烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

10 / 11
5月の振り返り
2日(水) GW前日、合宿開始(6日まで)
3日(木) 音駒、宮城に到着。日向と孤爪が出会う。
5日(土) ユニフォーム配布。
6日(日) GW最終日。烏野総合運動公園球技場で音駒との練習試合。
7日(月) 月島蛍と山口忠が月島明光の高校在学中のDVDを受け取る。日向翔陽と影山飛雄が猫又繋護と中間テスト勉強をする。
13日(日) 福島県の熊山東高校と練習試合。
15日(火) 月刊バリボー発売日。
21~24日 中間テスト期間。
27日(日) 烏養繋心、烏養一繋に指導に来るようお願いする。
29日~ 烏養一繋指導に来る。


~常波高校 ベンチメンバー

監督 小野隆

01 駒木輝
03 茶屋和馬
04 池尻隼人
05 玉川弘樹
09 芳賀良治
10 渋谷陸斗
12 桜井大河 リベロ

※2、6、7、8、11、13、14番は出番が無いので省略します

~スターティングオーダー

4 池尻隼人 9 芳賀良治 3 茶屋和馬
10 渋谷陸斗 5 玉川弘樹 1 駒木輝


~伊達工業高校 ベンチメンバー
監督 追分拓朗
マネージャー 滑津舞

01 鎌先靖志
02 茂庭要
03 笹谷武仁
06 二口堅治
07 青根高伸
12 小原豊
13 作並浩輔

※4、5、8、9、10、11、14番は出番が無いので省略します

~スターティングオーダー

7 青根高伸 6 二口堅治 3 笹谷武仁
2 茂庭要 12 小原豊 1 鎌先靖志


2012年6月①

 6月に入って、インターハイ予選前の最後の練習が終わった。遂に明日から公式戦が始まる。

 ボールとかボール籠、【飛べ】って書いてある横断幕、救急箱なんかの準備を終わらせてミーティングに入った。

 

「おーし、遂に明日がこのチームの初めての公式戦だ。約2ヶ月とはいえ全体的にレベルアップしてる。

 普段から『練習は本番のように、本番は練習通りに』って言ってるように、別に緊張する必要はねえからな。2ヶ月やってきたことをそのまま出せばいい。そんで二度と【墜ちた強豪 飛べない烏】なんて言わせんな」

「「「オォーッス!」」」

 

 次に武田先生。

 

「そうですね。たった2ヶ月、されど2ヶ月で君達は大きく成長しています。素人の僕から見てもそうなのだから、他の高校だってきっとそう思うことでしょう。

 今まで育ててきたその翼を大きく広げて烏らしく飛んでいきましょうね!」

「「「はい!」」」

 

 バレー未経験でここまで部活の指導に力を入れてくれてる武田先生に報いるためにも勝たないとね。

 そして次に若林先生。

 

「はーい、若林でーす。

 ……そうだね。武田先生が仰ったように、2ヶ月とは言え今の君達はかなり強くなりました。それは見ただけで分かります。あとはその力を存分に発揮するだけだよ! 昔のように烏野が勝ち上がっていく姿を見せて下さい!」

「「「はい!」」」

 

 スポーツ栄養学の講義とか身長とか体重を見てアドバイスをくれたりとか色々とサポートしてくれた。そんな俺達に出来ることは勝ち進むだけ事だけだ。

 勝って勝って勝ちまくって、色んな人への恩返しをする。おーし!

 

「今日『えっ、これだけ?』って感じで練習を切り上げた。そのフラストレーションは明日出せ。『もっとバレーやりてえ!』、『じゃあ勝とう!』ってな。

 勝てば勝つだけ強い相手と戦えるんだ。色んなチームと戦って烏らしく食い散らかそうぜ」

「「「はい!」」」

「忘れ物無いように確認しておけよ。後はユニフォームもな。

 1戦目は黒、勝てば2戦目はオレンジを着るつもりだからどっちも持ってこいよ」

「「「はい!」」」

 

 シューズ、サポーター類、アンダーウェア、ユニフォーム、テーピング、お昼……、ちゃんと確認しないと。

 試合で時間がある場合は乾かしたりで対応するけど、あんまりしたくない。うん。

 

「あ、では最後に清水さんから」

 

 武田先生がそう言うと、2、3年生がズビシ! って硬直した。やっぱり清水先輩すげー。

 

「……4月から色々と変わっていると思います。明日からその力を発揮して下さい。頑張れ!」

「「「はい!」」」「「「…………っ!?」」」

 

 あれ? 今1年の声しか聞えてこなかったな。……って先輩達が歓喜に震えてるんだけど。いつもはあんなにうる、……賑やかなのに。

 ま、やるしか無い。

 

 

 家に帰ったら、いつもよりも靴が多いことに気が付いた。姉ちゃん達だ。

 

「おっかえりー、お兄ちゃん!」

「……溶け込んでて違和感なかったわ。一瞬千葉にいるんじゃ無いかって錯覚したんだけど」

「残念でしたー。ほらお風呂入ってきなって、洗濯しとくってお母さんが言ってたし」

「んー、ありがと」

「今度こそ全国大会行ってよ」

「だな」

 

 帰ったら美緒が出迎えてくれて、姉ちゃんはゴロゴロ、彩音ちゃんは祖母ちゃんと一緒に夜ご飯を作ってくれてるみたいだった。早く風呂入ってさっぱりしよう。中学の時は関東止まりだったからなー。

 

 

 風呂から出て夕飯も食べて、和室で子供4人固まって勉強タイム。

 流石と言うべきか、シャーペンとか消しゴムの音と呼吸音、服が擦れた音しか聞こえない。この4人ならではの時間だ。テスト前なんかはいつもこうしてる。前は彩歌ちゃんもいたんだけど、ここ最近は実習が忙しいらしくてなかなか集まれない。医療系だもん、しょうがないね。

 

「あ」

「どうしたの?」

「もう21時回ってる」

「あー、本当だ」

 

 美緒と彩音ちゃんの会話が聞えてきて、壁時計を見ると確かに21時を超えていた。そろそろ寝てもいい時間だ。

 

「じゃあ俺そろそろ寝るわ」

「うん、また明日ね」

「お父さんも合流する予定だから」

「んー」

 

 彩音ちゃんと一緒に寝室に到着する。そして、2人だけなのを確認してハグした。ふへー、落ち着くわー。お風呂上がりでいつも以上に良い匂いがするし、柔らかいし。俺のアレが大きくなってるのは彩音ちゃんも気づいてる。

 お互いに顔を近付けては深い方のキスをした。

 

「明日頑張ってね」

「うん」

「お休み」

「うん、お休み」

 

 彩音ちゃんが寝室から出て行くのを見送って、布団にもぐり込む。

 ……気合い十分! かかってこいやー!

