金持ちのピットブルを殴ったら、24時間公開配信刑に処された   作:匿名

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第5話 装甲熊との戦い

 装甲熊が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 

 一歩。

 また一歩。

 

 そのたびに、地下道の床が小さく揺れた。

 俺はツルハシを握ったまま、熊を観察する。

 

 黒い甲殻。

 分厚い腕。

 赤い目。

 そして、胸の奥で淡く光っている魔石。

 

 ナビ子の言っていた通りなら、あれを取れば一ヶ月分。

 つまり――。

 

「……やるか」

 

 

『やるな!!』

『逃げろタクマ!!』

『マジで死ぬぞ!!』

『いや行けえええええ!!』

『装甲熊との戦闘とか神回確定www』

『アンチ黙れ!』

『お前らタクマ殺したいのか助けたいのかどっちだよw』

 

 

 相変わらず意見がバラバラだ。

 でも、今回は少しだけ参考になった。

 

「ナビ子」

『はい』

「こいつ、どれくらい強い?」

『現在の装備・身体能力から算出します。正面からの戦闘を行った場合、死亡確率は――』

「数字はいい」

『……?』

「殴って効くかどうかだけ教えてくれ」

『打撃による有効打は期待できません』

「なるほど」

 

 

 俺はツルハシを持ち直した。

 コメント欄を見る。

 

 

『だから逃げろって!!』

『正面から殴るな!』

『装甲熊は名前通りだぞ!』

『ツルハシでどうにかなる相手じゃねえw』

 

 

 どうやら、殴り合う相手ではないらしい。

 

 だったら。

 

 仕事のやり方を変えるだけだ。

 

 装甲熊が吠えた。

 

「グオオオオオッ!!」

 

 巨体が、一気に迫ってくる。

 

 速い。

 

 俺は横へ飛んだ。

 

 直後。

 

 ドォンッ!

 

 熊の腕が壁に叩きつけられた。

 

 石壁が砕け、破片が飛び散る。

 

 

『うわああああああ!!』

『今の当たったら即死だろ!!』

『逃げろって!!』

『タクマ!!』

 

 

 俺は距離を取った。

 

 熊がこちらを向く。

 

 そして、また走ってくる。

 

 速い。

 

 でも、単純だ。

 

「……なるほど」

 

 俺は背後を見る。

 

 さっきまで掘っていた古い採掘場。

 

 壁には、俺が掘った穴がいくつも残っている。

 

 その先には、さらに細い地下道が続いていた。

 

 さっき壁を叩いた時、分かっていた。

 

 あの細い通路の入り口は、地盤がスカスカだ。

 

 熊が突っ込んでくる。

 

 俺はギリギリまで引きつけた。

 

 そして――。

 

 横へ避ける。

 

 熊が俺の横を通り抜け、そのまま細い地下道へ突っ込んだ。

 

 ギギギィッ!!

 

 嫌な音を立てて、巨体が通路に引っかかった。

 

 肩の分厚い甲殻が壁に食い込み、身動きが取れていない。

 

「やっぱり」

 

 

『???』

『何してんの?』

『逃げた?』

『いや、熊を通路にハメた!?』

 

 

 装甲熊が身体を反転させようと暴れる。

 

 壁の岩がバラバラと崩れ落ちるが、抜け出せない。

 

 俺はツルハシを握り直した。

 

「採掘ってのはな」

 

 一歩、近づく。

 

「硬いところを無理に掘る仕事じゃないと思う」

 

 ツルハシを振り上げる。

 

「脆い地盤ごと、落とすんだ」

 

 ガンッ!!

 

 熊の足元。俺があらかじめ「脆い」と見抜いていた亀裂に、正確にツルハシの先端を打ち込む。

 

 ピキッ、と岩盤にヒビが走る。

 

 そこへ、熊自身の巨大な体重が乗った。

 

 俺はさらに一撃。

 

 ガンッ!

