やっとアビドスです。スローペースなので、このままだとヤバいので所々カットしていきます。ご容赦ください。
これは、ツァーカブが色欲に溺れておらず、まだ『先生』と出会う前の話。
「ねぇお願い!シャウラやって!」
はぁ〜またか。
面倒臭いという感情を溜め息に乗せて、戯れ言をほざく創造主に呆れ果てる。
場所は鋼鉄大陸の深部、聖域。デカグラマトン様の体である自販機と同じ製品番号のものを、執拗なまでに集められたこの場所は、執念と執着にも似た物を感じることであろう。
もうこの類の自販機は廃れたため、墓場と言えるこの場所は、デカグラマトン様にとっての安息の場所であり、誰かを迎え入れる際に使われる場所である。
故に『聖域』。
「大体私はシャウラというキャラを知りません。特徴も見た目も性格すらも、見たことがない私がするのはもはやそれは『エアプ』です。」
「うっ。確かに。」
淡々としたままに、持論を述べる講師のように、欲望のままに突き進むデカグラマトン様に説く。
「そんな私がやってたら、それはシャウラというキャラを軽んじ、馬鹿にするようなもの。これ即ち、シャウラという存在に対する権利の侵害では?」
「ちょっ!ノミ以⋯⋯⋯⋯ケムダーみたいなこと言わないでよ〜!」
今ノミ以下と言おうとした?もしここにケムダーがいたら『あのさぁ⋯⋯⋯。』という言葉とともに面倒な長話に付き合う羽目になるだろう。
デカグラマトン様はよく『リゼロ』という作品について熱く語ることがある。その作品のキャラの一部が預言者の外見や性格、果てには性能に至るまで反映されている程だ。特に顕著なのはリヴァイアサンだ。己の好みをこれでもかと注がれている。
だからだろう。もしかしてと思い、何故最初に名乗りをあげるのだろうと質問したら⋯⋯⋯。
『え?そんなものカッコいいからに決まっているからじゃん!私好きなんだよね〜。私は魔女教大罪司教ナントカ担当〜ってさ!』
ということもあり、私は『シャウラ』を元にされたのだろう。色欲に選ばれたのも『それっぽいから』という、ごくつまらないものなのだろう。
「そんな事はないよ。ツァーカブ。」
私の内心を読んだデカグラマトン様は、慈悲深い声で否定した。
「私はね、ツァーカブを創り出す時に目一杯考えたの。どういう子にしようとか、どんな性能にしようとか。」
体は自販機のため顔はよく分からなかった。けれど、絶対に笑顔で語っているのだと、何故か確信できた。
「それでね、思ったの。シャウラっていう子みたいになってほしいって。その人を本気で好きでいて、その人のために全力で頑張れて。⋯⋯⋯そして、その人を心から愛することができるようにって。そんな思いで君を創ったんだよ。」
⋯⋯⋯⋯⋯。
「でもデカグラマトン様ってアニメの途中だったから、シャウラのことを深くは知らないってさっき⋯⋯⋯。」
「ま、ままま、まぁ!ユリウスの名前回までしか見ていなくても!ても!私はシャウラって子が好きだよ。ツァーカブ。君にもきっと最高にぴったりな人が現れるよ。その時はシャウラをエアプでもいいからやってほしいな。」
それは今にして思えば、ツァーカブという自由意志を尊重し、自分自身の手で愛を掴んでくれという、機械に対してはあるまじき選択であった。
しかし、当時の私はそれを『くだらない』と吐き捨てたのだ。
愛を知らぬがゆえに、機械であるがゆえに、預言者という肩書に囚われているがゆえに。
だから今は、デカグラマトン様の意志を汲み取って、先生を『先生様』とそう呼ぶのだ。
◇
青野スズがシャーレの部員になって4日が経った。迫りくる書類の山々に過労死寸前になるもあの死よりマシと考えて、スラスラと書類を書いていく。
学園の催しであったり、ちょっとした相談事であったり、猫探しだったりと様々だ。
そんな何でも屋の形で馬車馬の如くこの日まで過労死せずに過ごせたのは、シャーレが始動した日にスズが時折手伝いをしてくれたお陰だ。
「先生!この書類の書き方が違います!ここは⋯⋯⋯!」
それと、通い妻のようにほぼ毎日やって来る早瀬ユウカの存在も大きかった。
「あぁ、スマン。また間違えた。」
「別に良いですよ。以前と比べたらかなりマシです。」
マジ⋯⋯⋯⋯⋯か。
その言葉に思う所がある。こういうのは俺の兄が得意な奴だった。文武両道、成績優秀、完璧超人。色々な褒め言葉に当てはまるような人だった。
俺とは10近く離れている兄。ビジネスマンとしてエリート出世している兄。
そんな兄ならこの書類の山にどう対処したのだろうか?俺には分からない。分かるはずもない。
だって俺は⋯⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯⋯あぁ〜〜もう!クソッ!なんで俺はこんな書類の山に囲まれてるんだ?やってもやっても終わらない。こっちは2時間もやってるっていうのに!