 リラックスしてたこともあってあっという間に意識が無くなっていく。おやす…………。

 

 

 猫又真緒、猫又美緒、込田彩音の3人も就寝して夜も深くなった頃、烏養一繋の元に猫又育史からの電話がかかってきた。

 

「よお、猫又」

『夜遅くに悪いな、烏養。烏野はどんな様子だ?』

「んー、そうだなー」

 

 この1週間の指導を振り返りながら烏養一繋は最終的な判断を下す。

 

『決勝まではいけねえな』

「……そうか」

「確かに繋心の約2ヶ月の指導で急速に進化してる。が、まだまだ足りねえ。白鳥沢を下すのは厳しいだろう」

『宮城も大変だねぇ。あの〝牛島若利〟がいるなんてよ』

「それは東京も同じだろうが。井闥山に梟谷。他にも強い学校はあるだろ? 富山だから開催地はねえしよ」

『まあな』

 

 佐久早聖臣と古森元也、他にもJOC等で活躍した選手が全国から集まる井闥山学院と月刊バリボーでも注目選手として名を挙げられていた木兎光太郎率いる梟谷学園。

 東京都からインターハイに進出するのはこの2校だと噂されている。

 

「いきなりレベルアップってのは難しいからな。段階的に進んでいくしかねえ」

『違いねえな。ま、色々見ていてくれよ』

「おう。おめえも元気でやれよ」

『烏養より先にくたばる訳にはいかねえよ。俺ぁ孫全員の結婚式に行くって決めてんだ』

「はっはっは! ホント人生何があるか分からねえなぁ!」

『だな。おめえも体調には気をつけろよ?』

「わぁーってるよ」

 

 烏養一繋と猫又育史の電話はまだまだ終わらない。

 

 

 黒とオレンジのユニフォーム、サポーター類、シューズ、ワイピング用のタオル、上下のインナー、練習着、軽食……、試合に必要なものは全部入ってる。オーケーオーケー。

 玄関で祖父ちゃん祖母ちゃん、母さん、姉ちゃん、美緒、彩音ちゃんにハイタッチして見送られる。

 

「んじゃ、行ってきまーす」

「後で応援行くからよ」

「うん、お願いします」

 

 今日もいつも通り頑張っていきましょー。

 

 

 学校で軽くストレッチをしてからバスで移動。そして早めに仙台市体育館に到着して外の空いてるスペースで更にアップ。

 烏の方の祖父ちゃんが監督をしてた小5の春高予選までは応援に来てたから勝手知ったる会場の一つだ。それ以降は中学の部活もあってお盆とかそういう時にしかこっちには来てない。懐かしくもあるけど、選手側で来るとこみ上げてくるものがある。おーし。

 

「にしても、今回も言われたなー。【墜ちた強豪 飛べない烏】って」

「まあ事実だもんな、仕方無いよ。な? 〝烏野のアズマネ〟?」

「スガぁ、止めてくれよぉ!」

「コーチが言ってるように実力でねじ伏せれば良い。勝てば良いんだよ勝てば」

「「だな」」「「「そっすね!」」」

 

 ……その不名誉な称号通りか確かめてやるっつの。

 あと東峰先輩には〝烏野のアズマネ〟、影山には〝コート上の王様〟って呼ばれてたな。俺?関東圏なら〝庵里の化け猫〟って呼ばれてるだろうけど、 ここじゃ無名でーす。

 

「うぉっ!?」

「なんだぁっ!?」

 

 いきなり成田先輩がびくっとした。つられて木下先輩も仰け反る。

 

「ねこー? 大丈夫か? 目が据わってるぞ」

「祖父ちゃんと烏野を馬鹿にする奴は許しません。もちろん音駒も。ガルルルル!」

「見た目大人しいのに結構好戦的だよなー、ねこ」

「音駒魂見せてやりますよ!」

「「「お前烏野な?」」」

 

 ぎゃおん。

 翔陽は「酸素、酸素くれぇ」って情けない悲鳴を上げてるけど、烏養コーチが〝いつも通り〟を心がけてくれてるから皆そこまで緊張してない。

 

「良し。そろそろ体育館行くぞー」

「「「オォーッス!!」」」

 

 上下のインナー、リベロだからオレンジの13番のユニフォーム、サポーター類、ワイピング用のタオルは確認した。あとはドリンクとタオル、ボール籠、救急箱だ。

 さぁて、この日を待ってたよ。【墜ちた強豪 飛べない烏】なんて呼ばせないように頑張らないとねぇ?

