「先ず、改めて名乗りましょう」
羽衣を剥ぎ取った姿は、糸色景だった。
オレの屋敷に集まった御伽噺の連中も人間の奴らも見惚れ、その美貌に目を奪われる。シンデレラや赤ずきんも見つめてしまっている始末だ。
「私の名前はトヨウケビメ。元・月の王国、オオイミ王にお仕えするハチツルギの剣士。千年の流刑に堕ちたカグヤのお目付け役にして、母親の役割を請け負った月人になります。そして、この肉体はそちらに居る糸色境の高祖母『糸色景』のモノになります」
そう言ってトヨウケビメは上座に座るオレを見遣り、静かに正座してオレを見つめてきた。
「この肉体に宿ろうとした際、三十年ほど身動きも取れず、糸色景の人生を俯瞰するように見ておりました。今際の際、私は糸色景に頼み、この肉体を借り受ける事になりました」
「……ウソじゃねえな」
千回は未来を視たが答えは変わらない。
断片的に見えていた過去の糸色景は、コイツに身体を貸すことを選んだってわけだろうが、相楽左之助がそれを許すようには到底思えない。
「ちなみに、ママはこう書きます」
「糸色景に名前の一部をお借りしました」
デカデカと書かれた文字に「継母か」と納得するものの。また、面倒臭いことしているなと溜め息を吐き捨て、エンゲキブを見る。
月光の後ろに隠れるが、オレには見えている。
「取って食ったりしねえよ。オレの役目はオオイミとやりあうこと。アイツもエンゲキブじゃなくて、このオレとの決着に意識を向けている」
「えぇ、私の知るかぎり。オオイミ王をあそこまで追い詰めた人間は境だけでしょう。あのまま止めていなければ」
「勝っていたのはオレだ。が、ママ役が止めたことで別の未来が生えてきたけどな」
そう話しながらも着いてこれていない天道に「オレが宇宙最強になったって話だ」と言えば、なんだかんだと納得してくれた。
更に言えば、答えも得た。
御伽噺がおかしくなるのは、あの月の王国が此方に向かって来やがるときだ。そして、増えた未来で見えたのは、エンゲキブの身体を狙う妖怪だ。
500年前の戦国時代に存在していた妖怪が、さっきのオオイミとの戦いで目覚めた。いや、糸色景の描いた物語が狂って暴れ始めている。
「流石に巓の姉ちゃんか」
「だれだ?」
「オレの伯母だ。少なくともこれから起こる面倒事を取り仕切ってくれるのは、あの人だな。妙のばあちゃんは呼んだら更に面倒臭くなる」
まあ、元からあのひとは面倒臭いけど。
なんで未来をねじ伏せるんだよ。