昨日1日休んでまた今日からバレー漬けの生活が始まる。リズムを取り戻すって理由から今日は軽めに半日練習だ。帰りに全員で烏野整骨院に行く予定でもある。
部室で着替えてると、忠が「そういや、今日から中総体か」ってぽつりと呟いた。その声が思いのほか響く。そして、忠の言葉を聞いてスガさんが自分の記憶を辿り始めた。
「あー、影山と日向が出会って1年だな」
「……チューソータイって何ですか?」
「〝中学総合体育大会〟の略だよ。宮城は地区大会が無いから県大会から。去年北川第一と雪ヶ丘で戦ったろ?」
「あー、そんな名前だったんですね」
「自分の出る大会くらい覚えてなよ」
「うっせえな! そんなの気にしてる余裕無かったんだよ!」
「日向らしいな」
中学ではこの中総体でしか全国いけないから3年間の集大成だよね。高校と違ってここで引退だし。
……まあ俺達高校でもやるからって言って別メニューやってたけど。JOCの選考会とか強化選抜とかもあったし。身長の関係で俺はJOCには選ばれなかった、強化選抜にはいったけど。
「誰か後輩からメッセージ来た人ー」
「あ、はい」
スガさんのその問いに返事をすると皆の視線が集まった。
昨日の夜と今日の朝に【今日頑張ります!!】って1こ下と2こ下で携帯持ち始めた数人からほぼ同じメッセージと写真が来た。【頑張れ~!!】ってメッセージ送っといたからやってくれることだろう。今年こそ全国行って欲しいな。
そういや、どっかで顔見せておきたいけどなかなか時間取れないなー、仕方ない。
「流石強豪校。今年はどんな感じだと思う?」
「んー。全国いって欲しいですね。メンバー的にも狙えるはずですし」
「ひょっとしたら北一と対戦することもあんのかもなー」
「北一の1こ下そんな上手い奴いなかったんでどうすかね。……あ、日向よりは上手いっす」
「何で俺の名前を出した!?」
「下手くそだから?」
「かーげーやーま!!」
「おい、静かにしろよ」
「っ! すいません!!」
流石大地さん。ていうか、翔陽いつまで経っても成長しないな。この先後輩にレギュラー取られそう。
そして、ロンドンオリンピックのバレーボール部門も始まった。男子は惜しくも出場権を得られなかったけど、女子は初戦のアルジェリアに快勝して良いペースでスタートを切ってる。メンバー的にもメダル狙えるんじゃ無いかと予想。
女子男子女子男子の順で8月12日までやってく。明日は男子だ。
……2016年か2020年のオリンピックに飛雄が出そうだよな。今のうちにサイン貰っとこ。
29日になって、俺達が練習してる一方で全国高等学校総合体育大会――通称インターハイ――も始まった。今日は開会式だけ。来年は行くぞー。来年は福岡だったっけか。
烏養コーチは「全試合観てえけどな。取り敢えず2011年度のインハイと春高ベスト8以上の学校、井闥山とか梟谷、白鳥沢みたいな知り合いがいるような学校を優先して研究する」って言ってた。全試合観ようとすると時間足りないしね。
まあ、なんだかんだで良い試合は見ることになると思うんだよな。たまーに面白いチームが出てくるんだよ。うん、楽しみ。
7月最後の日。
今日は朝10時から部活説明会があって若干バタバタしてる。
流れとしては、武田先生と烏養コーチが視聴覚室でパワーポイントと祐輔兄ちゃんが作った動画で今の烏野を紹介して、その後は体育館で練習風景を見て貰うって感じだ。その時に、ノヤ先輩と俺はオレンジのユニフォーム、他は黒のユニフォームを着る。
あと、大地さんとやっちゃんと俺の3人は中学生と保護者からの質問への返答要員って事で武田先生と烏養コーチと一緒に行動する予定だ。
「中学生何人来んのかな!!」
「来年の後輩だろ!? やべー!!」
「身長2mとかいたらどうする?」
「レギュラーは渡さん……!」
こういう時は烏合の衆だよなー。特に飛雄を除いた勉強できない3人組。とは言っても何となく全体的に浮き足立ってる。
「じゃあ菅原と東峰、清水を中心にホワイトボードに書かれてる内容をやっててくれ。多分10時40分過ぎくらいにこっち来るから、その時は乱打形式な。あとユニフォームも着ておけよ」
「「「はい!」」」
