転生先のゲーム世界でアバズレヒロインが清楚堕ちしてる件   作:図画工作で使うトイレットペーパーの芯

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陰毛果敢



真意

「目的は果たせなかったけど、サフェル公爵と会えたのは良かったな」

 

 どのみちサフェル公爵がこちらに寝返ることなどあり得ない。話をしていた時、あの人は兄上のことを心底信頼しきっている瞳をしていたのだ。

 あれほどまでの忠誠心を持っている人間は珍しい。

 

 もしも俺が『親王』になることができたら、自ずとサフェル公爵と会う機会は多くなるだろうし、顔合わせの意味でも会えたのは良かった…………ん? 何かが引っ掛かるな。

   

「……色々思い当たることはあるけど、一先ず次だ」

 

 予測するには情報が足りない。

 そう判断した俺は再び徘徊を始めると、丁度どこかの貴族と話し終えた雰囲気を出している兄上派閥の貴族がいた。

 

 あれは確かフェスタ子爵だったか。

 特に噂は聞かないが、俺が独自に集めたリストから兄上派閥であることは確かだ。

 

「ども、フェスタ子爵」

「おや。これはこれはレヴィ様ではないですか」

  

 フェスタ子爵は恰幅のいい温和な顔をしていた。

 俺が話しかけてもまったく嫌な顔をしないどころか、なぜか嬉しそうですらあった。……うーん、慣れない。

 

「ちょっと話をしたいんだが良いか?」

「ええ、勿論。場所を変えますか?」

「そうだな。あっちに移動しよう」

 

 周りに人がいない空間があったので、俺達は移動した。

 別に後ろめたい話をするわけではないが、試練とはいえ皇位継承権を狙ってます……と話をするにあたって……いや後ろめたいな!? 

 うん、まあ、聞かれる人は少ないほうが良い。

 

 ……そう考えると人を寄せ付けない雰囲気を持ったサフェル公爵ってそういう意味でも便利だった……? 

 流石にこれ本人に言ったらキレられそう。

 

「兄上のことについて聞きたくてな」

「ラビリス様について、ですか」

「うん。弟から見る兄の姿と君ら派閥の人から見る兄上の姿は違うだろ? 最近色々兄上と話す機会が増えたから気になったんだよな」

「ほう……話す機会が増えた……それはさぞラビリス様も喜んだことでしょう…………アッ、いえなんでもないです」

「?」

 

 なぜかフェスタ子爵は一瞬後ろを見て「やっちまった」みたいな表情をした。俺も後ろを見てみるが、そこには誰もいない。

 にしても話す機会が増えて兄上が喜ぶ? 

 はははっ、ないない。俺は嬉しかったけどな。

 

 心の中で爆笑をかましていると、咳払いをしたフェスタ子爵が話し始めた。

 

「……行ったようですね。こほん、ラビリス様ですか。敢えて申し上げるのであれば、"面白い方"ですかね」

「面白いと来たか。なかなか聞かない視点だ」

「世間で言うところの質実剛健、頭脳明晰……などは間違っていませんが、所詮他人から見た浅層の評価に過ぎません。殿下は意外と──ノリが良い。そして柔軟です」

 

 ノリが良い。それは確かに思っていた。

 一見鉄面皮に見える無表情さだが、俺の冗談や軽口も無視することなく冷静にツッコんでくれるし、ウィットに富んだ物言いをすることもある。

 

 フェスタ子爵は続けた。

 

「政務をする際も、あまりにも的外れな意見は流石に一蹴されますが、少しでも一考の余地があれば褒めてくださる。それでいて、決断される時はハッキリと口に出す。あれはまさしく、皇帝の器です」

 

 取り入れるべき意見は取り入れ、だがしかし最終決定は迅速に己の意思で行う……か。紛れもなく皇帝になるべき器であることは疑う余地もない。

 フェスタ子爵は兄上を心(・)酔(・)しているというより信(・)頼(・)しきっている。そんな印象を抱いた。

 

 味方をつけるにあたって『心酔』されるよりも『信頼』してくれる人物が多い方が良い。

 そういう意味でも、兄上はまさしく盤石の布陣を築いている。

 

 コレ、きっと誰に聞いても同じこと言われるんだろうな。

 本当に凄い兄上だ。

 

