烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

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2012年7月③

 ……ん? 

 ふっと意識が浮上して、どこか見慣れた教室の天井が見えてはセミの鳴き声やら誰かの呼吸音もより鮮明に聞えてきた。

 ……ああ、そうだった。東京合宿で音駒に来てるんだったか。だんだん意識がはっきりしてくる。

 布団から身体を起こして教室内を見渡すと烏野の皆はまだ寝てる。でもスマホを見ると5時半前だ。いつもよりちょっと早い。昨日めちゃくちゃ早く寝たしな。20時ちょいくらいだろ? 早えー。

 皆を起こさないように立上がって布団を整えたら歯磨きセットとタオルを持って顔を洗いに行く。

 

「きよこさぁ~ん!!」

「流石です! 潔子さん!!」

「っ!?」

 

 ビックリしたー。田中先輩とノヤ先輩どんな夢見てんだ?

 廊下に出て蛇口がある方に歩いていく。……晴れてることだし外でストレッチでもしてくっかねー。日中は外出られないし。

 

 

 朝活してすっきりした状態で教室に戻ってくると影山が上半身を起こしながらぼんやりしてた。赤べこみたいにガックンガックン船漕いでる。

 

「ろーりんぐさんだー…………!」

「っ!? ……っ!?」

 

 寝てるノヤ先輩が影山に転がって轢いた。その衝撃で影山が跳ね起きてはキョロキョロ回りを見渡す。俺と目があった。

 

「……? …………? ……何が?」

「おはよう。影山は今ノヤ先輩に引かれた」

「そうか。……ランニング行くか」

 

 まだ寝ぼけてるな、影山。布団をモゾモゾして準備しようとする影山を引留める。

 

「今東京な? 迷子になるから辞めろ。絶対に辞めろ。グラウンド勝手に使って良いかも分かんないし。……外で軽く動こうぜ」

「行く」

「じゃあ準備すっか」

「おう」

 

 サポーターとか縄跳びの準備しよーっと。あと【影山と外で縄跳びしてきます】ってホワイトボードに記入して行方不明にならないようにする。

 

 

 野球部とかサッカー部、吹奏楽部が練習始めてるから音出しても大丈夫だとは思う。ということで、体育館近くで外でも出来る基礎メニューと縄跳びをしていると、欠伸を繰り返してる繋心兄ちゃんが現れた。

 

「おーっす、相変らず早えな」

「繋心兄ちゃん、おはよ」「おはよう御座います、コーチ!」

 

 そのまま繋心兄ちゃんも俺達に混ざって身体を動かし始めた。男3人で縄跳びを始める。

 

「色々とどうだ? 昨日1日やってみて」

 

 影山が考え始めたからまず俺から。

 

「レシーブ成功率を上げるのと、セッターが1本目を触ったときとか間に合わないときのコンビ、ブロックとの連携をもっとやりたいです。あと身体の基礎能力強化」

「だな。

 リベロ2人から影山か菅原との速攻もできるようになればいいと思ってるし、特にブロックはもっとやってかないとな。木兎とかウシワカとか止められるようになると崩されることが無くなっていくと思う。

 今成長期だから無理はすんなよ。じゃあ影山はどうだ?」

 

 続いて影山。

 

「そっすね。サーブももっとコースと精度高めていきたいですし、レシーブも澤村さんと西谷さん、猫又にも負けたくないですし、ブロックの点数も稼いでいきたいですし、トスももっとモサク? していきたいっす。……合宿延長出来ないですか?」

「気持ちは分かるけどよー。流石にな。

 ま、夏休み入ったら1週間の長期合宿を予定してるからその時まで我慢してくれ。あと2度と補習受けるなよ」

「……はい」

 

 1週間の長期遠征か、なげー。怪我とか風邪引いて途中で離脱しないようにコンディション整えていかないとな。

 気が付けば1学期も終わりかけてる。時間経つの早いな。まだ4月の感覚だ。

 

「そんで、変人速攻をどう強化すっかなー。日向が自分で打てるようになれば良いんだけどよ」

「日向には難しくないっすか?」

「んー、オープンとかセミの時に相手のコートの情報を見て打ち分け出来るようになってきてるし出来なくはないんじゃ無いの?

 今だってなんとかフェイントで返せたりしてるし。あとちょっとだと思うんだけど」

「そうか?」

 

 影山は釈然としてない様子で縄跳びを続ける。すると、繋心兄ちゃんは縄跳びを止めたと思ったら「時間を止める?」だとか「オープンみたいに一瞬の余裕を与える?」とかって呟いては自分の世界に入り込んだ。まーた変なこと考えてるよー。

 

「……繋護、おまえ前なんか言ってたろ。なんだった?」

 

 何だっけ? 【ギュン】で【ふわっ】?

 

「翔陽風に言うなら、【ギュン】って伸びていって【ふわっ】てしたトスのこと? 速攻でありながらオープンみたいなトスができたらいいなーって呟いた記憶がある」

「【ギュン】で【ふわっ】……。速攻でもあってオープン……。そうか! 影山!」

「はい、なんすか?」

「スパイカーの打点でボールを落とすようにしろ!」

 

 ……なんか変なこと言い出したぁー!

 

 

 繋心兄ちゃんの話を聞くと、スパイカーの最高打点とボールの最高到達点をイコールにして、スパイカーに余裕を与えるトスを練習してみようって事らしい。まさに【ギュン】で【ふわっ】。

 ……理屈は分かる、理屈は。でも出来るか? ……やるしかないか。ドリブル取られそうだけど。

 

「クッソ難しいとは思う。でも影山ならできるはずだ。ちょっとやってみてくんねえか?」

「……分かりました。やってみせます」

 

 「そんな無茶ぶり聞かなくて良いぞー」って気持ちと「影山ならできそう」って気持ちが鬩ぎ合ってるのは内緒にしておこう。

 

「おし。そろそろ朝飯だから戻るぞー」

「んー」「はい」

 

 スマホの時間を見たら7時を超えた辺りだった。シャワー浴びられたら良いんだけど。まあ期待はしてない。

 

 

 なんとシャワーを借りられたからさっぱりして食堂に向かっていくと、月島に声をかけられる。なんと珍しいことよ。

 

「猫又、おはよ」

「おー、おはよ。どうした?」

「音駒のキャプテンと仲いいよね?」

「って思ってるよ」

「……音駒のキャプテンのブロック録画させて貰えないかなって思ってて」

「おー、じゃあ聞いてみよっか」

 

 月島とそんなやりとりをしてから食堂に向かってなんとか黒尾先輩を捕まえられた。事情を話してお願いしてみる。

 

「黒尾先輩、どうですか?」

「おー、いーよー。後で時間取るか」

「お願いします」

「オッケー。……あ、そうだ。

 ゴールデンウィークで軽く話したけど、俺、音駒高校3年の黒尾鉄朗ね。宜しく」

「……烏野高校1年の月島蛍です。よろしくお願いします」

「〝ツッキー〟って呼んでも――」

「――止めて下さい」

「すげぇ食いつくじゃん」

 