「意識しちまうだろうけど、〝見られてる〟って感覚を知る良い機会だ。全国の決勝なんてやべーぞ。ってことでバタバタしすぎるなよ」
「「「……はい!」」」
んー。大丈夫かな。
「清水から見てやばそうだったら適当に発破かけてくれ。采配は任せる」
「はい」
清水先輩がいるなら大丈夫か? ……大丈夫だと良いけど。
「じゃあ澤村と猫又と谷地は行くか」
「「「はい」」」
まずは校門周辺で中学生の出迎えからだ。やべー、1人も来なかったらどうしよう。大丈夫? 大丈夫だよな? あ、やべ。
「……やっちゃんもそうだけど猫又も緊張してる?」
「ひゃい!? いいえ!」「……いざ改まってみると緊張してるかもしれません」
「俺が1年とか2年の時にもこういうのやっておかなきゃって思ったよ。来年の為にもやらないとな」
「今年春高出ますけどね」
「だな」
来年のことはもちろん大事だけど、今年の活動を蔑ろにして良いわけじゃ無い。結果残さないと駄目だし。……それにしてもどのくらい中学生来てくれるんだろうか。
今までの不安は何だったのか? ってぐらい各学校の制服姿の中学生とその保護者がいらっしゃった。ぱっとみ中学生15人以上、保護者込みで30人くらい? ……マジぃ? こんな暑い時に制服で来させてごめんね。
「「「おはようございます!」」」
「「「っ! おはようございます!」」」
挨拶をすると中学生達が挨拶を返してくれて、ゾロゾロとこっちの方に集まってきた。……お? おお? 見知った顔があった。練習は良いのかよ。
ケビンと聡、眞一、あと園田先生が俺に手を振ってるのが見えて、取り敢えず手を振っておく。
「知り合い?」
「中学の後輩」
「……でかいな」
3人ともまーたデカくなったな。ケビンに至っては蛍と同じか蛍より高い。聡と眞一も飛雄くらいはありそうだ。つまり180cm越え。あとで挨拶しておこう。
「皆さんおはようございます! 私、烏野高校男子バレー部顧問の武田一鉄と申します! 本日はお暑い中当校にお越し頂き誠にありがとう御座います! まずは視聴覚室で説明会を行う予定ですのでそちらに案内させて頂きます!
内履き、もしくは学校のスリッパに履き替えて頂きますようお願い申し上げます!」
「じゃあ俺と武田センセは視聴覚室に行ってるから、3人は遅れてきた人の案内を頼む。10時15分になったら3人とも視聴覚室に来てくれ」
「「「はい」」」
烏養コーチからそんな指示が出て、武田先生と烏養コーチ、中学生と保護者の皆さんは来客専用の昇降口から校内に歩いていった。
「……今なら大丈夫ですかね?」
「おう、ちょっと行って来い」
「すみません」
中学生と保護者に挨拶をしながら最後尾の方にいる園田先生達4人の所に早足で向かう。
「お~、繋護」「「「繋護先輩! おはようございます!」」」
「園田先生おはようございます! ケビンと聡、眞一もおはよう。なかなか顔見せられなくてすみません。あと県大会優勝おめでとう、関東大会も応援してます」
「おう。繋護も元気そうで良かったわ。渉とかにはちょくちょく会うんだけど、流石に宮城まではなかなかな。
今の3年でこの3人が烏野に興味あるってことで連れてきた。あとユニフォーム派手だな」
4人にジロジロ見られて取り敢えず1回転。
「忙しいだろうからまた後で時間貰う、かもな。その時は宜しく」
「はい!」
「ここクワガタいますか?」
「ミヤマとオオクワガタ拾ったぞ」
「「「マジすか!?」」」
わざわざ採集に行かなくても飛んでくるくらいには。少なくとも庵里周辺だといない。
挨拶も済んだことだし大地さんとやっちゃんに合流。
「3人とも烏野に興味あるっぽかったです」
「いやー、3人とも上手そうだ」
「オーラが違いますよね、出来る人ーって感じがします」
「やっぱり強豪校って雰囲気が違うんだよな」
「ウチもその辺目指してるんですからね」
「おう」
それにしても暑いな。早く中入りたい。日陰入ろう日陰。
遅れてきた中学生とそのお母さん2組を案内し終わって、俺達も視聴覚室に行く。音を立てないようにそーっと。あ、エアコン涼しい。
「あ、丁度良いところに。3人前来い」
「「「はい」」」
