金持ちのピットブルを殴ったら、24時間公開配信刑に処された   作:匿名

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第3話 二日目

 朝――と言っていいのかは分からない。

 

 ダンジョンには、朝も夜もない。

 

 ナビ子の時計によれば、前回の採掘から八時間ほど経っていた。

 

 俺は壁際で目を覚ました。

 

「……よく寝た」

『おはようございます、受刑者』

「おう」

 

 身体を起こす。

 

 昨日採掘した鉱石の入った袋を持ち上げる。

 

 ずしりと重い。

 

 これを納品すれば、刑期が十五日縮む。

 

 悪くない。

 

 俺はツルハシを肩に担いだ。

 

 すると、コメント欄が一気に流れ始めた。

 

 

『起きたwww』

『こいつ本当に寝やがった』

『ダンジョンで八時間熟睡は草』

『寝てる間に襲われたらどうすんだよ』

『モンスター来なかったの?』

『寝ながらモンスター倒してた』

『寝返り裏拳で地底犬殺すの草』

 

 

 昨日よりも、ずいぶん騒がしい。俺はコメント欄を眺めた。

 

 

『タクマは普通に有能』

『採掘の才能あるだろ』

『戦闘もできるし採掘もできる』

『ただのチートじゃん』

『いや、素手で犬殺しただけの脳筋だろ』

『採掘は運』

『運で三日分の鉱石を一発で引くかよw』

 

 ……。

 

「別に、どっちでもいいだろ」

 

 俺は昨日の壁へ向かった。

 

 今日も仕事をする。

 

 ツルハシを振る。

 

 ガキンッ。

 

 岩が崩れる。

 

 中から小さな石が転がり出た。

 

「ナビ子」

『スキャンします。鉄鉱石です。刑期換算で約一日分です』

「一日」

 

 袋へ入れる。

 

 またコメントが騒ぎ始めた。

 

 

『また出たぞ』

『はい仕込み』

『いや普通に掘ってるだけだろ』

『じゃあお前やってみろよ』

『俺ならもっと効率よく掘れる』

『だったら受刑者になってこいwww』

 

 

 面倒な連中だ。

 

 俺は別の壁へ移動した。

 

 そこで、妙なコメントが目に入った。

 

『もっと奥行けよ』

 

 その下に、別のコメント。

 

『やめとけ』

 

 さらにその下。

 

『第一階層の奥はまだ危険度高いぞ』

 

 俺は足を止めた。

 

「危険なのか?」

 

 

『そうだよ』

『昨日の場所なんか安全地帯みたいなもん』

『奥はモンスターの種類が違う』

『行くな』

『いや行け』

『どうせ素手で勝てるだろ』

『お前らタクマ殺す気かよ』

 

 

「……」

 

 俺はコメント欄を眺める。

 

 どうやら、意見が割れている。

 

 行け。

 

 行くな。

 

 行け。

 

 死ぬぞ。

 

 ビビってんのか。

 

 危ないからやめろ。

 

 俺は首を傾げた。

 

「なんで、そんなに意見が違うんだ?」

 

 

『知らんw』

『タクマ派とアンチが喧嘩してる』

『アンチは無視しろ』

『タクマ派とかきっしょ』

『は?』

『こいつの何がいいんだよ』

『普通に面白いだろ』

『犯罪者だぞ?』

『犬殴っただけだろ』

『犬を殴ったから犯罪者なんだろw』

 

 

 また喧嘩が始まった。

 

 俺には関係ない。

 

 ただ。

 

 さっきのコメントは気になった。

 

「奥には、鉱石が多いのか?」

 

 コメント欄が止まった。

 

 数秒後。

 

 

『……多い』

『なんでそこ聞くんだよw』

『奥ほど採掘ポイントは増える』

『レア鉱石もある』

『ただしモンスターも強くなる』

『やめとけって』

『行け行け』

『装甲熊とか出たら死ぬぞw』

 

 

「装甲熊?」

 

 聞いたことのない名前だった。

 

 

『知らないの?』

『マジで初見かよ』

『第一階層の奥にたまに出る』

『めちゃくちゃ硬い』

『昨日の地底犬とは別格』

『だから行くな』

 

 

 少し考えた。

 

 装甲熊。

 

 強いらしい。

 

 だが。

 

「そいつ、魔石は持ってるのか?」

 

 

『wwwww』

『そこ!?』

『普通そこ気にする!?』

『持ってるに決まってんだろ』

『かなりデカい魔石が取れる』

『売れば結構な額になるぞ』

 

 

「いくらだ?」

 

 

『知らん』

『人による』

『品質次第』

『でも一ヶ月分くらいになるって話もある』

 

 

「一ヶ月」

 

 俺は壁を見る。

 

 それから、袋を見る。

 

 昨日は十五日分。

 

 もし一ヶ月分の魔石が取れるなら。

 

 単純計算で、昨日の倍だ。

 

「……悪くないな」

 

 

『おい』

『待て』

『タクマ?』

『まさか行く気?』

 

 

 コメント欄の流れが変わった。

 

 

『行くな!!』

『装甲熊はマジでヤバい』

『今のうちにやめとけ』

『まだ一階層だろ!?』

『死ぬって!』

 

 

 一方で、

 

 

『行け行け行け』

『せっかくなんだから奥行こうぜ!』

『装甲熊と戦うところ見たい!』

『昨日の犬より強い奴とやれ!』

『ビビってんじゃねえぞ!』

 

 

 別の連中は煽っている。

 

「……なるほど」

 

 俺は理解した。

 

 こいつらの中には、俺が死んでもいいと思っている奴がいる。

 

 逆に、死んでほしくない奴もいる。

 

 だったら。

 

 使える。

 

「ナビ子」

 

『はい』

「奥まで行った場合、鉱石の量は増えるのか?」

『統計上、第一階層深部ほど高品質資源の発見率は上昇します』

「危険度は?」

『上昇します』

「どのくらい?」

『現在地を基準として、推定生還率は――』

『行くな!』

 

 ナビ子の声を遮るようにコメントが流れた。

 

 

『タクマ、マジでやめとけ!』

『昨日みたいにはいかないぞ!』

『まだ刑期三年なんだろ?』

『一ヶ月程度のために死ぬな!』

 

 

 その反対側では。

 

 

『行け!』

『一ヶ月だぞ!』

『三年の刑期が一ヶ月縮むんだぞ!?』

『男なら行け!』

『どうせ素手で勝てる!』

『逃げたら雑魚認定な』

 

 

「……」

 

 俺は黙ってコメント欄を見た。

 

 そして、ツルハシを肩に担ぎ直す。

 

 

「分かった」

『何が!?』

「奥へ行く」

 

 

『うおおおおおお!』

『やった!!』

『神回きた!!』

『待て待て待て!』

『やめろって!!』

『アンチに乗せられるな!』

『タクマ死ぬぞ!』

『最高だ!』

 

 コメント欄が完全に二つに割れた。

 

 俺はそんな様子を眺めながら、地下道の奥へ歩き始める。

 

 別に、煽られたわけじゃない。

 

 一ヶ月分。

 

 それだけだ。

 

 俺にとっては、命を賭ける価値があるかどうか。

 

 確かめるしかない。それだけの話だった。

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