 

 

 仕事の関係で1人遅れて宮城県に来た猫又明育と合流。そして、烏養一繋らは仙台市体育館に到着して烏野高校側の観客席に陣取った。準決勝や決勝では無いため、観客席にもそこまで人はいない。

 

「ビデオカメラ良ーし。……大丈夫かな?」

「ほれ、3人入ってみ」

「あ、うん。

 ……はーい、今私達は仙台市体育館に来ていまーす」

「「「いぇーい!」」」

 

 猫又姉妹と込田彩音の3人をビデオカメラで10秒ほど録画して、しっかりと撮影されていることを確認した烏養一繋は満足そうに数回頷く。

 

「大丈夫だな」

「あとは三脚ー」

 

 三脚も素速く組み立ててビデオカメラの準備も完了した。

 若林智子や養護教諭の二宮明里であったり、選手の保護者やOBが続々と観客席に集まってくる。

 

「では烏野高校応援いきまーす!」

「「「オー!」」」

 

 猫又姉妹と込田彩音の3人が烏野高校の即席応援団を率いる。

 

「いっけーいけー!」

「「「いっけーいけー!」」」

「押っせー押せー!」

「「「押っせー押せー!」」」

「「「1番だいちー、2ー番こうしー! ガッツで行こうぜ!」」」

「「「オォー!!」」」

 

 選手が13人で観客席にユニフォームを着られない現役部員の代わりに保護者が応援を始める。特に現役部員の兄弟姉妹が率先して声を出していた。

 いよいよ烏野高校と常波高校の試合が始まる。

 

 

 公式ウォーミングアップが終わってベンチでミーティングを行う。皆ちょっと緊張してるみたいだ。烏野の観客席からの応援がより耳に入ってきていよいよだなって気分になる。

 

「いっけーいけー!」

「「「いっけーいけー!」」」

「押っせー押せー!」

「「「押っせー押せー!」」」

「「「5ー番りゅうのすけ、6番ちからー! ガッツで行こうぜ!」」」

「「「オォー!!」」」

 

 人がいないから当然なんだけど、観客席からの応援については全く話し合って無くて、多分祖父ちゃんが「これでいいだろ」って薦めたオーソドックスな応援が観客席から聞えてくる。……ていうか、案外保護者が集まってる。ゴールデンウィークで見た皆の家族が応援してるっぽい、40人くらい?

 因みに、あの応援の仕方だと13番と14番は呼ばれないケースが多い。残念。

 

「「「うぉぉ!? 応援だ!!」」」

「応援が無いと寂しいからな。ジジイ通して頼んでおいた。さーて、やることは分かってるな?」

「「「はい!」」」

 

 勝つこと。勝って勝って勝ち上がること。ただそれだけだ。

 

「『練習では本番を、本番では練習通りに』って口酸っぱく言ってきた。やってきた練習は裏切らねえ。4月からの成果を発揮してこい!」

「「「はい!」」」

「そんで、全員バレーって事は忘れるなよ。コートの中6人だけが戦うんじゃねえ。武田先生、俺、清水、選手13人の16人でまずはこの1戦を勝ち抜く。全員出すからな、気を抜いてんじゃねえぞ!」

「「「はい!」」」

「立ち上がりはいつもより丁寧を心がけろ。ゆっくりでも良いから確実にエンジンを暖めていく。いいな!」

「「「はい!」」」

 

 続いて武田先生。

 

「昨日も言いましたが、皆は強いです。烏野は強いです。もう〝飛べない烏〟などではありません。

 この2ヶ月間育ててきたその翼で会場中を湧かせましょう!」

「「「はい!」」」

「よし、澤村!」

「はい! 烏野ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 16人で円陣を組んで、選手13人がエンドラインに並びに行く。

 

 

 シード校である青葉城西高校男子バレー部一同は、敵情視察のために烏野高校と常波高校の試合と伊達工業高校と桜下高校の試合に別れて分析を始める。

 その中でも、及川徹と岩泉一、金田一勇太郎、国見英など北川第一中学出身の部員は烏野高校と常波高校の試合を観戦しようと席に着いた。狙いは影山飛雄と4月に敗戦してその後烏野高校がどう成長したのかを確かめるためだ。

 

「前から2人増えてるな。3番と4番」

「でも、相変らず人少ないっすね」

「6人いれば試合には出られますし良いんじゃ無いですか?」

 

 いつもなら続く及川徹の軽口が聞えてこず、3人は怪訝そうに及川徹を見た。すると、「飛雄ちゃんにしっかり挨拶しないとねぇ」なんて話していた及川徹がさっきから真剣な眼差しで烏野高校一同を見ている姿が目に入ってくる。

 疑問を持った岩泉一が及川徹に問いかけた。

 

「どうしたんだよ、及川」

「……岩ちゃんは気づかない?」

「気づかないって何が?」

「んー、10番のチビちゃんと11番の眼鏡君が分かりやすいから注目してみて?」

「はぁ?」

「良いから」

「……分かった」

 

 白鳥沢と対戦する時のように真剣な表情をする相棒の言葉を聞いてみるか、と思った岩泉一は背番号10番の日向翔陽と背番号11番の月島蛍を凝視する。そして、目に入ってきた情報を口に出した。

 

「……なんか前よりがっしりしてねえか?」

「やっと気づいた? 1番君とか2番君もそうだけど、4月よりも全体的に身体がガッシリしてきてる。

 あと、さっきの練習見た感じ10番のチビちゃんすらも相当上手くなってるよね。何というか、普通に強いと思う。正直当たりたくない」

「でも、2ヶ月っすよ。そんなに上手くいきますかね?」

「そもそもウチら負けてんだよ? だったらちゃんと分析しないと」

 

 正論を言われて金田一勇太郎は押し黙る。が、岩泉一が及川徹を軽く殴りつけた。

 

「おめえが怪我しなければ良かったんだろうが、このボゲェ! クソ及川!」

「痛いっ!? 止めてよ岩ちゃん!」

 

 幼なじみ特有のコミュニケーションで、中学在学時から変わらない及川徹と岩泉一のやりとりを見て金田一勇太郎は思わず笑う。

 

「ま、勝つのはウチだ。ウシワカ野郎にも勝って全国いくもんね~」

「あたりめえだボゲェ!」

「もう少し語彙力付けなよ。ボゲェボゲェってワンパターンじゃん」

「このボゲェ!」

「ほら、また!」

 

 挨拶を終えて、2校のスターテングメンバーが背番号とポジションの確認の為にコートに入った。

 その様子を見て及川徹と岩泉一は集中し直す。

 

 

 挨拶が終わって、スタメン6人はコートの中。俺とノヤ先輩はサイドラインで副審にお腹側の背番号を見せる。

 OKを貰ったらノヤ先輩とハイタッチしてベンチで烏養コーチの指示を仰いだ。

 

「猫又、アナリストやってくれ」

「分かりました」

 