烏養コーチに呼ばれて前へ。中学生達の視線が集まってやっちゃんがびびってる。
「この黒とオレンジのユニフォームが現在使用しているユニフォームで監督、コーチ、マネージャーは紺色のポロシャツを着てベンチに座ります。澤村と猫又、1回転してみ」
「「はい」」
その場で1回転して背中側も見せる。
「良し、良いぞ。ありがとな」
ドア側の方に歩いて行って邪魔にならないようにへばりついた。
その後はやっちゃんが作ってくれたポスターの紹介でやっちゃんがびびり散らかしたり、祐輔兄ちゃんが作ってくれた4月から先週までの活動を纏めた動画を見て貰って変人速攻とかシンクロ攻撃で響めいたりした。
「以上が4月からの活動を纏めた動画になります。
8月以降も東京遠征や祖父の伝手を使った近隣県の学校との練習試合、OBとの交流戦を行う予定です。
その成果は、是非10月の代表決定戦を見て頂ければ幸いです。人数こそ少ないですが、13人の選手1人1人が全国大会でも活躍できるように練習しています」
……敬語似合わねー。やっちゃんなんか「え。……えっ!?」って二度見してんじゃん。まあ? 流石に粗野な口調はしないよ。TPOは考えてるって。
そして、烏養コーチが寮についてのスライドに切り替えた。知ってる内装がプロジェクターで映る。畳とか和室中心の寮だ。下宿って言う言う方が正しいかもしれない。俺は好き。
「最後に寮の説明です。
『バレーボールに集中したい』という部員を対象に祖父が使っていた寮を利用するつもりです。部員達で共同生活を送ることでチーム力の向上を担っていければと考えています。
もし興味が御座いましたら、この後実際に中に上がって貰おうと考えています。今現在興味があるご家庭や学校関係者の方はいらっしゃいますか……?」
烏養コーチが投げかけると、園田先生達4人と4組が手を挙げた。そりゃ千葉からは通えないよな。
「ありがとう御座います。それではこの後にお時間を頂きますね。
そして、烏野周辺も全く雪が降らない地域では無いので、大雨だったり大雪などで家に帰るのが困難な場合には泊まって貰うつもりでいます。バレー部に入部した際には何かと使う機会があると思って下さい。
説明は以上となります。ご静聴ありがとう御座いました。
ここからは皆さんからのご質問に答えて、実際に体育館の方に移動したいと思います。何かご質問などある方挙手をお願い致します。あ、どうぞ」
丁度真ん中の中学生が挙手をして立上がった。龍先輩と同じくらいの身長だ。
「北仙台中学3年の丸山です。説明して下さってありがとう御座いました。
1点質問があるのですが、部活体験をさせて頂くことは可能でしょうか?」
丸山君の回答に武田先生が答える。
「丸山君、ご質問ありがとう御座います。
もし怪我をしてしまった場合の責任を取れない、という理由で部活説明会と見学だけの予定です。申し訳御座いません。
ただ、事前にご連絡を頂ければ練習や他校との練習試合の風景を見て頂くのは構わない、と申し付かっております。ご都合が付けば是非見学に来て下さい。一同お待ちしています」
「分かりました。ありがとうございます」
丸山君着席。さて、お次は? ……大丈夫そうかな。早く体育館行きてーって表情してる。
「それでは実際に体育館の方に移動しましょう。忘れ物無いように注意して下さい。お願い致します。
あと、部員を捕まえて色々聞いてみて下さい」
中学生と保護者の皆さんが席から立上がって廊下へと向かっていく。
「澤村君達3人で先に案内をお願いします。忘れ物が無いかの確認と鍵だけ閉めていきたいのでね」
「分かりました!」
視聴覚室のドアを開けてまず3人先に廊下に出て、中学生と保護者の皆さんも続く。つまらないように大地さんとやっちゃんが体育館に向かい始めて、列が移動し始めた。俺は列の右側で質問に答えていこう。
「何か聞きたいことがあれば移動しながら承ります! 僕か13番の部員に聞いて下さい!」
「はい!」
あ、手が上がった。なかなかねー、アウェイの中で手を挙げづらいよね。
「部員間での仲はどうですか? いじめとかないですか?」
