01 及川徹
02 松川一静
03 花巻貴大
04 岩泉一
06 矢巾秀
07 渡親治 リベロ
12 金田一勇太郎
13 国見英
※5、8~11、14番は出番がないので省略します
~スターティングオーダー
4 岩泉一 1 及川徹 2 松川一静
12 金田一勇太郎(渡親治) 13 国見英 3 花巻貴大
昨日と同じ仙台市体育館に来てアップを取った。試合までもうすぐだ。
祖父ちゃん、祖母ちゃん、父さんと母さん、姉ちゃんと美緒、彩音ちゃんも応援に来てくれてるし、若林先生、他の先生方も観客席にいるのを発見した。誠兄ちゃんと祐輔兄ちゃん達OB勢も。
あと何故か教頭先生もいた。カツラは大丈夫そうだ。
「いっけー! いけいけいけいけ青城!!」
「「「いっけー! いけいけいけいけ青城!!」」」
「おっせー! おせおせおせおせ青城!!」
「「「おっせー! おせおせおせおせ青城!!」」」
伊達工業高校は工業高校で男子9割たまに部員の母親って感じの応援だったけど、青葉城西高校は共学って事もあって女子からの声援がある。というか、影山の中学の先輩を応援しに来てるって感じか。
「いっけーいけー!」
「「「いっけーいけー!」」」
「押っせー押せー!」
「「「押っせー押せー!」」」
「「「3番あさひー、4番ゆーうー! ガッツで行こうぜ!」」」
「「「オォー!!」」」
ま、ウチだって負けてない。女バレの人達とかも増えてるし。……うそ、ユニフォームを着られない3年とかの分圧倒的に負けてる。まあ、だから? って感じだけど。
「「「お願いします!」」」「「「お願いします!」」」
エンドラインに並んで主審の始まりの笛に合わせてネット際へ。2番と3番と挨拶をする。そしてベンチまで戻った。
「おーし。
ま、昨日の通りな。及川徹……1番な。1番が前衛の時はツーアタックにも注意すること。
あと、リベロはセッター経験者だろうから二段トスからでもコンビを使ってくる可能性がある。まあ、猫又が練習でやってることをしてくる可能性が高いってことだ。
そして重要なのが慌てないことな。落ち着いて確実に1点ずつ取っていく。いいな?」
「「「はい!」」」
「青城は強敵だ。だから全員で勝つ。全員出番があると思っておけよ。今日も全員バレーだからな!」
「「「はい!」」」
続いて武田先生。
「練習試合の時は青葉城西高校のセッターが違っていて万全で無かった。それは確かかもしれません。ですが、こちらもこの2ヶ月で色々と進化してきました。
今回も〝全員〟で勝ちましょう!」
「「「はい!」」」
16人で円陣を組む。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
背番号とポジションの確認のためにスタメン6人がコートの中に入っていく。
◆
一方、青葉城西高校男子バレー部一同もミーティングを行っていた。
「4月の練習試合ではストレートでこっぴどく負けた。〝二度目〟は無いぞ。今度はウチがストレートで勝つ。
いつもの練習通りやること。分かってるな?」
「「「はい!」」」
監督の入畑伸照に14人が返事をすると、今度はキャプテンの及川徹が話し始めた。
「10番は〝来い〟と〝くれ〟って言葉で神業速攻と普通の速攻で分けてると思うからトスを呼ぶ声で判断しよう。そして、飛雄……9番ね。9番が1本目を触ってもリベロの4番と13番が強引にコンビを使ってくるから惑わされないこと。4番のリベロは二段トスで3番か5番に上げることが多い。オーバー苦手っぽいし。
ま、今日も勝とうか。……それじゃあ今日も信じてるよ、お前ら」
「「「おうよ」」」「「「はい!」」」
選手14人が円陣を組む。
「青城ー! ファイ!」
「「「オォーッ!」」」
背番号とポジションの確認の為、スタメンの6人がコートに向かっていく。
◆
ベンチからコートの様子を見る。俺はアナリスト擬きからスタートだ。じっくり観察させて貰いますよー。
烏野
3 東峰先輩 11 月島 9 影山
1 キャプテン 10 翔陽(ノヤ先輩) 5 田中先輩
青葉城西高校
4 1 2
12(リベロ) 13 3
サーブはウチから。つまり田中先輩からだ。
「「「田中ー! 1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オーッス!」」」
ポジショナルフォールトを取られないように、ネット際で1番が若干ライト側、2番がセンター側に来ていて、多分2番はサーブレシーブに参加しないっぽい。つまり、Aクイックとセミのコンビとかを使ってくると思う。メモメモっと。
主審の笛が鳴って田中先輩がサーブを打った。狙いは2番が移動しようとして穴になってる所だ。
「「「国見!」」」
「はい!」
13番が田中先輩のサーブを拾ってボールが綺麗に1番に返っていく。2番はAかBクイック、レフトの4番はDクイックか平行に合わせて助走を始めた。そして1番もジャンプトス。……いや、これは!