 この試合多分出ないし。しょうが無いね。

 清水先輩はこっちコートのサーブ決定率とかアタック成功率とかで忙しいからあっちコートまで手が回らない。そんな時に使い勝手が良い俺。

 バインダーと3色ボールペンを受け取って清水先輩の隣に座る。お隣失礼します。

 

「……猫又、こういうのも出来るんだ」

「はい。色々覚えてきてます」

「今は人数が足りてないから後回しにしてるけどな。マネがもう1人いれば外から分析して貰うかもしんねえ。

 ま、やっぱり勝ち進んでいくためには高度な分析が必要になってくる。もちろん清水は清水できちんと仕事してくれてるから問題ないぞ。いつもありがとな」

「……はい」

 

 ……清水先輩って結構表情に出るよな。それよりも田中先輩とノヤ先輩が「ああん!?」って見てくるんだけど。ウケる。試合に集中して下さーい。

 

常波

4 9 3

10(リベロ) 5 1

 

烏野

10 翔陽 5 田中先輩 9 影山

1 キャプテン 3 東峰先輩 11 月島(ノヤ先輩)

 

 背番号とポジションの確認が終わった。サーブは常波高校からだ。

 ウチは1つローテーションを回せば影山のサーブだし、翔陽と影山をセットで運用すればワイドブロードで敵を攪乱できる。あと俺が入れば影山もスパイカーに回れる。

 常波高校は全体的に高さが無いチームだから一気に点数を稼ごうってローテーションでもある。

 

「「「輝1本ナイッサー!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 さ、見せて貰いましょうかね。

 

 

 常波との試合が終わった。

 1セット目は【8-25】、2セット目は【25-11】でストレート勝ち。

 1セット目には月島のサーブの時にスガ先輩が入って擬似的なツーセッター。翔陽のサーブの時に木下先輩が交替してリリーフサーバー、キャプテンが前衛の時に山口を投入してセットを取った。

 2セット目には中盤【17-6】でスガ先輩と成田先輩を影山と翔陽と交替、終盤に田中先輩と縁下先輩が交替してって感じだった。

 ……はい、俺だけまだ試合に出ていません。うぬん。

 

「気を付け! 応援ありがとう御座いました!」

「「「ありがとう御座いました!」」」

 

 キャプテンが記録係のところに行ってるから、スガ先輩が副キャプテンとして号令をかけて観客席にお礼を言う。拍手とか「ナイスゲーム!」とかって祝福の言葉を頂く。

 何はともあれ、このチームで最初の公式戦で勝った。

 荷物を持ってパパッと体育館から離れてから適当な場所でミーティングに入る。キャプテンと武田先生はまだ事務手続きでいない。

 

「おーし。まずこのチームで初めての公式戦に1勝したな。良くやった。

 でも気を抜くんじゃねえぞ。俺達が目指してるのはインターハイ進出、かつ全国制覇だ。1回負けたら終わりって事だけは覚えておくように!」

「「「はい!」」」

「次の試合まで間隔が空くからまずは着替えて簡単にストレッチだ。ユニフォームは日当たりの良い手すりとかにかけておけば乾くと思う。

 そんでユニフォームをどっちにするかは後で考えよう。身体冷やさないようにジャージ着とけよ」

「「「はい!」」」

「よし、じゃあ一旦解散」

「はい! 気を付けー! 礼!!」

「「「ありがとうございました!」」」

 

 ミーティングが終わって自由時間。さあ、着替え――。……着替える必要あるか? 着替えとくか。

 

「勝った! 勝ったんだ! 俺達!」

「日向ー、落ち着けー」

「お、おす! ……でも俺達勝ったんですよ! 菅原さん!」

「おー、次もその次も、ぜーんぶ勝つんだぞ。そして全国行って、音駒にも勝つ。だろ?」

「っ! ~~~~っ!! オス!!」

 

 試合出られて良いな~。良いな~。良いな~。グルル。

 

「早速着替えちゃおう。ねこが薦めてたんだけど、でかいタオルで壁作って着替えると良いよ、らしい。ということで俺達先に着替えちゃうぞ、旭」

「分かった。3年優先で悪いなー」

 

 巨大なタオルを1年で持って先輩達の下半身を隠す。上半身は良いでしょ、多分。

 3年生、2年生、1年の順に練習着に着替えてクールダウン。次は午後スタートかな。

 

「あ、こんな所に。補食の時間でーす!」

「「「若林先生!」」」

 

 キャプテンと武田先生、烏養コーチが戻ってきた。袋を持った若林先生と清水先輩も一緒だ。

 

「新年度貴重な1勝おめでとう! ということでパパッと食べちゃって」

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 若林先生と清水先輩からおにぎりとバナナシフォンケーキ、オレンジジュースを受け取ってガツガツムシャムシャ。うん、美味しい。

 

「試合が13時30分からだから、12時45分過ぎくらいから外でアップ開始な。軽く寝ておくと集中できんぞ。あとリラックスに外で日光浴もオススメだ、身体も冷えないし。

 ま、他校や観客の人達に迷惑は掛けるなよ」

「「「はい!」」」

「日向、休めるときに休んでおけよ。明日と明後日も続くんだから」

「あっ、はい!」

 

 さっきから「もっと試合してー!」って動き回ってるからなー、翔陽。もう少し落ち着け。

 

「次も応援してるから。また後でね」

「若林先生もありがとうございました!!」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

 

 さて、日の当たりが良いところで日向ぼっこでもしてようかな。

 

 

 2試合目の伊達工業高校戦の前の自由時間を利用して、武田一鉄と烏養繋心も昼食を取っていた。屋外の日の辺りの良い場所に2人して並んでいる。

 

「だんだん夏が近付いてきてますね~」

「だな。もう少ししたら今度は『暑い、暑い』って言う羽目になるんだ。つい最近まで雪降ってたのによ」

「ですね」

 

 先生方には特別に、ということで部員よりも豪華なお弁当とお茶を若林智子から受け取って、2人は食事を進めていく。

 

