6月4日。インハイ予選3日目。
朝起きて身支度中に父さん姉ちゃん、美緒、彩音ちゃんからメッセージで。そして、出る直前に祖父ちゃん祖母ちゃん、母さんから「頑張ってこい」って励まされて学校に到着。
救急箱とかボール、ボール籠をバスに乗せたりと仙台市体育館に行く準備を終える頃には朝練を終えたり、登校する生徒も大分増えてて「バレー部頑張れよー!」とかって声をかけられたりする。
「ふっふっふ。授業が無いって良いものだな、ノヤよ!」
「だな龍!」
「あんまおおっぴらに言うなよー。怒られるだろ」
「でもよー。周りがベンキョー中に俺達だけバレー出来んだぜ? なんかさ、周りとは違うってユーエツカンねえか?」
「そうだけどさー」
珍しく縁下先輩と成田先輩が丸め込まれてる。日常の中の非日常って響き良いよね、分かる。創作でも良く使われるし。
祖父ちゃんが烏野で教鞭をふるってたときにいた先生達からは割と友好的に「頑張って来いよー」って声かけられて、ここ4年で烏野に赴任された先生達も「へー、バレー部強かったんだー」って感じでジロジロ見られて、バレー部に知り合いがいたら一声かけてた。
荷物とかトイレの準備が終わって武田先生と烏養コーチを待ってると若林先生がやってきて、集合を掛けられた訳じゃ無いけど自然と集まる。
「若林先生、おはようございます!」
「「「おはよう御座います!」」」
「いやー、皆おはよう! 今日も頑張ってきてね!」
「「「はい!」」」
んー、この口振りだと応援には来られないか。まあ授業有るし。仕方ないね。
翔陽も同じ考えに行き着いたみたいでショックを受けたみたいだ。
「そんな!? 若林先生応援に来てくれないんですか!?」
「おい日向! 失礼だろ!」
「ごめんねー、私も行きたいんだけどさ、流石にクラスほっぽれないんだ。学校から応援してるから頑張ってね!」
「……はい!」
翔陽が返事をするけど、厳しい表情をした烏養コーチが現れては翔陽に注意した。
「日向ー、澤村が注意したけど、さっきの言い方は良くねえぞ。若林先生だって都合があるんだからよ。好きなことだけやってりゃ良いって訳じゃねえんだ」
「えっ、あっ、すみません!」
「そうだね、これから注意していこう」
「はい!」
頭スポンジだからすぐ覚えるでしょ、うん。
そして、準備を終わらせた武田先生もやってきて、学校での最後の確認に入る。
「はい、ではそろそろ出発しましょう。荷物、選手共に問題ありませんか?」
「はい! 清水含めて14人全員います!」
代表でキャプテンが答えて、武田先生が頷く。
「それではこれから仙台市体育館に向かいます。バスに乗って下さいね」
「「「はい!」」」
3年生から順にバスに乗り込んで、俺も適当な1人席に座る。すると、職員室の窓が開いて、中の先生から「「「バレー部頑張れよー!!」」」って励まされた。
「昨日の今日で対応が遅れてしまって先生方や生徒の応援はありません。ですが、烏野高校の皆は我々を応援してくれています。全国大会出場を決めて学校に帰ってきましょう!」
「「「はい!」」」
運転席に武田先生が座って、バスのエンジンをかけて動き出した。俺も一眠りしよう。お休……………………。
3日目連続の仙台市体育館。
今日ここに来て対戦する予定の学校は烏野と和久谷南高校、白鳥沢学園と条善寺高校。決勝は勝ち上がった2校だ。
やっぱりというか、私立だけあって白鳥沢学園の応援は群を抜いてる。ウチの応援が一番寂しい。ま、しょうが無いね。
「さぁ~、行きましょ~!」
「「「さぁ~、行きましょ~!」」」
「さぁ~、行きましょ~!」
「「「さぁ~、行きましょ~!」」」
「今日の~、相手は~」
「「「今日の~、相手は~」」」
「条善寺高校~」
「「「条善寺高校~」」」
「「「宜しく宜しく~!!」」」
白鳥沢の応援を見て、影山以外の勉強できない3人が興奮してる。影山は精神統一中。白鳥沢って中学もあるから慣れてるよね。
「「「うおぉぉぉ!! 応援すげー!!」」」
「部員数いると凄いよなー。伊達工、青城、白鳥沢ってさ」
「その分3年間ベンチにも入れない人がいるって事だろ。聞いた感じ、やっぱりレギュラーが練習優先されるみたいだし」
「まあなー」
……繋心兄ちゃん、来年の新入部員の数制限するのかな。今13人だから練習が限られてるけどスムーズに出来てるメリットもある。でも、やっぱり人が増えれば増えるだけ武田先生と繋心兄ちゃんが見られる部員1人1人への時間が短くなっちゃうし。バスとかも大変だよね。
部員数が多くても少なくてもメリットデメリットある。
……今は試合に集中しないと。
「他の学校の応援に負けないように声だしてくぞー!!」
「「「オォーッス!」」」
ボールとかボール籠、救急箱を持って公式ウォームアップに向かっていく。
和久谷南高校との試合が終わった。
1セット目は【25-22】で烏野、でも2セット目は【32-30】、3セット目も【28-30】と和久谷南高校に2セット取り返されて負け。
2セット目の【12-15】でウチが優勢の時に月島が足を攣らせて成田先輩と交替。全セット和久谷南高校に粘られてスタミナを削らされて全体的に雑になった。
観客席の数人にお礼を言ってからベンチに戻ってミーティングを始める。
「たった今、俺達烏野が全国に行く事は無くなった。負けたからな」
「「「っ! ……はい」」」
……負けた。そうだ、俺達は負けた。本当にこの感覚はいつまで経っても慣れない。
「この試合でサーブミスった奴、手ぇ上げろ」
「「「……はい」」」
烏養コーチの指示で、俺とノヤ先輩、月島以外の全員が挙手をする。
「これで10点以上失ってるだろ? あとジャッジミスとか声かけ忘れてお見合いもあったよな。