「「「ツー!」」」
「っ!?」
「ノー!」「ワンチ!」
1番がツーを打ってきたけど東峰先輩と月島がブロックでドシャット。先制点はこっちだ。【1-0】。
やっぱりツー打ってくるよねー。読んでましたよー。
「良し」
「「「ナイス月島!」」」
月島がもみくちゃにされててめっちゃ嫌そう。あと観客席から「良いぞー! 蛍ー!!」って月島のお兄さんの声が聞えてきた。身内からの応援の方が嫌そうじゃん。
「ごっ、ごめん!」
「ドンマイ!」
1番が他の5人に慰められてる。これでちょっとは動揺してくれたら嬉しいんだけど。
「やっぱりツー打ってきたな」
「烏養君、なんで分かったんですか?」
「ローカルテレビとかのインタビュー見てると相当目立ちたがり屋なんだよ、及川。加えて中学の後輩である影山がいる。ってことは心折ってくるだろうなってな。
影山が『性格悪い』って言うくらいだから、思った以上に面倒くさい性格してるだろうし」
「……当然ですけど、プレーには性格が出るってことですか」
「おう。ウチで言うと影山、田中、西谷なんかは恐い物知らずで『ガンガンいこうぜ』って感じで、他は『命大事に』って感じだ。特に澤村と菅原、月島はほとんど冒険しねえな、きっちり確実やる」
武田先生と烏養コーチの会話をぼんやりと聞きながら青葉城西高校のデータを更新させていく。1番はバックアタックもしてきそうな雰囲気もあるし、まだまだ試合は始まったばかりだ。
13番は面倒くさがりなのか、やる気が無いのか、スロースターターなのかどうなんだろ。今の所〝やる気が無い〟に1票。
「「「田中もう1本ナイッサー!」」」「「「もう1本お願いします!」」」
「1本切るよ!」
「「「おう!」」」「「「はい!」」」
2本目の田中先輩のサーブもまた同じライト側のアタックライン付近。でも3番が拾って1番に返っていく。
「A!」「及川!」
1番はジャンプトス、2番はAクイック、4番はBクイックか平行って感じで助走に入ってくる。
「岩ちゃん!」
1番が選択したのは4番。平行トスがレフトに上がっていく。東峰先輩はブロックに間に合わなくてアタックラインまで下がった。そしてライトの影山にセンターの月島が合流して2人でブロックに跳ぶ。
「「「ブロック2枚!」」」
「ォラ!」
「ノー!」「ワンチ!」
4番は影山の右手に引っかけるように押し出してワンタッチを取った。ボールはそのままコート外に落ちる。あっちの点だ。【1-1】。
「おし!」
「「「ナイス岩泉!」」」「「「岩泉さんナイス!!」」」
「これでチャラだ、及川」
「岩ちゃん……!」
困ったときには4番にあげてきそうだな。
「すいません!」
「良い良い! 1本切り替えるぞ!」
「「「オォーッス!」」」
ローテーションが回ってあっちは2番のサーブだ。サーブレシーブに参加しない月島と影山の分、後衛のキャプテンとノヤ先輩、田中先輩が右にずれる。
「「「松川1本ナイッサー!」」」
主審の笛が鳴って2番がサーブを打ってくる。狙いは穴になってるセンター付近。
「オラ!」
「「「ナイスレシーブ!」」」
「レフト!」「センター!」
ノヤ先輩がそのボールを影山に返していく。……お、良いじゃん。影山も助走を始めた。
「っ! 岩ちゃん! 金田一! ライトだ!」
「「クソ……!」」
あーあ。見事にセンターの12番とレフトの4番が影山の囮に引っかかった。となると? 上げるのは当然レフトの東峰先輩でしょう。……あれ?
「「「ブロック2枚!」」」
「ふっ!」
「「ノー!」」
「「「前!」」」
そのまま影山が誰もいないレフトのフロントゾーンにフェイントで落として、バックレフトの3番が追いかけるけど間に合わなくてボールがコートの中に落ちる。【2-1】。
「オシ!」
「「「ナイス影山!」」」
コート中央に集まってペシペシハイタッチしてる。昨日からピリピリしてたけど案外冷静だ。セッターもツー打ってくるって相手に分かるとブロック付かないとまずいしね。
そして今度はこっちのローテーションが1つ回ってサーブは影山だ。
「「「影山、1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「おう!」」」「「「はい!」」」
ボールを持った影山がエンドラインまで向かっていって、いつものボール回しのルーティンをした。
あっちは1番と12番はサーブレシーブに参加しないから他の4人で対応。リベロがバックライトにいるって具合だ。
そのうち、主審の笛が鳴って影山がジャンプサーブを打った。狙いは相手コートのレフト側のサイドライン。
「「「国見!」」」
「くっ……!」
12番のカバーに入っていた13番はボールを追いかけるけど間に合わない。……でも、良いコースだったけどギリギリアウトだったような。
案の定、ラインズマンは〝アウト〟のシグナルを出してあっちの点数になった。【2-2】。
「「「ラッキーラッキー!」」」
あっちはあっちでコート中央に集まって、ウチも「だぁっ……!?」ってへんにょりした影山を励ましに5人が動いた。
「すみません……!」
「ドンマイ! ナイスコースだったぞ!!」
いや、本当に良いコース。あと数cmでライン上だった気がする。
「良いぞ! 強いサーブで相手に圧かけてけ! そんでサービスエースだ!」
「はい!」
そして相手のサーバーは1番。
キャプテンが下がってバックゾーンに近いところ、ノヤ先輩と田中先輩も右にずれた。特に月島と影山の分ライト側がぽっかり穴になってるから田中先輩がどうにかしないといけない。
「「「及川1本ナイッサー!」」」「「「1本ナイッサー!」」」
昨日の対戦ビデオでもサーブの威力は分かってたし、青葉城西高校は1番を乗せると全体的にリズムが良くなる。故に早く切りたい。
主審の笛が鳴って、1番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはノヤ先輩。
「「「西谷!」」」
「ォラ!」
「「「ナイスレシーブ!」」」
「カウンター!」
ノヤ先輩が1番のサーブを難なく上げてこっちのターン。バックライトから影山がセットアップに走る。
「レフト!」「センター!」「ライト!」
レフトの東峰先輩、センターの月島、ライトのキャプテンがトスを呼んだ。影山は誰に上げる?