 〝ツッキー〟呼びはめっちゃ嫌と。そんなに嫌なのか。

 

 

 朝御飯を食べて食休みをしてから体育館で黒尾先輩によるブロック講座が始まった。山口とか犬岡とか灰羽、渉、森然の千鹿谷とか5校のミドルブロッカー陣がゾロゾロと集まってくる。

 

「黒尾ー、何してんだー?」

「木兎、1年ズにブロック教えるからちょっと手伝ってくれ。赤葦も」

「良いぞ!!」「分かりました」

 

 黒尾先輩が無事に木兎先輩と赤葦先輩を捕まえたから実際に説明に入る。

 

「じゃあ確認な。

 腕はこめかみに触れるくらいで間を作らないようにする。指先まで力を入れるけど、弾かれる危険があるから手首の下で止められるようにジャンプ力を付ける。

 相手の利き腕の前で、スパイカーがスイングを降ろしたタイミングでブロックを完成させる。

 木兎、赤葦。1回打つまでやってみてくれ。軽くで良いぞ」

「オッケー!」

 

 反対側のネット際に立った赤葦先輩がレフトの木兎先輩にボールを放り投げて、そのチャンスボールを木兎先輩が赤葦先輩にオーバーで返した。そのあと赤葦先輩がレフトにオープントスを上げて、木兎先輩がボールの落下地点を見極めて助走に入る。

 同時に黒尾先輩もクロスステップでこっち側のライトまで移動してブロックに跳んだ。スイングブロックってやつ。

 

「オラ!」

「ワンチ! ……ほいっと」

 

 黒尾先輩がワンタッチで上がったボールをキャッチして終わる。

 

「基本的なブロックはこんな感じだ。ブロックの種類になるが、セッターがボールを上げて、誰がスパイクを打つか確認してブロックに跳ぶのがリードブロック。速攻に弱いっつう弱点がある。

 一方で、スパイカーの速攻の助走に合わせてブロックに跳ぶのがコミットブロック。こっちはトスの先が速攻に跳んだスパイカーじゃなかったら手薄になるっていう弱点がある。

 ざっくり言うと木兎を止めるならリードブロック、烏野の10番を止めるならコミットって感じだな。1年ズ、分かったか?」

「「「オス!」」」

 

 「あー! 黒尾がチヤホヤされてどや顔してるー!」とか木兎先輩が言ったら、「俺は木兎と違って頼れるキャプテンだからなー」って煽り返した。

 

「俺も頼られてるからな! な、赤葦! 尾長!」

「……そうですね」「はい」

「ほーら、俺も!」

 

 ……そうかぁ? 2人も渋々だったと思うけどー? 黒尾先輩は気づいてるっぽいし。

 

「話を戻すけど、サウスポー相手は感覚が違ってくるから注意な。ウシワカ頑張って倒して来いよー」

「……はい」「「「ウシワカ?」」」

「井闥山のサクサ、白鳥沢のウシワカ、狢坂のキリュウ。この3人が高校3大エースってやつだな。

 ウチと梟谷はサクサにやられてるし、白鳥沢は烏野が全国行くなら倒さないといけない相手だ。ちゃんと情報収集やっとけよー」

「「「……はい」」」

 

 狢坂と井闥山は全国でしか当たらないからともかく、白鳥沢は要注意だ。

 そして、このタイミングで先生方が体育館にやってきた。直井先生が訝しげに俺達を見る。

 

「……ん? 何やってたんだ?」

「1年にブロック教えてました」

「なるほど。他校とは言え一緒に練習試合やってんだ。積極的に他校のメンバーともコミュニケーション取っていけよ。そういう練習だ」

「「「はい!」」」

 

 直井先生に返事をすると、月島が俺の方に来た。先生方が「対人とか学校関係なくやらせるのもよさそうですね」って話していたのが気になる。

 

「撮れた?」

「確認して」

 

 スマホを渡すと、月島が今の動画を流して確認していく。多分大丈夫っぽい。

 

「……うん、大丈夫。ありがとう」

「烏野のツッキー、次の合宿俺のスパイク練に付き合ってくれよ!! 良いだろ、なあ!!」

「良いねぇ~、付き合って貰うぞ~」

「えっ、あ、はい。……その〝ツッキー〟って止めてくれませんか?」

「んん? 良いじゃんツッキー!」

「…………」

 

 木兎先輩に右肩、黒尾先輩に左肩を組まれた月島は逃げられなくなった。南無。

 あと灰羽と翔陽も「俺もお願いします!」って乱入してきた。

 

「リエーフはレシーブが先だ。狙われてばっかりなんだからよ。音駒でレギュラー取りたかったらもっと基礎身につけろ! 日向の方が何倍も上手えぞ!」

「っ!?」「研磨にも言われた! ありがとう御座います!」

 

 次の合宿は1週間だから試合形式以外もやるんじゃないのかなーって思ってるけどどうなんだろ。まあ、まずは今日乗り切ろう。

 

「じゃあそろそろ始めるぞ、集合」

「「「集合!!」」」

 

 先生方とマネージャー達と向き合う様にして、右から森然、生川、梟谷、音駒、烏野の順で2列ずつ並んでミーティングに入る。翔陽と影山が加わった分厚みが増した。たった2人分だけど。

 

「気を付けー! 礼!!」

「「「お願いします!!」」」

 

 黒尾先輩の号令で挨拶をすると、猫又先生が話し始めた。

 

「えー、諸君おはよう。

 今日も気温が高くなってくると思うから体調管理には気を付けて練習に励むこと。身体に違和感があったらすぐに大人に伝えるようにな。

 それでは各学校に別れてアップに入ろう」

「「「はい!」」」

「気を付けー! 礼!!」

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 音駒が審判から入るから、まず音駒が体育館でアップでウチは外。時間で交代って具合でアップに入る。ということだから外でアップだ。

 

「外行くぞー!」

「「「ウィーッス!」」」

 

 合宿2日目が始まる。

 

 

 アップを終えて、1巡目……昨日から換算すると5巡目を終えた。

 梟谷には【25-23】で負け、音駒には【24-26】で勝ち、生川には【22-25】で負け、森然には【25-23】で勝ち。

 丁度良いからお昼に入った。補食を食べて食休み中、なのは良いんだけど。

 

「繋護、これ着てみろ」

「ん?」

 

 猫の祖父ちゃんから渡されたのは昔音駒で使ってた長袖のユニフォームだ。全体的に白で、番号と後ろに【NEKOMA】って赤い文字。左肩の所に【音駒】、右肩の所に【東京都】って刺繍が入ってる。懐かしいな。

 パパッと着替えてお披露目する。……長袖暑い。

 

「「「おお~!!」」」

「そんな響めく必要ありますか?」

「俺の若いときにそっくりだ。写真撮って烏養に送ってやろ。直井、頼む」

「分かりました」

 

 そのまま祖父ちゃんとツーショット。烏の方の祖父ちゃん絶対に張り合うぞー。あとで俺にも送って貰おう。

 

