倒すと書いて、サカサと名乗った少女。
少なくともオレの糸色家や分家にサカサなんていう人間は存在していない。────ということは、ここは未来の世界なのだろうと思う。
いや、そう考えるのが妥当だ。
「境くん、その…じっと見られると恥ずかしいかな」
「っ、すまん」
「いや、ボクの顔はしとりおばあちゃんによく似ているというのは知っているし。過去の当主である君が興味を示すのも分かるよ」
「そうか」
「うん。だけど、ボクも女の子だから、ね?」
スッとお尻を隠すようにスカートに手をかざすサカサに慌てて弁明しようとした瞬間、強大な気配を感じて後ろに振り返って、拳を構える。
しかし、誰も廊下にはいない。
なんだったんだ?
「貴様、私が見えていたな?」
「にゃんこ先生、何してるのさ」
「どこだ?」
「私は此処だ」
その声の主を探して足元を見た瞬間、オレの脳裏に身体が食い千切られるイメージが叩き込まれ、10メートル近く真後ろまで飛び退いていた。
「お前、斑だな?」
「ホウ。私を知っているのか。小僧」
「オレのばあちゃんの名前は糸色類だ。そういえば分かるか?」
「イトシキ……レイコとつるんでいたヤツか!」
「いとしきるい……じゃあ、境くんってやっぱりボクのお兄ちゃんなの?」
「……ん?待て、オレの妹の名前はイブキだ」
「ああ、言い方が違うね。ボクは糸色切の子供」
「切の姉ちゃんの、子供!?」
待て、ちょっと待ってくれ。
切の子供と言えば男が三人で、娘が一人で、まだ増えたっていうのか?
「……ウッ、ヌウォオォ?!」
「なんじゃあれ」
「多分、脳破壊じゃない。ボクのママって基本的に善悪より人となりを見て判断するし、子供のこと大好きだから構いまくってたんじゃないかな」
「難儀な…」
とんでもなく面倒な頭が痛い。
吐き気もするぜ。
いや、それ以前の問題だ。
「ボクとしてはママが好かれるのは嬉しいけど。その位置で地面に倒れるのはやめてほしいよ。一応、ボクって女の子なんだよ?」
「す、すまん」
「うん。ゆるしてあげる」
クスクスと笑うサカサに顔を向けずに立ち上がり、オレは地味にショックを受ける。いや、結婚しているのは知っている。
「……ボクもママみたいになるからね?」
「え?ああ、うん」
いきなり、どうしたんだ?
不思議に思いながら、サカサの言葉に頷く。サカサに抱かれたねこまんじゅうは先生と呼ばれているし、かなり未来なのはわかった。
「糸色、大丈夫か?」
「あ、田沼くん」
「……今度は法力僧か」
気配的にいつものところだな。