「いけっ!」
「「「11番!」」」
まさかの月島。
でも、あっちはライトの13番、センターの12番、レフトの4番の3人がブロックに付いてきた。
「「「せーのっ!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「ふっ」
「ワンチ!」「ノー!」「ノー!」
月島はライトの13番の右手にぶつけてボールを落とした。1番が慌てて前に走ってフライングするけど間に合わなくて、ボールがコートに落ちる。こっちの点だ。【3-2】。
「良し」
「「「ナイス月島!」」」
コートにいる6人がペシペシハイタッチ。こっちの目的はとにかく1番を消耗させること。前後に動かすだけでも消耗するから、ジワジワと体力を削っていく。そうすれば全体的なパフォーマンスに影響するんじゃないか? って言うのが烏養コーチの考えだ。
そして、ローテーションが1つ回って月島のサーブ。つまり翔陽が前衛に上がってくる。
「「「月島1本ナイッサー!!」」」「「「日向ー! いったれ!」」」
「はい」「オス!!」
サイドラインで翔陽と入れ替わったノヤ先輩が烏養コーチから指示を聞きに来る。
「コーチ!」
「これからも1番のサーブ取れそうか?」
「……コース狙われるとしんどいっす。あと次は俺以外を狙ってきそうだなと」
「ああ、さっきのは威力偵察みたいな感じだった。次回以降しんどくなるな、猫又も1番にノータッチエースだけはさせるなよ」
「「はい!」」
触るだけで終わらせる気は無い。1本目を拾えないんならいる意味が無い。
月島のサーブ権は13番のAクイックで奪い返されて【3-3】。さっきからシーソーゲームが続いてる。そして4番のサーブだ。2番1番4番って強いサーブが続くのは面倒くさいな。
そして今度はサーブが終わった月島が烏養コーチの所に来る。ノヤ先輩は月島と交替してコートに戻っていった。
「良いぞ、月島。1番と4番に気持ちよくスパイクを決めさせないでくれ」
「はい」
聞くだけ聞いて、月島はウォーミングアップゾーンまで戻っていった。その間にも試合は進んでいて、あっちの4番がサーブをネットに引っ掛けて【4-3】で東峰先輩にサーブが回ってきた。これで試合開始から前衛後衛が入れ替わった形になる。
「「旭! 1本ナイッサー!」」「「「旭さん1本ナイッサー!」」」
「1本集中!」
「「「おう!」」」「「「はい!」」」
主審の笛が鳴って、東峰先輩がサーブを打った。狙いは後衛の1番がセットアップに走る進路上。
「「「国見!」」」「「「及川!」」」
「……俺が!」
13番が体制を崩しながら1本目を上げて、13番もコンビに入れなくなった。となるとレフトの3番にトスを上げるしか無い。
「マッキー!」
「「「3番来る!」」」
センターの翔陽がライト側に移動してライトのキャプテンと合流した。田中先輩は下がってレシーブに入る。
「「せーのっ!!」」
「「「ブロック2枚!」」」
「っし!」
「ワンチ!」「ノー!」
3番のスパイクは翔陽の左手に当たってチャンスボールに。……ここだ、一気に点を取って突き放せるのは。
「「「チャンボ!」」」
ノヤ先輩がチャンスボールを処理して、ボールが綺麗にセットアップに走った影山の元に返っていく。
「レフト!」「バック!」「影山!」「ライト!」
アタッカー4人がそれぞれトスを呼んで、影山はAクイックからBクイックに変人速攻を仕掛けた翔陽にトスを上げた。12番と13番が慌ててブロックに跳ぶけど間に合わない。【5-3】。
「シャア!」「「「うおぉぉ!? 10番スゲー!!」」」
心なしか烏野と青葉城西高校関係者以外の観客も増えてて、翔陽の変人速攻で観客中が湧いた。同時に、13番を積極的に狙っても良いかもしれないって気づく。体格とかセンスが良いからコートに入ってるだけで、あの13番そこまで熱心にバレーやってないね。他の5人と熱量が違う。
「「「良いぞー日向!」」」
「アザーッス!」
翔陽が他の5人とペシペシハイタッチをしていって、ウェイウェイする。
あと、昨日は「来い」と「くれ」で変人速攻をするかどうかのサインにしてたけど、今日はサインを変えてる。自分の思った展開にいかなくて1番が「あれっ!?」って驚いてた。にっしし、1番の自由にはさせないですよ~?
……ま、油断禁物だけど。
「「旭、もう1本ナイッサー!」」「「旭さん、もう1本ナイッサー!」」
「1本集中!」
「「「おう!」」」「「「はい!」」」
主審の笛が鳴って、東峰先輩がサーブを打った。今度は強打で相手コートのライト側に伸びていく。
「「「金田一!」」」「「「岩泉!」」」
「俺が!」「俺が!」
「「っ!?」」
前衛の12番とバックライトの4番が同時に声を出して、4番に任せようとした12番が手を引っ込めたけど触ってボールを後ろに弾いた。4番が手を伸ばすけど、ボールはそのままエンドライン付近に落ちる。サービスエースだ。【6-3】。
「オッシャ!」
「「ナイス旭!」」「「「ナイッサーです!」」」
東峰先輩に声をかけていたら、青葉城西高校が1回目のタイムアウトを要求した。コートの6人がベンチ側まで戻ってくる。ノヤ先輩のドリンクとタオル持ってこないと。
ササッと移動して2つをノヤ先輩に渡す。
「おう、ありがとな!」
「いえっ」
同じポジションで試合に出ていない方が担当するって決めてから結構スムーズにいってる。
例えばスガ先輩と影山。東峰先輩と田中先輩なら縁下先輩と木下先輩。キャプテンと山口。月島と翔陽なら成田先輩。ノヤ先輩と俺、みたいに。
同じポジションで「こうしたら良いんじゃない?」とか「これ気になったんだけどー」って言うのを伝えやすくして、連携を強化する感じだ。
「おーし。良い試合展開だ。
1番と4番があっちの中心メンバーだから、どんどん2人の点数を減らしていこう。13番も穴っぽいからライト側を狙ってみよう」
「「「はい!」」」
「猫又、どうだ?」
気づいたことの報告っと。皆の視線が「グリンっ!」って俺に集まる。ひええっ。
「烏養コーチと被ってしまうんですけど、1番と13番、特に13番ですね、試合自体にそこまで集中してないように見えるので、ライト側を積極的に狙っても良さそうな気がします。
少なくとも1番にプレッシャーかけ続ければ崩れてくれると思います」
「だな。
12番と13番は高1ってことで他のメンバーより崩しやすいと思う。1番12番13番を積極的に狙ってみよう」
「「「はい!」」」
時間も大分経ってきたから纏めに入る。
