転生先のゲーム世界でアバズレヒロインが清楚堕ちしてる件   作:図画工作で使うトイレットペーパーの芯

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ルート分岐:孤独の帝王

 ラビリス・フォン・エーゲアは天才だった。

 物心ついた時から、彼にできないことは無かった。

 

 恵まれた生まれ。色濃く受け継いだ帝王の素質。

 1を知り、100を理解する。

 彼の行動は多くの人を惹きつけた。

 

 きっと彼こそが歴史に名を残す稀代の皇帝になるだろうと、誰もが信じて疑わなかった。

 

「……私の周りには、人がいるようでいない」

 

 ラビリスは孤独だった。

 天才ゆえの孤独? いや違う。

 彼のカリスマは"畏れ"を生み莫大な求心力を誇ったが、身近に寄り添って接してくれる"親愛"を生むことはできなかった。

 

『フェリル、君の好きなものはなんだ』

『ら、ラビリス様にお話するほどのことでは……!!』

 

 齢4歳にして、ラビリスは現実を知った。

 

 あぁ、そうか。

 私の人生に"他人との信頼関係"は必要無いのか、と。

 

『まあ、いつの日かラビリスにも分かる日が来るよ。友達の有り難さってヤツがね』

『私には必要無いでしょう。信頼関係なんて曖昧なものよりも、一枚の紙切れのほうが余程信用に値します』

 

 父はラビリスを溺愛していた。彼もそれを自覚していた。

 嫌いではない。感情が全く揺れ動かないほど鉄面皮なわけではない。

 だがしかし、家族の愛情では埋められない深い溝のようなものをラビリスは感じていた。

 

 そんな矢先に、弟が産まれた。

 

「ラビリス。レヴィだ。どうせ友達いないんだからたまに世話してやってくれよな」

「……貴族教育で忙しいのですが」

 

 父はラビリスにレヴィの世話を押し付けた。

 優秀な乳母は幾らでもいるというのに、父は何かを図ったような表情で第二皇子、レヴィと引き合わせた。

 

「無垢だ。何も知らない」

 

 二人きりになった部屋で、ラビリスは乳母車でスヤスヤ寝ているレヴィを見て呟く。どこか憂いげな顔で。

 

「私のようにはなるな、レヴィ」

「うぁ、あぅ?」

「すまない。起こしてしまったか」

 

 まだ何も知らぬ赤子に何を言っているのだ、と自己嫌悪に陥りながらラビリスが声をかけた瞬間、レヴィは指をしゃぶって言(・)っ(・)た(・)。

 

「何か辛いことあったの?」

「……? ………………ッッ!?!?」

 

 ズザザザッ!! と驚愕の表情で後退ったラビリスは、疑問符を浮かべながら辺りを見渡す。だがこの場にはレヴィとラビリスしかいない。

 

「あにうえ?」

「ッ、れ、レヴィか……?」

 

 まだ舌っ足らずな発語。

 ラビリスはそこでようやく、生後三ヶ月のレヴィが己に話しかけているのだと理解した。

 

「どうしたの?」

「……いや……」

 

 ラビリスは夢でも見ているのかと思った。

 どれだけ早熟でも、言語を話すには早すぎる。

 きっと勉学の疲れから寝てしまったのだろうと考え、彼はどうせ夢ならばと自身の悩みをレヴィに伝えることにした。

 

「私には……友がいない。そしてこれからも、そのような関係を築ける人間は現れないと思っている」

「なんで友達作らないの?」

「誰もが私のことを畏れるからだ。……ふっ、おかしな話だ。同じ人間だというのに、私と話すこと自体が畏れ多いのだと言う」

 

 自嘲げに笑うラビリスは、たとえ夢だとしても乳児に何を言っているのだと苦笑した。

 もしも何らかの答えが返ってきたとしても、夢ゆえの曖昧で具体性のないものだろうと。

 

 必要のないものは唾棄すべきだ。

 スッと瞳を細くした瞬間、チュパチュパと指をしゃぶって話を聞いていたレヴィが心底真面目な顔で言った。

 

