海水浴にやって来た。
「うぶっ、吐きそう…」
「お前、バイクに乗ってなかったか?」
「一角の迅速は生き物だろッ、ヴエェ……」
グラグラと揺れる電車に乗ったまま吐きそうになるオレの背中を擦ってくれる工藤に揺れた拍子を装ってキスしようとするイデヤを止める。
不意打ちはダメだ。
イデヤのザラザラとした舌が手のひらにぶつかり、オレはそっと手を天道に擦り付けておいた。天道は気付いていないので、とりあえず問題ないな。
「しかし、海か…」
「乙姫の事か?」
「人魚姫もいたわよね」
ようやく駅を出て浜辺を見下ろす。
「妙のばあちゃんが戦った場所も近いな、とらさん」
「オウ。ヤサグレ小僧、オメェがこの海域にくるなんざ何年ぶりだ。儂に食われに来たのか?」
「違う。ちょっとした野暮用だ、アラビアンナイトに入るからとらさんに会っとこうと思ってな。真由子さんに迷惑とかかけてないよな?」
「儂のモンに負担掛けるわけねえだろうがよ」
「そうか?」
「そーなんだよ!ったく、儂の家来と引き分けたせいで畏怖され、あんなボロ屋敷にオン出されて、オメェもつくづくツイてねえなあ?」
「あの未来は変えられたよ。変えなかっただけだ」
変えたら、オレはアイツらに会えなかった。
まあ、そんなことは本人には言わないが、月光達と出会う未来は一つだけだった。
他の未来を視るのも良いが、一番人として生きているのはこの未来だけだ。
「で、とらさんよ。巓のばあちゃんを怒らせて追い出されたのに、いつまで不貞腐れてるんだ?」
「見えてたのか!?」
「そりゃあ見えるだろ」
まあ、流石に家庭菜園を食い散らかすのはダメだろうとオレは思う。しかし、オレも巓のばあちゃんの野菜は食べたことあるけど。
マジで美味いんだよな。
盗みたくなるのもわかる。が、そこは、しっかりと譲ってもらえるようにお願いしてみればいいのに。いや、妖怪に変身して切れる姿が見えた。
いったい、巓のばあちゃんととらさんの間に何があったんだ?と過去を視るも千年以上も過去に遡り、脳みそのキャパシティーが限界を迎えそうになり、鼻血が出てしまう。
「ケケケッ、オメェにゃ見せねえよ」
「余計に気になるじゃねえか。まあ、そういうことなら視ないようにするけど」
そんなことを話しているとシンデレラと赤ずきんの二人がとんでもない格好で出てくるのが見えてしまい、流石に目を閉じることにした。
ああいうのは視ない方がいい
「にしても、とらさん。過去のくせに随分と言葉が噛み合うな。あい変わらず、すげえよ」
まあ、今はオレのほうが強いけどな。