「3点差なんかあっという間に取り返されるからな。1本1本丁寧にやって確実に取ること。そんで、絶対に焦るなよ。焦って自分達のバレー出来なくなったら勝敗決まっちまうからな!」
「「「はい!」」」
円陣を組んで、キャプテンが号令をかける。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
6人がコートの中に戻っていく。
◆
一方、青葉城西高校男子バレー部レギュラー一同もミーティングを行っていた。
「まだ3点差だ。焦る必要は無いぞ。自分達のバレーをやって、1点ずつ返していこう」
「「「はい!」」」
監督の入畑伸照が簡潔に要点を伝え終わって、部員主体のミーティングに移る。しかし、その前に部員一同による及川徹イジりが始まった。
「〝来い〟と〝くれ〟じゃ無かったなー」
「うっ……!?」
「ツー、ドシャットされたなー」
「うっ……!?」
「サーブもリベロ狙って簡単に上げられるしよー」
「うっ……!?」
今までの試合展開で自分のやらかしを追及された及川徹が崩れ落ちる。その姿を見てレギュラー13人は溜飲を下げた。
「ほら、及川立てよ」
「……岩ちゃん」
岩泉一が及川徹を引き上げて、ようやくミーティングが始まる。
「まー、とりあえず普通に強いな。気を引きしめんぞ。侮ってたら即ガブリだ」
「「「おう」」」「「「はい!」」」
「それで? 及川はどう思うよ」
「んー、まずはこのまま点差を離されないようにしないとね。飛雄に圧かけていこう」
「9番だな」
「そう。頑張ってはいるみたいだけどまだチームとしてはひよっこ同然だしね。落ち着いて1点ずつ取り返していこう。大丈夫、ガンガン攻めていこう」
「「「おう」」」「「「はい!」」」
円陣を組んでからコートの中にスタメン6人が戻っていく。
◆
東峰先輩がボールを持ってエンドラインに立つ。
「「旭、もう1本ナイッサー!」」「「「もう1本!」」」
「1本集中!」
「「「おう」」」「「「はい!」」」
主審の笛が鳴って、東峰先輩がサーブを打つ。今回も後衛の1番がセットアップに出てくるセンター。
「俺が!」
13番が1番の代わりに東峰先輩のサーブを拾って、相手のターンになる。ライトから12番、13番がAかセミ、3番が平行で助走に入ってくる。
「金田一!」
「「「12番!」」」
1番がライトの12番にCクイックを上げて田中先輩のブロックが完成する前に打ち切って、12番は東峰先輩の届かない所にボールをたたき落とした。【6-4】。
「よっしゃ!」
「「「ナイス金田一!」」」
12番が他の5人に揉みくちゃにされてる。3枚の攻撃でそれぞれ速攻をされたらワンタッチを出来ればラッキー位だ。相手の攻撃が完璧に決められたらしょうが無い。
「1本切り替えるぞ!」
「「「オォーッス!」」」
相手のサーバーは12番で、代わりに2番が前衛に上がってきた。
「金田一! 1本ナイッサー!!」
影山の分ノヤ先輩と東峰先輩がレフト側に移動して、キャプテンも若干下がる。
主審の笛が鳴って12番がサーブを打ってきた。狙いは後衛の影山がセットアップに出るレフト側。
「「「田中!」」」「「「田中さん!」」」
「うぐっ!」
「影山!」「ライト!」
田中先輩がちょっとおぼつかないまま12番のサーブを上げて、田中先輩が助走に遅れて空いたレフト側に翔陽が変人速攻で突っ込んでいってレフト側の平行トスで13番の頭の上からスパイクを叩き込む。【7-4】。
「よっしゃ!」
「「「ナイス日向!」」」
日向が他の5人とハイタッチしてウェイウェイする。やっぱりあの13番は翔陽を追いかけようとする訳じゃ無いみたいだ。積極的に狙って良いな。
「大地さん、頼みます!」
「おう!」
「大地1本な!」
ローテーションが1つ回ってキャプテンがサーブだ。そして影山が前衛に上がってくる。
「「大地1本ナイッサー!」」「「「1本ナイッサーっす!」」」
「1本で切るよ!」
「「「オーッス!」」」
2番はミドルでサーブレシーブには参加しない。だから1番と一緒にネット際へ。その分他の4人が広範囲を守ってる。
主審の笛が鳴って、キャプテンが4人ではカバー出来ないバックレフトへとサーブを打った。
「岩ちゃん!」「「「岩泉!」」」「「「岩泉さん!」」」
「クソ……!」
キャプテンがサイドラインをピンポイントに狙ったおかげで4番は触ったけど、ボールはそのままエンドラインの奥へと吹っ飛んでいった。ワンタッチでこっちの点だ。【8-4】。
「良し!」
「「ナイス大地!」」「「「ナイッサーです!」」」
相手の出鼻をくじいてこっちのペースに持ち込む。それがスポーツの鉄則だ。特にバレーボールはセッターがゲームメイクをするわけだからセッターから機能不全にすれば勝てる可能性が高い。
ま、分析するにはもっと情報が必要だから見せて貰いまーす。
「……猫又って結構好戦的だよね」
「それ皆に言われますね……」
そんな顔に出てるか?
◇
【13-11】、【18-15】、【23-19】と烏野高校が優勢のまま試合が進み、烏野高校側の観客席に座っている応援団も「まさか、あの青城に勝てるかもしれない……!」と勢いづいていた。
「「「行け行け烏野! 押せ押せ烏野!」」」
及川徹と国見英を狙った戦術がはまり、青葉城西高校は後手に回っていた。
1本目を及川徹に取らせてコンビネーションの限定や国見英のブロックに当てて及川徹を走らせたりと、とことん及川徹と国見英から崩して遂に【25-22】で烏野高校が1セットを先取する。
その瞬間、烏野高校側の観客から歓声が、そして青葉城西高校側の観客席側から響めきと悲鳴が響き渡った。
「嘘だろ!? 青城が1セット取られた!」
「誰だよ、烏野のこと【墜ちた強豪 飛べない烏】とかって呼んだ奴!」
「「「及川さぁ~ん!! 頑張って~!!」」」
2校とは直接関わりが無い観客からのそのような言葉を聞いている烏野高校側の応援団もざわついていた。
「……え、夢じゃない?」
「夢じゃないな……」
「夢じゃないですよ!!」
嶋田誠と滝ノ上祐輔はお互いに頬を引っ張り、月島明光はコートに向かって指を指しては大はしゃぎをする。
「これで烏野に入学する人が増えれば嬉しいんだけどね。ウチの利用者が増えてくれればガッポガッポだし」
「「おい!」」
「本当の事だろう? 烏野高校男子バレー部が広告塔になってくれるんだから。少なくともウチは『烏野高校男子バレー部が普段使いしてる』って理由で他から来てくれてたけど? 2人のところもそうだって言ってたよねぇ?」