「マネ加えても15人しかいないから必然的に全員と話す機会はあるし、あとキャッチボールとか対人は毎回違うペアでやるようにしてるかな。
買い出しとかにも一緒に行ったりするし、遊びとか勉強会なんかもね。ギスギスした雰囲気っていうのは少ない方だと思うよ」
「ありがとうございます!」
そこら辺も気になるよね。入学した瞬間1年は半年間部室使えないとかボール使わせて貰えないとかね。まあ、烏養コーチなら大丈夫っしょって考えてる。
……お、次。
「高校の勉強についてけるか不安です……」
「勉強もバレーと同じでコツコツやってくしかないかな。でも、1学年に数人は勉強できる人がいるからチームワーク向上の為にも一緒に勉強会なんかをする機会は増えてくると思ってる。
学年毎でも勉強会してるし、学年関係なく上級生に勉強を教えて貰ってテスト乗り切ってるよ。
今の1年も6人中4人が進学クラスだから分からないところがあれば適宜教え合ってる。何かあれば先輩頼って良いから」
「お、おす……!」
蛍と忠に押しつけてやろ。……お、手が挙がった。
「来年新入部員どのくらい入ってくると思いますか?」
「分からないねー。いやほんと。
今日も見学者最大10人くらいかなって話し合ってた所に15人越えでしょ? ちょっと予想が付かないかな」
「1年から試合出たいです」
「そりゃあ皆応援しに部活に入部するわけじゃ無いよね。でも、だからこそ怪我や病気に負けない身体作りをしていかないと。ネットの高さとかボールの大きさと重さも中学と変わってくるし。
まあ、でも1年はボール使わせない! っていうのは無いから大丈夫。少なくとも烏養コーチはそういう無駄なことはしないよ。絶対に大丈夫」
「オス……!」
初心者に近い翔陽でも仮入部の時からボールに触らせてたしね。このタイミングでタブレットを持った烏養コーチが通り過ぎていった。
「ここから先段差があるので気を付けて下さい!」
声だしとかボールがぶつかる音、蝉の鳴き声が聞えてきて、あと暑い。
最後尾の俺もバレーシューズに履き替えて、体育館の中へと入っていった。
「こんちわ!」「「「ちわっす!!」」」
「良し、集合!!」
「「「集合!!」」」
中学生とその保護者の皆さんは入り口から入って二手に分かれて壁の方にずらっと並び、俺達もエンドライン側で並ぶように指示が入る。一番右の大地さんから背番号順で並んで、俺の左隣に清水先輩、更にやっちゃんで並んだ。
「気を付け! 礼!!」
「「「お願いします!!」」」
「おし、じゃあ乱打形式で続けてくれ」
「「「はい!」」」
ステージ側のコートにレフトの旭さん、センターの蛍、ライトの力先輩、バックレフトのノヤ先輩、バックセンターの久志先輩、バックライトのスガさんが。
入口側のコートにセンターの一仁先輩、ライトの忠、バックレフトの龍先輩、バックセンターの翔陽、バックライトの飛雄の5人が入って練習を始める。
その間に中学生と保護者の皆さんは主審の清水先輩とは逆サイドのサイドライン側に移動した。
「「「田中! 1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!!」
「「「オォーッス!」」」
龍先輩がジャンプサーブを打ってラリーが始まる。試合じゃないからローテーションはあんまり見てない。そもそも5人だし。
「見て分かるとおり、人数が少なく、ほぼ全員がコートに入れるので実践形式の練習が多くなっています。定期的に私と話し合って『どんなことに挑戦していくのか』や『ここはこうした方が良いんじゃ無いか』という意識のすりあわせをしていって、その結果1人1人が自分の強みを身につけてコートに入っています」
龍先輩のジャンプサーブはノヤ先輩が拾ってスガさんに返っていき、スガさんはレフトの旭さんにトスを上げて旭さんがクロスに打ち込む。
でも、そのスパイクは一仁先輩の左手にワンタッチしてチャンスボールになって龍先輩が拾う。飛雄以外の4人がシンクロ攻撃で一斉に助走に入って、バックライトから翔陽がスパイクを打って1点決めた。
中学生と保護者の皆さんからどよめきの声が聞えてくる。
