転生先のゲーム世界でアバズレヒロインが清楚堕ちしてる件 作:図画工作で使うトイレットペーパーの芯
「いよいよ今日か」
建国記念パーティー当日になった。
もしかしたら緊張で眠れないかもとか思ってたら5秒で爆睡したし、本番に強いタイプすぎて今もまったく緊張することは無かった。
何ならユルルとダンスのレッスンしてた時が一番緊張したまである。
「別に初対面の人に緊張しないのは前世からそうだったし」
あ、流石に大臣は別枠です。色んな意味で緊張した。
そういやよくよく考えたら大臣もパーティーにいるのか……あの歳でまだ未婚だったはずだが、パートナーは誰に頼むのだろうか……。
そんなことを考えていると、コツコツと地面を叩くような音が聞こえた。
「──お待たせいたしました」
「ぐ、ぐわぁぁぁああああ!!!」
俺は現れたユルルの姿を見た瞬間膝をついて苦しんだ。
チラッともう一度ユルルを見ると「またか」と言わんばかりの呆れた表情で俺を見下ろしていた。
「今度はどうしたんですか」
「可愛すぎて死ぬ」
「レヴィ様もカッコいいですよ」
「褒められて死ぬ」
「どうしろと」
俺はもう一度ユルルの姿を見た。
銀髪ロングと青のドレスの組み合わせ。
それはまさしくベストマッチと言う他なく、普段無駄な装飾品を好まないユルルが珍しく着けている星を象ったようなイヤリングも似合っている。
最高だ……。
可愛いと美しいの権化。
俺の婚約者は可愛すぎる。語彙失である。
「そのドレスは自分で選んだのか?」
「ええ、まあ」
「よく似合ってる。可愛いし綺麗だよ。本当に」
「それなら……まあ、良かったですが」
ツンと素っ気ない返答をするユルル。
俺には分かる。流石にちょっと喜んでる。
「む……」
やっぱり本心を表に出すのは大事だよな、とニヤニヤしてるとポコポコと可愛らしい力で腕を殴ってきた。
「それじゃ、行こうぜ。数年ぶりのパーティーだ」
「びっくりするでしょうね。レヴィ様が表舞台に姿を現すのなんて本当に珍しいですから」
「まるで人を隠居老人みたいに」
腕を差し出すとユルルの手が軽く添えられた。
流石にエスコートの手順くらいは知っている。だがユルルが軽く見られないように、俺は極めて自然体を意識しながら歩いた。
「人多すぎない?」
「建国記念パーティーですから。普段は来ないような方たちも多くいらっしゃるようです」
「ほーん。なるほどねぇ」
会場は大勢の貴族で溢れていた。
大帝国とはいえこんなに貴族っていたんだ、と素直に感嘆である。
「あの方って……」
「レヴィ第二皇子様……珍しい方が来るものね」
「放蕩皇子がどうしてここに……」
「シッ! その名で呼んでるのがバレたら俺達のクビが飛ぶぞ!」
「ふむ……噂で聞くような粗野な方では無いようですが」
めっっっちゃ注目されている件について。
ジロジロと不躾な目で見ながらボロクソ言われてるけど、ユルルの悪口は聞こえないから全部許してやろう。
てか俺に貴族を処刑できる権限なんて無いぞ。あってもやらんし。
「ごめんなユルル。俺の悪評のせいで多分迷惑がかかることになると思う」
「謝る必要など──」
「──でもそんなものどうでも良いくらいにユルルと踊りたかったんだよ。だからワガママに付き合ってくれてありがとう」
何かを言おうとしたユルルの言葉を遮って本心を伝えた。
申し訳なく思っているのは本当だ。ユルルと踊りたいのも本当だ。
そこにひとつまみの『試練』というスパイスがあるのは否めないが。
ユルルは珍しく口角を上げて言った。
「ふふ、仕方ありませんね。付き合ってあげますよ」
「助かるよ」
お互いに笑い合う。
その瞬間だけは、まるで二人だけの世界のようだった。
「ねえ、なんだかあれ……雰囲気良いわね……」
「噂通りなら険悪な仲のはずだが……」
「ハッ、どうせ公的な場だから取り繕ってんだろ」
そんな時、一部の話題にのみ地獄耳になる俺の聴覚が会話を拾った。
「にしてもあの婚約者ってズレバア家だろ? 皇子に取り入るために媚びを売って大変だねぇ〜。あの様子じゃ他の権力者にも取り入ってんじゃねーの。もしかしたらその立派な体で……くぅ~、羨ましいもんだね」
アイツ殺す。ぶっ殺す。
カオ、オボエタ。
今は我慢しておいてやる。
こんな場所で騒ぎを起こしてしまえばユルルまで悪評の対象になってしまうからな。陰湿な仕返しを期待しておくと良い。
「……落ち着いてください。あんな言葉で一々目くじら立ててどうするんです」
「ユルルにも聞こえちゃったか。いやまあ、婚約者の悪口言われたら誰だって怒るだろ」
「そうですか? 私はどれだけレヴィ様の悪評が聞こえてこようと怒りませんよ。──あなたの良さを知っているのは私だけですからね」
「ぴえん」
好感度低くて草。
でもユルルの言う通りだ。言われたことに一々カッカしてしまうのは『親王』を目指すのであれば直さなければいけない悪癖だろう。
「そろそろ始まりますよ」
「おけまる」
建国記念パーティーは、皇帝の挨拶から始まる。
式辞を話し、乾杯の音頭を取り、その後ファーストダンスが行われる。
貴族界において、身分の高い者が踊る前に下の者が踊ってはいけないという……まあしきたりというか、暗黙の了解みたいなものがある。
そのためにファーストダンスとして大体は皇帝夫妻か皇太子……要はラビリス兄上が婚約者と踊るのを皆で取り囲みながら鑑賞するのだ。
その後ようやく他の貴族も踊ることを許可される、って感じだな。
パーティーの流れを予習しておいて良かったぜと内心で安堵の息を吐きながら、俺達は皇族用に用意されたテーブルに向かった。
そこにはすでに兄上がいた。
「来たか、レヴィ」
「お久しゅうございます。ラビリス様」
「ユルル嬢か。久しいな。弟が迷惑をかけていないか?」
「………………いえ」
「間が長くない???」
確かに迷惑かけてますけど!!!
思わずツッコむと、兄上は顎に手を当てて「ふむ……」と俺達の様子を見ながら何かを考えているようだった。
「そういや兄上の婚約者は?」
「私にまだ婚約者はいない」
「あれ? そうだったっけ」
「あぁ。慎重に事を進めたいと父上に進言したら通った」
まあ、あなた溺愛されてますものね。父上に。
とはいえ皇族がこの年齢で婚約者がいないというのは珍しい。ダンスパートナーとかどうしてんだろ……行かないから分かんないだよな。
「ダンスパートナーは?」
「普段は友人に頼んでいる」
「ってことはファーストダンスって……」
「無論、言うまでもない」
ファーストダンスを皇太子が踊る時は、大抵この人を婚約者にしますという喧伝も兼ねていることが多い。要は仲良いアピールというか。この国は次代も安泰ですよというか。
それゆえに婚約者でもない人間と皇太子の身分でファーストダンスを踊ることは敵わない。
じゃあいつもは父上たちが踊ってたのか。なるほど。
今日もそんな感じだろうな、とふんふん頷いていると、兄上は急に
「準備しなくても良いのか? 父上の挨拶が終わったら、お前たちがファーストダンスを行う手筈だが」
「「えっ」」
ユルルと俺の声が重なった。
き、聞いてませんけど……。
兄上の友人は男爵家の幼馴染です。