「「……仰るとおりです」」
「ほーら」
烏養一繋が指導していた時には烏野高校男子バレー部に興味があって部活体験や練習試合を見学しに来た中学生とその保護者、実際に他県から越境入学を決めて烏野町内に短期移住を決めた新入生とその家族、あるいは学校近所にある寮暮らしを決心した新入生のおかげで烏野町内に経済効果をもたらしていたことが事実だ。そして、同時にここ4年で烏野町が衰退しているのも事実である。
「おいそこの3人、応援しろ、お・う・え・んー」
「「「ひえっ!?」」」
嶋田誠、滝ノ上祐輔、そして新島新一の3人が昔からつきあいのある里山光輝に注意されると戦いては後ずさった。
3人を子供の時から知ってる里山光輝が流し目で確認して、応援について思ったことを呟く。
「応援も練習した方が良いかもね。人少なくて部員中心に出来ないし」
「そうですね。仕事がある以上OBもなかなか来られないですから。繋心にも伝えないと」
「だな」
本来ユニフォームを着られない部員が中心となって応援を担当するが、今の烏野高校は部員が13人で全員がユニフォームを着られている状態だ。それ故に、保護者や学校関係者、町内会の人間が応援はどうにかしないといけない。
「まずは町内会の人増やすところからか」
「あとバレーに興味がある小中学生に『烏野の試合見に行かない?』って声かけるのも良さそうですよね」
「そういや、俺らの時も部活体験とかさせて貰ったっけ」
「実力でしょ実力。勝って全国行けば人だって増えるって」
「あ、そろそろ2セット目が始まる」
チェンジコートをして烏野高校が青葉城西高校の観客席側、青葉城西高校が烏野高校の観客席側のコートになり、雑談をしていた烏野高校男子バレー部OB勢5人も応援に加わる。
◇
1番と13番狙いの作戦が割とうまくいって試合を有利に進めることができた。それにスガ先輩と影山のツーセッターとキャプテンと山口の交替、木下先輩のピンチサーバーも上手くはまった。
ウチだってまだまだ隙は多いけど、青葉城西高校だって決して敵わない相手じゃ無い。
「おーし。1セット目良くやったな。でも相手はこのセット本気で取りに来るだろうから気持ちで負けるなよ。
落ち着いて1点ずつ取りに行く。いいな?」
「「「はい!」」」
「フルセットに持ち込まれると一気に不利になる。だからって決め急がないようにな。不格好でも良いからボールを繋いでいくこと。ボールを落とさなきゃあ負けねえんだから。
そんでウチに控えメンバーなんていねえんだからな、全員で勝ちに行くぞ」
「「「はい!」」」
円陣を組んでキャプテンが号令を掛ける。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
さーて、暴れさせて貰うぞー。
◆
一方、青葉城西高校男子バレー部一同もミーティングを行って、特に及川徹と国見英の2人が体力回復に務めていた。
フェイントやブロックアウトで前後左右に動かされて、この2人だけはリベロの渡親治を加えた他の5人よりも消耗が激しい。
「及川、国見いけるか?」
「……岩ちゃん誰に言ってるのさ」「…………はい」
「バテバテじゃねえか」
「……バテてないし」
監督の入畑伸照とコーチの溝口貞幸の2人はミーティングの様子を見て矢巾秀に声をかけた。
「矢巾、いつでも出られるようにしておいてくれ。烏野はもう侮って良い相手じゃ無い」
「はい!」
大人2人と矢巾秀の様子を見て、対抗心を燃やした及川徹が手を叩いては彼に注目させるよう促す。
「いつもきっついトレーニングやってる訳じゃ無いよ。さ、このセット取りかえそう。ほら、国見ちゃんも」
「はい」
数分休憩を挟んだ事もあって、及川徹と国見英の顔色もさっきよりはマシになっている。但し、国見英は「あー、交替してぇ」と心の中で呟いていた。
部員14人が円陣を組んで第2セットに備える。
「青城ー! ファイ!!」
「「「オォーッ!」」」
スターティングメンバーの6人がコートの中に入っていく。
◆
背番号とポジションの確認に移る。
青葉城西高校
4 1 2
12(リベロ) 13 3
烏野
3 東峰先輩 11 月島 9 影山
1 キャプテン 10 翔陽(俺) 5 田中先輩
あっちも1セット目と同じだ。ただ1番と13番は大分へばってきてる。このセットもあの2人中心に狙っていく作戦でいこうかな。
「繋護、頼むぞ!」
「ん」
サイドラインで翔陽とハイタッチして、コートに向かってお辞儀。それからコートの中に入る。サーブは青葉城西高校から。
バックセンターで構えて、影山と月島が前衛の分、前にも右にも動けるようにする。
「「「花巻1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
主審の笛が鳴って、3番がサーブを打ってきた。狙いはライトのフロントゾーン。
「「「田中!」」」「「田中さん!」」「田中先輩!」
「オス! ……ぐえ」
田中先輩が1本目をなんとか上げてこっちのターンになった。レフトとセンターどっちでもブロックフォローにいけるように動きながら、影山がパパッと動いてトスを誰にあげるかを確認する。
「……東峰さん!」
「「「レフトだ!」」」
影山がレフトの東峰先輩に平行よりは高くてオープンよりも低いトスを上げる。
そして、相手コートでライトの1番にセンターの2番とレフトの4番が合流して3人がブロックについた。
「「「せーのっ!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「ふっ!!」
「ワンチ!」「ノー!」「ノー!」
東峰先輩が1番の右手を狙ってスパイクを打って、1番の指先に当たったボールは隣のコートに吹飛んでいった。……相変らずすっげえ威力。
ま、ワンタッチでこっちの点だ。【0-1】。
「おし!」
「「ナイスキー旭!」」「「「ナイスキーです!」」」
コート中央に集まってペチペチハイタッチ。
「影山もナイスフォローあんがとな!」「あと、ナイストス!」
「~~っ! あざっす!」
田中先輩と東峰先輩にハイタッチしてから肩叩かれて、影山が嬉しそうにしてる。
「自己中野郎の〝コート上の王様〟から卒業したって勝って証明しようぜ。バレーは1人じゃ出来ねえってお前は学んだんだからよ」
「~~っ! オス!」
「あとサーブ頼むぞ、影山」
「はい!」
ローテーションが1つ回って影山からサーブだ。ここで一気に突き放したい。