相手に気持ちよく取られた点数はそこまで多くなかった。でも自滅点が多かった。自分達のバレーを出来ずに負けるべくして負けた試合だったぞ」
「「「っ! ……はい」」」
「スタミナを削らされて1本目が雑になった。その結果セッターの2人を余計に走らされて、ウチのアタッカーやら相手のブロッカーを確認できずに単調なトスを上げてブロックでワンタッチ、そんで相手のチャンス。これの連続だった。
つまり、スタミナ、サーブ、レシーブ、トス、スパイク、ブロックとまだまだ粗があったって訳だ。ウチは弱い。そうだよな?」
「「「……はい!!」」」
「負けちまったもんはしょうが無い。今更どうすることもできねえし。
だが、次は1月の春高が全国大会の舞台だ。その予選が10月末に行われるから、そこに向けて個人の技量とチームの完成度を高めていく。
全国行くんだろ? だったら練習するしかねえぞ!」
「「「はい!」」」
あと4ヶ月で春高予選が始まる。それまでに上手くなるしかない。たかが4ヶ月、されど4ヶ月だ。
「この後の白鳥沢と和久南の決勝も見ていくぞ。ダウンと着替えしっかりな」
「「「はい!」」」
タオルとドリンク、ボール籠と救急箱を持ってコートから撤収していく。
「……早く今日の試合見返したいな」
「だな」
「っ!?」
「あ、ビックリさせたな、悪い」
独り言のつもりでぼやいたら、縁下先輩が相づちを打ってきた。ビックリしたー。
そのまま成田先輩と木下先輩も合流してさっきの試合の反省点を話していく。
「……俺、途中からブロック付かれなくなってた。脅威じゃねえってことだよな。もっと練習しないと」
「吸い込みが多かった。あとブロック利用された。もっと上手くなりたい……!」
「ピンサーで出てアウトになった。何のためにサーブ練習してきたんだよ。クソクソ」
縁下先輩、成田先輩、木下先輩の順で自分の反省点を挙げる。俺も守備範囲広げて他の5人に楽させてやらないと。
全員まだまだで、もっと上手くならないといけない。
「3年生、残ってくれるかな」
「「残るよ」」
「スガさん。旭さん」
成田先輩がぼやいたら、丁度聞いてたのかスガ先輩と東峰先輩が話に混ざった。
2009年度までは春高が3月に開催されてて高3はインターハイで引退だったけど、今は1月に変更してるから希望すればキャプテン達はまだ残れる。希望すれば、ね。
「このチームなら全国に行けるって信じてるから俺は残る。……それとも俺は邪魔か?」
「「「いいえ!」」」
「まだ教わること沢山ありますから残って下さい」
「おう。頑張って全国行こう。旭は?」
スガ先輩が東峰先輩に問いかけると、東峰先輩も頷く。
「もっと皆とバレーしたいから俺も残る」
「俺、レギュラー狙いますから」
「おう。田中にも縁下にも木下にも負けねえ。でも皆で協力して全国行こう。同じチームなんだから」
「「「はい!」」」
青春だなー。……あ、鷲匠先生だ。挨拶しとこうかな。
◇
クールダウンと着替えを終えて、白鳥沢学園と和久谷南高校の決勝戦が始まるまでの時間に、武田一鉄と烏養繋心、3年の澤村大地と菅原孝支、東峰旭、清水潔子の6人は人気の無いところに来ていた。
「単刀直入に言うぞ。
俺はおまえ達4人を戦力として見ているし、おまえ達がいなければ全国大会進出すら叶わないと思ってる」
「「「っ! ……はい!」」」
「これからのことでちょっと話がある」と言われていたために、3年生4人は話の内容をある程度予測していた。「来年のことを考えると、ここで引退してくれ」と言われる可能性も考えていたものの、正面から「戦力として見ている」と言われて思った以上の声量が出た。
「高3で進学とか就職とか考えねえといけねえのは分かってるし、俺達大人が押しつけるのも駄目だって分かってる。
それでも、春高が1月開催に変わり高3も春高に出られるようになって、貴重な高校生活を十分満喫して欲しいとも思う。明日はオフのつもりだからじっくりと考えてくれ。
どこか希望してる進学先とか就職先があれば、ジジイと俺の伝手使うからよ。
ああ、『東大とか東北大、京大に行きてえっす!』みたいなのは厳しいけどな。バレーやってる暇ねえだろ」
烏養繋心のジョークに3年生4人がくすりと笑って、烏養繋心が目線で武田一鉄に次を促した。今度は武田一鉄が話し始める。
「君達がどこか大きな怪我をしていて、これ以上は日常生活にも影響が出てしまう。そんな状態での『バレーボールをしたい』という要求は認められせん。
ですが、何度でも挑戦出来ることならば選択肢はあると思っています。特に、一生涯に一度しかない高校生活をやりきった人はその先の人生も上手くいっている事が高いです。
5年後、10年後、君達が後悔しないと思えるように選んで下さい」
教師として伝えなければいけないことを伝えて武田一鉄も口を閉じた。すると、澤村大地が一歩前に出て「自分は残ります。残らせて下さい!」と告げて、菅原孝支、東峰旭、最後に清水潔子も続いた。
「……君達ならばそう言うと思っていました。一度決めたのであれば最後まで貫きなさい。そして5年後、10年後、『あの時こうして良かった』と自分の選択を誇れるようにしましょう」
「「「はい!」」」
「さっきも言ったけど、俺もジジイも協力するからな。進路関係で何か有れば遠慮無く言ってくれ」
「「「はい!」」」
こうして、澤村大地と菅原孝支、東峰旭、清水潔子の4人は残留を決めた。
◇
軽食を食べて、遂に始まった白鳥沢と和久谷南高校の対戦が終わる。
【25-16】、【25-14】と大差で白鳥沢が勝利してインターハイへの進出が決定した。厳密に言うと東北大会みたいなのも途中で挟むけど。
「見て貰ったとおりだ。ウシワカやべえだろ」
「「「……はい」」」
「今年春高に行くには白鳥沢に勝たねえといけねえ。……もちろんトーナメント表で白鳥沢が負ける可能性はあるけどよ。