「まずは1勝ですね」

「おう、センセもありがとな」

「烏養くんには頭が上がりません。いつもありがとう」

「こちらこそ」

「「頂きます」」

 

 お弁当の蓋を開けると、良い匂いが鼻腔を擽った。2人のお腹が鳴る。

 

「お、美味しそうです……!」

「実際若林センセの弁当美味えよなー。そんで栄養バランスも出来てる。はー、ホント感謝だぜ」

「自分のための料理ってどうしても手抜きになっちゃいますよね。僕も見習わないと」

「でも武田先生、最近身体が引き締まってきたよな」

「分かりますか!? 先生方にも生徒達にも言われるようになったんです!」

「そりゃあ分かるさ」

 

 食べる量にはあまり変化が無くても、1食の栄養バランスと簡単なトレーニングで武田一鉄の身体は引き締まってきていた。具体的にはスーツのサイズが1つ落ちている。

 

「最近階段を登るのも楽になってきたんです。縄跳びって凄いですね」

「だろ? 縄跳び様々だよな。安いし手頃にできるし。良いとこ尽くめだ」

「実際縄跳びをトレーニングに活用してる学校やプロの方々は多いんですよね?」

「ああ。まず全身運動だし、バレーに必要な筋肉を鍛えられる。あとアップにも良い」

「ダイエットにもですね!」

「だな」

 

 お弁当の味に舌鼓を打ちながら、2人は和やかに会話を続けていく。そしてあっという間に料理は2人のお腹に収まった。

 

「ああ、無くなってしまいました…………」

「勝って、若林先生に美味い弁当作って貰おう」

「そうですね!」

 

 勝てば強い相手と対戦する。その相手に勝つためには強い身体が必要で、強い身体に育てるためには栄養バランスに沿った食事を取らなければいけない。全国制覇をするためにはこうしたサイクルが最低条件だ。

 

「さ、集中してくぜ、先生」

「はい!」

 

 インターハイ予選は始まったばかり。気を抜くことは許されない。

 

 

 リラックスしてたらあっという間に伊達工業高校との試合の時間になった。

日光に当ててユニフォームが乾いたこともあって、黒のユニフォームをメイン、ノヤ先輩と俺はオレンジのユニフォームを着る。

 

「ゴーゴー! レッツゴー! レッツゴー! 伊達工!!」

「「「ゴーゴー! レッツゴー! レッツゴー! 伊達工!!」」」

 

 そしてウチも。翔陽の妹の夏ちゃんが美緒と一緒に音頭を取ってる。

 

「いっけーいけー!」

「「「いっけーいけー!」」」

「押っせー押せー!」

「「「押っせー押せー!」」」

「「「9番とびおー、10番しょうよう! ガッツで行こうぜ!」」」

「「「オォー!!」」」

 

 そんな伊達工業高校の応援と烏野の先生達とかOB達、保護者が負けじと応援で対抗してくれてる。心なしか「女子からの応援ズリい!」とかって怨嗟の視線が飛び交ってるような気もしなくもない。工業高校って男子が多いらしいし。

 挨拶が終わって最後のミーティングに入る。

 

「おーし。

 3月に伊達工に負けてて、2、3年はそのイメージを引きずってるかもしれねえ。が、4月からの2ヶ月間でこのチームはぐっと成長した。

 あっちは『前と同じで楽勝っすよ』とか思ってるだろうから、この2ヶ月間の成果をぶつけてこい!」

「「「はい!」」」

「この試合も〝全員バレー〟って事は忘れるなよ。全員で拾って全員で攻撃。そんでコートの中の6人だけに戦わせるんじゃねえぞ。この16人で勝ち抜くんだからな!」

「「「はい!」」」

 

 続いて武田先生。

 

「伊達工業高校の選手は1人1人体格が良くてプレッシャーを感じるかもしれません。ですが、君達1人1人だってしっかりと成長しています。何も臆することはありません。

 観客席の皆さんの応援を受けて、全員で〝伊達の鉄壁〟を打ち破りましょう!」

「「「はい!」」」

 

 全員で円陣を組む。

 

「烏野ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 背番号とポジションの確認にスタメンの6人とノヤ先輩がコートに移動した。

 

「そんで猫又はアナリストな。どうしてもリアルタイムで相手の情報を探っていかないといけねえから頼む。お前は2セット目で暴れて貰うぞ」

「はい!」

 

 さーて、色々見させて貰いますよー。

 

 

 一方、伊達工業高校も監督の追分拓朗を中心にミーティングを行っていた。

 

「あの10番は確かに凄い。が、それはあの身長だったからだ。3月と同様、3番と10番を徹底的に止めてやれ!」

「「「はい!」」」

 

 監督の追分拓朗、マネージャーの滑津舞、選手14人が円陣を組んで、キャプテンの茂庭要がかけ声を掛けた。

 

「伊達工ー! ファイ!!」

「「「オ゛ォ゛ーッ!」」」

 

 そして、スタメンの6人とリベロの作並浩輔がコートに向かっていく。

 

 

 ふひひっ。早速伊達工業高校の皆さん動揺してますねー。

 

烏野

11 月島 3 東峰先輩 9 影山

1 キャプテン 5 田中先輩 10 翔陽(ノヤ先輩)

 

伊達工業

7 6 3

2 12 1(リベロ)

 

 

 さっきの公式ウォーミングアップを見てた感じ、1番と2番は6番と7番よりも高さが無いからそこに翔陽をぶち当てて引っかき回す。もちろん、ワイドブロードもあり。

 その分東峰先輩と月島へのプレッシャーはあるだろうけど、ライトの3番も2番と同じでそこまで高さが無い。ブロックアウトは可能だって烏養コーチは判断した。

 

「日向、外から見て引っかき回せそうな背番号確認しておけよ」

「おす!」

 

 さあ、試合開始だ。

 

 

 1セット目が終わった。【25-18】でウチが先取。

 影山とスガ先輩との擬似的なツーセッター、山口の投入、木下先輩のリリーフサーバーが見事に炸裂。

 翔陽と途中で投入した3人でリズムを狂わされて、相手は後半グダった。

 