ポジショナルフォールトを取られないように田中先輩との位置を調整してバックセンターで相手コートの様子を伺う。
「「「影山1本ナイッサー!!」」」
「ここ切るよ!」
「「おう!」」「「「はい!」」」
1セット目、散々狙われてるから1番と13番の表情が浮かない。3番と13番がフォロー出来ないバックライトあたりなんかも打って良いと思う。
主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いはバックセンターのエンドライン。ボールが伸びていって――。
「「「アウト!」」」
――落ちた。……アウト? 入ったように見えたけど。
って思ってたら、エンドラインを見るラインズマンが〝イン〟のシグナルを出した。本当にギリギリだったっぽい。アウトに近いライン上か。
何はともあれ、ノータッチエースだ。【0-2】。
エンドライン側に集まって「あっぶねー、入って良かった」って表情の影山とハイタッチしていく。
「その顔、狙った訳じゃ無さそうだな、影山君よぉ」
「うっ。……いえ! 狙いました、田中さん!」
いんやー? バレバレですよ、影山君。案の定茶化すのが好きな月島に茶化される。
「そういうの良いから、影山」
「月島うるせえ!」
「はいはい。敵はあっちでしょうが」
「もう1本頼むぞー、影山」
「はい!」
影山自身も中学の先輩やら同輩に対して気負ってる雰囲気はないから大丈夫そうだ。
ま、俺だってしっかり役割果たさないとね。
「「「影山もう1本ナイッサー!!」」」
「ここで1本切る!!」
「「おう!」」「「「はい!」」」
主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いはバックライトの3番の後ろ。
「「「花巻!」」」
「くっ! カバー!!」
3番は触ったけど、なんとか上がったって感じで乱れる。ボールは相手コートのライト側へと大きく上がって、2番が追いかけた。
「松川!」「まっつん!」
レフトの4番とセンターの1番がトスを呼ぶ。練習試合と1セット目を見た感じあの2番そこまで二段トスが上手って訳でもない。多分ここは。
「悪い、及川頼む!」
センターの1番だよね。
2番がオーバーで二段トスを上げるけど、若干割れたトスで1番が助走を始める位置を調整した。そして、こっちもレフトから東峰先輩とライトからキャプテンがセンターの月島に合流して3人でブロックに跳ぶ。
「「「せーのっ!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
バックセンターでブロック越しに1番のモーションをよく見る。
助走――ストレート。
身体の向き――ストレート。
視線――バックライトの影山の方を見た。
スイング――キャプテンのブロックに当てるように。
⇒クロス側にブロックアウト!
「影山、来るぞ!」
「……なぁ!」
「ノー!」「ノー!」「ワンチ!」
何か言いながら1番がこっちのライト側にスパイクを打ってきて、ボールがキャプテンの左手に当たってはエンドラインを超える勢いで大きく吹飛んでいく。影山の位置だとジャンプしても間に合わないし、そこは俺の担当するところだ。
コートの外に向かって走って走って、……追いついたぁ!
ラインズマンが避ける様子が目に入りつつ、ボールを戻す準備をする。
「お願いします!」
「「「ナイスカバー!」」」
ネットを越えないように力加減を調整しつつボールをコートに戻す。そしてコートに向かって走り始めた。シャトルランやってるみてーだぜ。
「レフト持ってこい! 影山!」「センター!」「ライト!」
ボールはフロントゾーンに落ちる軌道を取って、影山はもうボールの落下地点に入ってる。
「……澤村さん!」
「「「1番!」」」
Dクイックとか平行よりはゆったりなトスがライトのキャプテンに上がって、あっちのレフトの4番と遅れて2番がライトに移動してくる。
「「「ブロック1.5枚!」」」
「ふん!」
「ノー!」「ノー!」
キャプテンがアンテナと4番の左手の間を狙って器用にスパイクを打って、あっちのバックレフトにいる3番も体勢が整ってなかったみたいでボールを弾いた。そのままワンタッチでこっちの点だ。【0-3】。
「おし!」
「「大地、ナイスキー!」」「「「大地さんナイスキーです!」」」「「「ナイスキーです!」」」
コート中央でペシペシハイタッチしていく。
「猫又もナイスフォロー!」
「1セット丸々休ませて貰ってましたから頑張りますよ~」
「こっちは疲れてるのに猫又は元気だもんなー。やだなー」
「旭さん、猫又は味方っすよ!」
「そうだぞ、青城に感情移入するなー、旭」
東峰先輩に怖がられてることはまあまあまあって感じで、戦術について考える。1セット目はノヤ先輩2セット目は俺を出すって戦術結構良いんじゃない?
俺は1セット使って相手がどんなチームかって見られるし、スタミナも温存できる。……試合に出られないって問題はあるか。
バレーは集団競技で14人の選手だから使いどころに悩む。……ま、俺は選手だから、そういうこと考えるのは監督とかコーチだよね。
試合に集中っと。
「「「影山もう1本ナイッサー!」」」
「1本集中!」
「「「おう!」」」「「「はい!」」」
主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いは2本目と同じバックライト側。
「「「花巻」」」
「オラ!」
「「「ナイスレシーブ!」」」
「センター!」「レフト!」
3番がアンダーでしっかりレシーブしてボールがセンターの1番に返っていく。と、同時にライトの2番はAかセミ、レフトの4番はBか平行のコンビを使ってくる。あと1番もジャンプしてる。
……どうくる?
「岩ちゃん!」
「「「レフト!」」」
ライトのキャプテンにセンターの月島が合流してブロック体勢に。俺含めて4人はレシーブのポジションに移る。
「「せーのっ!」」
「「「ブロック2枚!」」」
「ォラ!」
「ノー!」「ノー!」
4番のスパイクはキャプテンのブロックの上からストレートコースに打たれて影山の方に飛んでいく。
「クッソ……!」
「俺が!」
影山のレシーブは乱れて、ボールはアンテナの外を通って相手のレフト側のサイドラインに向かって大きく吹飛んでいく。でもあの高さなら間に合う。
ポールの横を通って走る。「アウト!」とかって言ってる青葉城西高校の3番と4番の近くでボールをコートに向かって返した。そしたら自陣のコートに向かってラーン! きっつ……!