それでも公式戦に出る学校で負けに来る所なんてある訳ねえ。10月までの4ヶ月でどこも強くなってるだろうからもっと強くなるしかねえぞ」
「「「はい!」」」
「よし、じゃあ昼飯食って、帰ったら和久南戦の振り返りだ。準備しろー」
適当に返事をして荷物を纏めていく。
居酒屋【おすわり】で昼ご飯を食べてから学校で先生方に報告して和久谷南高校戦を振り返った。
「3日間試合が続いたから明日はオフな。明後日から練習していくぞ」
「「「はい!」」」
「じゃあ澤村、改めて決意表明頼む」
「はい! ……春高二次予選まであと4ヶ月。この期間を有効活用して練習、そして今度こそ全国制覇だ!」
「「「オォーッス!」」」
もっと練習しないと。
家に帰ってお風呂に入ってからお勉強。来月期末テストあるもんなー。祖父ちゃんは祖父ちゃん同士で和久谷南高校の試合の講評をしてる。
……お? 彩音ちゃんから電話だ。
「もしもーし」
『今日もお疲れ様ー。試合のデータ見せて貰ったよ』
「全体的に動けてなかったよね。体力付けていかないと」
レシーブに二段トスとまだまだ精度高められるぞ。やっていかないと。
『10月だったっけ?』
「うん。ベスト4だから一次予選は免除。それで二次予選が10月の末」
『4ヶ月か、ちょっと長いなー』
「夏休み千葉に帰るよ。ちょろっとね」
『休み有るの?』
「……多分」
お盆とか休み有るよな? 武田先生だって用事あると思うし。学校だって体育館の整備チェックとかあるでしょ、多分。
『「夏休み遊びに行きますー」ってお祖父様達に伝えてるからそっち行くつもりだよ』
「お祭り行きたいね」
『ねー、行きたい』
今から調べておかないと。よしよし。
そして、咲良さんの『彩音ー、お風呂入りなー』って声が聞えてきた。
『あ、お風呂入ってくるね。明日から普通に授業でしょ?』
「そう。朝練は無いけどね」
『ゆっくりできるじゃーん。じゃあまた連絡するね。お休み』
「お休みー」
彩音ちゃんからの電話が切れる。……お風呂か。夏休み混浴の温泉でも行きたいな。夏休みの予定考えておこう。
「繋護ー、こっちこーい」
「あーい」
俺達の電話が終わるのを待ってたらしい祖父ちゃんに呼ばれる。
ささっと移動したら、固定電話の子機を持った祖父ちゃんが何か操作した。すると電話越しにバレーの試合の音と猫の方の祖父ちゃんの吐息が聞こえてくるようになった。
『よお、繋護。惜しかったな』
「勝たないと意味ないけどね」
『そりゃそうだ。
……ま、スタミナだな。宮城は東京と違って3日間続くからどうしても疲れが残る。そこをなんとかしていかないとな。スタミナはあって損は無いからよ』
「そうだね。俺ももっとやってく」
やっぱり課題はスタミナか。1、2年が多くて身体が出来てないからまだまだ不安。
「東京は隔週だもんな」
「次の日曜からだよね。10日から」
『おう。つっても順調に行けば2日目の2戦目で井闥山と当たんだよな。くじ運悪い』
うげっ。キヨ君とかモト君、庵里中の先輩同級生がいるから応援はしてる。でも実際に当たりたくない。
今の烏野だと15点取れたら良いほうじゃないの、ってぐらい圧倒的に差がある。V1のチームに勝ったこともあるくらいだし。〝今は〟絶対に勝てない。〝今は〟ですよ、〝今は〟。
「どう見てる?」
『2軍で来てくれりゃあ勝ち目があるかもな』
実質負け確定じゃん、それ。
『ま、やるしかねえよ。全国制覇するんなら絶対に勝たないといけないんだ』
「そうだ。絶対に負ける試合もありはしねえよ」
「『負けはしたけど、烏野は善戦したぞー』って言うつもりだし、1セットは取ってやるよ」
「おう。油断するなよ」
『分かってるさ。ああ、今年も梟谷学園グループで合宿やるから武田先生にも伝える予定だ。7月かな? それまでにもっと上手くなっとけよー』
「……っ! うん」
『今日はこんな感じだ。またな』
「おう」「ばいばーい」
猫の祖父ちゃんの電話も切れる。
「ほら、早く寝ろ。成長期来てるんだからよ」
「あーい」
身長よ、もっと伸びろー。
いつも通りの時間に起きて、ストレッチやら庭で出来るトレーニングを軽くやってから登校する。代わり映えの無い1日が始まるのかー。あと昨日の授業どこやったかも聞いておかないと。
「おーっす。昨日惜しかったんだってー?」
「負けたけどなー」
「ベスト4でしょ? 男バレ良い感じじゃん」
「10月には全国決めるよ」
「ウチらも夏のコンクール頑張らないとー」
「目指せ東北大会金賞!」
「頑張れよー」
左の席の淳と左後ろの席の三崎さんと軽く話して席に座る。
「昨日の授業何やったか教えて貰っても良い?」
「「良いよー」」
この2人吹部に入ってて仲いいんだよなー。いつくっつくんだろう。それかもうくっついてるか。
2人から昨日の授業の範囲とか課題を聞いてると予鈴が鳴った。
「おはよー」
「「「おはようございまーす」」」
前の扉から若林先生が5組に入ってきて、配る予定のプリントを前の教卓に置いては俺の席まで来る。
「おはよう、猫又君」
「おはよう御座います、若林先生。改めて応援ありがとう御座いました」
「昨日の試合も見せて貰ったんだけど、本当にあとちょっとだったね。春高いけるよう頑張ってね!」
「はい!」
俺の返事に微笑んだ若林先生は教卓に向かって歩いていった。
なんとなく、だけど凹んでないか心配されてるんじゃ無いかな。接戦だったわけだし。
「智ちゃん先生! 今度陸部のインハイ予選があるんです! 応援来て下さーい!」
「都合付いたら行くよー」
「俺達にも家庭科部からの差し入れを! 何卒!」
「県ベスト8以上の結果を残してる部活を優先してるからね。可愛い家庭科部の皆からの手作り料理が欲しかったらちゃーんと頑張ってよ~」