「1人で3枚ブロックに勝てるようなスパイカーが少ないので、ブロックを分散させると言う意味でシンクロ攻撃を取り入れています。
今は決まりましたが、まだまだ成功率を上げていかないといけないですね。今後の課題です」
ふと何かに気が付いた烏養コーチが大地さんと俺、やっちゃんに指示をだしてきた。
「そうだ。高校になるとボールが5号球になって中学とはちょっと感覚が変わってきます。澤村達、1グループに1つずつボールを渡してくれ」
「「「はい!」」」
「あとネットの高さも230cmから243cmに変わります。Vリーガーと同じ高さですね。その為にも身体作りはしっかりとやっていかなければいけません。これも5年後、10年後にも元気でバレーをするためです。
高校を卒業してもバレーを続けていけるように指導していくつもりです」
烏養コーチがそんなことを話している間にボール籠からボールを出して中学生に渡していく。
「ありがとうございます! ……あ、結構違いますね」
「そうだね。5号球に慣れるためにもちゃんと身体作りはしていかないとって教えられてます。高校でも続けるつもりなら早めに5号球に触っていくのが良いかも」
「はい!」
全体的に好印象って感じだな。まあね、白鳥沢とかの方が施設のレベルは何十倍も上だから。烏野に来てくれると嬉しいけど、そればっかりは分からない。
そして、最後に園田先生達4人にボールを渡す。
「どう? 烏野」
「俺入ります!」「俺も!」
ケビンと聡が即答。いや、嬉しいけどさ。眞一はまだ悩んでるっぽい。
「井闥山とか梟谷から推薦貰ってんじゃ無いの? 校舎とか授業って意味だと普通の学校だぞ?」
「繋護先輩と全国制覇するって決めてるので!」
「烏養さんの指導も凄い理に適ってるって言うか。少なくとも良いと思いました」
聡はウンウン唸ってる。
「眞一は?」
「……冬寒いですよね?」
「寒いね~。豪雪地帯って訳じゃ無いけど、雪もそれなりに降るし。東北地方ならではの生活習慣って有るけど、慣れないとしんどいかも」
「ううっ……、ちょっと考えさせて下さい」
「おー。予定が空いてたら文化祭とか代表決定戦に来てみると良いんじゃないかな? やっぱり寒さがどんなものなのかを実際に体感した方が良いと思う。千葉とは全然違うし。何か聞きたいことあれば返事返すし。この場で即決する必要は無いよ」
「……はい」
「まあ? 一緒にバレーやれたら嬉しいけどね」
「「「っ!! 繋護せんぱーい!!」」」
ぐえっ。潰される~。でっかくなりやがって。
一方、園田先生はやっぱり飛雄に注目してた。
「……あの9番やべーな」
「凄いですよね。オリンピック出そうなのでサイン貰っときました」
「JOCとかには選ばれてないのか?」
「中学の時にはあんまり周りに恵まれてなかったそうです」
「……そうか。いや、説明聞いて様子見た感じ烏野良いぞ。3人も良く考えな」
「「「はい!」」」
入学してくれると嬉しいけどね~。
そこに用事を済ませた武田先生も入り口からやってきた。
「あ、猫又君お疲れ様」
「お疲れ様です。
……あ、武田先生。こちらが自分の中学の顧問の園田先生です。あとこの3人が後輩です。左から松下、土井、桜木ですね」
「っ! 初めまして、烏野高校男子バレー部顧問の武田一鉄です。本日は遠いところからありがとうございました!」
「庵里中男子バレー部顧問の園田礼二です。この3人が烏野に興味があるってことで今日は説明を聴きに来ました。繋護も元気そうなので良かったです。
お時間頂いてありがとうございました。ほら、挨拶」
「「「こんにちは!」」」
「はい、こんにちは!」
大人は大人で話し始めて、他のグループは親子で話してて特に質問は無い。ただ、翔陽のジャンプ力すげーって声がチラホラと。
旭さんがスパイクを決めたら、烏養コーチがまた集合をかけた。さっきみたいに背番号で並んでいく。左には清水先輩。
「それでは今回の部活説明会は以上となります。お時間ありがとう御座いました。
この後は寮のご案内をさせて頂くので興味がある方は私に付いてきて下さい。
澤村、挨拶」
「はい! 気を付け! 礼!!」
「「「ありがとう御座いました!!」」」
一礼して終了。これからはどうすんだ?