 

「それ、最初から兄上が壁作ってるからじゃない? 普通に兄上って雰囲気的に話しづらいしお堅いけど。何度も話しかけた? 地位に群がってくる人間以外に話しかけた? 今の兄上って他責思考で拗ねてるだけに見えるよ」

 

「ぬっ……ぐっ……お前に何が分かる……!」

 

「乳飲み子に分かるわけないじゃん」

 

「……あぁ、うん」

 

 乳飲み子はそんなこと言わねぇよ、とラビリスは思った。

 だがレヴィの言葉は的を射ていた。

 ラビリスは途中から諦めていた。どうせ否定されると。どうせ同じような返答が返ってくるだけだと。

 

「ここでミルク待ちしてるだけのおれに兄上の苦しみは分かんないけどさ。少なくとも後悔してるなら行動した方が良いと思うけど」

 

「……そう、だな」

 

 ラビリスは掛けられた期待に無意識に応えようとしていた。

 皇族らしく。皇帝になるために。

 本(・)当(・)は(・)孤(・)独(・)の(・)辛(・)さ(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)は(・)ず(・)な(・)の(・)に(・)。

 

 だからこそもう二度と同じ苦しみは味わいたくない。

 諦めた方が早いと思ったのだ。

 

 無理はない。

 ラビリスはまだ4歳だ。

 

 指を吸いながら懇々と人の心が無い説教をしてくるイカれバブーが外れ値なだけで、彼は未だに自我の形成の最中なのだ。

 

「ありがとう。レヴィ」

「え、うん。とりあえずオムツ替えてくんない?」

「……あぁ」

 

 真面目な話をしながら特大の"ブツ"をカマされていたことに、ラビリスは少しだけ複雑な表情をした。

 

◆◆◆

 

「フェリル。前にも聞いたが、君の好きなものはなんだ」

「え、ええと……」

「私が知りたいだけだ。今後長く付き合う上で、仲(・)間(・)の好みの一つや二つくらいは知っておきたいからな」

 

 一歩、たった一歩を踏み出す。

 慣れない表情筋を動かして、ラビリスは真っすぐに彼の顔を見た。

 フェリルは少し逡巡し、言いよどむように答えた。

 

「えっと、本当にくだらないものなんですけど、チェリスが好きで……家でずっとやってます」

「盤上遊戯か。……今度私に教えてくれないか?」

「うぇっ、俺がラビリス様に!?」

「好みを知るには実際にやってみるのが一番だろう? いつも真面目な君が熱中している遊戯には、私も興味がある」

 

 フェリルは目を見開いた。

 そして、照れ臭そうに少しはにかんで頭を掻いた。

 

「お、俺のこと見ていてくれたんですね……」

「無論だ」

 

 あぁそうか……たった一歩踏み込むだけで、こんなにも世界は変わり映えするものなのか、とラビリスは笑った。

 

 口調を変えたわけではない。媚びたわけではない。

 ただ少しだけ踏み込む勇気を手に入れた。

 その勇気は、ラビリスの世界に色を付けた。

 

◆◆◆

 

「お前はあの時のことを憶えていないようだがな」

 

 あの出来事が無ければ、きっと私は勇気も愛も信頼も知らぬまま、空っぽで虚しい玉座に座っていたことだろう。

 愛を知らぬ帝王は、その綻びに気づくことなく消えていく。

 

 そうならなかったのは、単(ひとえ)にお前のお陰だ。レヴィ。

 イスリアと仲を深めることだって……いや、やめておこう。彼女に相応しいのは私ではない。

 

「『親王』か……。レヴィ、その道は険しいぞ」

 

 その座に就くには、足りぬ物がまだ多い。

 試練は続く。私はレヴィの成長のためであれば、何度だって障害となって立ち塞がろう。

 

 嫌われることも厭わな……………………それは無理だ。

 

「あぁ、忘れていた。フェスタ子爵に褒美として国宝を……」

 

 

 

 

 

 

 

 




イカれバブーの説教を大真面目に実践したあなたもあなただと思います。
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