「まったく……自慢の兄だなこりゃ」

「あの方のご兄弟ともなれば、それ相応にプレッシャーがあるでしょうに。レヴィ様はご立派ですね」

「自慢に思うことがあっても、圧力を感じたことは無いよ。兄上はそういうのは一切押し付けないしな」

 

 自分ができることをお前もできるだろうと押し付ける。

 兄上はそんなことはしない。

 大して話してなかった頃も、兄上からプレッシャーをかけられた記憶は無い。

 

「あ、ところでなんだけどさ。俺を見ても嫌な顔をしないのは何でなの? サフェル公爵に聞いても他の人に聞けって言われちゃってさ」

「…………近くにラビリス様いませんよね?」

「え、うん。見えないけど」

  

 急にソワソワしだしたフェスタ子爵は、周りを警戒しながらコソコソと話し始めた。

 

「これはラビリス様に内緒ですよ」

「了解。口の堅さには自信があるぜ」

「助かります。……あれは三年前のことでしたね。レヴィ様が『放蕩皇子』などと言われてしばらく経ち、花街に出向いていると噂が流れ始めた時です」

「ふむふむ」

 

 そういえばそのくらいの時期だったか。

 授業サボってたら花街に行ってるって噂が流れた時は流石の俺もビビった記憶がある。なにせまだ12歳だぜ?

 

「当時、派閥の集まりでもそういった話が出ましてね。行き過ぎたラビリス様の信奉者とも言える貴族が、徒党を組んでラビリス様本人に抗議をしたのです。『あんな放蕩皇子など、ラビリス様のご兄弟に相応しくない。廃嫡すべき愚かなクズだ』と」

「なかなかちゃんと言われてるな」

 

 別に貴族教育から逃げる皇子は歴史を振り返ってもそこそこいるんだがな。……いや別に正当化するつもりは無いけどさ。そこに関しては普通に俺が悪いし。

 今になって勉強してる身としてはちゃんと受けておけば良かったって反省してるし。

 

 とはいえ言い過ぎだとは思う。

 遠い目をしていると、フェスタ子爵は不意に「くくく」と何かを思い出すように笑った。

 

「私、その時初めてラビリス様が激怒される瞬間を見ましてね。あれは見物でしたよ」

「兄上が激怒を? 想像できないな」

「そうでしょう。そうでしょう。あまりにも珍しいことですから、当時のことは一言一句覚えています。──ラビリス様はこう仰りました──

 

『確かに弟が貴族教育を怠っているのは事実だ。放蕩皇子などという蔑称を私が放置しているのも、本人が背負うべき代償だからだ。……だが貴様は、事実の検分すら怠り、市井の俗説を鵜呑みにした挙句、あろうことかそれを私への進言として持ち込んだ。その短慮がどれほど致命的か自覚すらしていないのだろう? 無論、陰で囁く程度の愚行なら見逃しもした。だが私の前でそれを口にした以上、疑う余地のない無能だと自らで証明したのと変わらん。──消えろ。今すぐにな』

 

 ──とね。……いや~、あれは痺れましたよ」

 

「兄上がそんなことを……」

 

 俺はじーんと温かなものが胸に広がる感覚を覚えた。

 無為に庇ったわけでなく、理知的に俺の噂を否定してくれた。兄上らしい優しさだと俺は思った。

 

 ……なるほどな。

 嫌な顔をされない理由は分かった。

 

 

 ……兄上ぇ!! 好き!!!

 

 

「『それに……弟が花街にだと? はっ、バカバカしい。婚約者の尻を追うことに忙しいレヴィにそんな暇があるものか』とも言ってましたよ」

「それはめっちゃ正しい」

 

 なんでそこまで把握されてるのかは謎のままなんよな。

 いや全部合ってるんだけどさ。

 

 そんなことを考えていると、フェスタ子爵は少し挙動不審な様子で釘を差してきた。

 

「あの、本当にラビリス様には内緒ですよ……!!」

「分かってるって。兄上には内緒────」

 

 

「──何が内緒なんだ? レヴィ、フェスタ子爵」

 

 

 俺とフェスタ子爵は、後ろから感じた圧に仲良く手を繋ぎながらギギギと錆びた機械のように振り向いた。

 勿論そこには皆大好き兄上がいた。

 