「おーし、良い試合展開だった。この調子で2セット目も取るぞ!」

「「「はい!」」」

「そんで、猫又。次行ってこい!」

「はい!」

「全員打つ気でいろよ。コイツ、強引にトス上げてくるからな」

「「「はい!」」」

 

 1セット目に相手の癖とか弱点を見られたからしっかりと働こう。狙いは1番、2番、3番だ。特にセッターでもある2番。パッとしない選手だし。

 

「繋護ー、頼んだぜ!」

「はい!」

 

 ノヤ先輩とハイタッチして集中度合いを高めていく。すーはー。

 またまた円陣を組んでキャプテンがかけ声を出す。

 

「烏野ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 さーて、今日も繋いでいきましょー。

 そのままコート脇で背番号とポジションの確認に入る。

 

伊達工業

7 6 3

2 12 1(リベロ)

 

烏野

1 キャプテン 10 翔陽 5 田中先輩

3 東峰先輩 11 月島(俺) 9 影山

 

 先に烏野の確認が終わったから、サイドラインで月島と入れ替わる。

 

「ん」

「ん」

 

 月島と軽くハイタッチして、コートにお辞儀をしてから中に入る。ちなみにサーブはこっちからだ。つまり影山から。

 副審から投げられたボールを影山に渡すついでに話し掛ける。

 

「影山もスパイクの準備しとけよ」

「良いトスだったら打ってやるよ」

「はん。1本ナイッサー」

「おう」

 

 そして相手コートの様子を窺う。あっちはポジションの変更は無いみたいだからさっきと同じだ。でも、翔陽が前衛に上がってるから目茶苦茶圧かけられてる。「10番を止める!」ってね。それでいいのかい?

 

「「「影山! 1本ナイッサー!!」」」

「1本カット!!」

「「「オ゛ォ゛ーッ!」」」

 

 翔陽のブロックはまだまだ未完成で、どうしても上から打たれることが多いからちょっと前目で。

 そのうち主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いは後衛からセットアップに走る2番の進路上で、ボールはバックレフトに伸びていく。

 

「「「二口!」」」

「ちっ! 小原カバー頼む!」

「オッケ!」

 

 7番がオーバーで取ろうとして、上がったのは良いけど若干後ろに逸れる。ナイッサー。

 前衛はレフトの7番、センターの6番、ライトの3番。どう来る?

 

「ライト!」

「……笹谷さん!」

「「「ライト!」」」

 

 12番の二段トスはライトの3番に上がって、レフトの田中先輩とセンターの翔陽の2人がブロックにつく。

 

「「せーのっ!」」

「「「ブロック2枚!」」」

 

 3番のモーションをよく見る。

 

 助走――クロス。

 身体の向き――クロス。

 視線――影山を見た。

 スイング――クロス。

 ⇒クロス!

 

「オラ!」

「「ノー!」」

 

 3番のスパイクは翔陽の右手の横を通って伸びて、影山が上げた。……こういう時のリベロでしょうが。

 

「「「ナイスレシーブ!」」」

「ねこ!」

「はい!」

 

 アタックライン上に落ちる軌道を取りながらボールが落ちてくるから、それにあわせながらコートの中の様子を確認する。

 

「レフト!」「バック!」「繋護!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの田中先輩、バックレフトに移動した東峰先輩、センターの翔陽、バックライトの影山、ライトのキャプテンがトスを呼ぶ。

 ……ま、セット初っぱなは田中先輩しかいないでしょ。ということで、ジャンプトスをしていまいるライト側から平行トスをレフトのアンテナまで伸ばす。

 

「田中先輩!」

「「「5番!」」」

 

 バンチリードブロックをするためにセンター側に寄ってる相手のブロッカー3人がライト側まで動くけど、オープントスじゃないから若干出遅れる。

 

「「「ブロック1枚!」」」

「ォラッ!」

 

 そして、田中先輩は3番と7番のブロックが完成する前にストレートコースに打った。バックライトの2番がフライングするけど間に合わない。つまりこっちの点。【0-1】。

 

「シャアッ!!」

「「「ナイスキー田中!」」」「「「ナイスキーです!」」」

「影山も猫又もナイス!」

「「はい!」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。そんな時に「あの13番セッター経験者かよ」って6番かな? あっちのコートの誰かが言ってるのが聞えてきた。セッター〝も〟出来ますよー、そこ勘違いしないで下さいね。

 

「『わざわざ6番と7番に10番をぶつけるなんてー』とか思ってるだろうから色々攪乱させていこう。影山も積極的にトス呼んでいこうな」

「おう!」「「「ウッス!」」」「はい!」

 

 キャプテンに返事をして、また次のラリーに備えて待機する。

 

「「「影山、1本ナイッサー!!」」」

「1本で切るぞ!」

「「「オ゛ォ゛ーッ!」」」

 

 主審の笛が鳴って、影山が2回目のジャンプサーブを打った。今回もバックレフト狙い。

 

「「「小原!」」」

 

 今度はしっかり12番に上げられた。ボールはセットアップに走った2番に返っていく。こういう時はー。

 

「青根!」

 

 7番だよね。

 翔陽がAクイックに跳んだ7番を止めようとブロックに跳ぶけど、完成前に7番が打ち込んでくる。アタックラインよりもちょっと後ろ側に伸びてくるボールを拾うためにパパッと動いてボールの落下地点にアンダーを差し伸べる。はい、Aパス。

 ブロックフォローに備えて素早く体制を整える。

 

「「「ナイスレシーブ!」」」

「カウンターだ!」

「レフト!」「バック!」「こい!」「ライト!」

 

 レフトの田中先輩、バックレフトの東峰先輩、センターの翔陽、ライトの大地さんがそれぞれトスを呼んだ。そして翔陽はライト側の変人速攻に走る。

 

「澤村さん!」

「「「1番!」」」

 

 相手のブロッカー3人がレフト側まで移動するけど。影山が上げたライト側への平行トスに間に合わなくてブロックが完成しない。

 

「「「ブロック1枚!」」」

「ふっ!」

 

