「工藤、何か用か?」
カランカランと喫茶店「アミーゴ」のドアを教えて入ってきた工藤は一直線にオレのところに来るなり、ドンと糸色家に纏わる出来事や、ブラックジョークめいた怪しい雑誌を広げていく。
「才賀君、貴方が私を避ける理由がわかった。十七年前まで世界を襲っていたゾナハ病が根絶された理由、当時十六歳だった貴方の母親が最前線にいたのね」
「……よく調べたな。まあ、見えてたけど」
「それだけじゃないわ。才賀君、貴方の隠していた事にも気付いた。阿紫花命、貴方のお母さんの患っていた心臓病を貴方も患っているんでしょう」
そう言ってオレを見下ろす工藤の言葉は一言一句に至るまで見ていた言葉と同じだ。しかし、その推理は完全に間違っている。
「オレは心臓病じゃねえよ。心臓だったら、母さんがこんなところに来ること許すわけないだろう。オレは月の王様に会うために来たんだよ」
「つき?」
「そう。オレの糸色としての使命だ。妹も使命を自覚するのはいつになるのか分からないが、糸色家は世界を繋いで救う一族だ」
ゆっくりと立ち上がって工藤を見下ろす。
「オレの魂は人を守るためにある。そんで、一番守りたいのはお前だ。だからオレに関わるのはやめてくれ。お前の涙はもう見たくない」
「泣いてないわよ、まだ」
「ちなみに彼処のマスターとモヤシはいるだろ」
「もやし?」
「アイツらはマジの悪の組織で、お前の事を蜂女や蛇女に改造したりする未来もある」
「飛び火がえぐいな」
「ツカサ、糸色に入れ込みすぎだぞ」
マスターとツカサの言葉を無視し、オレはコーヒーの代金を置いて喫茶店を出るときに右足を突き出して、イデヤの突撃を防ぎ、工藤を引き寄せる。
「なぁおう、何しやがる!」
「お前こそ何しやがる。人様の靴にキスしやがって、避けなかったら工藤に当たってたぞ」
「当たってたのか!?」
「100回中、31回は当たっていた」
そんなことを話しながら、オレは元気に抱きつこうとするイデヤを躱し、工藤と踊るように動き、オレを好きになって最後は涙を流すコイツを見つめる。
「そういえばエンゲキブさんのお母さんに会ったとき、才賀君の事を聞かれたんだけど」
「まあ、好きに答えてくれていいよ。少なくともオレの役目にはあの人が関係あるが、今さらだって言えるし。あとシンプルに面倒臭い」
オレの言葉に困惑して首を傾げる工藤、トショイインの顔を見つめる。やっぱり、いつ見ても綺麗な目をしているな。
曇ってほしくない目だ。