転生先のゲーム世界でアバズレヒロインが清楚堕ちしてる件 作:図画工作で使うトイレットペーパーの芯
『お前は将来、第二皇子レヴィ様の婚約者になる。オレは皇族との繋がりを利用して出世する。ユルル、お前はオレの駒だ。絶対にレヴィ様に失礼を働くな。言うことは何でも聞け。機嫌を損ねるな。良いな?』
──思い返してみれば、当時6歳のわたくしに伝わるように敢えてバカっぽい口調になっていたお父様は笑い草かもしれません。
「ハァ……なんで……こう、レヴィ様はご自身に対する評価が低いのでしょうか。鈍感ヘタレですし」
つい先日のことです。
『なあ、ユルル。俺のことが嫌いなら婚約破棄しても良いんだからな』
こんなことを言い出したレヴィ様にわたくしは思わずガチギレしてしまいました。
ポコポコと殴りかかりましたが、教育係から毎度逃げる時についた筋肉のせいでノーダメージです。ムカつきます。
「わたくしは……あなたに救われたんですよ。レヴィ様」
◆◆◆
生まれた時からわたくしに自由はありませんでした。
物心つく頃には花嫁修行が始まり、拷問とも言える知識と教養の詰め込みと、ダンスや刺繍のレッスン。
少しでも間違えれば傷が残らない範囲で折檻されました。
『お前は将来第二皇子レヴィ様の婚約者になるのだ』
その言葉はわたくしの人生を縛る呪いでした。
生まれる前から両家の取り決めにより婚約者が決まっていたわたくしは、お父様の出世の駒になる運命から逃れることができなかったのです。
──人形のように愛らしく、従順に。
そう教育されたわたくしでしたが、当時親代わりをしてくれた乳母が優しくしてくれたお陰で何とか自我まで失わずに過ごすことができました。
恐らく乳母のその行為はかなり危険な綱渡りです。
お父様にバレていれば内々で
(わたくしはお父様の操り人形にはなりたくない。いつかその運命をぶっ壊してやります)
わたくしは反抗する気満々でした。
どんな形でも良いから、わたくしの人生を壊したお父様に復讐してやると決めていました。
──ですから、わたくしは婚約者となるレヴィ様に当時は"憎悪"とも言える感情を抱いていました。
子どもだったわたくしにとって、レヴィ様はお父様と同じように人生を壊した一人だったのです。
虎視眈々に従い続け、復讐のためなら媚びも売り続けて──いつの日か復讐を果たす日まで人形でいてやろうと思っていました。
「──はじめまして。ズレバア家の長女、ユルルと申します。これからよろしくお願いしますね、レヴィ様」
完璧な所作に完璧な笑顔。
少し敬語を崩すところもワンポイントです。
聞くところによればレヴィ様は貴族教育から逃げ回っている『放蕩皇子』だと。
そんなガキ皇子を籠絡することなど児戯だ──とわたくしは思っていました。
「……なんか嘘くせー笑顔だな」
「っ、な、んのことでしょうか?」
一目で見破られてしまいました。
わたくしは内心の動揺をできる限り隠して取り繕う。
婚約者同士で語らうと良いと、大人がこの場にいなかったことが救いだったでしょうか。
「完璧すぎるんだよなー、全部が。ウチって父上に謁見しに来る人が頻繁に来るんだけどさ。媚びを売る奴らにそっくりな笑顔してるぜ。流石に子供のうちからそれは違和感だって」
「そんなことは……これは生まれつきで」
「いや良いよ。どうせあの伯爵に教育されたんだろ? チクるつもりもねーし、やめろなんて言うつもりもねぇ。ただ、俺達しかいない時は素でいてくれ。話しづらい」
すべて、看破されていました。
『放蕩皇子』だと見くびっていたレヴィ様の瞳は理知的で、まるでわたくしの全てを見透かすような目をしていました。
それに少し恐怖を感じるとともに、沸々と怒りのようなものが沸いてきました。
「あなたに、何が分かるのですか。色々なものから逃げ回っているあなたに。生まれた時から自由のないわたくしは、こうすることでしか生きられない!!」
嫌われてしまえば復讐も何もかも全てお釈迦です。