 キャプテンのスパイクはストレートコースに伸びていって、バックレフトを守っていた12番がフライングするけどその前にボールは落ちた。こっちの点だ。【0-2】。

 

「オーッシ!!」

「「大地ナイスキー!!」」「「「大地さんナイスキーです!」」」「「「ナイスキー!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。

 

「猫又もナイスレシーブ!」

「はい!」

 

 今日の3セット分のフラストレーションは今発揮していかないとね。これぞ音駒魂ですよ。

 俺がやる気に満ちてる一方で、東峰先輩と田中先輩がビクビクしてた。

 

「音駒を思い出すなー……。打っても打っても拾われるって心に来る……」

「ブロックはトスもありますけど、レシーブされるとホント腹立つっす」

「っ! トスもっと良いの上げます!」

「いやいや! 影山は良いトスくれてるから!」

「じゃあ全部決めないとな、旭、田中!」

「……おう!」「オッス!」

「俺にもトスくれ! 影山!」

「あたりめえだろ!」

「この調子で一気にいくぞ!」

 

 キャプテンに返事をして次のラリーに備える。ブロックで心を折られるんだったらレシーブはどうかな? 翔陽のブロックっていないも同然だから打ちやすいよね。さあ、こっち打ってきて下さいよ。

 内心そんな風に呟いてあっちのコートを見据える。

 

 

 【2-6】、【4-10】と徐々に差を広げていく烏野高校と伊達工業高校の試合を見て、喜びつつも怒りに震えている烏養一繋に対して猫又真緒が問いかけた。

 

「なんでお祖父ちゃんそんなに怒ってるの? 烏野勝ってんじゃん」

「んんっ? ……ああ。繋護を見てると猫又の事を思い出すんだよ。あいつもこっちが手応え感じるプレーしても簡単に拾っちまって、挙げ句には『取りやすかったよ、ナイス。俺の評価が上がったよ』とか言ってきたんだ。あの飄々とした顔マジ腹立つ~!!」

 

 2人の会話を聞いていた嶋田誠や滝ノ上祐輔、月島明光など烏野高校排球部OB勢は現役時代の音駒高校との練習試合を思い出して、烏養一繋の言葉に強く同意する。

 伊達工業高校のレギュラー陣が強いサーブやスパイクを打っても容易く拾われて逆にカウンターを食らう。その繰り返しで伊達工業高校のレギュラー陣の表情には焦りが見え、自分達のリズムを狂わせていた。

 

「旭! 頼む!!」

 

 【12-20】で烏野高校が優勢の時に影山飛雄と菅原孝支、日向翔陽と成田一仁が交替して、【15-24】で烏野高校がマッチポイントの時に菅原孝支が東峰旭に託して点数を獲得する。

 2セット獲得したため、烏野高校の勝利が確定した。

 

 

 スガ先輩のトスを東峰先輩が決めきってウチの勝ち。

 

「「「シャア!!」」」

 

 まずはコート内の6人、そしてベンチゾーンで見てた皆ともハイタッチをしてエンドラインに並ぶ。

 

「「「ありがとうございました!」」」「「「ありがとうございました!」」」

 

 主審の試合終了の笛に合わせてネット際まで行って、伊達工業高校の1番と3番の人と挨拶してベンチまで戻る。

 

「良くやった! まずは観客席に挨拶だ!」

「「「はい!」」」

 

 武田先生とキャプテンは記録係の所に行って、俺達は観客席まで移動した。

 

「気を付けー! 応援ありがとうございました!!」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

「明日もお願いします!」

「「「お願いします!!」」」

 

 烏野を応援してた貨客の人から拍手やら「ナイスゲーム!」とか「良い試合だったぞー!」なんて祝福の言葉を貰ってベンチまで戻る。明日も試合だ。

 ……そういえば女バレの人達がいたような? 理由は聞かなくても分かるか。

 

「おーし。よくやった。

 烏ってさ学習能力が高いらしいんだよ。『これは駄目だった。じゃあこうしよう』って考えて、周りの仲間と協力する。

 3月に2、3年は負けて、その敗戦を引きずってたかもしれねえ。が、今日はきっちりリベンジしてやった。この調子で明日も勝ち抜くぞ!」

「「「はい!」」」

「まずは着替えてクールダウンな。次の相手のビデオはたっつぁんに頼んであるから学校に戻って対策をする。あと今日の振り返りも。

 とにかく身体冷やさないようにな。念入りにダウンしてくれ」

「「「はい!」」」

 

 キャプテンがいないからスガ先輩が号令をかける。

 

「気を付けー! 礼!!」

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 ミーティングが終わって撤収! うおー!! ……うおー?

 

「……勝ったな、旭」

「おう」

「この調子で明日も頼むぞ、エース」

「……おう」

 

 青春してるなー、先輩達。

 

 

 クールダウンをして「さあ、学校に戻ろう」って準備をしていたら、席に余裕があるってことで女バレの人達も一緒にバスに乗って帰ることになった。

 

「すいません、武田先生!」

「いえいえ! どうせ学校に帰るだけですしね! 君たちも烏野の生徒達ですから!!」

 

 ってことで一気に修学旅行みたいになる。俺はボール籠と一緒に2人席に陣取った。

 

「潔子ちゃんお疲れ!」

「千鶴ちゃんもお疲れ様」

 

 あの人も多分3年生だったんだろう。清水先輩がニコニコしてる。ということは――。

 

「潔子さんが笑ってる……!」

「ああ、潔子さんの笑顔だけであと20セットくらい出来そうだぜ! 龍!!」

 

 ――田中先輩とノヤ先輩が活性化する。相変らずだなー。

 

「さ、澤村もお疲れ!」

「おう。道宮も」

「と、とと隣失礼するね!」

「おう。多分寝るけど」

「大丈夫! 私も頑張って寝るから!」

「頑張って寝るものでも無いだろ……?」

 

 おやおやぁ? これは良い雰囲気ですねぇ。完全にラブじゃん。あの女バレの先輩。キャプテンは気づいて無さそうだな。まさかの鈍感系か。

 ま、いいや。寝よう。目を瞑るとだんだん意識が薄れてい…………。

 