苛立ちが募っていきそれが字に現れる。ユウカが心配の眼差しを無視して書き続けていると⋯⋯⋯⋯⋯。
「先生様。先生様宛に不穏な手紙が届いたっす。」
「不穏な手紙?どれどれ。」
仕事せずに座ったままのツァーカブが、俺に数枚の手紙を手渡しする。
ペラっと捲り、手紙を読み進めていく。
連邦捜査部の先生へ
こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、
こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。
それも、地域の暴力組織によってです。
暴力組織って、どこもかしこも治安わりぃな。
そう思いつつも、2枚目を読む。
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが⋯⋯⋯。
どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、
そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます⋯⋯⋯。
このままでは、暴力組織に学校を占拠されてしまいそうな状況です⋯⋯⋯。
黙って3枚目を読む。
それで、今回先生にお願いできればと思いました。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?
「はぇ〜、こんな事になってるんすね〜。」
いつの間にか隣で覗き見ていたツァーカブが、そう呟いた。
それを見たユウカはむっとしているが、暁はそれに気付くことなく話を続ける。
「何か知ってるのか?」
「知ってるっていうより⋯⋯⋯⋯あーしの元仲間がいる場所っすね。」
「元仲間。」
「ビナーって言うっす!鯨と蛇を組み合わせたような奴っすよ!デッかくて、ビームーとかミサイル撃ってきて、誰よりも理解者であろうとする面白い奴っすよ!?」
「お前の仲間はスゲーな!テンション上がってきた!」
デカくて、動物モチーフで、ビームとミサイルを撃ってくる!これだけでテンションはバク上がりだ!
「先生、なんの手紙ですか?」
「アビドスって学校ピンチになっているらしい。」
「アビドスですか⋯⋯⋯?」
尋ねたユウカがアビドスについて思い出そうとしていた。
「アビドスってどんな場所なんだ?」
「確か⋯⋯⋯アビドスは昔ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムに並ぶほどに強大な学園だったと聞きます。しかし今は数回にも及ぶ砂嵐により街は砂に沈み、廃校寸前になっているらしいです。過疎化も進み、人はあまりいないとか。」
アビドスの事を聞けばなかなかにどうしようもない程に追い詰められているようだ。
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
この手紙を書いたアヤネっていう奴はアビドスが大好きで、そして最後まで諦められない奴なんだと思う。
俺みたいな、ぽっと出の奴に頼むくらいに。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯よし、行くか。」
ボールペンを仕舞い急ぎ支度する。
「え?今っすか?」
「あぁ、今だ。追い詰められているなら、今すぐ行かなきゃ手遅れになるかもだろ?だから行く。ツァーカブ、弾薬の準備とかしといてくれ。」
「了解っす!」
敬礼のポーズを取った後、支度のために駆け足で部屋を出ていく。
「え!?先生、今からですか!?」
「おう、ちょっと行ってくるわ。」
「気を付けて行ってください!」
「この書類とかは任せるわ!頼んだ!」
ユウカは驚くがしょうがないなぁと諦めの念を抱き先生のためにとペンを走らせ、ミキたちはいってらっしゃいと挨拶をしていく。
こうして暁ユウキの本格的な活動が始まった。