だけどわたくしは、わたくしの仮面を見破ったレヴィ様に怒りをぶつけてしまいました。
ハッ、とした時にはもう遅かったです。
わたくしの人生はこれで御仕舞かと諦めかけたわたくしが見たのは
「じゃあ俺が自由ってやつを教えてやるよ。思わず仮面を被るのがバカらしく思えるほどの最高の自由ってやつをよ。こんなこと、放蕩皇子の俺にしかできないだろ?」
そう言ってレヴィ様はわたくしの手を引っ張りました。
連れて行った先は"大人の会話"をしていたお父様と皇帝陛下。
彼はわたくしの手を掴んだまま二人に向けて言ったのです。
「えーと、ズレバア伯爵? ちょっと娘借りていくぜ! 父上!! すまん!! 短時間駆け落ちしてくる!!」
「はっ……?」
「おいこらレヴィ!! 夕飯までに帰れよ!!!」
「ういっす〜」
そうじゃないでしょ皇帝陛下。
わたくしはそんなツッコミを心の中でしつつ、放心して口をポカンとしているお父様の表情が少し面白くて、思わず仮面が剥がれて口角が上がってしまいました。
「ど、どこに連れて行くのですか。この顔合わせが終わった後はダンスのレッスンとかが──」
「俺といれば全部回避できるぜ? こういう時に皇子って肩書きはデカくてな。あんたの父親も皇子と仲を深めるためだったら幾らでも許してくれる。どーせ権力狙いだろうし」
「……」
わたくしは思わず閉口しました。
図星だったからです。そして、あの拷問じみたレッスンを受けなくて良いのなら、それは何よりの喜びでもあったからです。
……あとは、この理知的なレヴィ様が何をするのかと、少しだけ気になったのもあります。
貴族教育から逃げ回っている割には頭が回る。
彼の行動にそのヒントが隠れているのではと。
──彼に手を引かれて着いたのは、王城の中にある広大な庭園でした。
しかしあまり手入れが行き届いているとは言えず、あちらこちらに枯れた花や落ちた木の枝などが散乱していました。
……もしやこれは旧庭園のほうでしょうか。
滅多に人など寄らないでしょうし、わたくしと密談することが狙いだった……?
「──よし!! じゃあ今から一番カッコいい木の枝見つけたヤツが優勝な!! コレってやつが決まったらここに集合で!!」
「ガキだった」
◆◆◆
それからレヴィ様はことあるごとにわたくしを連れ回すようになりました。
時にはズレバア家の屋敷まで来て、
「ユルルさーん、遊びましょう〜」
なんてクソデカい声で言ってくるくらいには高頻度でわたくしをあの家から連れ出してくれるようになりました。
父上はわたくしが無事にレヴィ様を籠絡したと勘違いをし、ニコニコと見たことない笑顔でわたくしを見送る始末でした。
「どうして、レヴィ様はわたくしを連れ回すのです。こんなことをしていれば、あなたの醜聞は広まっていくばかりですよ」
「どーでも良いよ醜聞なんて。俺が貴族教育から逃げ回ってるのは事実だし。それより、俺が連れ回せばお前だって嫌な場所で嫌な時間を過ごさなくたって良くなる」
「…………っ、なんで……わたくしのために……」
「折角結婚するんだったら、お互い楽しいほうが良いだろ。あんただって俺というハズレくじを引かされてんだからな」
本心だということは目を見れば分かりました。
それに、確かにレヴィ様が連れ出してくれたことに救われているのも事実です。最初にあった憎悪は見る影もなく、レヴィ様に絆されているのも確かでした。
……毎度毎度ガキのような遊びに付き合わされるのも、本人には言いませんがちょっと楽しかったですし。
「ハズレくじだなんて……思ってませんヨ」
「言うようになったじゃねーかおい」
彼はわたくしが素を出すと嬉しそうに笑います。
こんな無愛想で感情表現が苦手なわたくしの素のどこが良いのかは分かりませんけれど。
主人公がガキなのに妙に達観してるのは魂が老成しているのと、記憶がないだけで転生体だからです。
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