……お。蛍と忠が中学生に話し掛けに行った。
「琴吹久しぶり~、琴吹のお母さんもお久しぶりです」
「お久しぶりです」
「月島先輩と山口先輩お久しぶりです!」「2人とも大きくなったね~!」
部員と中学生の間でチラチラと見知った顔に声をかけようかかけまいかって若干ギクシャクして、遂に烏養コーチが「……良し、じゃあ簡単に部員交流会でもするか」ってことにした。2年生と飛雄も知ってる顔に話し掛けに行く。
残念ながら3年生は被ってないし、翔陽も知り合いは来て無さそうだ。
「ううう、繋護ぉー。知り合いいないー」
「烏野に興味無いんじゃないの?」
「ちげーし! 2つ下しか後輩いなかったんだよ! イズミンとコージー! あとは2つ下が3人!」
「じゃあ無理じゃん。再来年に期待しな」
そもそもそういう話ですら無かった。ウケる。そして、翔陽は早速ケビン達に絡み始めた。
「繋護の後輩? 皆身長高い!
あ、俺繋護と同じ1年の日向翔陽です! 宜しく!」
ケビン達も自己紹介を始める。
「繋護先輩と同中の松下です」
「土井です」
「桜木です」
「「「宜しくお願いします!」」」
翔陽はケビン達を舐め回すように見てニヤニヤし始めた。事情が分からなかったらキッショ。キッショ!!
「やべー、上手そうなフインキがめっちゃ出てる!」
「雰囲気だぞ? フインキじゃない」
「い、いいんだよ!」
「赤点ギリギリで進級できるか分からないから来年は同じ学年かもな」
「2年に上がるから! ……あがるよな?」
俺は知らないぞー。留年してもなー。
「日向先輩って」
「日向〝先輩〟!?」
〝先輩〟って呼ばれてじんわりきてる。ほーら見ろー。白い目で見られてるぞー。
「ごめんね、こいつ勉強できないから。パンダとかウーパールーパーみたいな奴だって思ってくれて構わないから。馬と鹿を組み合わさった存在ね」
「何言ってんだよ?」
漢字分からないのかよー。ケビン達3人はというと俺の意図することに考えが辿りついて思いっきり吹き出した。
「日向先輩って最高到達点どのへんですか?」
「先週は327だったような気がする」
「高いですね!」「やばっ」
「俺は〝小さな巨人〟になるんだ。烏野のエースは俺! 日向翔陽!!」
「パワー無い奴がエースなんて無理だろ。もっと体重増やせよ」
「分かってるよ! 影山!!」
あーらら、飛雄の方に行っちゃった。ほーんと単細胞。
「……確かにおバカさんですね」
「でしょう? テスト期間には泣きついてくるんだよね。ほんとに学習しない」
「目に浮かびます」
4人で苦笑い。夏休み明けに実力テストがあることもすっかり忘れてるだろうな。
……おっと。園田先生が戻ってきた。
「じゃあな、繋護。頑張れよ。代表決定戦も見られたらこっち来るから」
「はい。庵里の皆に今年こそ全国行けって発破掛けて下さい」
「ああ。
じゃあ寮見て、お土産に牛タン買って帰るか。武田先生から仙台駅のオススメ聞いたからよー」
「「「っ! はい!」」」
実はそっちがメインなんじゃないの。ちょっとー?
「それではそろそろ移動しましょう! 本日はお時間頂きありがとう御座いました!
どんな活動しているのかをホームページやSNSで発信しているので、今後もチェックして頂ければ幸いです! 烏野生として皆様に来年お会いできる日を楽しみにしています!!