 

 昼休憩が終わったら、6巡目は15点マッチ、デュースなしで練習試合。

 梟谷には【15-13】で負け、音駒には【13-15】で勝ち、生川には【15-12】で勝ち、森然には【15-11】で勝ち。

 8セットやって5勝3敗で宮城に帰る時間になった。クールダウンをして、割り当てられた教室の片付けと掃除をして帰る準備を進めていく。

 

「じゃあ次の合宿でなー」

「インターハイ頑張れよー。信典は目指せユニフォームだな」

「だなー。木葉先輩の番号貰ってやろ」

「おー、やってみろや」

 

 木葉先輩、渉と信典とそんな会話をして、次は音駒の皆だ。

 

「じゃあ再来週な。リエーフの面倒見てくれよ」

「夜久さんより優しそうだから宜しくお願いしまーす」

 

 ……徹底的にやってやろ。コート2面を使った20分間のワンマンでもやらせるか。基礎足りてないし。

 

「ジジイ達に宜しくな」

「うん。祖母ちゃん達にも宜しくって伝えといて」

「……自分で伝えたら良い」

 

 猫の方の祖父ちゃんと握手をして離れようとしたら俺の名前を呼ぶ聞覚えのある声が2つ聞えてきた。……えっ。

 予想通りおばさん2人だった。そのまま肩を組まれる。

 

「身長伸びたね」

「……なんでおばさんが?」

「ご飯作ってたから」

 

 ……言われてみたらおばさん2人が作る味付けだったような気がする。祖父ちゃんの知り合いっておばさん達だったのか。知り合いどころじゃないじゃん、身内だ身内。

 

「音駒のユニフォームお父さんにそっくりだった」

「びっくりしたよ~」

「俺もビックリした、瓜二つじゃんってさ」

「「ねー」」

「ほれ、イェーイ」

 

 葵育おばさんと育音おばさんを加えた4人で写真を撮って本格的にお別れだ。……あ、そうだ。

 

「良樹君の結婚式も行くね、12月8日」

「練習忙しかったらそっち優先で良いからね」「春高決まってたらそっち優先ね」

 

 まあ、そうなんだけどさ。

 

「やっぱり遊んで貰ってたから」

「そう? まあ無理しないで」

「1日休んで負けるくらいならその程度でしょ」

「そりゃそうだ」

 

 12月8日に猫の方の従兄の結婚式がある。今から楽しみだ。

 あと春高予選も終わってるから出場が決まった状態で参列したいよね。……あ、そういえば。

 

「繋心兄ちゃんには挨拶したの?」

「したした」

「からかってきた」

「『止めて下さい~』って泣きついてきたよ」

 

 繋心兄ちゃん、コーチの勉強の件で葵育おばさんと育音おばさんの2人には頭上がらないもんね。まあ、繋心兄ちゃんがやらなかったら烏野の男子バレー部廃部になってたんだけどさ。

 

「じゃあ頑張りなさいよー」

「うん」

「余裕あったら夏遊びに行こうかな」

「是非是非。母さんにも言っとく」

「「おー」」

「祖父ちゃんもまたね」

「おう。また再来週な」

 

 3人に挨拶して、体育館の玄関まで歩いていく。

 スニーカーに履き替えた後に外に出て駐車場のバスまで歩いていくとクーラーボックスと推定8個以上の紙袋を持った父さんがいた。武田先生と繋心兄ちゃんの3人で何か話してる。……お、俺に気づいた。

 父さんが手を振ってきたから俺も応えて、父さん達の方に近付いていく。

 

「父さん来てたんだ」

「見送りと音駒の皆さんから代表として渡してくれって差し入れにな。姉さん達には会ったか?」

「会った。いつも通りだった。変わらないよねー」

「変わらないよな、あの2人。昔からそう」

 

 血液年齢とかも20代から変わらないらしいし。写真見てもそこまで見た目に変化が無い。すげー。

 続々と烏野の皆が荷物をバスに積み込んでいって、最後に清水先輩とやっちゃんが荷物を積み込んだ。いよいよ出発の時間が近づいてくる。

 トイレやらを済ませて点呼も終わって集合。

 

「皆さん忘れ物はありませんね?」

「はい、大丈夫です」

「分かりました。では、猫又君のお父さんからサプライズです」

 

 父さんが武田先生と繋心兄ちゃんよりちょっと前に出て話し始めた。

 

「烏野高校男子バレー部の皆さん、いつも息子と父がお世話になってます。猫又です。

 2日間の合宿お疲れ様でした。せっかく東京に来たのに観光一つできなかった君達に音駒のOBをはじめとする多くの方々から差し入れです」

「「「っ!! ありがとうございます!」」」

「クーラーボックスは息子に持って帰らせれば良いから。

 それでこっちの紙袋は高校生が好きそうな東京のお土産。できるだけ保存が効く物を選んだつもりだけど、気温が高くなってきてるから早めに食べること」

「「「ありがとうございます!!」」」

「家に帰るまでが合宿です。ちゃんとゆっくり休んで明日からも頑張って下さい」

「「「はい!」」」

 

 紙袋の中はなんだろうなー。お腹に溜まるものだったら嬉しいけど。パーキングエリアで食ーべよっと。

 

「バスに乗る直前で受け取って下さいね。では烏野に戻りましょう!」

「「「はい!」」」

 

 皆バスの乗車口に並んで父さんからお土産が入った紙袋を受け取ってバスに乗り込んでいく。俺はクーラーボックスもあるから最後の方。まあアイスとかそんなもんだろう。

 父さんも一緒に乗り込んで、2つ座席の横の席にクーラーボックスを置いた。

 

「じゃあな。頑張れよ」

「ん。家に着いたら連絡する」

「クーラーボックス忘れるなよ。中アイスな」

「分かった」

 

 父さんは最後に俺の髪の毛をワシャワシャしてバスから降りていった。体育館の中からいつの間にか外に出てた祖父ちゃんとおばさん2人に合流する足取りを取ってる。

 3人に手を振っていると、繋心兄ちゃんと武田先生がバスに乗り込んできて、武田先生が運転席に座った。

 

「皆さん、シートベルトはしましたね?」

「「「はい!」」」

「適宜休憩は挟みますので何かあったら知らせて下さい。では帰りましょう!」

「「「お願いします!」」」

 

 バスが移動を始めるとすぐに祖父ちゃん達は見えなくなった。……寝よう。

 

 

 はっとして目を開けると高速道路のサービスエリアが目に入ってきて、武田先生と繋心兄ちゃんが「あそこ空いてね?」とか「あ、じゃあそこに止めましょう!」なんて言いながら駐車できる場所を探している所だった。……休憩か。

 欠伸をして首とか肩を回しているとバスが止まった。運転席から武田先生が立上がって通路に立つ。

 

「はい、皆さんお疲れ様です。15分ほど休憩としましょう。この間にトイレ休憩など済ませて下さいね」

「「「はい!」」」

 

