着物の女に逃げられた。
まあ、それはどうでもいいんだ。
「田舎に引っ越したのか?」
「いや、ボクの療養のためだよ」
そう言って趣深い平屋の玄関を開け、オレを家の中に招くサカサに続いて玄関に入る。人の気配は感じず、蛮竜の気配も遠くに感じる。
両親は不在か。
台所で手洗いとうがいをする。
「ボクは着替えるから、リビングにいてよ」
「わかった」
リビングってか、居間だな。
そんなことを思いながら折り畳み式のテーブルや家具の並んだ部屋を見る。人の生活感はあるにはあるが、薬と血の臭いがするな。
「(オレの血筋側に起こる不治の病か)」
ちょっと嫌な事を考えて、直ぐに意識を切り替える。楽な格好に着替えてきたサカサを見る。浴衣に着替えて、腰帯も下帯だ。
「? どうかしたの?」
「いや、田沼くんが可哀想だと思っただけだ」
「なにかあったの?」
「何も無いから可哀想なんだよ」
まったく理解していないサカサは折り畳み式のテーブルを運び、いそいそとテーブルの足を伸ばして、オレの前に置いた。
「お茶で大丈夫?」
「うっす。……いや、そうじゃねえわ。オレはサカサと継承の儀式をしに来たんだ」
そう言うとモヂカラでお湯を急須に注ぐサカサは「ちゃんとボクも覚えているよ」と言い、湯呑みに注がれたほうじ茶をオレは飲む。
意外と良い茶葉を使っているな。
「さて、困りましたね。ボクは強くもなければ戦えるわけでもありませんし。境くんは宇宙最強なのは分かりますけど。ボクのことボコります?」
「アホか。するわけねえだろ」
サカサに呆れながら、オレは悩む。
実際にオレがコイツと継承の儀式をするにしてもどうやって強さを知るかだ。そもそも戦えるのかも分からないヤツと、どうするんだ。
「まず、何が出来るんだ」
「炊事洗濯の家事とかだね。まあ、ボク本人は戦えないけど、バトルする手段はあるよ」
「バトル?」
「戦闘じゃなくて、バトルだからね」
同じだろ?と首を傾げる。
サカサは雨戸を開け、縁側の外に出る。
「ボクはね、超憑依体質なのさ」
刹那、サカサの気配が変わる。
「(成る程、だれかを憑依させるタイプか)」
「さて、オレの相手はお前か?」
「名乗れよ、まず」
「あ?あー、めんどくせえな」
オレの眼前に迫ってきたサカサの蹴りを受け止め、縁側の外に投げ返し、オレも平屋の外に出て、サカサとバトルするために構える。
「キャンキャン騒ぐなって!アァ!?ケンカじゃねえのかよ、うるせぇなあ!」
……なんか、立ち入っていいのか悩むな。