「なぁおう」
「イデヤか、どうした?」
人間の姿に変身しているイデヤに気付き、屋上で広げていたお弁当を取り分け、イデヤに差し出すと「猫が食っていいヤツなのかそれ」と聞かれた。
「大丈夫なヤツしか入ってねえよ。お前がやって来た理由、自分達が活躍できていない事だろ。次の件、オレは手を出さないつもりだ」
「哀れみか?」
「いいや、違うぜ。お前が〈御伽噺〉か〈読み手〉かの命運を決める。焦ったら不味いことになるんだよ、それに今回の相手はオレじゃ斬れない」
分けたお弁当を割り箸で食べるイデヤの視線は怪しむものだが、オレはウソを言わないことはピノッキオのときに知っているのだろう。
一応、信じたみたいだ。
「ああ、それとイデヤ」
「なんだよ」
「オレは覚えてるぜ、ガキの頃に来てくれたの」
「ッッッッッッッ!!!!?」
黒い毛並みを逆立てて走り去るイデヤから視線を逸らし、オレが錬金術師に狙われていたときに、一度だけやって来たネコの剣士、よーく覚えている。
困ったネコを思い、笑う。
「月光、エンゲキブ、盗み聞きは趣味悪いぞ」
「見えてるくせに、よく言うぜ。テメェ、俺の変な噂どうにかしろよ!実は孝行息子とかバイトを頑張ってるとか変な噂流すなよ!」
「エンゲキブにバイト代は渡したぞ」
「え?ああ、渡すの忘れてた」
「正式な報酬だ。まあ、世界を救ったにしては少ないかもだが、ちゃんと俺達はお前が頑張ってるのを知ってるからよ。胸張れよ」
「……ケッ。うるせぇーっ」
「照れてるーっ」
プイッとそっぽを向く月光を笑うエンゲキブ。その態度に負けじと走って逃げていく月光を追いかけるエンゲキブにオレは呆れながら、空の上にいるヤツを見る。
月の王様、二度目の敗北まで待っとけ。
猛き月と最強が倒してやる。
「さて、と。授業に戻らねえとな。王様、ここ百年はずっと退屈だったろう?テメェにゃ越えられねえぜ、相楽と糸色の愛情はな」
当然、月光とエンゲキブもだ。
愛の有る限り、人は止まらない。
「オレにもそういう女の子は現れるのかね」
そんなことを呟きながら、オレに視線を向け続けている月の王様を見上げる。惚れた女?そんなもんは、とっくの昔に相楽左之助の嫁さんだった。
あのママさん、そういうことだろう。
悪趣味なんて言うつもりはないが、男なら世界を敵に回してでも守ろうって気概はねえもんか。天道を見ろよ、気合いと覚悟だけで戦ってるぞ。
アイツもいいヤツだ。
まだまだ、太陽は昇ったまま─────。