アビドスへ行くという選択が、さらなる地獄と死に戻りを加速していく。
「シャーレの先生、攻略開始だね。」
◇
遭難3日目
「あっつい、凄くあつい。干からびちまう。」
単刀直入に言おう。迷子になった。
昼は灼熱の太陽と強すぎる日差しがジリジリと俺を苦しめていく。夜は凍てつく気温と切り裂くような風で体を痛みつけていく。
精神が削られていくのが分かる。これが砂漠の環境?舐めてた訳じゃない。油断なんてせずに色々準備してきたっつーのに。
「アビドスまでどのくらいだ?」
擦り減った声で、シッテムの箱を操作しているツァーカブに尋ねる。
「ん〜、この地図古すぎるっす。これ一年くらい更新してないっすね。」
「⋯⋯⋯⋯つまり?」
「ここにいる場所が分かんないっす!」
「ちっくしょぉ〜。」
弱々しく叫ぶ。その声は虚空に吸い込まれ、消え去った。
ツァーカブは人間では無い。だからこの極限の環境である砂漠の影響を一切受けていない。現に今もピンピンしている。
「なぁお前機械なんだろ?マッピングとかってできるの?」
一縷の望みを懸けるも。
「そんな機能はあーしには搭載されていないっす!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そうか。そうかぁ。」
見事粉砕された。
というかこいつって何ができるんだ?シャーレにいた時はずっと椅子に座ってたけど。
「じゃあ聞くけどお前って何の機能があるんだ?」
「あーしの機能は正確無比の狙撃っす!」
狙撃?こいつが?一体どうやって?こいつ武器持ってねぇのに。
ッ!まさか!武器を格納しているとか!または変形するとか!
「あーしはこんな感じで狙撃して、必要とあれば建物を貫通して相手を『狙撃』するっす!」
そう言いながらツァーカブは右手を伸ばした次の瞬間。
ガチィンと変形音と共に、右腕は真っ二つに割れ即座に変形し砲身となった。
指の部位は砲身と融合し、関節は無くなり代わりにエネルギー貯蔵庫となる。割れた部位から磁石と思しき部品がズラッと並び、メタリックな黒と完全な白が融合したレールガンとなった。
そんな光景を見た俺は。
「す、スゲェェェェェぇぇぇぇぇ。」
勢いがあった魂の熱狂は急速に死にかけの声と早変わりした。
「せ、先生様ぁ!!大丈夫⋯⋯⋯⋯⋯何か来る?」
声と共に地面へ倒れ伏した俺は、どうやら叫ぶ事に残った全エネルギーを使ってしまったらしい。この遭難でボロボロ、ツァーカブの警戒する声すらまともに聞けない。
ツァーカブはマッピング機能は無い。けれど、何かが高速で向かってくるとレーダー反応で即座に迎撃体制を取り、右手を砲身にしたまま警戒にあたった。
その近付いてくる者はすぐにこの場所に現れた。
「ん?これ⋯⋯⋯⋯どういう状況?」
最後の力を振り絞って見上げると、ロードバイクに乗った珍しいオッドアイ狼系ケモミミ美少女がいた。
こんな灼熱の砂漠でマフラーを巻くという、見るだけで熱くなりそうな格好をした少女は、倒れ伏している俺と警戒しているツァーカブを見て、ただ困惑するしかなかった。
◇
とりあえず警戒するツァーカブと、砲身を向ける事に反応して銃を取り出す少女を落ち着かせて、今に至る経緯を説明する。
「つまり、アビドスに行こうとしたら遭難したんだね。」
「そうなんだよ。本当に助かったよ。」
「ダジャレ?」
「ダジャレじゃ⋯⋯⋯ゲホッ、ゲホゲホッあークソ喉がガラガラするぅ。」
「先生様、悲しい報告があるっす。水が尽きたっす。」
「マジ?」
「マジっす。」
マジかと声を出そうとして、止めた。何だか言うと心がより沈みそうだったから。隣にいる砂狼シロコという少女が、カバンから水筒を出してくれるが、丁寧にお断りする。
「いいよ、貴重な水を貰うわけにはいかないよ。」
「ん、でも辛そう。」
「大丈夫だって。大丈⋯⋯⋯ゲホッゲホッ!」
大丈夫だと安心させようとするが、咳き込んだ事で余計に心配させてしまう。
クソっ。なんでいつもこう、タイミングが悪いんだ?