丁度良いしクーラーボックスの中身を確認しても良いかもしれない。手を挙げて武田先生に見つけて貰う。

 

「はい、猫又君」

「クーラーボックスのアイス皆に渡しても良いですか?」

「「「アイス!?」」」

「そうですね。頂きましょうか」

 

 繋心兄ちゃんがクーラーボックスを開けて確認すると、口笛を吹いて「31のアイスじゃん。おじさん達太っ腹だな」なんて呟いて、中から31のバラエティボックスを取り出した。その瞬間皆大盛り上がり。

 仙台まで行かないと無いしね。あとお値段的にも高校生にはちょっとハードルが高い。ハーゲンダッツよりはまだ手頃だけど……って感じだ。

 

「適当に取る、でいいか? トイレ行かない奴だっているだろうし」

「はい、大丈夫です」

「クーラーボックスの蓋だけ注意しろよー。あと繋護、おじさんにもお礼言っといてくれ」

「はーい」

「猫又、頼むぞ」

「はい」

 

 「こんな感じー」って皆の写真送れば良いかな。何味があるんだろうなー。ポッピングシャワーが有れば嬉しい。

 

「じゃあ休憩! 車とか他のお客に気を付けろよ。あと迷子にならないようになるべく複数人で行け」

「「「オォーッス!」」」

 

 取り敢えずトイレ行っておこ。

 

 

 休憩を挟みつつ、大体6時間かけて烏野にもどってきた。蜩とか蛙、たまーに鈴虫の鳴き声が聞えてきて都内との落差が凄い。アイス美味しかったぜ。

 部室にボールとかボール籠を置いてミーティングに入る。まずは烏養コーチから。

 

「2日間お疲れさん。個人の課題とチームとしての目標が明確になった合宿だと思う。全体的な能力の向上にチームとしての完成度。ウチは今回参加した4校よりも劣ってたから伸ばしていかねえといけねえ。

 今日と明日じっくり休んでまた明後日からやってくぞ」

「「「はい!」」」

 

 続いて武田先生。

 

「2日間お疲れ様でした。1人1人が考えて合宿に挑んだことで参加前よりも伸びたと思ってます。少なくとも僕にはそう見えました。

 2週間後には長期合宿がありますのでそちらに向けて日々進化していきましょう。

 そして、明日は体育館の点検作業がありますので体育館は使えません。今日の帰りも遅いのでゆっくりと休んで下さい。そして明後日から頑張っていきましょう!」

「「「はい!」」」

 

 キャプテンが号令をかけて解散となった。

 母さんが「暗い中女の子だけで帰らせるのまずいでしょー」って言って、清水先輩とやっちゃんは母さんの車に連行された。南無。

 クーラーボックス持って帰ろうと思って持ち上げようとしたら「影山!! 居残り練習しようぜ!」って翔陽が言いだして、じゃあ「俺も俺も」って雰囲気になってきた。

 でも、烏養コーチと珍しく武田先生に睨まれて解散する。時間考えろっての。

 

 

 家に帰ってきて、お風呂と夜ご飯も済ませてゴーロゴロ。

 俺の音駒のユニフォーム姿を見た烏の方の祖父ちゃんは「今度烏野のユニフォームも着させてやる!」なんて宣言するくらいすげー興奮してた。烏の方の祖父ちゃんもそう言うくらい瓜二つだったらしい。おばさん達も盛り上がってたし。

 猫の方の祖父ちゃん、父さん達に【帰ったー】ってメッセージを送って今回の合宿は終わり。今回の動画の整理は繋心兄ちゃんに任せる。

 そして、布団の上に寝っ転がって彩音ちゃんと電話を始めた。

 

『合宿お疲れ様ー、どうだった?』

「庵里の同期と先輩いて懐かしかった」

『あ、梟谷でしょ? 最近は全然会わないかな』

「朝練だと早いしね」

『だね』

 

 彩音ちゃんは猫の方の祖母ちゃんと父さん、姉ちゃん、美緒と一緒に七夕祭りに行って浴衣を着たらしく集合写真を送ってくれた。いーなー。今度は行きたい。

 

『今度は一緒に浴衣着ようね』

「うん。写真撮ろう」

『真緒と美緒と話し合いながら繋護に着せる夏物どうするか考えてるんだ。行ったときのお楽しみに』

「変なもの着させないでよ?」

『大丈夫大丈夫』

 

 忍び笑いしてるからロクなものでは無さそう。……女装したこともその姿で写真撮ったこともあるし今更か。「猫又3姉妹です」でなんとかなったし。

 

『逆に繋護がこっちに来る日って有るの?』

「……どうだろ。まだ夏休みの予定が分からないからなんとも言えない。お盆は休みって事くらい? 学校自体締めちゃうと思うしね」

『そっか』

 

 早く夏休みの予定出ないかな。夏合宿しかまだ分からない。……そう言えば部活体験やるって言ってたっけ。

 

「……あ」

『ん? どうしたの?』

「中学生に向けて部活体験をするとか言ってたかも」

『あ~。烏野は公立だから推薦出せないもんね』

「そう。今年の春高予選に向けての練習もそうだけど、来年のことも考えて繋心兄ちゃんが良くぼやいてる」

『指導者は大変だ。庵里から烏野に進学する後輩いそう?』

「ケビンが『俺も烏野行きます!』って言ってたけどどうかなー。千葉より寒いし。でも1人くらいは来てくれると嬉しい」

『入ってくれると良いね』

「うん」

 

 繋心兄ちゃんは繋心兄ちゃんで色々声かけてるらしいし。来年はどうなるんだろう、烏野。

 

『色々考えないといけないことは多いね~』

「うん」

 

 個人的に進路とかも考えていかないと。推薦でいけるようにしてるのは良いけど具体的な大学の名前は出てないし。うん、やることは山積みだ。

 このタイミングで欠伸が漏れた。バスの間ほとんど寝てたのに。まだ眠いのか、俺。

 

『明日からも頑張っていかないとね』

「うん。彩音ちゃんもテスト頑張って」

『よゆーだよ、よゆー』

「そんなこと言って単位落としたらどうするのさ」

『んー? 大丈夫大丈夫。試験の日を忘れる位しなければ問題なーっし!』

 

 彩音ちゃんなら大丈夫か。うん。

 

「熱中症とか気を付けてね」

『繋護もスズメバチとかヒルに気を付けてよ。あと熊とか鹿にもね』

 

 ……でないとは言い切れないか。

 それにしても夏休み、彩音ちゃんとのデートが楽しみだ。映画とか買い物とかお祭りとか、いけたら旅行も。

 

『じゃあまたね。お休み』

「お休み」

 

 彩音ちゃんとの通話が切れて外の蛙の合唱とか母さん達が見てるだろうテレビの音がさっきよりも聞こえてくる。この名残惜しい時間があんまり好きじゃ無い。……さて、寝るか。

 

 

 

 翌日、期末テストが終わって短縮授業が始まった中、烏養コーチから「身長と体重の測定だけ確認したい」って連絡が入って、放課後に身体測定をした。

 俺の測定が終わって、烏養コーチの「おっ」なんて明るい声が聞えてくる。これはもしや……!

