7話:三人分
【八月六日(水)】
鶏むね 278
もやし 39
アクエリアス(ケース) 2,180
二ケース目。
十日で二十四本。計算が合わない。スバルは一日一本しか飲まないと言い張っている。
盗まれているのだろうか。それとも誰かにあげているのだろうか。
聞いたら「秘密」と言われた。
【八月八日(金)】
ひまわりの鉢 298
買い直した。
前のは完全に駄目になった。捨てるときにスバルが少しだけ嫌そうな顔をしていたので、宿題のことは何も言わなかった。
今度のはベランダに置いた。水やり当番は私になった。おかしい。
【八月十日(日)】
そうめん 198
なす 138
氷 108
めんつゆ 248
スバル、帰ってきて夕飯のときに笑っていた。
何かあったのか聞いたら、「今日、公園でやばいものを見た」と言われた。
やばいものとは何か。
聞き返す前に、「言えない」と言われた。言えないことを食卓で言うな。
食べ終わってから自分の部屋に行って、しばらく出てこなかった。書いていたのだと思う。
宿題を書いているならいいことだ。ひまわりの宿題を。
【八月十三日(水)】
牛乳 215
バナナ 198
湿布 548
腰が痛い。
昨日、押入れの上の扇風機を下ろそうとして変な体勢になった。年だと思う。四十を過ぎてから、こういうことが増えた。
スバルに「おばあちゃんみたい」と言われた。腹が立つが、事実なので何も言い返せない。
【八月十六日(土)】
豚バラ 498
キャベツ 178
アイス 298
夕立。
スバル、びしょ濡れで帰ってきた。雨はとっくにやんでいたのに。
顔が真っ赤だったので熱を測らせたが、平熱だった。
風呂に入れて、アイスを食べさせた。何も喋らなかった。何かあったのだろうが、聞いても言わないだろうと思ったので聞かなかった。
夜中、部屋の電気がついていた。
【八月十七日(日)】
食パン 138
たまご 238
レタス 148
朝、スバルがいなかった。
自転車がない。
夕方、電話があった。「遅くなる」とだけ言って切れた。
夜、十時前に帰ってきて、「ライブに行ってきた」と言った。ライブ。誰の。
「宿題の人の」
宿題の人とは何か。
ひまわりのことか、と聞いたら、「ひまわりじゃない」と言われた。
それから、「お母さん、スバル、宿題ちゃんと出すから」と言った。急に。
言われなくても出しなさい。
【八月十八日(月)】
洗剤 298
ゴミ袋 198
歯ブラシ 178
二学期。
スバル、宿題を全部持って出ていった。ノートだけ、置いていった。
ひまわり、咲いた。
私が育てたことになる。
◇
【八月十八日(月) 夕方】
お茶っ葉 498
どら焼き(六個入り) 680
来客。
スバルより先に、若い女の人が家に来た。
赤い帽子をかぶっていた。玄関で「はじめまして、宝鐘と申します」と、ものすごくきちんと頭を下げられたので、こちらも慌てて頭を下げた。
スバルの知り合いだという。
上がってもらった。お茶を出した。うちにあった安いお茶っ葉が切れていたので、慌てて買いに走った。どら焼きも買った。急いだので、レシートを見たら六個入りを買っていた。三人しかいないのに。
お茶を飲みながら、宝鐘さんは書類を出してきた。事務所がどうとか、契約がどうとか言っていた。
正直、半分も分からなかった。
だが、この人が本気なのは分かった。
判子を探しに立ったところで、スバルが帰ってきて、ものすごい声で叫んだ。
うるさい。
【八月十八日(月) つづき】
書き足す。
宝鐘さん、痩せている。
どら焼きを食べるとき、両手で持って、小さく齧っていた。それから「おいしい」と言った。
うちの子と同じ顔をして食べていた。
帰り際、玄関でもう一度きちんと頭を下げて、「スバルちゃんのこと、よろしくお願いします」と言われた。
逆だと思う。
こちらこそ、と言おうとしたら、もう背中を向けて歩いていた。歩き方が速かった。
【八月二十一日(木)】
米 1,980
麦茶 298
宝鐘さん、また来た。
今度は事前に連絡があった。スバルの携帯に。私は聞いていない。
上がってもらった。麦茶を出した。
スバルと二人でずっと騒いでいた。うるさい。何を言い合っているのか半分も分からなかったが、片方が何か言うと片方が全力で怒鳴るという構図だけは分かった。
夕飯どきになったので、食べていくかと聞いた。
「え、いいんですか」と言われた。
二回聞いてきた。
【八月二十一日(木) つづき】
豚こま 398 → 豚こま 598
米、また買わないと。
【八月二十三日(土)】
牛乳 215×2 430
たまご 238
食パン 138×2 276
豚こま 598
キャベツ 178
トマト 298
買い物の量が変わった。
計算し直したら、一週間の食費が四千円ほど増えていた。
まあ、そんなものだろう。
スバルの上履き、そろそろ小さい。近いうちに買っておくこと。
【九月一日(月)】
米 1,980
牛乳 215×2
豚こま 598
九月。
マリンさん、来なかった。
夕飯、二人だった。
豚こま、余った。
【九月三日(水)】
もやし 39
たまご 238
マリンさん、来ない。
忙しいのだろうと思う。スバルに聞いたら「仕事だって」と言われた。それはそう。あの人には仕事がある。
麦茶、一本で足りるようになった。
一本にした。
【九月六日(土)】
洗剤 298
ゴミ袋 198
麦茶パック 298
ベランダのひまわり、そろそろ終わり。
種を取るかどうかスバルに聞いたら、「取る」と言われた。来年もやるのかと聞いたら、「宿題じゃなくてもやる」と言われた。
宿題じゃないなら、ただの植木である。
麦茶、二本に戻した。
来るかどうかは分からない。
作っておけば、来たときに出せる。
【九月十三日(土)】
豚こま 598
キャベツ 178
トマト 298
アイス 298
マリンさん、来た。
三週間ぶりである。
痩せていた。
夕飯を食べていった。おかわりをした。二回した。スバルが「食い過ぎだろ」と怒鳴っていた。
帰り際、玄関で「またお邪魔してもいいですか」と言われた。
いいに決まっている。
そう言ったら、変な顔をしていた。
【九月十四日(日)】
特になし。
麦茶、二本のままにしておく。
◇
【四月九日(火)】
米 2,180
牛乳 215
食パン 138
スバル、今日から寮に入る。
荷物を積んで、朝に出ていった。
麦茶、二本作った。