「はあ、はあ…!」
「ん、今日は終わりね」
「くそぉ…見せた技全部覚えるなあ…」
ゴロンと剣道場の床に倒れたオレの頭に手拭いを掛けてくれるしとりばあちゃんを見遣る。正直、未来のしわしわになった姿とは似ても似つかない美貌だ。
オレもハンサムではある。しかし、ここまで人は変わるのかと考えていた瞬間、竹刀じゃなくて木刀が脳天に叩き込まれ、頭を押さえる。
「お姉さんだよ、まだね」
「頭の中も読めるのか」
「ただの読心術」
「……やっぱり、怖いな」
そう言って、自分の言葉に首を傾げる。
怖いと思ったのは初めてだ。
戦骨の時は、無意識の手加減を消した。
しとりばあちゃんが選ばれた理由はなんだ?
死の感覚を味わうのは二度目だ。
一度目はイデヤに助けられた、あの錬金術師のクソカスに手足を押さえ込まれた状態で糸色家の財貨を差し出すように言われ、殴られたときだ。
アイツらのせいで錬金術師を嫌いになったし。錬金術を使える巓の姉ちゃんを一時的に嫌ってしまった記憶もあったりするわけだ。
「(どうする?何を解決する?)」
グルグルと頭の中で渦を作る思考を停止し、怖いものは怖いものなら受け入れて飲み干せば問題ない。今のオレは宇宙最強の糸色境様だ。
誰にも負けるわけがない。
悔しさもある。
「……しとりばあちゃん、オレは何に怖がっていると思う?もう気付いているんだろう」
「ん、さっちゃんは孤独を恐れているんだよ。独りは嫌だ。独りは寂しい。独りは苦しい。独りは怖い。独りは、何も出来ない」
そう言ってリボンを解いたしとりばあちゃんはゆっくりとオレに近付いてきて、オレの目を覆うようにリボンを目隠しのように巻いた。
ほのかに太陽の香りがした。
……暗い。
何も見えない。
「落ち着いて、意識を両の手に集中して」
しとりばあちゃんに言われるがままオレは両の手に意識を集中していたそのとき、身体の熱が両の手に集まるような感覚を感じ取った。
すごく安心する気配が近くに存在する。
太陽の香りが近い。
目を閉じて尚も彼女の輪郭が見える。
「(……ああ、五臓六腑の感覚が分かる)」
「見える?」
研ぎ澄ました感覚がある。
いつでも動ける気分だ。
だっていうのに、なんでこんなにも身体の奥底に熱が溜まっているんだ。煮えるように、滾るように、迸るように、オレの身体は熱さを忘れない。
「しとりばあちゃん、もう一回勝負だ」
「ん、もう三時間は瞑想してたよ」
「はあ!?」
慌てて目隠しをとると夕方になっていた。
いったい、どうなってやがるんだ?