今日は本当にありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
ボールを受け取って中学生と保護者の皆さんをお見送り。こればっかりは相性だよねー、どうかなー。
春高進出して、春高でも結果を残していけば入部希望者も増えるはず。
「じゃあな、繋護! また!」
「はい! ありがとうございました! 関東頑張れよ!」
「「「はい!」」」
園田先生達4人も体育館を離れていった。
「じゃあ俺と武田先生は下まで行ってくるから簡単にダウンして昼飯の時間にしといてくれ。ユニフォームも着替えて貰って構わないから。じゃあこっち宜しく。
俺達が来なかったらホワイトボードに書いてある内容を14時からやっててくれ」
「「「はい!」」」
9時半くらいまでしか動いてないけどしてないけどお昼休憩だ。
◎
烏野高校の校門から坂を下って約10分。
武田一鉄と烏養繋心、本日部活説明会に参加した中学生や保護者は【烏養】と書かれたネームプレートがある一軒家に到着していた。
「こちらが寮の予定です。まだ家具を揃えていませんがどうぞお上がり下さい」
まず烏養繋心が中に入って先に進み、武田一鉄は玄関の扉を開け続けて中学生や保護者が入れるようにした。中にぞろぞろと入っては靴を脱いで更に進んでいく。
「元々は祖父の友人が旅館として利用しようとしたけどー、使わなくなったら祖父に譲ったという経緯がある寮になります。5年よりも前には使っていて、また使えるように整えている最中です。
和室を中心とした内装になっていますね。台所とリビング、風呂場、洗面所ですとか。まあこんな感じなんだなと思って下さい」
そこで、1人の母親が烏養繋心に質問をした。
「1ヶ月の寮費はどのくらいになるのでしょうか?」
「えーっと、正直実際にはまだ分かりません。ただ、祖父は1月4万円を頂いていたらしいので、見習っていきたいと思います」
「分かりました。ありがとう御座います」
1人目の母親がお礼を言うと、別の母親が挙手をして問いかける。
「実際に部屋割りなんかはどうする予定でしょうか?」
「そうですね。私達が言うのもなんですが、部員15名の関係は非常に良くて学年関係なく親睦を深められています。後輩いびりだったり無視なんかは全くと言って良いほどありません。
この〝学年関係なく仲が良い〟という長所はこれからの烏野高校男子バレー部の伝統にしていこうと思っているので、入寮した際にも定期的にメンバーを変えていこうと思っています」
一旦呼吸を整えて、烏養繋心はもう一度話し始める。
「それに応じてですが、バレーボールにはコミュニケーションが必須です。その為、親元を離れる入寮者であるからこそ、1週間に1回以上は保護者とのコミュニケーションの時間を作りたいと考えています。親子だからこそ分かる体調と言うのもあると思うのでね。
部員からすると『親と電話かよー』って思うかもしれないんですけど、離れているからこそ連携はしっかりしないといけないはずです。お金だったり学校生活なんかもあるでしょうし。
部員の生活態度や学校生活なども私達が見ていきますし、町内の人間には烏野高校男子バレー部のOBが結構な数いるのでサポートしてくれるよう頼んでいます。田舎ならではの関係を上手く使っていきたいと思います」
「分かりました、ありがとうございます」
烏養繋心は中学生と保護者達を見渡しながら質問者がいないかを確認し、ある程度話したいことは伝わってるようで安心する。
「それでは本日の部活説明会は以上となります。約15分後に仙台駅まで戻るバスが到着するので移動しましょう。お暑い中お越し下さってありがとう御座いました」
「皆様本日はお時間頂き誠にありがとう御座いました! 先程もお伝えしたようにバレー部の活動はホームページやSNSで随時発信していきますので、適度チェックして頂ければ幸いです。また、ご質問が御座いましたらいつでも承ります。
気温が高くなっていますので、お帰りの際には十分気を付けて頂くようお願い申し上げます。それでは来年烏野高校の制服を着た皆様とお目にかかれることを楽しみにしております。
本日は誠にありがとう御座いました!」
烏養繋心と武田一鉄の順で話し終えて、2人は一礼する。そして、烏養繋心を先頭に最寄りのバス停まで向かい始めた。
庵里中学顧問の園田礼二と現在中学3年生の松下・オコナー・ケビン、土井聡、桜木眞一の4人は小声で今日の感想を伝えていく。