「「「頑張ります!!」」」
……ちなみにバレー部は若林先生が祖父ちゃんの教え子だったからちょっと優遇されてます。でも昨日結果を残したから大丈夫。あっぶねー。
本鈴が鳴って皆ぞろぞろと席に座っていく。
「はいはーい、じゃあホームルーム始めるよー、席に着いてー」
「「「は~い」」」
若林先生がこんな感じだから5組の雰囲気も案外緩い。
放課後になった。昇降口で影山と合流する。
「お、いたいた」
「おう」
「ちゃっちゃと行きますかね~」
「おう」
今日は週に1回の休みを利用して、ドリンクの粉だったりテーピングだとかの消耗品の買い出しに行く日だ。影山と2人でいつものスポーツ用品店にゴー。試合が続いたから買わないといけないものが結構ある。
って言うか、バレー関係ないところだと静かだよな、影山。
「シワ寄ってるぞー」
「バレーしてぇ」
「ブレないなー。今日はオフの日ー。あと来月期末テストあるから勉強していかないとな」
「……うぬん」
毎日着替えの時間とか使ってやってるおかげで授業自体にはついて行けてるみたいなんだよな。あと休み時間に寝るようにしてるとかなんとか。少なくとも補習を受ける回数は減ってるらしい。
「いつかロメロにトスあげてみてー」
「大きく出たなー。
ならせめて英語だけでも勉強しようぜ。世界のロメロでも流石に日本語は話せないでしょ。
……あー、そうだな。将来的に海外リーグに挑戦したいなら英語は話せた方が良いかもな。
Let’s study English !!」
影山は「おう……」とか「ああ」とかって言葉を濁す。ちょっとー、これも分からないのかよー。影山が海外に行くにはまだまだ先は長そうだ。
どうやら影山も質問があるみたいで「なあ」とかいって話し始めた。
「……猫又は将来どうしたいとかないのか?」
なるほど。俺の進路か。ぶっちゃけ分からん。
「んー。30、40とかになってもバレーは続けるつもりだけど、Vリーガーになりたいとかはまだよく分からん。身長も175cmはないと厳しいと思うし。
とりあえず、今はゴミ捨て場の決戦を祖父ちゃん達に見せるってのが目標。高校卒業後のことは高3とかで考える」
「そうか」
取り敢えず納得したみたい。よしよし。
そんな2年後とか5年後とか先のことなんか分からないよね。
「まあ? もしも影山がイタリアとかアルゼンチンに行きたいのならイタリア語とかスペイン語とかも覚えないとなー。あと進級・卒業出来るように勉強も」
「うぐっ……」
「期末テストまで1ヶ月だ。少しずつやってこうか」
「わりぃ、頼む」
そんな感じの会話をしながら烏野スポーツ店に向かっていく。
そう言えば、清水先輩がマネージャーの勧誘再開するって言ってたっけ。4、5組で部活に入ってない人のリスト纏めないとなー。……マネージャーねー。
放課後、猫の祖父ちゃんから「梟谷学園グループで合宿やるから烏野も来ないか?」って誘いがあったことを武田先生が部活終わりのミーティングで伝えてくれた。
「「「東京! 音駒! 強豪校!」」」
「うおぉぉぉ!! 待ってろよ~!!」
部活終わりだってのに皆元気だなー。烏養コーチなんか「大分スタミナ付いてきたからトレーニングの強度あげるか」って顔してる。
「関東はこれからインターハイ予選があるから7月以降になるそうなんだけど、皆の答えは?」
「「「行きます!!」」」
「ではそのつもりでいて下さいね。詳細が分かり次第お伝えしていきます。あと、猫又先生が『うちの孫がある程度知ってるから』って仰ってたんだけど、猫又君軽く説明して貰っても構わないかな?」
その瞬間、ギラついた皆から一斉に見られる。恐い恐い。
あと、縁下先輩が「そっかー、地元だもんなー」って言ってるのが聞えてきた。ごほんごほん、では僭越ながら、この私が説明させて頂きましょー。
「分かりました。
梟谷学園グループというのは、東京からは梟谷学園と音駒高校、神奈川は生川高校、埼玉は森然高校と4校が集まっているグループで、どの学校もベスト4以上の実力が備わっている強豪校の集まりです。
実力も近く、お互いに行きやすいということから頻繁に練習試合をしていますね。今のウチだと負け越すと思います」
「ありがとう、猫又君。
そういうことなので、7月でもっと進化していきましょう! 今度こそ全国大会出場です!」
「「「はい!」」」
……そして、音駒以外の3校から推薦を頂いていました。ひー、「転校しない? ねぇ、ウチ来なよー」って言われるのか。……言われないと良いなー。
まあでも、梟谷には秋紀先輩とか大和先輩、渉、秀一とかいるから、会えるって意味では嬉しい。
「あと、皆分かってると思うけど、7月に期末テストあるからね?」
「っ!?」「「「ほぎゃあ!?」」」
あ、翔陽と田中先輩、ノヤ先輩が固まった。ウケる。
影山が狼狽えてないことに気づいた翔陽がウッキーモードになる。ホーントお猿さんだよねー。
「なんで影山は焦ってないんだよ!!」
「猫又から教えて貰ってるし」
「っ!? 影山だけずりぃ! 繋護~!!」
「だって『勉強しようぜー』って言っても逃げるじゃん、翔陽」
「うばぁ……!?」
うばぁ? 面白い悲鳴だなー。
翔陽達3人が壊れかけの洗濯機みたいな挙動を取っている間に、キャプテン達がフラッと近付いてきた。
「実際の所どうなんだ?」
「影山は赤点免れると思いますよ。翔陽は…………」
「そうか……」
まあ、気を抜かなければ翔陽も50点は行くと思うけど。ただ、影山の方が伸びてることには変わりない。
静観してた烏養コーチが話し始めた。
「日頃から言ってるけど〝~~してもらって当然〟って考えは良くねえからな。何事にも謙虚にいけよ。そんで、次会ったとき猫又先生と他の学校の先生にはきちんとお礼言う。
