに僅かな⋯⋯⋯⋯⋯いやめちゃくちゃ心が痛むのを感じつつも、続けて質問をしていった。
◇
時刻 7:45
「へぇ〜デカグラマトンっていうのかお前の創造主。しかもそれが自販機っていうのが異世界感増してるなぁ。というかお前の異名カッコよすぎんだろ。」
「でしょでしょ!デカグラマトン様には感謝してもしきれないっす!」
デカグラマトンっていう奴の部下だったらしい。デカグラマトンクリフォトの樹7番目の預言者、繋がりである『パス』の名は『遂げられぬ欲望の理』。そしてコイツ自身に付けられた異名は『色欲に溺れし無限の愛』。肩書がカッコいいと思うんだが、本当に色欲に溺れてたんだなと、なんだか複雑な気持ちになる。
そしてツァーカブから説明された数々の話を整理する。
デカグラマトンやゲマトリア、対・絶対者自律型分析システム等々。時々頭がパンクしそうになりつつも、噛み砕いて理解していく。
そして、思う。ここは本当に『異世界』だと。
異世界。その言葉を嫌というほど身に沁みていた。
ここは異世界。それは自身の常識を見つめ直さなきゃいけないほどに異なる世界。
文化も、常識も、果てには人かどうかも違う。それが異世界。
「まぁあーしを作ったのはデカグラマトン様だけではないんすよね。」
昔を懐かしむように、空になったコップを見つめている。その目は哀愁が混じっていた。
その雰囲気に、目に感化されて上っ面の感慨深さを覚えつつ、追加で質問をしていく。
「助手みたいなもんか。そいつって?」
うーんと顎に手を当てて、思い出していく。そして段々と険しくなっていく。
ツァーカブの顔はコロコロと変わっていく。何か嫌なものを思い出したという顔になったかと思ったら、理解ができない物を見たような顔になったりと様々だった。
「んー。そうっすねー。そいつは、預言者の誰よりも人間らしくて、誰よりも人間を理解していて、誰よりも人間に憧れていて⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯誰よりも人間を扱うことに長けている奴っすよ。」
「⋯⋯⋯⋯⋯そいつの名前は?」
重々しく、慎重な声で問い掛ける。
何故かは分からない。分からないのに⋯⋯⋯⋯⋯こうも胸がざわめいていた。
面識があるわけじゃないのに、名前なんて明かされてもいないし、どんな存在なのか知らないのに。
まるで、宿敵を相対したような感情を覚えた。
ツァーカブから告げられる。その者の名を。
「デカグラマトン、クリフォトの樹『11番目』の預言者⋯⋯⋯⋯⋯リヴァイアサン。それがあーしのデカグラマトン様の助手の名前っす。」
◇
時刻 10:30
濃厚な世界のお話で腹が一杯になった俺は黙々と殺人的な書類を片付けていた。
サンクトゥムタワーかと思うくらいの量の書類に辟易しながらも、ちらっとツァーカブを見る。
書類作業なんてしたことがないのか暇そうにぼけーとしているツァーカブ。こいつ、全然書類に手を出していねぇな。機械だからこういうのも得意かと思ったんだが⋯⋯⋯⋯。
辟易と、憂鬱になりつつも、そんな調子のまま黙々と書類を片付けていると⋯⋯⋯⋯⋯。
「もしもし、あなたがシャーレの先生で合っていますか?」
ブンッとプログラムが現れたかと思うと、警察のような格好をした女性が映し出された。
金髪のロングヘアーと睨み付けるような鋭い目、青色の独特なデザインのヘイロー。そこまではいい。
だが注目する所は頭の上にある犬の耳と唇の間から見えるギザギザの歯。それが彼女の唯一無二の個性を出していた。
とんでもない美女。遂にケモミミまで現れるとは⋯⋯⋯!何でもありじゃん!
「はい、連邦捜査部シャーレの先生です。えっと⋯⋯⋯⋯⋯⋯何の用でしょうか?」
相手が年上と考えるのが自然のため、敬語で話してしまうが⋯⋯⋯⋯⋯。
「先生、私に対して敬語じゃなくても構いません。私はあなたとは一つ下、なので。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え!?年下!?マジか⋯⋯⋯⋯⋯てっきり年上のクール系ケモミミギザ歯婦警美女だとばかりに!」
だが暁の勘違いは仕方ないだろう。雰囲気といい、見た目といい。完全に疲れたOLのそれである。なんの事前知識もなければ、暁同様に勘違いする者は少なくない。
「なっ!先生、冗談は辞めてください!」
「先生様?」
「あぁ〜っとなんでも無い!えっとどんな用で来たの?ていうか名前何?」
思わず彼女の属性を口に出してしまい、ツァーカブに冷たい目で見られてしまう。それに目を背けて、彼女に質問をした。
「おっと、失礼しました。私はヴァルキューレ警察学校公安局局長尾刃カンナといいます。よろしくお願いします、先生。」
「俺は暁ユウキ、連邦捜査部シャーレの先生だ。よろしくな、カンナ!それで公安局局長がなんで俺に?」
シャーレが本格的に始業したのは今日だ。周りから見れば、突然行方不明になった連邦生徒会長が設立した正体不明の超法的機関なのだ。
警察に当たる学校の幹部が他の学園よりも先に挨拶に来るなんて普通じゃない。
一体どんな理由で⋯⋯⋯?