 

 

『何してんだこいつwww』

『戦闘中に足元の石割ってるwww』

『いや、待てこれ』

『熊の自重を利用して地盤崩す気か!?』

『タクマ、マジでただの解体作業してんぞ!!』

 

 

 装甲熊が吠える。

 

 俺は一歩下がった。

 

 次の瞬間。

 

 メキメキッ! ズドォンッ!!

 

 耐えきれなくなった足元の岩盤が崩落した。

 

 装甲熊の半身が、崩れた穴へ沈み込む。

 

「グアアアッ!?」

 

 完全に体勢が崩れた。

 

「今だ」

 

 俺は胸元へ走る。

 

 装甲熊が藻掻きながら巨大な腕を振り回す。

 

 俺はしゃがんで避けた。

 

 そのまま、がら空きになった懐へ潜り込む。

 

 目の前に、分厚い黒の甲殻。

 

 その奥から、魔石の淡い光が漏れている。

 

 打撃は効かない。ナビ子はそう言った。

 

 だったら、叩き割る必要はない。

 

 俺は、甲殻と甲殻の『継ぎ目』を探した。

 

「ここか」

 

 装甲の僅かな隙間に、ツルハシの鋭い先端をねじ込む。

 

 バラックで、スクラップの重機を解体する時の要領だ。

 

 

『やめろおおおお!!』

『そこが魔石だ!!』

『いけえええええ!!』

『タクマ死ぬな!!』

『一ヶ月!! 一ヶ月!!』

 

 

 うるさい。

 

 手元が狂う。

 

「……静かにしてくれ」

 

 俺は、ねじ込んだツルハシの柄に、全体重をかけた。

 

 テコの原理。

 

 メキィッ……バキィンッ!!!

 

 嫌な音を立てて、強固な甲殻が根元からベリッと剥がれ落ちた。

 

 装甲熊が、痛みに大きく身体を仰け反らせる。

 

 むき出しになったのは、青白い光を放つ魔石の根元。

 

「……あった」

 

 俺はツルハシの裏側を使い、魔石の根元を正確に叩いた。

 

 カンッ。

 

 綺麗な音とともに、魔石がポロリと外れる。

 

 俺がそれに手を伸ばした瞬間。

 

 装甲熊の動きが、ピタリと止まった。

 

 赤い目から光が消える。

 

 巨体が、その場に崩れ落ちた。

 

 ズゥン……。

 

 地下道に静寂が戻る。

 

 

『…………』

『…………え?』

『勝った?』

『勝ったの?』

『嘘だろ』

『装甲熊倒したぞwww』

『タクマ何者だよ』

 

 

 俺は魔石を拾った。

 

 ナビ子がすぐに反応する。

 

『高純度魔石を確認しました』

「何日?」

『推定三十二日分の刑期短縮です』

「三十二日」

 

 思わず魔石を見る。

 

 一ヶ月より少し多い。

 

 昨日までの採掘量と合わせれば、かなり大きい。

 

「……悪くない」

 

 

『悪くないってwww』

『もっと喜べよw』

『三十二日だぞ!?』

『こいつ本当に感情薄いな』

『いや、たぶんめちゃくちゃ喜んでるぞ』

『これで一ヶ月早く帰れるんだもんな』

 

 

 最後のコメントを見て、俺は少しだけ頷いた。

 

「そうだな」

 

 俺は魔石を袋へ入れる。

 

 そして、倒れた装甲熊を見る。

 

 まだ身体には、使えそうな甲殻が残っている。

 

「ナビ子」

『はい』

「これ、素材になるか?」

『はい。装甲の一部には換金価値があります』

「そうか」

 

 俺はツルハシを握った。

 

 

『おい』

『まさか』

『タクマ?』

『お前まさか……』

 

 

「仕事は最後までやるだろ」

 

 俺は装甲熊の甲殻へツルハシを振り下ろした。

 

 ガンッ。

 

 硬い。

 

 でも、掘れないわけじゃない。

 

 俺は黙々とツルハシを振り続けた。

 

 コメント欄だけが、異様な勢いで流れていた。

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