全員、家族とか先生とかのサポートあってこそ俺達が部活に集中できてるって忘れるなよ!」
「「「はい!」」」
「俺達ができるのは実力を付けて勝ち進むこと。そうすれば『烏野高校男子バレー部を応援して良かったな』って思って貰えるからよ。強くなることが周りへの最大の恩返しだ。春高に向けて1日も無駄にできねえぞ!」
「「「はい!」」」
俺も頑張らないと。テスト100点目指すかな。名前の確認も忘れずにっと。
◎
体育館の点検作業のため、烏野高校のインターハイ予選のDVDを見た音駒高校男子バレー部一同もまた盛り上がっていた。
「残念なことに烏野は負けてインターハイ進出は出来ねえ。でもよ、伊達工業やら青葉城西、和久谷南と戦って県ベスト4に残った。
『井闥山と梟谷がインターハイに行くの確定じゃん』なんて下馬評覆そうや。都内の全学校に勝って東京第一代表でインターハイ行くぞ。東京は2校全国に行けるからって甘えるなよ」
「「「はい!」」」
猫又育史の目論見通り、烏野高校男子バレー部の奮闘を見た部員一同は10日から行われるインターハイ予選に向けて集中していく。
順調に行けば17日の第二試合で井闥山学院と当たる。それでも勝って全国に行くんだという雰囲気で溢れていた。
「監督! 外で軽くパス練したいです!」
「んん? まあ1時間までな。試合前だって忘れるなよ」
「はい!」
「あと来月期末テスト有るからなー、勉強しとけよー」
「「「っ!?」」」
直井学の言葉を聞いて、夜久衛輔、山本猛虎、灰羽リエーフ、犬岡走などの勉強できない組が固まる。
宮城だろうが東京だろうが、高校生である以上勉強しなければいけないことには変わりない。3週間後には定期的に訪れる憂鬱なテスト期間がやってくる。
◎
土曜日、2年生が午前中の練習が終わってから田中先輩の家で勉強会を開くらしく、「影山にも先輩達にも負けねえ!」とかって張り切ってる翔陽に「勉強教えてくれ!!」って捕まった。
そんなわけで1年5人集まってウチで勉強会だ。
最大8人つける机で、バレーで言うと翔陽がレフト、影山がセンター、山口がバックレフト、俺がバックセンター、月島がライト側の誕生日席に座ってる。
「……なんで僕まで」
「まあまあ。これもチームワークだよ、ツッキー」
「月島には姉ちゃんが高校の時の過去問渡すからさ。ほい、コピー」
「ん。……っ!」
リングファイルの該当する部分のある問題用紙一式を渡す。……お、なんかやる気でたっぽい。
姉ちゃんと彩音ちゃん進学校に通ってたから烏野の進学クラス以上の問題扱ってるからね。月島を引きずり出すにはこれが良いと思った。ということで、月島はヘッドホンを付けて黙々と姉ちゃんと彩音ちゃんの学校の過去問を解き始める。
勉強会に参加させるだけのメリットを出さないとね。
「国語と英語の長文読解だけど山口も良い?」
「うん、文系苦手なんだよねーってことでお願いします」
「オッケー」
自作の接続詞一覧表を取り出して3人に見せる。順接とか逆説、理由とかって一目で分かるようにしてるやつだ。
「現代文にしろ英語にしろ、基本的に見ないといけないのは接続詞」
「「「接続詞」」」
「そう。
例えば、【今日は暑い。〝だから〟アイスを食べたい】と【今日は暑い。〝または〟アイスを食べたい】。聞いててどう? じゃあ翔陽」
そう聞くと、翔陽が唸りながら答える。
「……〝または〟のほうはなんか変?」
「だね。じゃあ【今食べたいものはラーメン、またはカレー】、だったら?」
今度は影山が答えた。
「聞いてて違和感ねえけど」
「そ。接続詞には役割があるんだよね。
〝だから〟だったら、前の文が理由になってて後ろの文が結果。【今日は暑い。だからアイスを食べたい】みたいにさ」
「確かに!」
「〝または〟とか〝並びに〟だったら同じジャンルを並べる感じ。【今食べたいものはラーメン、またはカレー】。〝今食べたいもの〟ってジャンルを並べてるでしょ?」
「「おー」」
現代文って聞くと面倒くさいけど、こうして簡単な一文にすると案外分かりやすい。翔陽と影山もさっきよりは生き生きしてる。
じゃあ問題だ。予め準備してある文章を3人に見せて話していく。
「【英語は英単語を覚えないといけないからちょっと面倒くさいけど、現代文は接続詞に気を付ければ割と点を稼ぎやすいよ。3人は英単語を覚えつつ、現代文で文字を読むことに慣れていこう。
さて、今の中に接続詞は何があったでしょう?】。シンキングターイム!」
「えっ!? えーっと……」「うぬん」「……」
翔陽はあたふたしながら。影山は一瞬理解したくないーって表情をして。山口は真面目に文章と接続詞一覧表を見比べて使わない紙の裏に書き込んでいく。
3人が頑張ってる間に俺は英訳したものを準備しておこう。
「〝だから〟だろー。〝さて〟もそうだよな」
「……〝けど〟は? 〝だけれど〟と同じ意味だろ。逆接? とか書いてある」
「気を付ければの〝~れば〟は何々すれば、か。条件ぽくね?」
影山と翔陽の2人はうんうん唸りながら考えを出していく。頑張れっ、頑張れっ。
「〝しつつ〟も〝~しながら〟と同じかな? どう思う?」
「……多分?」
お。山口の方は終わったみたいだ。
「猫又ー、どう?」
「んー? ちょいまち」
山口に渡された紙を見ていって、正解と照らし合わせていく。うん、ぱっと見大丈夫そう。さっきの文中には〝だから〟、〝だけど〟、〝れば〟、〝つつ〟、〝さて〟が接続詞として入ってる。
「じゃあ英文作ってみ」
「えっ」
「練習練習。自分で和訳と英訳できるようになればリスニングとかアクセント以外は対処可能だからさ。主語はYouで大丈夫。やってみ」
「……分かった」
今度は山口もうんうん唸りながら英訳していく。
一方で、影山と翔陽もなんとか終わったみたいだ。