 繋心兄ちゃんはそのままノートに俺の身長と体重の数値を書いていった。

 

「170越えたぞ、170.4cm。やったな」

「175cm位まで欲しいけどなー」

「高1の4月から7月までの3ヶ月間で5cmだろ? 今年中に行くんじゃねえかな。……従兄としてはすげー複雑なんだけど」

「どうする? 180cm越えたら。繋心兄ちゃん178cmとかだったよね?」

「繋護がニョキニョキ伸びたら嫌だわー。コーチとしては喜ぶべきなんだけどよー。俺より大きくはなるな。いいな?」

「目指せ180cmで頑張るから聞きませーん」

 

 そんで祖父ちゃん達と繋心兄ちゃんのこと見おろしてやろ。……いてっ。耳引っ張るなっての。

 

「こんにゃろー。

 あ、体重は59.3kgな。身長が伸びてる分エネルギー余計に使ってるから多めに食えよ。関節痛はどうだ?」

 

 頭頂部からつま先まで意識を集中させるけど特に違和感は無い。

 

「大丈夫……。うん、大丈夫」

「夏休み入ると1日練習とか練習試合なんか増えるから気を付けろ。はい、じゃあ今日は終わり。お疲れさん」

「ありがとう御座いました」

 

 繋心兄ちゃんにお礼を言って、今日は終わり。……さーて、何すっかな。

 やっちゃんは堀内さんと稲松さんと遊びに行くって言ってたし、仙台の方まで行っても良いかもしれない。

 あと今週の消耗品の買い出し担当は縁下先輩と月島と山口。明日から練習時間が長くなるしね。

 

 

 遊びに行こうって思ってた時期もありました。

 家に帰る前に坂ノ下商店を通りかかると、繋心兄ちゃんのお母さん、つまり俺から見ておばさんに「あ、繋護ちょっと手伝って貰っても良い?」って言われて臨時の店番をやることになった。短縮授業だけあってお昼ご飯を買いに来た烏野生が多い。あとアイスを買いに来る人。

 

「はいこれ」

「はーい」

 

 エプロンとマスクを預かって制服の上から着たらレジ裏で待機する。

 「いらっしゃいませー。○○円です。○○円お預かりしたので、おつり○○円です。ありがとう御座いましたー」って機械になる。

 

「あれ? ここバイト雇ったんですか?」

「ん? ううん。あの子甥っ子なのよ」

「……じゃあバイト代って」

「出すわけ無いでしょ? 家の手伝いだもの」

 

 棚卸し作業をする叔母さんと烏野の女子生徒のそんな会話を聞きながらお客さんを捌ぶこと約20分。ようやく店内も落ち着いてきた。

 ……全自動レジに換えない? そんなのいらない? そう……。

 たまーに1円だけで会計していく人いるんだけどマジやべー。状況見ろっつの。せめて両替してこい!

 頭の中でキレていると、見知った顔が店内に入ってきた。女バレの3年生3人だ。

 俺とおばさんと女バレの3人以外には店内に2人しかいないから、その3人がレジの方までやってきた。確か道宮先輩と佐々木先輩と相原先輩。

 道宮先輩はショートヘア。佐々木先輩はヘアピンで髪の毛を纏めてる。相原先輩は引退してから髪の毛を伸ばしてるっぽい。

 

「リベロの猫又君じゃんお疲れ様ー」

「お疲れ様です。いらっしゃいませー」

「家のお手伝い?」

「そうです。さっきまで人凄かったのでおばさんに捕まりました」

 

 アイスの補充をしてるおばさんの方を向くと、左手でピースサイン作ってきた。仙台行こうと思ってるんだけどー? せめてバイト代だせー、横暴だー!

 

「月曜日は男バレ休みだから猫又君が店番やることもあるって澤村に聞いてるんだー。あと2日間合宿だったんでしょ? お疲れ様ー」

「ありがとう御座います。この夏キャプテンと遊びに行かないんですか?」

「っ!? な、ななんで!?」

 

 道宮先輩キョどりすぎ。ウケる。

 残念ながらもう証拠は挙がってるんだ。認めちゃえよー、オラオラ。

 

「いや、インハイ予選の帰りとか見てたらそういうことなんだー、みたいな?」

 

 あとたまにスガ先輩がくっつけようとしてるの見たことあるので。

 キャプテンは気づいてないっぽい。スガ先輩と縁下先輩、成田先輩、月島かな、今のバレー部の中で気づいてるの。

 

「ほらー、頑張れよー、結」「そうだそうだ」

「ええっ、あっ、うす……」

 

 佐々木先輩と相原先輩に追撃を受けて、遂に道宮先輩は顔を赤くしてノックダウン。

 と、丁度烏野の女子生徒が会計しにレジまでやってきた。

 

「すみませーん、お会計お願いしても良いですかー?」

「大丈夫ですよ。お待たせしてすみません。先輩方、ちょっとすいません」

「ご、ごめんなさい!!」

 

 道宮先輩達はそのままアイスの所に向かっていった。

 一方で、その女子生徒は乳酸飲料の紙パックとクリームパンを持っていて、パパッと会計を済ませる。丁度200円受け取って会計終了。

 

「ありがとう御座いましたー、またお越し下さーい」

「はーい」

 

 女子生徒は「暑いー」とか言いながら学校までの道を戻っていった。2年っぽいから分からないな。ただ結構な回数坂ノ下商店で見たことある。

 そして、予想通り道宮先輩達3人がアイスを持ってレジまで来た。

 

「お会計お願いしまーす。はい、300円」

「はい、丁度です」

 

 アイス1つ100円が3人分で300円。300円をコインケースに入れて完了っと。先輩達はアイスを食べ始めてる。……あ、見てたら食べたくなってきた。俺も後で何か買うか。

 アイス何買おうかなーって考えてると、おばさんが「一段落したから今日は終わり。手伝ってくれてありがとね」ってことで解放された。そろそろ繋心兄ちゃんも帰ってくる頃だろう。……ていうか、なんか遅くね? まあいいか。

 レジをおばさんに任せてアイスのコーナーに行くと、道宮先輩達に捕まった。主に佐々木先輩と相原先輩だけど。

 

「おねーさんがアイス奢るからさぁ。ちょっと良い?」

「自分で払いますから大丈夫ですよ?」

「まあまあ。結に協力してあげてよ」

「中学から6年間一緒の癖してなーんも無いんだよ? あの2人」

「あー。……分かりました」

 

 ここは恋のキューピッドになって差し上げましょう!! ……面倒くさそうだな。介入して平気かー? んー。ま、いっか。

 適当にバニラのアイスを取ったら先輩に奢って貰って、休憩スペースで4人固まる。……あー、美味しいな。

 

「それでさ、澤村って好きな人とか彼女いるの? 私達はいないと思ってるんだけど」

 

 俺も同感。

 好きな女優の名前とかは上がるけどそういうのは無いと思う。「弟が」とか「妹が」って家族のこと言うことの方が多いかな。

 