「ラスト返ってくるぞ!」
「影山、バックアタックだ! 自分で決めろ!」
「っ! まっつん! 岩ちゃん!」
「「分かった!」」
烏野のライト側にボールが返っていく所、影山がボールに合わせてバックアタックの助走を始めようとしている所、最後に青葉城西高校のレフトの4番とセンターの2番とライトの1番の3人がレフト側に移動してブロックに跳ぼうとしている所を見ながらポールの横を通る。
息つく間もなくブロックフォローに入った。
「「「せーのっ!!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「っし!」
「「「っ!? 前!!」」」
1番の右手を掠めるか掠めないかって感じで影山がフェイントをして、13番とリベロが追いつく前にボールはあっちのコートのライト側のフロントゾーンに落ちた。【0-4】。
「おし!」
「「「ナイス影山!」」」
「猫又も!」
「「はい!」」
「うぉぉ!」って感じのキャプテンと東峰先輩に詰め寄られてそのまま【ライオンキング】みたいにされかけた。影山はともかく、俺なら東峰先輩に抱っこされてもおかしくない。あと翔陽も。
「1点1点確実に取っていくぞ! 油断大敵だ!」
「「「はい!」」」
烏養コーチに返事をして次のラリーに備える。
◇
【2-7】、【6-10】、【11-16】と烏野高校が優位に立って試合を展開していく姿を見て、烏野高校応援団一同は熱狂に包まれていた。
「「お兄ちゃーん!! 頑張れー!!」」「「繋護ー!」」「蛍ー! 忠ー!!」
選手13人の家族がそれぞれの名前を呼んで、人数こそ少ないけれども確実に選手の力になっていた。そして、【26-27】でマッチポイントの中、東峰旭がラストボールを決める。
その瞬間、烏野高校の観客席は歓喜の声、青葉城西高校の観客席は響めきと悲嘆の声で包まれる。
「~~っ!! 勝った! お兄ちゃん達勝ったよ!!」
「勝ったね!!」
日向夏と猫又美緒を筆頭に子供達は大はしゃぎ、大人達の方が現実を受け入れられていなかった。
「おい嶋田よ、俺の頬引っ張ってくれ」
「奇遇だな、俺のも頼む」
「夢じゃ無いっての!」
「「いてっ!?」」
滝ノ上祐輔と嶋田誠が馬鹿げた会話をしていると里山光輝が2人の肩を軽くはたく。
「……マジかぁ。いや、でもすげーわ」
「これでベスト16? 8?」
「勝ち上がれば準々決勝、準決勝、決勝だから今16じゃないですか?」
「ひー、やっと半分かー」
「しかもこの先強い学校しかいないもんなー」
青葉城西高校を破ったものの、牛島若利がいる限り白鳥沢学園との対戦は免れない。そして、宮城県からは1校のみが全国大会に進出できるので、烏野高校が全国大会に進出するには白鳥沢学園を打ち破らなければならない。
烏野高校はAブロックを勝ち抜いた。けれど、この先は他のブロックを勝ち抜いた学校との熾烈な戦いが待っている。
◇
1セット目は【25-22】、2セット目は【26-28】で青葉城西高校から2セット先取した。東峰先輩がマッチポイントを決めきった瞬間、ベンチの7人がコートに押し寄せてきて揉みくちゃにされる。
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
「まずは挨拶だ! 並ぶぞ!!」
「「おう!」」「「「はい!」」」
お互いにベシベシハイタッチしながら1番右がキャプテンで背番号順にエンドラインまで並ぶ。
「「「ありがとうございました!!」」」「「「ありがとうございました!!」」」
主審の試合終了の笛に合わせてネット際まで移動、2番と3番と挨拶してベンチまで戻る。そして、キャプテンと青葉城西高校の1番はそのまま主審とか副審と挨拶しにいった。
「おまえらよくやった! まずは観客席に挨拶行くぞ!」
「「「はい!」」」
武田先生とキャプテンは記録の方に行ったから、そのまま烏養コーチと清水先輩と合流して青葉城西高校側の観客席へ移動して背番号順に並ぶ。隣には清水先輩。
田中先輩、ノヤ先輩こっち向かないで下さーい。清水先輩とは何もありませんからねー。というか、あってたまるか。
「気を付けー! 礼!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
スガ先輩の号令に合わせてお礼を言うと、青葉城西高校側の観客席から拍手を貰った。次は烏野側の観客席に移動する。青葉城西高校の皆様と目が合わないようにしてっと。
「気を付けー! 応援ありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「次もお願いします!!」
「「「お願いします!!」」」
お辞儀したその瞬間、「ナイファイ!」とか「良くやったー!」って声援も貰う。祖父ちゃん達に手を振っておこう。
それに、こっちのデータをそこまで取られてなかったから割と優位に進められたって感じかな。これが複数回試合をしていたらまずかったかも。
荷物を取りにベンチまで戻って軽くミーティングに入る。
「おーし。ちょっと時間空いて準々決勝だ。相手は泉石。シード校の新井川を破って勝ち上がってるんだから弱いはずがねえ。
1回でも負けたらその時点で全国にはいけねえって忘れるなよ。次の1戦も自分達のバレーをやって勝ち抜く。いいな?」
「「「はい!」」」
「じゃあ次はセカンドユニフォームだからな。間違えるなよー」
「「「はい!」」」
次は俺とノヤ先輩は黒い方のユニフォームで他の皆はオレンジのユニフォームだ。よーし、荷物を持って撤収ー!