「繋護ー、どう?」
「んー? ……うん、大丈夫そう。2人も英訳してみ」
「無理!」「……うぬん」
だよなー、知ってた。少しくらいは挑戦してみろよー。このバカヤロー。
「……じゃあ分かる英単語書いてみ。Englishとかは分かるだろ?」
「分かった!」「……うぬん」
月島は英単語をいちから覚えることはできそうだけど、翔陽と影山は文章から覚える方が絶対楽だと思う。山口はどっちでもそれなりに出来そう。
3人が始めて、俺は俺で世界史の勉強をしてると10分くらいで翔陽が根を上げた。
「駄目だ! 分かんねえ!」
「……俺も」「ごめん、俺も」
しょうがねえなー。
翔陽と影山は聞いたことある単語は割と出てた。山口も一応形にはなってる。接続詞の単語は聞き慣れないから空欄だ。
予め作っておいた英訳を3人に見せる。
「英訳だとこんな感じね」
English is a bit troublesome because you have to memorize English words, but if you pay attention to conjunctions in modern sentences, you can easily earn points. You will learn English words and get used to reading in modern Japanese.
Now, what conjunctions were there in now?
「これ見てどう思う? じゃあ山口」
「えっ。……うーん、結構簡単な単語が使われてる?」
「そう。接続詞は〝because〟、〝but〟、〝if〟、〝and〟、〝Now〟ね。影山と翔陽も見たことはあるでしょ?」
「ある!」「あるな」
「医学部の入試だろうがノーベル賞の論文だろうが、英文の長文読解で使われる接続詞は中学レベルとそこまで変わらないから、実は中学レベルの英語でも長文読解は可能。
いずれにしても〝見たことある!〟を増やしていくのが勉強で、オススメなのがこれ」
今度はタブレット端末でバレーの国際試合を3人に見せる。
「バレーの試合?」
「前回の国際試合だな。男子のアメリカ戦」
「流石影山……」
タブレット端末で、日本のサーブから始まってアメリカのライトの選手がスパイクを決めるまでの1ラリーを流す。日本語の実況とそれを英訳したのが画面の下に映ったものだ。
そして、今度は英語の実況で和訳されてるバージョンを流す。3人は食い入るように1ラリーを見た。
「日本語での実況ではどんなことをしてるのかっていうのを英訳してくれてるし、英語での実況は『英語だとこういう表現なんだな』ってリスニングに役立つ。
興味関心がある分野で勉強していくのが一番だと思ってて、実況を英語で聞いたりすると、バレーの勉強も出来るから一石二鳥、……いや一石三鳥だと思うよ。少なくとも俺はこうしてる」
「「「おー!」」」
特に影山と翔陽はバレーに関係ないと興味ないんだからさ。
「長文読解をできるようになれば、『この問題ではこういうことを聞きたいんだな?』って言うのが分かってきて、他の教科にも応用できる。
〝接続詞に注意する〟、〝単語の意味を理解する〟。現代文にしろ英語にしろ長文読解のコツはこんな感じかな。どう? できそう?」
「多分!」「……多分」「やってみる」
多分かーい。まあやってみないと分からないよね。
取り敢えず、影山と翔陽はバレー関係じゃ無いと絶対にやる気出さないと思うし、バレーの勉強も兼ねて国際試合を見せるのが早い。あとは英語の記事。
山口はそれなりに出来るはず。……おっと、月島も終わったみたいだ。ヘッドホンを外して俺の方を見てきた。
「お疲れ様」
「これ、解答ってある?」
「あるよ。教科は?」
「数学」
「オッケー」
ファイルから数学の解答用紙を探す。前の方だからすぐに見つかった。
解答用紙を月島に渡そうとすると、3人が興味深そうに覗き込んでくる。……どちらかと言うと月島の表情か。
「月島なんか疲れてない?」
「……結構難しかったんだよ」
「ツッキーが難しいって言った!?」
「うるさい山口」
「ごめんツッキー!」
「ちょっと見ーせーてー」
「ん」
俺が解答用紙を月島に渡して、月島は問題用紙を3人に渡す。またまた3人は食い入るように姉ちゃん達の学校の数学の問題用紙を見た。
…………。
10秒、20秒と経つにつれて、翔陽と影山の表情は青ざめていって、山口も真剣な表情で解き始めた。
「……なんかムズくね? 問題文何言ってるか分からねえ……」
「だから言ったじゃん。難しかったって」
「問題文を理解するのにも読解能力って必要なんだよ。つまり、文章を読む事って結構重要って事だ。月バリとかバレーに関する記事でまずは文章に慣れていこう。バレー選手のインタビューとかから始めてさ」
「……おっす!」「……うぬん」
勉強が苦手な人って文字を読む事自体に慣れてないから何言ってるのか分からないらしい。
正直国語に関しては「読書しろ」で終わる話だと思ってる。勝手に漢字とか慣用句とか目に入ってくるしさ。
「猫又」
「んー?」
「これ貰っても良い?」
「良い――」
……いや、このまま翔陽と影山を押しつけられても困る。だったら。
「――翔陽君、影山君。月島にお願いしようか」
「えっ」「っ!!」
察しが付いた月島と翔陽は対照的な表情をする。月島は嫌そうに。翔陽は嬉しそうに。
「勉強を教えてくれ! ほら、影山も!」
「……頼む」
「はぁ~~~~」
なっげえため息。ウケる。
正直この2人に付き合ってたら俺が成績落としそう。ってことで月島も巻き込むぞー。月島にはメリットを提示してやろーか。