 

 気づいたら学校だった。視聴覚室で準備をしていると祐輔兄ちゃんがDVDを持ってきてくれて、早速今日の常波高校と伊達工業高校の振り返りをする。

 

「コートの中と外だとやっぱり違うだろ? どうしても試合中は高揚してるから冷静になれないかもしれないけど、こうやって落ち着いた状態で見るとまだまだ粗がある。

 サーブミス、コンビミス、ブロックが3枚ついてる状態で無理矢理押し込もうとしてる、モーションからトスが完全に読まれてる、とかな。

 まだまだ改善しないといけない部分があるってのは分かっただろ? めっちゃすげえサーブとかスパイクを打たれて取れないのは仕方ない。相手を賞賛しよう。

 でも、自分達で引き起こす自滅点をこれからも減らす努力はしていかねえといけねえ。だな?」

「「「はい!」」」

 

 やっぱりバンチリードブロックをしてくる相手には速い平行トスとかBクイック、Dクイックが有効だな。ブロックが追いついてこなければそこまでって感じだし。まあコートの幅を上手く使っていこうって言うのはどの試合でも同じ。

 ブロックが恐い? だったらまずは速いトスでサイドに集めてブロッカーが分散しかけてきたらセンター線を使っていく。そうすれば見事にハマってくれる。

 

「はい! コーチ質問です!」

「おー、日向。何だ?」

「キャプテンとノヤっさんと繋護の3人って相手のサーブとかスパイクを打ってくる前から動いてるような気がするんですけど、『ピキピキーン!』って相手の打ってくる場所が分かってるんですか? エスパーとか?」

 

 ……おー、翔陽にしては良い質問だな。室内の全員が驚いたまま翔陽を見る。

 

「え? ……えっ!? あ、すみません! 変なこと言いました!」

「……いやいや。試合を見る目が育ってきてんな。良いぞ~」

「あっ! はい! いいえ!」

「どっちだよ」

 

 烏養コーチが思わず苦笑して、翔陽の疑問に答えていく。

 

「読んでるんだよ」

「……読む?」

「そうだ。助走の位置とか歩数、身体の向き、腕のスイング、手首から先、人によっては視線。

 そういったものを総合的に判断して、叩き付けてくるか伸ばしてくるか、ストレートかクロスか、ブロックアウトを狙ってくるか、フェイントを落としてくる、なんてな。

 レシーブが上手くなるには相手のモーションを読むことが必要になるからちょっと意識してみろ」

「おす!」

「あとこっちがブロックの時も〝スパイカーの視線〟で何をしたいのか読めるときがあるから、全員気にしてくれ」

「「「はい!」」」

 

 そして青葉城西高校と大岬高校の対戦動画を見る。影山の先輩がセッターになって一方的な蹂躙の試合を見せつけられる。

 全員及び腰になってるような気がした。

 

「今見て貰ったとおり、セッターが替わって4月とは別物のチームだ。『練習試合で勝ったから余裕っすよ』なんてプレーをしてたら今度はストレートで負けるぞ。気を引き締めるように」

「「「はい!」」」

「だが、1年を2人スタメンに加えてるって意味ではベスト4にしては付け入る隙がある。必要以上にびびる必要はねえぞ。

 やってることはサーブ、レシーブ、トス、スパイク、ブロックに変わりはねえからな」

「「「はい!」」」

 

 心なしか皆の表情が柔らかくなった。確かにセッターが替わって青葉城西高校は強くなったと思う。でも確実に負けるって感じはしないからやってみないと分からない。

 祖父ちゃんも「高校生である以上絶対に勝てる試合、負ける試合って無い」ってよく言ってたし。

 ……あ、そうだ。

 挙手して気づいたことの報告をする。

 

「青葉城西高校の1番ってジャンプサーブ打ってきてるので、前衛の時はツーアタックをやってくると思います。練習試合の時からそうだったんですけど、特に影山に対してかまってちゃんの所があるので、序盤からツー打ってきそうだなって。『影山には出来ないよね~』みたいな?

 あとリベロのオーバー見た感じトス上げてくるので1番が1本目を上げてもコンビ使ってくると思います」

「だな。

 4月から色んな試合の分析をやってきてるが、やっぱり全国で戦えるチームっていうのはセッターもツー打てるし、セッターが1本目を触っても他の選手がトスを上げられる。

 全国こそ出られてねえけど、青城は全国でも通用するチームだ。実際にはまだ見せてねえことがあるだろうな。だからといって必要以上にびびらないこと。落ち着いて対処していこう」

「「「はい!」」」

 

 気圧されたら、とかやる気が無くなったら負けるって言うのはバレーだけじゃない。コートにボールを落とさなければ負けないんだから、俺は俺で自分のやることをやるだけだ。

 

「この2ヶ月間でやってきたことは裏切らない。明日も自分達のプレーをやっていこう」

「「「はい!」」」

「おーし。じゃあ今日は終わり。早く家で休めよ」

「「「はい!」」」

 

 キャプテンの号令で終わりの挨拶をする。

 

「気を付けー! 礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 さて、帰ろうか。

 

 

 家に帰ると祖父ちゃん達に出迎えられた。美緒、姉ちゃん、彩音ちゃん、父さん母さん、祖父ちゃん祖母ちゃんの順にハイタッチしてから家に上がる。

 

「お風呂湧いてるー」

「入ってくるー」

 

 寝間着も準備してくれてるって言うからそのままお風呂場に直行。彩音ちゃんも一緒に。

 

「〝庵里の化け猫〟ここに推参! って感じだったね」

「今は〝烏野の化け猫〟目指してるけどね」

「いずれは〝日本の化け猫〟になったりして」

「んー、そこまでいけるかー?」

 

 身長伸ばさないと厳しいと思うんだよなー。少なくとも今の168cmだと無理。リベロでも175cm位無いと厳しいと思う。

 ま、まずは明日の青葉城西高校に勝たないと。おーし。




【登場人物まとめ】
二宮明里 養護教諭 テーピングの仕方やRICE処置などをバレー部に指導した。
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