「イトシキ?まさか、才賀様はあの糸色景様の血筋の御方なのでございますか!?」
鉢かづきの叫びを遮るように振り落とされる金棒の一撃を邪紅で受け止め、刀身を滑るように衝撃を往なし、火花を散らして鬼の腕を斬る寸前、刃を裏返し、鬼の手首を殴って金棒の軌道を空に変える。
────最悪の先読みだった。
「主殿、如何なされた」
「ちーっと面倒臭いモノが見えた。一寸法師、あの鬼って誰か分かるか?」
「某の脇役『次郎丸』だ!」
「エンゲキブ、姫は荷車か?」
「声は聞こえた!」
その言葉に溜め息を吐き、邪紅の柄を両手で握り締めて、晴眼(切っ先を相手の眉間)に構え、ゆっくりと荷車を引く5メートルは越える巨体の鬼を見る。
「本当なら五手で済むんだが、なッ!」
不満を吐いて金棒と斬り結び、その衝撃波を身体を使って分散し、オレは本来なら町に及ぶ筈だった被害を打ち消し、鬼にストレスを与える。
「月光!なんとかしてよ!」
「……バカ野郎、手出しなんて出来るかよ。オレが突っ込んだら相楽のヤツは死ぬぜ」
「月光様もお気付きに?」
「何度も見てたらバカでも分かるっての。才賀、そのバカデカい金棒が、月打された相手なんだろ」
「正解。───けど、半分だ。もう半分は金棒を振っているのは鬼じゃなくて姫様ってことだ」
オレの言葉に頭に乗っていた一寸法師の力みが消える。それと同時に振り上げた剣先は鬼の仮面を弾き上げ、血涙を流して一寸法師の非業を吼える姫様の叫びを受け止めてやる。
愛はひっくり返してしまえば無関心だ。
「何故、わらわにあんな真似をォ!!」
キンキンと悲鳴が響く。
「そうだァ!オレも納得してねえ!なんで姫様がおんだされなくちゃならねぇんだ!!」
「それ、は…」
鬼の金棒に言わされた叫びに一寸法師は嘆く。
「一寸法師、オレはお前の御伽噺が好きだ。格好付けずに本当の事を叫んでしまえ」
「また、余計なお節介かよ」
「人間、お節介なのが一番なんだよ!」
金棒を振りかぶる姫様に顔を向け、金棒を横一文字に構えた邪紅で受け止め、道路は陥没し、クレーターを作りながらもオレは待つ。
「主殿ッ、このままでは御体が!」
「問題ない。男の意地だ。吼えろよ、一寸法師」
「某は、某は、姫様が大好きなんじゃあぁ!!〈
ようやく本心を聞けた。
「その願い、聞き届けた!!」
邪紅刀の刃を返し、思念を燃やす。
「ブッ叩き潰してやるァ!!!!」
「お前は一手で詰みだ」
オレの脳天を狙って放たれた金棒よりも鋭く迅く邪紅刀を振り抜き、鬼の金棒と姫様の仮面を切り裂き、緩やかに刀身を振り払って残心する。
─────さて、と。
どうやって月光とエンゲキブ、鉢かづきに説明したものかと悩みつつ、オレはジャケットを拾い上げ、右側の鞘具に邪紅刀を納める。
「貸し一だぜ、一寸法師」