「問題集を買うのも結構な痛手になるよね。俺も自分の勉強したいから、理系科目かな? 月島も翔陽と影山に教えるって言うんなら、こうやって姉ちゃんの学校のテストとかセンター模試、実践問題集を定期的に渡そう」
さあどう来る? ふひひー。
「……分かったよ。お小遣い他に回せるのは凄い魅力的だ。でも『もう渡せる教材ありませんー』って言ったら耳引っこ抜く」
「姉ちゃん中学で高校の範囲全部終わらせて高校は受験対策するような中高一貫校の進学校に通ってたから、高校3年間の問題集だけでもおつりが来ると思うよ。つまり?」
「……ちっ」
「舌打ちするなー」
よーし、良いじゃん。ちなみに彩音ちゃんと美緒も同じ女子校だ。
それに、少なくとも公立の烏野の授業よりは早く受験対策できるよねー。「ああ、くそ」って表情をしながら、月島は俺の提案に乗っていく。
「……先立つものは?」
「姉ちゃんの学校、井闥山と梟谷の特進クラスの3年分の過去問でどう? 国語はあんまり使えないかもしれないけど、数学とかは割と良い感じだったよ」
その瞬間、翔陽と山口が息を揃えてつっこんできた。
「「なんで持ってるの!?」」
「中学の先輩から貰った。バレー関係なく庵里から進学してる人多いし」
「「……シティボーイめ!」」
君達もシティーボーイなんだが? いやまあ、都会って意味で使ってるんだと思うけどさ。ところで月島のアンサーは?
「……分かった」
「交渉成立だな。ちょいまち」
隣のイスに置いておいたファイルから該当する問題用紙の部分を取って月島に渡した。
「……これごと貰って良いの?」
「妹もいずれ使うだろうからってスキャナーに通してデータとして残してるんだ。だからバックアップもちゃんとしてある。そのコピーは俺が勉強したときに使ったやつだから、必要になったらまたコピーする」
「そう? じゃあ遠慮無く頂きます。……ということで、日向、影山。僕も面倒見てやるよ」
「あんだと!?」「月島てめえ!」
よしよし。これで押しつけられることは無くなった。……本当に?
いやまあ、教えることで理解が深まるから良いんだけどさ。
席から立上がって本棚でバレーのルールブックと元Vリーガーの空井崇さんの【アスリートと怪我のつきあい方】って本を取り出してまた席へ戻る。
「翔陽にはこっち、影山にはこれね」
ってことで、翔陽にはルールブック、影山には空井崇さんの本を渡す。
「流石にルール覚えてるんだけど!?」
「「「…………」」」
翔陽の情けない悲鳴を聞いて、「冗談でしょ?」って4人同時に同じ顔をした。
「……えっ、待って? そんなに駄目かよ!?」
「今日も主審副審のシグナル間違ってたじゃねえかよ」
「「「だよねー」」」
「おぐぅ……!?」
審判できないのなら試合出なくていいんじゃない?
まあ、それ以外にも理由はあるけど。本題は文字に慣れる事だ。
「とりあえずさ、翔陽と影山にはもっと活字に慣れてほしいんだよ。翔陽はバレーのルールをもっと覚えないといけないし、影山もVリーガーがどんな風にコンディションを整えていたのか? とか怪我の予防、実際に怪我をした時の向き合い方は知っておいて損は無いだろ?」
「……仰る通りです」「ああ」
「っていうことでバレーに関係する本で文字に慣れていこうって感じ。教科書だと飽きるって言うならこうするしかないかなって。
いや、本当に文字読むのが嫌いって勉強できない人の常套句だからさ。2人が烏野を卒業してからどうするかは知らないけど、文字読めないって相当ハンデですよ、お二人さん」
そう言うと、すぐに反論してきた。
「俺はバレーがあるから問題ねえ!」
「俺も!!」
……はぁ。そういうと思ってたよ。ツッキーさん、何か言ってちょーだい。
「赤点続いたら留年でしょ。来年も1年やるの? 高校卒業できなかったらどうするのさ」
「進級はできるだろ!?」
「そうだ!」
…………。うっそだー。何でこの2人そんな自信満々なのぉ? ねえねえ、なんでぇ?
思わず山口と月島と同じ表情をして、無言で「馬鹿言ってんじゃねえよ」ってアピールする。
「何か言えよ!!」
「頭お花畑かよ」
「シンラツ!?」
辛辣って言葉を知ってるのは良いけど、せめて漢字で書けるようにして下さいねー。
「……そんなにまずいのか?」
「「「うん」」」
「「っ!?」」
何を今更。俺が見なかったら1学期の中間テストだって赤点で補習だったろうに。というか、中学の内容も理解できてないんだからこの先躓くの確定じゃんよー。
「大人しく勉強します……」「……うぬん」
「「おー」」「だよね」
集中し直して勉強、とはいかず、翔陽と影山が完全に集中力を切らしてソワソワしてる。
「……何か質問あるならどうぞー」
「烏養コーチもでっかいスマホ持ってるじゃん?」
思わず吹き出した。同じように山口と月島も。翔陽さん? 貴方情報化社会でやってけないですよ?
「何で笑うんだよ!」
「いやごめんって。……タブレット端末ね。烏養コーチ練習でも使ってるし」
「俺も影山もパカパカするケータイなんだけどさ。そのタブレットって持ってた方が良いのかなって。コーチも繋護も便利そうに使ってて良いなーって思ってんだよね」
翔陽がタブレット? ……落っことして壊しそう。あと一番はさー。
チラッと山口と月島を見ると俺と同じ考えに行き着いてる。ここは山口にお願いしようかな。俺の意を汲んだ山口が話し始めた。
「止めといたら?」
「何で?」
「いや絶対にさ、日向と影山がタブレットとか持ったら夢中になって夜更かしとかしそうじゃん? 『あとちょっとー』が続いて朝練にも遅刻、成績が今より悪化、留年! とかさ。だから止めといた方が良いと思う。
2人はハマっちゃうと思うよ。動画とかゲームとかもっと身近なものになるし」
「「同じく」」
「大丈夫だし!」
本当にぃ?