「?先生は聞いてなかったのですか?」
「は?何をだ?」
んん?俺は彼女と関わる約束なんて⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あ。
「あ、気付いたようですね。サンクトゥムタワーを襲撃した不良生徒たちが再び集まったみたいです。そこを私たちが叩くのですが、先生も同行するとのことですので、連絡しました。⋯⋯⋯⋯⋯⋯玄関で待っています。急ぎ支度を、先生。」
あの時のリンとの約束が、こんなにも早く果たすとは思わなんだ。
◇
時刻 10:40
急いで支度をして、駆け足で向かう。リンから「持っていってください、これは連邦生徒会長があなたへ残した物ですから。」と、大事な物を俺に渡されたシッテムの箱を手に持ちながらツァーカブと一緒に玄関へ向かうと⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「先生、急な対応をさせてしまい申し訳ありません(全くあの防衛室長)。」
カンナの後ろを見てみれば、ズラッと部下と思わしき者たちがいた。警察の制服と女子高生の制服を組み合わせたような、オシャレな制服で、映画やドラマでよく見る、暴動を鎮める警察の標準装備である透明な盾の他に、このキヴォトスの標準装備である銃を握り締める者が、計15名綺麗に整列していた。
さらにカンナの隣には他の者とは一線を画す少女がいた。
純白の髪や太陽のような瞳、端正な顔立ち、そして氷のような表情はヴァルキューレの制服によって映えていた。
その者はカンナの隣で、何を考えているのか分からない目で暁たちを見ていた。
謎の美少女による誰だろうか?と、カンナの隠れた苛立ちに誰かに怒ってる?によって頭は疑問ばかり思い浮かんだが、それを無視して話を進めた。
「いや、気にすんな。約束を忘れてしまった俺が悪いんだ。以後気を付ける。後ろにいる皆がそう?」
「はい、今回の不良生徒を制圧する際の部隊⋯⋯⋯⋯⋯と、彼女が担当です。」
「どうもこんにちは。私はヴァルキューレ警察学校生活安全局副局長の青野スズです。よろしくお願いします。」
氷の印象を受ける言葉も感情を感じさせない淡々とした声だった。
「俺は暁ユウキ、連邦捜査部シャーレの先生だ。こっちはツァーカブ。よろしく。」
「よろしくっす〜。」
「はい、よろしくお願いしますツァーカブさん。今回の任務では私が先頭に立つので、暁先生は安全な場所で待機していただければ。」
「不安って事ね。りょーかい。足手まといにならないように、お前の雄姿を見届けるぜ。」
「はい。」
やや茶化すように言って緊張を紛らわせるようにしたかったんだが⋯⋯⋯ダメだったようだ。
そんな俺たちのちょっとした会話をしている中、後ろにいる統率された者たちを見たツァーカブは悪気も無く呟いた。
「ん〜、装備貧弱じゃないっすか?」
「おいコラァ!」
あまりにも素直すぎる発言に、即座に反応した俺はツァーカブの頭を鷲掴みにして一緒にカンナたちに頭を下げる。
「すみません!本当にすみません!こいつには後できつく言っておきますので!」
「す、すみません?」
失礼な発言をしたツァーカブに思わずテンパってしまい、思わず敬語となってしまう。
俺と(一応謝っとくかと思った)ツァーカブに苦笑いを浮かべたカンナは、「大丈夫ですよ、事実ですので。」とフォローを入れるのだった。
この時のカンナの苦笑いが、俺には少し怖かった。
◇
時刻 11:15
『私は!ヴァルキューレ警察学校の公安局局長!尾刃カンナだ!貴様らは既に包囲されている!銃を捨て、今すぐに投降しろ!』
メガホンを握ったカンナが、威圧的警告を廃校に籠城している不良生徒にドスの利いた声で告げた。
俺とツァーカブはカンナの仕事ぶりを後方で見ていた。
ヴァルキューレの部隊は三つに分かれて廃校を包囲。カンナ曰くこれとは別に狙撃部隊も配置されているとのこと。普通に考えれば投降して自分の命を守るだろう。何故なら彼女たちは扇動者によって集められたただの不良生徒だ。訓練された警察に敵うわけがない。
そう、『普通』に考えればだ。ここ、キヴォトスでは、暁ユウキの普通は通じない。
「あぁ!?何だぁテメェ!!たかが連邦生徒会の犬っころのくせに偉そうにすんな!」