部員数が多ければ荷物を見る係も作るんだけど、ウチはそうじゃないから保護者に荷物を見て貰ってる。荷物が置いてある場所に到着すると烏野の皆があちこちで家族と話してる様子が見られた。
そして、当然祖父ちゃんもここにいる。
「「「烏養元監督!!」」」
「良い試合だった。次も勝ってこい」
「「「はい!!」」」
一昨日までの鬼練で俺以外の1年4人も「烏養元監督やべー、こえー!」って言うのを理解したらしく、月島でさえも若干日和ってる。影山とノヤ先輩はケロッとしてるけど。
「よーし、じゃあ着替えるぞー。俺達はオレンジ、西谷とねこは黒のユニフォームだからなー、間違えるなよー」
「「「ウィース」」」
1年5人がタオルで壁を作って、3年生2人とノヤ先輩、田中先輩の4人から着替え始める。次は縁下先輩と成田先輩、木下先輩、影山、最後に月島と山口、翔陽、俺。
パパッと着替え終わって準備完了。と、同時にキャプテンも戻ってきた。
「お疲れー、大地も着替えちゃえよー」
「おー。あと若林先生が補食にどうぞって。食べ過ぎるなよー」
「「「っ!」」」
俺ももーらおっと。
泉石高校との試合が終わった。
1セット目は【20-25】、2セット目も【26-24】で2セット獲得。点数だけ見れば快勝だけど、疲れも大分出てきてる。特に月島と翔陽。
基本的にミドルブロッカーはレフト、センター、ライトの3箇所全部ブロックに跳ばないといけないし、囮でクイックの助走に入らないといけない。消耗が激しいからリベロと交替するんだけどさ。
ま、だから烏養コーチは積極的に交替を取り入れてて、負担を減らす戦術を取ってる。
着替え終わって帰る準備をしようとしたら、珍しく彩音ちゃんが駄々こねてる所に遭遇した。
「うぅ……、帰りたくないです…………」
「だーめ、学業に影響を出さない、って約束で私達は交際を認めてるんだから。応援したい気持ちは分かるけど、大学を休むのは許しません。彩音ちゃんが学費を出してる訳じゃ無いでしょう?」
「……………………はい」
柱の陰から見てると、後ろから誰かが俺の左肩に手を乗せた。
「っ!?」
「そういう訳で俺達はもう帰るな。明日も頑張れよ」
「……びっくりしたー。心臓に悪いんだけどー」
「偶にはこういうスキンシップも大事だろ?」
猫の祖父ちゃんもそうだけど、なんでこういうイタズラしてくんだってのー。
「でも、彩音ちゃんがあんな風に駄々こねるの久々だなー」
「……そう?」
記憶を辿ってみるけどパッとは出てこない。そんなのあったっけ?
「小学生の時は結構あったぞー、今度ホームビデオ見て確認しな。……ま、繋護が一緒の時には〝お姉さん〟やってたから気が付かないのも無理ないかもな」
「ふーん?」
「あと、この後もう宮城出るからそんな時間無いぞ」
「んー」
挨拶だけでもしておきたい。できるかな?
案の定時間が無くてサッパリした挨拶になりそうだ。繋心兄ちゃんと一緒に駐車場で見送る。
「千葉から応援してるから」
「んー」
「お兄ちゃんまた連絡するねー」
「おー」
「また連絡するね」
「うん」
姉ちゃん、美緒、彩音ちゃんと軽くハイタッチして、最後に父さん。
「頑張れよー。あと勉強も忘れるなよ」
「んー」
それだけ言って俺の番は終了。父さんは繋心兄ちゃんとも挨拶する。
「繋心君も身体には気を付けて。何かあったら連絡して貰って構わないから」
「はい、お世話になります。……酒、頼んで良いですか?」
「もちろん。郵送しとくよ」
「ありがとうございます!」
繋心兄ちゃんお酒好きだもんねー。
って言うことで、父さん、姉ちゃん、美緒、彩音ちゃんとはここでお別れ。今からだと家に到着するのは16時過ぎか。
祖父ちゃん祖母ちゃん含めて車に乗る所を見送ってから俺と繋心兄ちゃんは烏野の皆の所に戻っていく。
「明日応援きついなー。たっつぁんと嶋田も仕事で厳しいし。町内会のじいちゃんばあちゃんにはここまで来させられないしよー」
「まあ平日だし。それに、地元勢が応援に来る春高とかの対策になるでしょ。井闥山とか梟谷なんかは1000人以上応援しに来るんだから」
「まあな。他の高校よりも足りないものは多いってわかりきったことなんだ。今あるものでやってくしかねえな」
「そうそう」
そんな会話をしながら学校のバスが停まってる所に着いた。トイレ休憩も終わりそうだった。ゾロゾロとバスに乗り込んでる。
「武田センセ、悪いな」
「いえいえ、ほんの数分でしたから。東峰君と西谷君、縁下君が戻ったら出発しましょう。猫又君はトイレ大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「では座席に座ってて下さいね」
「はい」
そのままバスに乗り込んでいった。席はどこにしよーかなー。
学校に到着して、荷物を片付けては視聴覚室でミーティングに入った。武田先生は男子バレー部が大会に出場するから授業を欠席、つまり公欠の手続きを取りに職員室に向かっていって今現在いない。
「おーし。無事に2日目も生き残ったな。そんで、明日は準決勝と決勝でインハイ予選は終わる。だからといって気を抜くなよ。1回でも負けたらその時点で全国行きが無くなる。まずは準決勝を勝ちに行くぞ!」
「「「はい!」」」
「そんで、準決勝の相手は和久南だ。和久谷南高校。
ぱっと見の印象は音駒みたいなチームだ。高さは無いけど、繋いでコンビを使ってくる。特に中島猛はウチのOBである宇内天満みたいなプレーをしてくる。ま、これから実際に試合を見て貰うぞー」
烏養コーチがリモコンを操作すると、和久谷南高校と帆山高校の試合が流れ始めた。
2校の試合が終了する。
1セット目が【26-24】で和久谷南高校、2セット目が【25-23】で帆山高校、3セット目が【27-25】で和久谷南高校が勝った。
どっちも絶対敵わないって感じの学校では無かったから勝機はある。でも、疲れも溜まってきてるから正直分からない。特に月島と翔陽、影山の3人。
「和久南は見て貰ったとおりの学校だ。音駒みたいに拾って粘ってカウンターを決めてくる。
高さこそねえけど器用に色々やって来るからしっかりと対応していこう」
「「「はい!」」」
「強豪との試合が続いて大分疲れてきてると思う。でも、明日の2戦を勝ち抜けば全国だ。最後まで気を抜くなよ!」
「「「はい!」」」
そして武田先生の番になる。武田先生は1セット目の途中に視聴覚室に入ってきてた。「どんなことを言おうかなー」って考えながら、武田先生が口を開く。
「えーっと、そうですね……。
和久谷南高校は強敵です。しかし、素人目に見ても君達の実力の方が勝っているように感じました。
そして、この2日間だけでも君達はグッと成長しています。この勢いに乗ったまま準決勝と決勝を制しましょう!」
「「「はい!」」」
「よーし、じゃあ今日はここで終わり。家帰ってゆっくり休めよー」って烏養コーチが言って解散となる。
全国まであと2勝。頑張るぞー。