「……多分」
「「「ほーら」」」
夏ちゃんと一緒に「バレーすげえ!」とかってハマってスマホ依存になりそうじゃん。絶対止めといた方が良いって。
「ワードとかエクセルって学校でも使うから買うならパソコンにして貰ったら? キーボード入力もできないと大変でしょ」
「そっか~。分かった!」
話が一段落したところで、母さんがチラッと顔を覗かせた。
「皆ー、おやつどう?」
気づけば15時を過ぎてて、1時間半弱こうしてたことになる。そりゃ翔陽と影山が集中できなくなるか。
「「っ! 欲しいです!」」「「……そこまでお世話になるわけには」」
見事両極端の回答に別れた。
ふふふー、残念だったな、月島と山口よ。母さん結構圧強いぞ。今回もどうせ有無を言わせないはずだし。
「大丈夫大丈夫。もう作っちゃったし」
ほーら、案の定だ。
ということで勉強は一旦中断。机の上の物を退かして、母さんがフルーツポンチを5人分机の上に載せた。
「「「っ!? ありがとうございます!!」」」「……ありがとうございます」「ありがと」
「勉強も疲れるからね。糖分回復ってことでさあどうぞ」
「「「頂きまーす!!」」」
てっぺんにあるサクランボから行こうかな。……うん、美味しい。
補食を食べたとは言え、勉強もしてお腹が減ってる男子高校生ってことであっという間にペロリと胃袋に収まった。多分1分もかかってない。心なしか月島も満足げだ。
「ごちそうさまでした! 美味しかったです!」
「「「ありがとうございました!」」」
「作り過ぎちゃったから消費してくれてこっちも助かっちゃった。文武両道って難しいと思うけど頑張ってね」
「「オ、オス!」」「はい!」「はい」
パパッと食器を預かって、母さんは嵐のように去って行った。
「美味しかったな!」
「ああ」「うん」「……うん」
「じゃあ勉きょ――」
最後まで言い終わる前に翔陽が「――皆で遊ぼうぜ!」って言いやがった。……まあ? こうなるだろうなって予感はありましたよ。
「ボードゲームかマリオパーティならどっち? マリオならゲームキューブのだから結構前のやつ。マリオカートもあるよ」
「「ボードゲーム?」」
「人生ゲームとかジェンガみたいに皆で遊べるアナログゲーム。トランプとかウノもあるよ」
「俺マリパやりたい!」
「翔陽はマリオ。3人は?」
おずおずと「俺もマリパやりたい」って山口が手を挙げた。オッケーオッケー。
「影山と月島は?」
「やったこと無いからマリオ? やってみてえ」「任せる」
「じゃあマリパだ!」
「「「イェ~イ!」」」
椅子から立上がってゾロゾロとテレビの前のソファーに集結。
「コントローラーはあるの?」
「親戚で集まった時にやってるから4つある。あと俺はいつでも出来るから4人でやって良いよ」
「んー、でも猫又がいなかったら出来なかったわけだし、交代でやろう」
「そう? じゃあお言葉に甘えて。準備するからちょっと待って」
「「おー!」」
収納箱からゲームキューブ類を出して準備をしていく。コンセントとケーブルとコントローラー4つで完了。
さーて、1年5人によるマリオパーティの始まり始まりー。
ワイワイやってるとあっという間に17時になっていたらしく、17時を知らせる【夕焼け小焼け】のチャイムの音が外から聞こえてきた。楽しかったな。
「月島ゲームも上手いんだな!」
「伊達に眼鏡かけてねえってことだ」
「眼鏡関係ないから」
「小さい頃から遊んでたよね」
「……そうだけどさ」
ほーら。なんだかんだで月島も楽しんでたと思うけど?
「また来て良い? ボードゲームって言うのもやってみたい!」
「名目は勉強会な? 分かってると思うけどさ。テストまで1ヶ月だぞ?」
「「オス!」」
俺はゲーム類を、4人は帰る準備を始めていく。ゲームやったことないらしい影山も慣れたら楽しそうにやってた。満足満足。
「そういえば音駒今日勝ったのかな」
翔陽がそう呟くと、思わぬ所から返事が。祖父ちゃんだ。
「勝ったってよ。来週も試合だ」
「「「っ!? お邪魔してます!」」」
「……お邪魔してます」
「おう、いらっしゃい」
慌てて4人が直立不動になって、挙げ句の果てには翔陽と影山が鞄落としやがった。それなりの音が響く。
「気を付けろー」
「「すみません!」」
何か取りに来たらしく、それだけ取ったらすぐに祖父ちゃんはふらっといなくなった。
「び、びっくりした……!」
「お、おう…………」
まあ、そういうものなんだろう。よく分からないけど。
そのまま4人は準備を進めていって帰っていく。乾いた4人の洗濯物を返しに母さんもふらっと来た。
「「「お邪魔しました!」」」「お邪魔しました」
「はーい。取りに来るの面倒かもしれないけど、夏とかお弁当預かるよ。腐っちゃうと嫌でしょ」
「「「っ!? ありがとうございます!」」」「ありがとうございます」
「応援してるから頑張ってね!」
「「「はい!」」」「はい」
って言うことで4人は帰っていって、坂ノ下商店前で繋心兄ちゃんとの話し声も聞えてきた。
「なんだかんだでチームとしてやってけそうじゃない」
「だねー」
4月とかやばかったし。
Youtubeで「Volleyball World」というチャンネルがあります。国際試合が多く、実況も英語やイタリア語などの外国語なので良かったら見てみてください。
日本語の実況とはまた違った雰囲気があります。