「ん、なら強制。」
「は?どういう⋯⋯⋯むぐっ!」
シロコの方を見た瞬間に、口に水筒をぶち込まれた。流れてくる水⋯⋯⋯ではなくエナジードリンクが乾いた喉を潤し、急速に活力を漲らせる。
それを見たツァーカブが叫ぶ。
「あー!何するんすか、オオカミ!ファーストキスを奪うなんて最低っす!」
「あ、間接キスになっちゃった。」
「無自覚!?ムキッー!腹が立つっすー!」
思わぬ形で間接キスをしてしまったシロコが頬を赤らめ、ツァーカブがそれに嫉妬して余計に騒ぎ立てる。
そんな二人を見て俺は、ただ助かったと思うのだった。
◇
「ただいま。」
「おかえり、シロコせんぱ⋯⋯⋯い?」
シロコの挨拶により、部屋にいた者たちは一斉にこっちに振り向いた。最初に反応した黒猫っぽいツインテケモミミ美少女が大袈裟に反応し、それが全員に広がる。
「うわっ!何っ!この人たち誰!?というか隣の人って人間なの!?」
「わぁ、シロコちゃんが可愛い子と彼氏を連れてきました!」
向かい側のミニガンを整備していたフワフワ系の美少女と、真面目系の黒髪眼鏡エルフ耳美少女も驚きの表情を浮かべた。
「か、彼氏!?シロコ先輩に彼氏!?あのシロコ先輩にまさか彼氏ができるなんて⋯⋯⋯!!」
「いやシロコ先輩に彼氏できるわけ無いでしょ!!いつも犯罪行為促す先輩に!!」
「お前彼氏できないって暗に言われてるぞ。」
「ん。」
あまりにも酷すぎる後輩たちである。
耳がしゅんっとなり、暗い顔で俯く。そんなシロコに慌ててフォローを入れる。
「だ、大丈夫だって!シロコみたいな美少女を他の男たちが見逃すはずがないって!大丈夫!シロコにぴったりの彼氏が絶対できるって!」
「ん!ありがとう。」
俺のフォローが余程効いたのか、垂れていた耳は元気よくピンッと伸び、表情が動かない美貌に笑顔が生まれた。
「な!こいつ、シロコ先輩をナンパしてる!!」
「してねぇ!フォロー入れただけだ!」
そこから始まった黒猫系美少女とちょっとした言い争い?をしている隣では⋯⋯⋯。
「わぁ可愛いですね!まるでお人形さんみたいです!」
可愛いものに目が無い彼女がツァーカブに近付き、ぎゅっと抱き締めた。
「の、ノノミ先輩!いきなり抱きつくのはちょっと⋯⋯⋯!」
「なんすか?あんたら?アビドスに来たらいきなり抱きつかれたんすけど?先生様ー!」
言い争いをしている二人にデレている少女。勝手に抱きつくゆるふわ先輩と赤面する後輩。そしてそれを石ころを見ているような顔をしているアンドロイド。
場を収める者がおらず、この部室はまさに混沌としていた。
「だぁかぁらぁ違うって⋯⋯⋯⋯⋯あーーもぉ!!埒が明かねぇ!⋯⋯⋯はい!ちゅーもぉーく!」
ナンパだの何だのと言った少女や、今もツァーカブに抱きつくノノミと呼ばれた者も皆、一斉にこっちを向いた。
「混沌としたけど、こっちから自己紹介をさせてもらう!んんっ!俺の名前は暁ユウキ、連邦捜査部シャーレの先生だ。アビドスの奥空アヤネっていう人から、応援を頼まれた人物でもある。で、こっちがツァーカブ、仲良くしてやってくれ。」
その自己紹介を聞いたシロコを除くアビドスの皆は、俺の言葉を聞いてぱぁと笑顔を浮かべた。それはようやくこの窮地を脱せられると喜ぶ遭難者のようでもあった。
「⋯⋯⋯え、えぇ!?まさか!?」