「……お、俺は用事あるから行っくぜー! またなフェスタ子爵!!」

「ちょ、レヴィ様ァァ!!!」

「あ、そうだ! 兄上大好きだぜー!!」

 

 俺はスタコラサッサとその場から立ち去った。

 

◆◆◆

 

 フェスタ子爵を裏切った後、俺は兄上派閥の貴族と多数接触したが、全員揃って心から兄上を信頼していることが分かった。

 そして数多の兄上話を聞いた俺は──

 

 ──今回の試練の意図を理解することができた。

 

「やほ、兄上」

「……どうやら、何かが掴めたようだな」

 

 俺はニヤリと笑う兄上に苦笑しながら言った。

 

「最初から少し疑問ではあったんだよ。俺のコミュニケーション能力に一目置いているなら、わざわざ兄上派閥の貴族を寝返らせるんじゃなくて、単に味方をつけろって試練を出すはずだろ? 寝返らせるのはコミュニケーションじゃなくて、どっちかという陰謀の類だし」

 

 俺の認めた能力と試練が噛み合っていない。

 薄々そんな気はしていた。

 必要な能力をつけさせるための試練かなとも思ったけど、どう考えても『親王』には必要ない能力だ。

 あと普通に兄上も俺がそっち方面に絶望的に向いてないのは理解してるだろうし。

 

「お前は今回の試練をどう見る」

 

 兄上が試すように言った。

 こ(・)の(・)答(・)え(・)こ(・)そ(・)が(・)今回の試練だ。

 

「最初に言っておくけど、兄上を裏切るような蝙蝠は誰一人いなかったよ。派閥全員に声をかけたわけじゃないけど、これは自信を持って言える。……てかそもそも裏切るようなヤツは速攻で切り捨てるタイプでしょ、兄上は」

 

 派閥を公言している貴族は数多くあれど、兄上自身が派閥と認めている貴族はかなり絞っているはずだ。

 恐らく俺が今回話しかけた貴族のほとんどは、互いに信頼している真の派閥メンバーだったと思う。

 

「信頼関係は、一枚の紙切れより信用できる」

「普通は逆だけどな。そう言えるくらいの信頼関係を築くのが難しいって話よ」

 

 契約書と信頼関係を天秤にかけて後者を取れる人間はそういない。言い切るってことは、それだけ築き上げた関係に自信があるってことだ。

 

「今回の試練。この真意に気づけずに工作を練り続ける愚か者じゃないって証明することが肝だと思うけど、普通に兄上派閥の貴族に顔合わせすることも目的のうちでしょ」

「あぁ。今回のパーティーでサフェル公爵とは会わせたいと思っていた。恐らくお前と相性が良いからな」

「あの人と相性……まあ良いか。おもろそうな人だし」

 

 堅物を気にしてるだけのカッコいいおじさんだし。

 出納院の大臣だってんなら能力は疑う余地はない。

 

 俺の答えが満足いくものだったようで、兄上は微かに機嫌良さげに話し始めた。

 

「前までのお前ならば、婚約者を守ることに盲目になるがあまり真意に気づくことができなかっただろう。私の味(・)方(・)を引き抜くことはできずとも、派閥と公言している適当な貴族を引っ掛けることは可能だからな。それでいて、簡単に鞍替えする蝙蝠を味方だと公言するような愚か者であれば、私は見限っていた」

 

 そうはならないと判断していたが、と兄上は続けた。

 ……なんか兄上から信頼されてる気がする。なんでだ。

 

「まあ、完全に気づくのはちょっと遅れたけど」

「気づけただけで十分な成長だ──よくやった。レヴィ」

 

 不覚にも泣きそうになった。

 この世界で俺を認めてくれるのは、ユルルだけだと思っていたからだ。

 

 まああれは認めてるというより呆れてると言ったほうがいいのかもしれないけど、少なくとも味方は他にもいた。

 

 尊敬している兄上からの褒め言葉は、誰よりも嬉しかった。

 

 




更新遅れた代わりに分量はいつもより多め!!


↓↓↓フェスタ子爵のその後

兄上「ふむ、なるほど。状況は理解した」
子爵「あ、あのぉ……」
兄上「兄上大好き、か。──フェスタ子爵、褒美は何がいい」
子爵「ファッ!?」


次回ッ!! ユルルッ!! 嫉妬するッ!!
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