転生先のゲーム世界でアバズレヒロインが清楚堕ちしてる件 作:図画工作で使うトイレットペーパーの芯
「おい! ファーストダンスを放蕩皇子とその婚約者がやるらしいぞ!!」
「ちゃんと踊れるのかしら……」
「皇族の恥さらしが建国記念パーティーのファーストダンスだとぉ……!?」
噂はまたたく間に広まった。
大体は俺への批判がほとんどだ。物言いはともかく疑念が生まれるのは当然のことだからな。何とも言えんところ。
「これ、父上知ってるんだろーな」
「無論。進言したのは私だからな」
「兄上かよ……」
なんでそんな楽しそうにしてるんだマジで。
兄上の笑顔なんて中々見れないぞ。
「レヴィ様」
ユルルがこっそり俺に話しかけてきた。
「どうした?」
「レヴィ様は……ラビリス殿下と交流があったのですか?」
「いや、本当に最近ちょっと話す機会があったくらいだよ。まあ、別に元々仲悪いってわけじゃなかったし」
「その割には……いえ、何でもありません」
言い淀むユルルは釈然としない表情だった。
確かに兄上の態度に色々と疑問があるのは間違いない。
俺は記憶上でもほとんど兄上のことを知らなかった。
たまに会ったら話す程度で、仲良いわけでも仲悪いわけでも無かった。感覚としては知人に近い。
だが兄上は俺のことをよく知っているようだった。
ユルルしゅきしゅき侍ってこともそうだし、『前までのお前ならば──』と引き合いに出すほど性格についても熟知されていた。
まっさかブラコンで逐一監視してる───とかは絶対無いし。
質実剛健、頭脳明晰、才気煥発、才色兼備──などなど、数多の人々が褒め称えるKINGオブKINGの器だぜ??
あり得ないにも程がある。
となれば恐らく、自分が皇帝になった時のための情報収集の一環に違いないだろう。
「……はぁ、また巻き込んじまったなユルル」
「レヴィ様と一緒にいて飽きることがありませんね」
どっちの意味だコレ。
チクチク京言葉なのか褒め言葉なのか。
どっちにしろ俺が本心を伝えることには変わりない。
「俺とユルルの仲の良さを公衆の面前でアピールできるのは嬉しいけどな。折角だし楽しく踊ろうぜ」
「……足、踏まないでくださいよ」
「もちろん。逆に踏んでくれても構わないぜ」
「あなたがミスをしたら踏み抜きます」
「こわe」
はは、前者を否定しなかったな。
ただ単に無視しただけかもしんねぇけど、俺のバカらしい発言に付き合ってくれるのはユルルくらいだ。
最初はゲームのユルルに思考を引っ張られてたけど、原作通りだったら……こんな馬鹿話はできなかったのかもな。
そんなことを考えていると、どうやらいつの間にか父上の挨拶が終わっていたみたいだ。全部聞き流しちゃった、すまん。
「行こうか」
「ええ」
俺とユルルは会場の中央に足を踏み入れる。
相変わらずザワザワと俺の悪口を言う声が聞こえてくるが、今の俺にはユルルの美しい姿しか視界に入っていなかった。
──見つめる。見つめ合う。
音楽が流れ、俺達は一歩を踏み出した。
一拍目、膝を緩め大きく前を滑るように沈み込む。
二拍目、横に足を伸ばしながら身体を高く持ち上げる。
三拍目、両足を揃えて力を抜いて、一拍目に備える。
やったことは無いが、前世でもある『ワルツ』とそっくりな踊り方だ。
1、2、3、の三拍子に合わせて大きな波を描くようにフロアを旋回しながら踊るシステム。
動作を憶えるのは簡単だ。
だが同じ動きを繰り返す分、一つ一つの動きが洗練されていないと不格好に見えるのだ。
特にこの会場に来ている貴族のほとんどは目が肥えている。
ダンスの良し悪しの審美眼には自信があるだろう。
でも今はそんなことはどうでも良かった。
俺の瞳にはユルルしか映っていない。
次はどれくらい踏み込むか。どう足を動かすのか。
目を合わせただけで、その意図を読むことができた。
「……美しい」
「楽しそう、だな」
「ねえお母様! わたくし、あんな素敵な殿方と踊ってみたいですわ!」
「そう、ね……」
いつしか不粋な言葉を吐く人間はいなくなっていた。
ぽつりぽつりと、美しさを讃える言葉が増えていく。
「なあユルル。まるで二人きりになったみたいだな」
「会場には1265名の方がいますが」
「ロマンブレイカーすぎる」
てかなんで人数わかんの。
もしかしてダンス中に暇すぎて数えた? そんなわけないか。
やはりロマンチックにカッコつけるというのは俺には似合わないようだ。
苦笑しつつ約3分。俺達は踊り続けた。
踊り終えて礼をすると、途端に大きな拍手が送られた。
「まったく……呆れた掌返しですね」
「怒ってる?」
「怒ってません」
どれだけ俺の悪評が聞こえても怒らないです、と言ったユルルだったが、あまりの掌返しになぜか怒っているようだった。
う、うぅむ、分からん。女心分からん。
悩みながら元の皇族席に戻ると、謎の機械を持った兄上がどこかホクホクした顔で待っていた。
「両名とも良い踊りだった」
「ありがとうございます……手に持ってるのは写真機……?」
「ありがとう兄上。でも今度からは前もって言ってくれよな」
「善処する」
「しないやつですやん」
まあ良いか。お陰で多少の名誉回復は計れた。
『親王』を目指す俺にとっては大きな一歩となる。
兄上がファーストダンスに俺を推してくれたのは、案外背中を押してくれたのかもしれないな。
これはしっかり試練を果たさなければ。
「……レヴィ、分かっているな?」
「あぁ。やりきってみせるよ」
「そうか。分かっているなら良い」
こそっと話しかけてきた兄上に頷く。
ファーストダンスが終わった後は全体ダンスの時間になる。
ダンスをしても良いし、歓談をしても良い。
割と自由な時間が生まれるそこがチャンスだ。
とはいえどうやって単独行動をしようか……。
うぅむと悩んでいると、またしても兄上が助け舟を出した。
「ユルル嬢、少しばかりレヴィと二人で話したい。君はズレバア伯爵の元に顔を出すと良い」
「はい、分かりました。……それでは失礼いたします」
どのみちユルルは自分の父上の元に顔を出す必要があったから、特段疑念が生まれる提案ではない。やりおる兄上。
ユルルが去った後、俺に目配せをした兄上も去った。
「ここからは俺の時間だ。兄上から略だ……おぇ」
俺にできるのかしら!!!