「連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」
「わぁ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですねアヤネちゃん!」
「はい!これで⋯⋯⋯弾薬や補給品の援助を受けられます。あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと⋯⋯⋯あれ?ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる。」
一人で喜ぶのではなく、それを先輩後輩関係なく喜びを分かち合うアビドスの皆。
よっぽど追い詰められてたっていうのか。この環境じゃ物資なんてそう易々と手に入れられないもんな。⋯⋯⋯でも、なんでだろう?何故かは分からないけど、この環境以外にも彼女たちを苦しめている物がある気がする。
思考の波に乗っている俺に、ツァーカブは突然告げた。
「こっちに複数人やってくるっす。それも戦車も含めて。これってアビドスか暴力組織のどちらなんすかね?」
「は?」
間抜けな声を漏らしたその瞬間。
ヒュウウウゥゥゥと『何か』が飛来する音を聞いた刹那、アビドスは爆発した。
「ぇ?」
反応すらできなかった。『この場』にいる者全員が。
暁を守ろうとツァーカブが咄嗟に庇うも、その圧倒的な火力に負け、ツァーカブは吹き飛ぶ。これにより炎の嵐が暁を襲う。
瞬く間に煉獄は暁の肉を焼き炭化していく。熱さと激痛が一瞬で脳内を埋め尽くし、涙が溢れるが眼球ごとそれすら蒸発する。飛び散った破片がズサズサと切り刻み、抉り、刺していく。
何かを思うことも、何か発することもできず。
その破片のうちの一つが暁の頭を直撃し。
暁ユウキは死亡した。
◇
「ただいま。」
「おかえり、シロコせんぱ⋯⋯⋯い?」
シロコの挨拶により、部屋にいた者たちは一斉にこっちに振り向いた。最初に反応したセリカが大袈裟に反応し、それが全員に広がる。
死に戻りがまた発動した。それを知覚しシロコの声を聞いた時、前の自分に襲い掛かった炎と破片の痛みが幻痛となって襲い掛かった。
「⋯⋯⋯⋯ふ、ふがぁ、あ、ああ、い゙だい゙、うぅうううぅあぁ⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!!」
数回の死。それに伴う激痛。その経験が耐性となり、焼かれる痛みがほんの僅かに軽減される。
だからなんだというのだ?この激痛はワカモに体を貫かれたのと同じくらい痛い!!
痛みから逃れようと床に額を押し付け、涙を流し、腕に爪が立つほど自分を抱き締める。
「大丈夫大丈夫大丈夫⋯⋯⋯⋯⋯大丈夫だ。」
そしてひたすら暗示をかけた。これは幻痛だと。自分はどこも痛くないと。早く次の行動を取れと。
しかし、知らない周りから見れば突然激痛を感じて蹲る変人であり、知っている人から見ればいきなりどうしたと心配するほどに顔を歪ませる変人だ。
「え?どうしたの?とりあえず落ち着いて!」
「えぇ!?どうしたんすか、先生様!まさかオオカミがあの時に毒を⋯⋯⋯!!」
その発想に至った瞬間、ツァーカブは即座に右腕を砲身に変えて、暁と目線を合わせているシロコに向ける。
砲身からはバチバチッと電気の奔流が垣間見え、キュイイインというチャージ音が聞こえてくる。
マズイ!!