「いないと思いますよ。少なくとも聞いたことないです」

「お、おお、おおお。べ、別に知りたかったわけじゃないしぃ?」

「嘘つくなー」「安心してる癖にー」

「そんなことないし!」

 

 奥手故になかなか中学の知り合いからランクアップできないと。なるほどねー。

 

「ちなみにスガ先輩とか東峰先輩に協力して貰うって言うのは?」

「んー、菅原は『外から見てる方が楽しい!』って断られた。東峰は腹芸苦手だからすぐバレそうってことで除外」

 

 あー、ぽいな。スガ先輩はお祭り騒ぎしそう。東峰先輩、……東峰先輩なら相談に乗ってくれそうだけど。

 

「2年生は縁下君と成田君辺りは協力してくれそうだけど如何せん会う機会が限られてる。1年生はほとんど接点ない。ってことで、坂ノ下商店で定期的に会える猫又君に白羽の矢を立てました~! おめでとう!」

「「「ワー!」」」

 

 なるほどなー。

 学年が違うと「何であの2人会ってるの~?」から「あの2人付き合ってるんだ!」って外堀埋められたり、恋愛相談に乗った2人がいつの間にか付き合い始めたってある話だし。

 その点俺なら坂ノ下商店で店番やることあるから会える機会があると。把握完了。

 

「と言うことで、猫又君には結が澤村とデート出来るようにサポートして欲しいのです!」「です!」

「良いですよー」

「か、勝手に進めないでよ!!」

 

 そんな悠長なこと言ってる暇ないっすよ。

 俺と同じ意見の佐々木先輩と相原先輩がため息をついて、道宮先輩に諭していく。

 

「あのさー、分かってると思うけどあのニブチンな澤村の事だから絶対に気づかないって。結から動かないと。『夏遊びに行こう』って度胸見せてみろって」

「そうだー。花火大会とかお祭りあるんだから誘ってみなって」

「……でも。部活とか試験とかあるみたいだし」

「そんな1日遊んで駄目だったらそもそも駄目でしょうが。責任感じる必要ないって。ねえ?」

 

 ノホホンと聞いてたら急に俺に意見を求めてきた。ビックリするなー、もう。

 

「……そうですよ。今日みたいにリラックスする日はあって良いんです。バレーにしろ勉強にしろ。夏らしく花火とかお祭り行っちゃ駄目なんて言いませんよ。

 『3年で花火しよー』だって良いじゃないですか。……あ、プールとか海とかも楽しそうじゃないですか?」

「プ、ププ、プール!?」「「海!?」」

 

 何故か佐々木先輩と相原先輩も驚いた。……そんな駄目だった?

 でも「プールはちょっとー」とか「痩せないと……」って言いながら突然お腹やら太ももやらを気にし始めた3人を見て、「やっちまった」って気分が押し寄せてくる。

 そうだ。彩音ちゃんとか姉ちゃん、美緒と一緒にプールに行ってるから気にしないけど、付き合ってない男女がプールとかってハードル高いんだった。

 やべー、セクハラで訴えられるぞ。

 

「……すみません、ものの例えです。まあね、夏らしいことやっても良いんじゃないでしょうか?」

「「「う、うん……」」」

 

 それこそ高校生だけで泊まりは駄目な家多いと思うけど、水族館とかなら良いと思うけどな。まあでもプールとか海はあんまり気乗りしないと。

 

「花火、お祭り、水族館、ボウリング、テニス、ウインドウショッピング、勉強……。パッと思いついたのはこんな感じですね。んー、まあ花火なんか良いんじゃないかなって」

「ふ、2人で……!?」

「いやいや。3年生で集まったりとか」

「そ、そうだよね……!」

 

 この調子だと2人でデートはまだ早そうだな。

 

「3年生で集まって、それから2人で遊びに行くーで良いと思います。浴衣着て縁日散策して、花火が上がって告白、がベタじゃないですか?」

「こ、こここ、告白!?」

「高3って夏休み明けたら恋愛モードでいられますかね……?」

「「「…………」」」

 

 3人とも沈黙する。それが答えでしょう。

 スガ先輩と東峰先輩も進路関係でちょいちょい抜けてる時あるし、キャプテン公務員試験を受けるって言ってて、これから面接とかもあるだろうし。

 あと春高予選があるから集中しないとね。ってことでこの夏が遊べる最後のチャンスだと思う。

 

「も、もしかしてそんなに時間無い?」

「「そう言ってるでしょうが!」」

 

 佐々木先輩と相原先輩に突っ込まれて、道宮先輩は情けない声を出した。あと6年目でしょー? キャプテンからは友達って認識が強くなっちゃっててまずいと思うんですよー。逆に友達だから気軽に遊びに誘えるとも思うんですけどねー。

 頼まれたからにはおつなぎしましょう。道宮先輩の恋路はどうなるか!? 刮目せよ!! なーんてね。

 

「男バレの予定出たらお伝えしますね。まだ分かってないので」

「う、うん。……そういえばまた合宿有るんでしょ?」

「有りますよ。ただ、そこ以外はまだ何も分かってないのでどうなるんでしょう? って言うのが今の心境です」

 

 清水先輩経由で「夏休み遊ぼーぜー」で良いと思うし。……あれ、清水先輩?

 

「そういえば、清水先輩には強力お願いしないんですか?」

「ああ……。潔子に頼むと田中と西谷が『潔子さんとデート!?』とかって騒ぐんじゃないかなーって」

「あと立ち回り次第じゃあ潔子が色目使ってるんじゃないかって思われそうでさ」

 

 佐々木先輩と相原先輩の意見もごもっとも。部内恋愛があって関東大会にも行けなかった代があったらしいから庵里でも女子マネージャー取らなかったんだし。俺としては女子マネージャーって反対よりの立場だし。

 「潔子さんが大地さんのことを!?」なんてことになったら田中先輩とノヤ先輩の士気がどうなるか分からない。

 ……ただ、引退したら田中先輩と進展しそうだけどなー。傍観してるのが正しいと思う。

 

「結のことはさておいて」

「さておくな!」

 

 好きな人だけには緊張しちゃうタイプか。道宮先輩。1回付き合ったら結婚までいきそうなキャプテンと上手くいくと思うんだけどなー。

 

「猫又君はどうなのよ」

「自分ですか?」

「潔子から『猫又なら年上の彼女がいる』って聞いてるんだけど?」

「いますよ。幼なじみで『将来結婚しよう!』って言い合ってる仲です。虫除けに彼女から貰ったいかにもって小物付けてるでしょう?」

 

 リュックのキーホルダーやら筆箱やら彩音ちゃんとペアのものを3人に見せる。それにしても清水先輩も恋バナとかするんだな。……するか。合宿とかでもしてそうだしこれからするのかも。梟谷と森然のマネさん恋バナ好きそうだったし。

 

「「「ひゃあ~~!!」」」

「少女漫画じゃん!!」「やばー!!」「幼なじみとそこまで行くってすごー!!」

 