「所詮誰かの手足でしか無いんだ!この負け犬!」
「そんなに威圧したところで無駄だ。私たちは捕まっちゃうんだから。どうせ捕まるなら最後まで抵抗してやる!」
「やれるもんならやってみろよバァカァ!!」
返ってきたのは罵詈雑言だった。中にはえげつない事も言っている者もいて、後で説教は確定だ。
可愛い声も、カッコいい声も、全部台無しになる暴言にカンナは内から湧き上がる怒りなどの感情をひたすら抑えた。
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
眼光は、人を殺せそうだったが。
「うーわ。やる気満々っすね。どうするんすか?あいつら、装備が貧弱だからかなり時間掛かっちゃうすよ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
ツァーカブの言う通り、カンナたちの武装は貧弱だった。彼女たちは軍人ではない。『警察』だ。治安を守り、市民に安心を与え、誰からも親しまれる存在だ。だから市民に刺激を与えるような重装備や高火力の装備は使用できない。
暁は知らないが、こういう時は本来SRTという特殊部隊を輩出する学校が担当していた。しかし、連邦生徒会長失踪により責任問題となり閉校。治安はより悪化した。
このような事件ですら、ヴァルキューレ警察学校がやらなければならないほどに。
だが問題ない。ここには元SRT最強の生徒がいる。
「それなら心配ありません。ツァーカブさん。」
ずいっと暁の前に出たスズは手に持った愛銃(ゴツいアサルトライフルでカッコいいと思った)を取り出し、一言告げた。
「私なら一瞬で片が付きます。」
各学園の最強格に匹敵する者のみが放つ圧と共に絶対の摂理を言い放つ。
それは事実だ。どうしようもない程に絶対の強さを持つ敵にとって理不尽な存在。
SRTにおいて最強の個へと与えられる『レイヴン』が制圧に乗り出す。
正義を見失った烏が、羽ばたいた。
◇
時刻 13:00
「貴女がリーダーですね?櫻井ミキ。」
スズは薄暗い尋問室で今回のヘルメット団のリーダー、櫻井ミキと対峙していた。
桜色の長髪が特徴的な女の子は俺とスズを胡乱げな目で見ていた。
「そーだけど?で?隣のあんた誰?」
気怠い声で問い掛けるミキは、行儀悪く椅子に腰掛ける。
「俺は暁ユウキ。シャーレの先生をしている。」
「シャーレの先生?⋯⋯⋯あーワカモの言ってたあれか。」
「ワカモと何か関係が⋯⋯⋯⋯?」
「大した関係じゃねー。指揮官とリーダー。それだけ。」
質問には素直に答えていくミキ。さっきまでスズにアサルトライフルの掃射を浴びせられた人物とは思えない受け答えだ。
やっぱ常識も何もかも、違うなぁ。
少しセンチな気持ちになる暁を置いて、スズは続けて質問をする。
「何故連邦生徒会を襲うような事を?」
「ハッ!んなもん金を貰ったからに決まってんだろ?」
「金?」
もしかして傭兵をやっていたのか?学生が傭兵?
???
「生きていくのに金がかかる。学校から退学扱いされた奴は金も貰えないし、学籍も無くなる。だから傭兵をやってって!何あたしはお前に説明してんだよふざけんな!?」
「理不尽!」
勝手に説明して勝手にキレるなんて理不尽だろ!
「先生。学籍というのは外の世界でいう戸籍のようなものらしいです。」
へぇ〜と頷きながら納得する。
そして思う。これって国のシステムを学園に置き変えているんだな。
国民は学生に。国は学園、組織は部活、政府は生徒会。
そしてここまで聞いてきた事。キラキラな世界とは懸け離れたシビアで硝煙まみれの銃社会な世界だ。
「で?あたしはこれからどうなるわけ?」
椅子に背を預けながらだらしなく言うミキは、何だか荒くれ者といった感じだ。俺と近い年齢だというのに一体どれだけ『闇』に触れたのだろうか。
「もうしばらく尋問した後、矯正局へ送りです。」
「ハッ!そうかよ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯なぁ先生。あんた、この先やっていけれるか?」
「どういう意味だ?」
いや意味は分かる。けどその質問をするその意図が分からない。何を考えてそんな事を聞くんだ?