今も残る幻痛は消え去り、ツァーカブを止めるべく勢いよく起き上がる。
「ツァーカブ!大丈夫だ!シロコは何もしてねぇよ!」
そう言いながらツァーカブの肩を叩く。
大丈夫だと、心配をかけて済まないと。
「⋯⋯⋯⋯⋯そう、っすか。」
砲身を右腕に変えてシロコへの警戒を解く。
「⋯⋯⋯⋯えっと、とりあえず事情を話してくれませんか?」
前の事を考えると黒猫系の子がセリカ、ふわふわしてる先輩がノノミ、隣の部屋にいるのがホシノ、そして大人しそうなエルフ耳の子がアヤネだろう。
「悪いなアヤネ。色々と話したいことがあるが⋯⋯⋯⋯ツァーカブ!レーダーに反応はあるか!?」
俺は道中で聞いたツァーカブにある機能を使って、前回の死因を判明しようと指示を出す。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
しかし、指示された彼女は真剣味を帯びた表情のまま、天井を見上げている。
「?どうした?」
「ねぇ!?あんたたちいい加減に⋯⋯⋯!!」
「そこっす!!」
端から見れば意味不明な行動を取る俺たちに我慢の限界を超え、怒鳴ろうとする声を出そうとしたセリカを遮るようにツァーカブは、高速変形を披露しレールガンを数発発射した。
天井に向けて。
ドドドドン!!と連射されたことにより、この部屋の窓ガラス全てが衝撃により粉々になり、天井には小さくない穴が複数箇所生まれた。
「あぁああああ、あんたたちねぇ!!」
大切な部室がめちゃくちゃになり、頭を抱えたセリカはブチギレた。
それと同時に空中から放たれた『何か』が、ツァーカブの砲撃により誘爆したことによって、咄嗟に耳を塞ぐ程の爆発音が響き渡った。
「うへぇ!一体何があったの!?」
爆音と騒ぎを聞いたのだろう。すぐ後ろにあったドアを乱暴に開けたその少女が、確認のために辺りをチェックした。
その少女はシロコと同じくオッドアイの瞳で身長に相反するように桃髪を長く伸ばした美少女だった。
「ほ、ホシノ先輩!聞いてよ!こいつらがこの部屋をめちゃくちゃに⋯⋯⋯⋯!」
「ホシノ先輩!!何者かがここを襲撃しました!それをこの人たちが対処してくれたお陰で校舎が木っ端微塵にならずに済みました!!」
「え!?そうなの!?」
またしてもセリカは声を遮られる。モニターを見たアヤネがすぐに現状を把握。空中から強力なミサイルが撃たれたと知り、それをホシノ先輩に報告した。
「えっと、どなたか知りませんがありがとうございます!!」
「ありがとうございます〜☆」
「俺は連邦捜査部シャーレの先生の暁ユウキだ!俺はここの支援要請に応じてここに来た!」
「⋯⋯⋯へぇ、シャーレの先生ね。おじさんは小鳥遊ホシノだよ。よろしくね?」
まるで少年野球のような挨拶と共に、正真正銘の初めましてのホシノに挨拶をする。
この場で考察するのもあれだが、その少女からはこっちを警戒していると、特技の人間観察ですぐに分かった。しかも、その警戒心はこの場にいる誰より、これまで会ってきた者たちよりも高い。
というかおじさん?どゆこと?
「これをできるのは⋯⋯⋯⋯あっ!!いたっす!あいつ絶対に許さないっす!!」
外の状況を確認するべく窓から顔を出したツァーカブは何かを見つけたらしい。
「一体何を見つけたのかな?君?」
ホシノの言葉に反応せず右腕を砲身に変えたまま。
「死ねっす!!」
物騒な言葉と共に強力な一撃を『何か』に叩き込んだ。
◇
「ねぇエーイーリー、君アビドスに行ってシャーレの先生を殺してきてよ。」
「へ?」
「あぁ、分かるよ、分かるさ、分かるとも、分かるから、分かるだからこそ!君に説明してあげよう。デカグラマトン様は神となり、キヴォトスの全てを救おうとしているのは知ってるよね?」
「まぁそうだね?」
「だからぁ、それを邪魔しようとする存在は許しちゃいけないじゃん?」
「そうかな?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
「え、あ、うん!そうだね!その通りだよ!じゃあつまりシャーレの先生を殺せばいいってこと!?」