「先生的にはどうでした?」
「良いと思うぞ。もちろん、過渡期だから足りない部分はあると思う。ま、それは井闥山とか梟谷でも同じだ。むしろ伝統校だからこその悩みもあると思うし。
でも、武田先生は未経験でも熱心にバレー部の顧問を務められてるし、烏養君の指導内容も理に適ってる。身体作りをしていくって言う点でもしっかりされてるかな。
で、田舎だから不便なところはあると思うけど、そういう不便さをポジティブに切り替えてバレーに打ち込むチャンスだと思う。家なんか寝るだけの場所になるだろうし。
少なくとも一考の余地はあると思うぞ。ま、色々学校見て決めな」
「「「はい」」」
松下・オコナー・ケビンと土井聡は烏野高校を受験するつもりでいて、桜木眞一は寒がり故に決めかねていた。そんな3人を見て「代表決定戦も連れてくるかねー」と園田礼二は内心呟く。
「……あれ、園田先生? 松下君、土井君、桜木君も」
「ん? ……あ、猫又さんお久しぶりです」「「「っ! こんにちは!」」」
坂ノ下商店前を通りかかっているときに、聞覚えのある声が4人の耳に入ってきた。猫又繋護の母親である猫又美繋だ。5人揃って驚く。
「……あ、そっか。部活説明会。今日あるって繋護が言ってました」
「そうですそうです。この3人が烏野興味あるって言うので連れてきました。繋護も元気そうで良かったです」
「遠くからすみません。ありがとうございます。皆久しぶり、大っきくなったね。烏野どんな感じだった?」
「自分入学します!」
「自分も!」
「寒いの苦手なのでちょっと……」
三者三様の返事が返ってきて、猫又美繋は満足そうに頷いた。
「寒いの苦手ならあんまりオススメしないかな。千葉の環境に慣れてると結構しんどいと思う。雪の量とか桁違いだし。あと遊べるところも少ないし」
「そうですよね……」
「まあ、でもご飯は美味しいし、田舎暮らしってこんな感じなんだって言う経験も出来るからメリットデメリットどっちもあるかな。
遊ぶところが少ないからバレーに打ち込めるっていう点は結構大きいと思う。まあね、色々見て自分が頑張れそうな所を選ぶのがベストだよ絶対。自分の人生だし、自分が納得するのが一番だからね」
「……はい」
高校受験という人生の分岐点を迎えて、中学生3人は決断することを迫られる。彼らが烏野高校に入学するのかは現時点では分からない。
◎
おっひるー、おっひるー、おっひるはなーにー?
旭さんが口ずさんでるのをたまたま聞いてしまって、それ以来気が付けば俺も口ずさむようになった。……いやだってさ、面白いじゃん?
「にしても、中学生多かったっすね」
「なー、ビックリした」
「来年楽しみだな」
龍先輩、力先輩、旭さんの順で話してるのが聞えてきた。
「あの3人ってねこの後輩? 3人ともめっちゃでかくなかった?」
「一番でっかいケビンは194cm、他2人は183cmくらいって言ってました。半年で伸びましたね」
「やっぱり強豪校っぽいオーラ出てたよな~、やべー」
「見るからに上手そうだったもんな」
後輩が褒められて嬉しくなっちゃうのは何でだろ。
「印象どんな感じ? 入学しそう?」
「1人は寒いの苦手だから分からないですけど、2人は『入部します!』って言ってましたね。来年レギュラー争い激しくなりますよー」
「「「……負けーん!!」」」
強くなるって事は新入部員も増えるって事で、全体的に部員も増える。でもベンチ入りは14人、インハイは12人。熾烈なレギュラー争いが始まる。下手したら3年でユニフォームを着られなかったり、3年間1度もユニフォームを着られなかったり。
そればっかりはしょうが無い。だって目標は全国制覇なんだから。試合に勝てるメンバーを出さないと勝てないのは皆分かってることだろう。
……まあね、武田先生と烏養コーチのことだからちゃんとケアしてくれることでしょう。あと全員出場させて推薦とかのチャンスも増やすはず。部員数も20人とかで止めるような気がするんだよな。
「もっと上手くならないとな」
「そっすね!!」
目標は全国制覇。まずは代表決定戦を勝ち抜くんだ。まだまだ夏休みは終わらない。
【登場人物まとめ】
庵里中学校関係者
園田礼二 男子バレー部監督
松下・オコナー・ケビン 194cm
土井聡 183cm
桜木眞一 182cm
琴吹つかさ 月島蛍と山口忠の1つ下の後輩