 道宮先輩の恋路の話は一段落したってことで、道宮先輩も打って変わって俺の話に食いついた。「ウチらが満足するまで帰さない」って顔に書いてある。

 ……それにしても小声で叫ぶってすげー器用なことしてるな。

 

「幼なじみって言うのはいつから!? どういう!?」

「両親同士が仲良くて、家も10分でいける距離なのでずっと一緒にいますね」

「「「ひゃあ~~!!」」」

 

 3人がキャアキャア言って凄いことになってる。幼なじみ同士で恋人って特別珍しいことでも無いと思うけどな。近い存在なのは変わりないんだし。別に変なことじゃないでしょ。

 

「いやもう幼なじみとそこまで行くなんて凄いよ! 私なんか幼なじみが転校しちゃってそれきりだもん!」

「そもそも異性の幼なじみがいなかったー。つきあい自体はあるけどね」

「私も疎遠になっちゃったなー」

 

 ……なるほど? 幼なじみとつきあいがあること自体珍しいのか。ほーん。

 

「猫又君って関東出身なんでしょ? 日頃彼女さんとはどうしてるの?」

「週に1回は電話をする時間を作って、それ以外は自分の時間を有効活用しようって話し合ってます。気に入った写真とか送りあってるのでほとんど毎日生存確認してる感じですね」

「「「早く結婚しろこのバカップル!!」」」

「早く18になりたいですねー」

「ああ、そっか。猫又君まだ高1だもんね」

 

 そうなのです。18歳になった日に婚姻届を役所に出したいんだけどー。流石に辞めとけって言われてる。手続きが面倒だってさ。

「高校卒業した日に婚姻届出すとかやってみたい~」とか「幼なじみ湧いてこないかなー」とか言い合ってる先輩達を見て。……っ!? なんか今嫌な視線が合ったような。

 でも周りを見ても別に変なことは無い。うーん、なんか面倒くさいことが起きてるような起きてないような。…………あ。

 店の外で田中先輩とノヤ先輩が「なーにやってんのかなー? んー?」って表情してる。あー、面倒くせー。

 

「あれ、どうしたの?」

「……あそこ見て下さい」

 

 俺が指差した方を先輩3人が見て、田中先輩とノヤ先輩に気が付く。「うわっ!?」なんて言いながら仰け反った。分かります。面倒ですよね。別に大声で話してたわけじゃないし、大丈夫っしょ。

 にんまり笑った田中先輩とノヤ先輩が店内に入ってきて、遂にはこっちの方まで近付いてきた。

 

「「先輩方ちわっす!」」

「「「田中と西谷ちわーっす」」」「お疲れ様です、田中先輩、ノヤ先輩」

 

 先輩達には友好的に、そして俺には敵愾心を露わに。メンドクセ。

 

「けーいごくーん。女バレのお姉様方となーにしてたのかなー?」

「イチャイチャしてるように見えたんだけどよー?」

「店番やってたら先輩達が来て、一緒にアイス食べてました。あと世間話です」

「女子と話すなんて重罪だ!!」「許せるかよ!!」

 

 ほらー、人の話聞かない。メンドクセ。メンドクセー!!

 

「猫又君の言うとおりだよ。坂ノ下商店でアイス買おうとしたら猫又君が店番やってて、私達がお喋りしようって誘ったの」

「「っ!? 羨ましい!!」」

「潔子さんとやっちゃんだけでなく女バレのお姉様方も!?」

「あと家庭科部の子達とも仲良かったよな!」

「ふざけんじゃねえぞー、オラー!!」「ハーレムなんて許せねえ!!」

 

 流石に店内ということは理解してるみたいで軽く小突かれる。メンドクセー!!

 そして、道宮先輩達から助け船が入った。

 

「女子と仲良くなりたいんだったら自分から行かないと」

 

 ……道宮先輩がそう言うけど説得力ねえ!! 佐々木先輩と相原先輩もジト目で道宮先輩を見てる。

 

「どうやって女子と話せば良いんですか!?」

「え、普通に」

「なんかねー、2人は女子って言うのを特別な存在に見過ぎてるんだと思う。母親とか姉妹にやるような感じで良いんだって。フラットフラット」

「「フラット……?」」

 

 駄目だこりゃ。田中先輩が清水先輩とデートできるのも10年後くらいかもな。……その間に清水先輩結婚してそう。そのまま田中先輩は拗らせるのか。カワイソーに。南無。

 

「って違うっす! 本当に繋護とは何もないんすか?」

「うん、無いよ。大丈夫」

「「同じく」」

「「……分かったっす」」

 

 さっきの暗黒面に落ちたような表情を止めた2人はガリガリ君を手に持ってレジまで向かっていった。一安心っと。

 

「田中と西谷猫又君が付き合ってること知らないんだ」

「そもそも言ってないですね。清水先輩とやっちゃん位じゃ無いですか? あと月島は知っててもおかしくなさそうです」

「……月島。ああ、あの背が高くて眼鏡かけてる1年生君か」

「はい」

「まあ、面倒くさいよね。女子でもそうだし」

「ですよね」

 

 やっかみ受けるよねってことで自分からは言わない。聞かれたら答えるけど。そんなスタンスを取ってまーす。

 

「取り敢えずバレー部で遊びに行けるように聞いてみよう。結、あんた澤村に声かけなさいよ」

「いぃっ!? 私が!?」

「思い出作ろーって言えば伝わるでしょ」

「夏休み始まったら逆に誘いずらくなると思いますよ」

「……うん、そうだ。女は度胸!!」

 

 先輩達頑張れー。あと途中経過も勿論聞かせて下さいね。

 気づけばいい時間。こりゃ仙台には行けそうに無いな。縄跳びと直上パスやっておこう。

 

 ◇

 

 烏養繋心は2日間の合宿の録画と13人の身長体重の測定から、個人とチームの成長プランをまとめてノートに殴り書きをしていた。

 

【~サーブ

 全体的な威力と精度の向上。

 ジャンプサーブ……東峰、田中、木下、影山。

 ジャンフロ……澤村、菅原、縁下、成田、木下、月島、山口。そろそろ日向にもジャンフロの形を教えても良いかもしれない。

 

 ~レシーブ

 全体的にサーブレシーブとスパイクレシーブの向上が必要。特にミドルの成田、月島、日向、山口とレシーブ要員として縁下、木下。

 

 ~トス

 菅原と影山、あとこの3ヶ月でハンドリングが伸びてる木下に覚えて貰っても良いかもしれない。学年に1人はセッターがいて良いし。

 あとは西谷と猫又からのコンビももっと練習が必要だ。

 

 ~スパイク

 ストレート、クロス、インナーの打ち分けとブロックアウトをもっと洗練させる。

 そんで、この夏中にシンクロ攻撃を習得したい。助走を始めるタイミングを合わせねえと。

 あと影山と日向の強化版変人速攻の練習。主に影山のトス練習だな。他にもミドルの連中に時間差を覚えさせても良いかもしれない。

 まずは菅原と影山に習得させて西谷と猫又にもやらせよう。

 