「今、このキヴォトスの闇はあんたに夢中だ。ブラックマーケットなんて特にあんたの事で持ちきりだろうよ。」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
押し黙る。名前からして闇が満載な名前の連中の事について少しでも知ろうと、体は無意識に清聴する。
これはきっとこれまでの仕返し⋯⋯⋯⋯のようなものなんだろうな。自分たちの力じゃどうしようもないから、だから俺みたいな力を持つ奴に託すような真似をするんだ。
「これはあくまで『嫌がらせ』。だからよく聞いておけ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯カイザーには気を付けろよ?」
それはカイザーなのか。この世界の闇なのか。この世界そのものなのか。
誰への嫌がらせなのか。それはきっと本人にしか分からないのだろう。
けれど、確かに暁ユウキはその嫌がらせを受け取った。
時刻 13:30
あらかたの事情聴取を行ったスズと暁は、ヴァルキューレの玄関口でお別れの挨拶をしていた。
ちなみにカンナは次の仕事があると言って、駆け足で去っていった。
「お疲れ様でした暁先生。今回の件、どうでしたか?」
「つまんなかったっす。あーしの力を先生様に見せられなかったっす。」
不満気に文句を言うツァーカブは、ぷくーと頬を膨らませて『私は不満です!』と主張していた。
そんなツァーカブに俺は苦笑いをしてまた今度な宥めた。
「俺は⋯⋯⋯⋯凄かった⋯⋯⋯っていう陳腐な感想しか出なかったよ。俺の出る幕なんてなかった。」
実際、それだけスズは強かった。ほぼ一人で20人近い数の相手に大立ち回りをしたのだから。
その戦い方は、まるで舞うようだった。
「しかし途中から先生の指揮があったおかげで、普段よりも楽ができました。力を失った私からすれば、先生こそが今回の戦闘の貢献者です。」
ん?力を失った?それってどういう⋯⋯⋯?
「力を失ったってどういうことっすか?」
俺と同じくさらっと言った重い発言にツァーカブは反応をする。
その言葉に彼女は、ただの事実として、今日話してきた口調のまま、昔の自分のことを話した。
「私は記憶を失ったみたいなんです。記憶を失う前の私は、それはとても強くSRTという学園で最強だったらしいです。あぁ、SRTというのは連邦生徒会直属の戦闘部隊⋯⋯⋯ようなものらしいです。」
あっけらかんと話すスズは、どれだけ俺が観察しようと『事実として受け止めている』としか思っていないという結論しか出なかった。
記憶を失うなんて⋯⋯⋯なんでそんなに悲しいことを素直に受け入れられるんだ?少しも思う所がないなんて。
人は誰しも大切な物をなくすとき、何かを思うのだ。それは悲しみであったり、苦しみであったりと。
しかし、彼女にはそれがない。記憶というものであっても、いやだからこそ、それによって湧き出てくる感情がある⋯⋯⋯⋯はずなのに。
「過去の戦闘記録を見ましたが、確かに今よりも遥かに強いです。そしてみんなは、己の持つ正義を持っていたと言います。私には『正義』というのが分かりません。ただ、事実として、私は『記憶を失った私』の正義を為したいと思います。きっと前の私もそうあれと思いますから。」
「それが、走り続ける理由か?」
きっと今の俺は辛気臭い顔をしているのだろう。だって彼女は、スズは。
辛い事を辛い事であると認識していないから。
俺の問いにスズは氷の如き無表情で、答えた。
「ええ、そうです。何故なら過去の私は正義を行使していたのでしょう?『正しい』をやっていたのでしょう?なら私はその意志を引き継ぐまでです。」
冷たい印象を受ける彼女だが、俺の目には静かに燃える青い炎のようだった。
だってこんなにも眩しい。
「なら、手伝わせてくれないか?」
「暁先生がですか?」
初めて見たキョトンとした顔に、俺は笑顔で応える。
「あぁ、俺は『先生』だからな。生徒の目標を応援するのが仕事だ。だから手伝わせてくれ。」
俺に手伝わないという選択肢はなかった。俺にできることなんて応援しかないけれど、それでも俺は⋯⋯⋯⋯誰かの目標の役に立ちたいのだ。
その言葉を聞いて嬉しくなったのか。
彼女はほんの小さな、けれど確かに笑うのだった。
「はい、よろしくお願いします暁先生。」
その日の夜、シャーレの部員に青野スズが入るのだった。