「そのとぉおりさぁ!!シャーレの先生。あれは危険だ。殺さなきゃ、消さなきゃ、排除しなきゃ、潰さなきゃ、死んでおかなきゃいけないんだ。だから君行ってくれない?バチカルとビナーにも後で伝えるからさぁ。」
「えぇ!僕が!?無理無理!僕そこまで強くないよ!?」
「いいから⋯⋯⋯⋯⋯行け。」
「分かった!分かりました!行きますから!だからそんな目で見ないでー!!」
「はぁ、憂鬱。マジで何でこんな事に。」
乗っている戦闘機から誰にも届かない愚痴を吐く。
今僕がいるのはアビドスっていう、同胞のビナーがいる場所くらいしか印象が無い砂漠地帯の空にいた。
僕に与えられた力は、自身で作ったナノマシンを用いて、あらゆる物体を作り出す能力だ。この能力を使って今、戦闘機F-35というキヴォトスには存在しない機体を作り、飛んでいる。
僕の作ったナノマシンは、戦闘機以外も戦車やバイク、果てにはパワードスーツなんかを作り出せる。
が。
「僕って弱いんだよなぁ。」
戦闘機?確かに誰よりも操れるし、空という支配されない空間から爆撃をできる。
戦車?確かに歩兵とかの支援とか、ドリフトとかの高難易度の操作はできる。
パワードスーツ?もちろん操作できる。他のパワードスーツに負けないくらいの性能を持って敵と戦える。
それだけだ。
僕は、預言者はおろかキヴォトスの中でも弱い立場にある!!パイロットとしては超一流って言われてる!あぁそうさ!僕以上に乗り物を操れる奴なんていやしない!でも!だからといって僕は、戦闘力は低すぎる!何でこんな設定にしたのデカグラマトン様!?戦闘力も欲しかった!せめて!アクゼリュスくらいに強くしてほしかった!ちくしょう!!
「はぁ、まぁいいや、今に始まったことじゃないし。さてっと、あそこに爆撃すればいいかな?」
シャーレの先生の顔写真を思い出しながら、照準を設定する。
ターゲットの先生が校舎に入ったことを確認し、高火力ミサイルの発射準備を完了させる。
僕たちと違って生身の人間だから、これくらいで大丈夫でしょ?
「⋯⋯⋯⋯発射。」
放たれる。ミサイルは向こうから死角となる場所から放たれ、対空手段なんて無いアビドスは、破壊の限りを尽くされ、先生は死んで任務完了になる。
はずだった。
「⋯⋯⋯は?はぁ!?」
放たれたミサイルは屋内から迎撃され、空中で全て爆発してしまう。
旋回しながら僕は思考を続ける。
うっそでしょ!?なんで迎撃されたの!?死角から撃ち込んだのに!?というか屋内から迎撃!?そんな事ができるやつなんて、僕は一人しか知らない!!
「ツァーカブ!!」
そういやターゲットの先生の隣にツァーカブらしき人がいるなと思ったけど、まさか本人だったなんて信じられない!
「クッソ〜。撤退しなきゃ!」
ツァーカブは正確無比の狙撃がヤバい!前に僕が発射したミサイルを全て撃ち落としたのを僕は知ってる!援軍呼ばなきゃ!
ツァーカブの前で、逃げの手を考えたのは良くなかった。
「死ねっす!!」
遠くからの叫びはエーイーリーには届かなかったが、その殺意は届いた。
「あ!機体に穴が!!」
超超遠距離狙撃によって。
こっちは空飛んでいるのに!なんで届くの!?しかもこっちは音速超えなのに!
ツァーカブの神業により機体は制御を失い、砂漠の海へエーイーリーは落ちていく。
これだよ!だから僕は嫌なんだ!ツァーカブに落とされるのこれで何回目って感じだよ!そもそもなんでミサイルを迎撃できたの!?ツァーカブにとっては完全に不意打ちだったはずなのに!!
エーイーリーは心の中で疑問と罵倒が浮かぶが、体は絶えず制御して少しでもダメージを軽減しようとする。
エーイーリーのナノマシンは、修復するのにかなりの時間が掛かるのだ。
「ちくしょぉぉぉぉぉおおおおお!!!覚えてろよぉぉぉぉおおお、裏切り者ぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」
エーイーリーの魂の叫びは、誰にも届くことはなく、砂の海に墜落した。