 ~ブロック

 現状ウチの弱点はブロックだ。これはもう仕方ねえ。影山と月島と東峰の3人を相手のエースにぶつけてドシャットを狙っていきたい。

 あとトータルディフェンス。ブロッカーとレシーバーの連携を上手くできるようにしていかねえとなー。

 

 ~戦術

 前衛に上がった澤村と山口を交替して高さの補強。

 東峰か田中と縁下を交替させてスタミナ回復。

 影山が前衛でミドルがサーブの時に菅原を投入して擬似的なツーセッター。

 リベロからのシンクロ攻撃

 

 ~チームとして試していきたいこと

 リベロ含むシンクロ攻撃とコンビ

 強化版変人速攻の完成】

 

「ま、やってくしかねえな」

 

 烏養繋心は練習試合をしようと試みて、集まれそうなOBに送るメールの文章を考え始めた。

 

◇

 

 朝練の時に、夏休みまでの普段とは違うスケジュールが発表された。

 

 7時から8時 朝練

 8時から12時 授業

 12時から14時頃 お昼ご飯やら昼寝やら他校の分析やら座学

 ~18時 午後練習

 

 ホワイトボードを使いながら烏養コーチが説明していく。

 

「これが夏休みが始まるまでの大まかなスケジュールだ。

 短縮授業が始まって普段とは違う流れになってる。場合によっては朝練無くして午後練だけにする可能性もあるからな。それはおまえ達の様子を見て決めるつもりだ。

 俺達が練習してるってことは他の学校も練習してるって事だからな。1分1秒も無駄に出来ねえぞ、分かってるな!」

「「「はい!」」」

 

 円陣を組んで朝練が始まる。ボールのハンドリングを中心に練習する時間を取ってることで、翔陽も多少はマシになってきた。……まあ手が小さいからオーバー苦手っぽいけど。

 

 

 午後練が始まる前に、烏養コーチと1対1で講評を伝えられる時簡を作ってキャプテンから順に呼び出されてる。夏の目標を烏養コーチと擦り合わせるためだ。

 そして、木下先輩が素っ頓狂な声を上げて俺達の注目を引いた。ついつい聞き耳を立てちゃう。

 

「えっ? 俺がセッターですか?」

「ああ、各学年に1人はセッターがいると安心する。

 考えてみろ。前回の合宿で影山がやらかして遅刻した。幸い菅原が故障することも無かったから合宿を乗り切ったけど、もしも菅原が故障していたら練習試合が成り立たなくなってた可能性がある。

 あと、どうしても学校行事の関係で学年全員が練習にいないときだってあるだろ? 模試とか修学旅行でよ。

 そういった時に最低限の練習を出来るように2年の中でもセッターを育てておきたくて、特に木下ができると判断した。この3ヶ月でハンドリングも良くなってるしよ。

 もちろん試合に出せるかは分からねえ。が、ウチがこれから先勝ち上がっていくためには色々やっておきたい。どうだ?」

「……分かりました! お願いします!」

「良し。じゃあやっていこう」

「はい!」

 

 木下先輩セッターの練習やるのか。全体的にポジションが偏ってたのも事実だしなー。

 ……おっと? スガ先輩と影山が「負けねえ!」ってメラメラ闘志を燃やしてる。早速木下先輩がスガ先輩と影山に絡まれた。

 

「おーおー? 木下もセッターだって? 負けねーぞー?」「俺も負けません!」

「……俺も試合に出たいので頑張ります!」

「まあ、2年の中でもセッター候補1人はいた方が良いって思ってたから良いんだけど。でも簡単にレギュラーの座は渡さないぞー? 影山もな」

「「はい!」」

 

 そのまま個人の講評は続いて、俺の場合は「基礎能力の向上、バックゾーンからのコンビをもっと洗練させる、ライトとしての知識と経験を積んでいくように」って3点言われた。まあ予想通り。

 来年度の新人戦なんかやばいとしか言いようがないし。少なくともライトで出る可能性は高そうだ。

 

 

 

 学校生活どうですかー、とか1学期振り返ってどうだったー、っていうのを保護者と先生と生徒の3人で話し合う三者面談が全員あって、ついに俺の番になった。俺の場合、祖父ちゃんと母さんが来て四者面談だけど。

 若林先生と俺、祖父ちゃんと母さんの4人で面談が始まる。

 

「生活面でも勉強面でも部活面でもしっかりとされていて、正直に言うと早急にお伝えすることはありません。このまま頑張って欲しいです。

 強いて言うなら、『夏の間に興味がある大学のパンフレットなりオープンキャンパスなりに行ってみたら?』ぐらいでしょうか。部活に集中してるとやっぱり進路関係が疎かになりやすいですから。

 あと、ベスト8以上で推薦狙えたはずですし。……でしたよね?」

「ああ、その認識で構わねえ」

「お父さん?」

「~~っ。その認識で構いません」

 

 めっちゃやりづれー。祖父ちゃんからしたら若林先生は教え子でもあるし、同時に俺の担任でもあるしって感じだからな。若林先生からしても多分そんな感じ。

 

「猫又君なら成績の方で国公立とか難関私大も狙えると思うからこの調子でね。あとは部活でも結果残せばーって感じだと思うし。色々選択肢があって良いと思う」

「はい。頑張ります」

 

 所要時間5分。早い。

 残った時間で若林先生と祖父ちゃんと母さんが雑談を始めた。……寝るか。

 

 

 

 朝練、授業、放課後練習、たまに練習試合やら球技大会。

 そんな日を送っていると遂に1学期が終わる日が来て、美術の授業で描いた絵がコンクールで入賞したらしく終業式で表彰された。

 せっかくだし来年再来年は音楽とか工芸の授業を選んでも良いかもしれない。

 このホームルームが終われば夏休みだから5組全体が浮き足立ってて、若林先生が教壇に立つ。

 

「は~い。じゃあ1学期最後のホームルームを始めるよ~。手短にね。

 高校生の自覚を持って節度ある夏休みにして楽しんでね。そして、来月元気な姿を見せて下さい!」

「「「はーい!」」」

「夏休み明けには実力テストもあるからね。そこそこ勉強しておくこと!

 それに、体育祭とか文化祭もあるからまた1学期とは少し雰囲気が変わってくるよ~」

「先生! 結局色々言ってる!」

「……確かに! 元気でいて下さい、って伝えておきます。またね!」

「「「はーい!」」」

 

 ゆるっとホームルームが終わって夏休みに入った。さーて、バレー漬けの生活が始まるぞー。

 




【小ネタ】
作中で井闥山の佐久早聖臣、白鳥沢の牛島若利、狢坂の桐生八が3本指に入る~と言われていますが、元ネタは平成3羽ガラスだと思っています。
鎮西の選手、東洋の選手、 福岡大付属大濠の選手ですね。「バレーボール 平成3羽ガラス」で検索してみて下さい。また、今現在令和の3羽ガラスとして活躍している選手もいますので、是非注目してみてください。
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